働く日本人はAIを克服することができるか?(前編)補完財とモジュール化から考える

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■ 補完財とモジュール化から説き始めるAI時代の働き方

経営管理会計トピック

ダイレクトにAIを取り上げていない日本経済新聞記事を題材に、AIを克服する日本人の働き方について考察したいと思います。

2017/8/30付 |日本経済新聞|朝刊 (やさしい経済学)デジタル経済と競争政策(2)階層ごとに「補完財」連結 一橋大学教授・岡田羊祐

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

「補完的技術を組み合わせた財・サービスが次々に登場するダイナミックなデジタル経済の競争を勝ち抜くカギは、技術の複合的連関を巧みにシステム化して、新しく魅力的なサービスをいち早く市場に提供することです。そのためには、デジタル経済の技術特性や需要構造をよく理解しなければなりません。」

ハードウエアとソフトウエア、パンとジャム、自動車とガソリンのように組み合わせることによって初めて価値が生じる財・サービスを経済学では「補完財」と呼びます。難しく言うと、交差価格弾力性が負の値をとる2つの財の関係のことです。簡単に言うと、一方の価格が上昇して需要が減ると、もう一方も同時に需要が減ってしまうような関係性を持つもののことです。

現下のデジタル経済では、これら補完財を組み合わせる方法が極めて複雑な点に特徴があります。パソコンひとつとっても、ハードディスク性能にメモリ容量、その上に乗せるOSや各種アプリケーションソフトなど、それぞれがもつ技術特性のもとでユーザーに価値あるサービスを提供するために、組み合わせの妙がパソコンの使用性・道具性を左右します。

1984年にIBMが発売したパーソナルコンピュータを「PC/AT互換機」と呼びます。パソコンを構成するハードウェア・ソフトウェアは、標準的なインターフェースのルールを守れば、すべてが互換できる、代替できる、接続できる、そういう設計思想で作られました。それまでは、メーカーがオールインワンでコンピュータを提供していましたが、標準的なインターフェースを順守さえしていれば、ハードディスク、メモリ、CPU、ディスプレイ、OS、アプリケーションソフトや、プリンタなど、それぞれ得意な分野の製品を引っ提げて、IT市場に参加することができるようになりました。その反動で、IBMはパソコンメーカーからついに撤退することになりましたが、かえってパソコンをはじめとするIT機器の市場が急拡大したのも事実です。

「このように、個々の技術から構成されるシステムのインターフェースを標準化して、補完的技術(補完財)を柔軟に連結する必要が生じます。これを「モジュール化」と呼びます。」

 

■ モジュール化が要求する人間の能力とは?

「H・サイモンによれば、すべての「人工物」の構造を決定するのは人間の認知能力の限界です。これをサイモンは「限定合理性」と呼びました。人間は外界を認識し組織を構築する際、全体を認識可能な単位に分割して階層構造化しようとします。機械による情報処理能力は飛躍的に増大し、人間の認知能力の限界をはるかに超えています。」

デジタル経済のネットワークは、通信機能(通信プロトコル)を7つの階層に分けて定義した「OSI参照モデル」や、TCP/IPといったインターネット・プロトコルなど、階層ごとに情報処理能力を集中化し、エンドユーザーの認知能力の限界を超えた情報処理能力を最大限に活用する仕組みから成り立っています。これがさらに発展して、コンテンツ、プラットフォーム、データセンター、ネットワーク、端末機器などの層(レイヤ)をそれぞれ異なる事業者が製品提供やサービス実施を担いながら、互いのインターフェースをオープンに連結させて発展してきました。

それゆえ、「モジュール化」は情報処理プロセスをルーチン化することに成功し、生身の人間の逐次的・都度的な判断業務をますます不要にする一方、情報を総合的に分析する能力をもつ人的資本の希少性を高める傾向が顕著になってきました。

つまり、

「ソフトウエアのアルゴリズムを構築する高度な熟練労働への需要が増大し、定型的な業務を担う非熟練労働の需要は低下します。こうした人材ニーズの変化に対応できない企業は、市場のリーダーシップを獲得することは困難となるでしょう。」

ソフトウェアのアルゴリズムを構築する対象として最たるものがAIプログラム。そしてAIプログラムが情報階層を超えて、膨大な情報処理を得意とすることから、「限定合理性」を抜けられない人間は、例外的に一部のソフトウェア・エンジニアとソフトウェアを使いこなす人は来るべきAI時代に生き残ることができるが、大多数は職業人として仕事を奪われると。。。

果たして、それがどこまで真実なのか、やはり、大多数の人間は大失業の時代を迎え、ベーシック・インカムといった新たな福祉政策の下で生活を営まざるを得ないのでしょうか?

 

■ ビッグデータで対処できない情報処理は人間でしかできない!

2017/8/28付 |日本経済新聞|朝刊 (経営の視点)コンビニ生産性向上の鉄則 人を基軸に、機械を脇に 編集委員 田中陽

「有力コンビニは狭い店でも高収益をたたき出す。自動化、省力化の努力を惜しまないが、最大手のセブン―イレブン・ジャパンはあえて聖域を残している。商品や数量を決める発注業務だ。天候、販売傾向、地域情報などを参考に仮説を立て、端末に発注量を人が判断して入力する。実際に仮説通りだったかを検証し、次の発注に生かす。」

天候や商品の売れ行き傾向など、AIアルゴリズムに一任すれば数百や数千に及ぶパラメータを短時間で計算処理し、それこそ、合成の誤謬と限定合意性しか持ちえない生身の人間の判断より適切な仕入れ判断ができるのではないかと考えるのが普通です。

「流通業界は省力化のために自動発注の導入が進むが、セブンは一線を画す。「商人」の意志を発注に込めれば、生産性向上を狙えるからだ。仮設と検証を繰り返し、発注の精度を高める。自身の成長も実感し、仕事も楽しくなる。姉崎君のバイト暦は3年になる。」

コンビニはその立地から、学校や劇場ホールの近くにあれば、学園祭やコンサートなど、イベントや催し物に伴う人の移動で、客数や動線が目まぐるしく変化します。AIに情報処理させるためには、そういうイベント情報など、をすべてデジタル情報としてデータをAIに食わせてやらなければならない。

デジタル値とは離散量(とびとびの値しかない量)のこと。連続量を表すアナログと反対の概念。そしてビッグデータありきの現在のテクノロジー(ディープラーニング・機械学習など)に依拠するAIは、膨大なデジタル情報を統計処理することは得意でも、明日、隣接する劇場でスターの●●氏が主演する▲▲と題する演目があり、ターゲット層は主婦層で、天候は午後から雨だから、、、と、AIに食わせるイベント情報を用意するほうが、手間に思えることもあるのです。まだまだ、人間のアナログ的な判断がビッグデータ依存のAIに全面降伏するには至っていないと思われますが、皆さんの予想はいかがでしょうか?

かつて、ダイエー創業者の中内功氏は「私とコンピューターとパートがいればいい」と断言し、正規社員をグループ企業に大量出向させ、人心は離れ、本体の業績は傾いたことがありました。また、8時間労働のパートの勤務体系を休憩(1時間)の必要ない4時間刻みにすると、長く働きたい優秀なパートは同社を去り業績は一段と悪化したのです。

「労働集約な小売業の生産性向上の議論は人の仕事を機械に置き換えることに進みがちだが、小売業で働く意味、醍醐味を知らないと机上の生産性向上になりかねない。」

「商人魂」をもった働き手をいかに活かすか? バイトとはいえ、生身の人間はビッグデータを短時間で情報処理する能力はなくても「感情」は持っています。「感情」はやる気や創意工夫の貢献意欲とモチベーションを支えるもの。さあ、労働集約的な業種に属する各企業、これから、生産性向上、収益性向上のためにAIシフトか、人間性回帰(人間性見直し)か、その岐路に立っているのでは? そういう問題意識をもってこれらの記事を拝読しました。(^^)

(注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です。

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