■ 人工知能の研究体制の整備が重要だというけれど。。。
「人工知能(AI)」が東大を合格するというエポックメイキングな日が到来する前に、社会にはきっと大きな変化が起きているはずです。
2015/9/18|日本経済新聞|朝刊 (真相深層)中国も「東大合格ロボ」開発 人工知能研究の世界競争激化 米先行、日本は官民連携を
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「人間の知能の働きをコンピューターで実現する人工知能(AI)の開発競争が激化してきた。東大合格をめざす日本のAI開発計画にならい、中国も「難関大合格ロボ」の開発に乗り出したことが分かった。先行する米国、追い上げる中国のはざまで日本は大丈夫か。」
本記事では、
「AI研究を手掛ける国立情報学研究所(NII)の新井紀子教授に5月末、アイフライテックという中国企業から協同研究の依頼の電子メールが届き、NIIから出る予算は年間で数千万円と中国に比べて少ない。新井教授は研究が進むならと前向きにとらえ、日中連携を決めた。」
とあります。
(本記事添付の新井教授の写真)
これに限らず、本記事によりますと、日本における「人工知能」研究の公部門での動きとしては、
・経済産業省系の産業技術総合研究所は5月、人工知能研究センターを新設。トップは自然言語処理の第一人者で、北京のマイクロソフト研究所にいた辻井潤一氏
・16年度予算の概算要求で、文部科学省もAI研究の計画を打ち出した。100億円を投じ、研究施設を整備
そしてこうした動きをにらみ、
「政府は「日本再興戦略」で、AIやビッグデータなどを活用して国の競争力を引き上げる必要性を唱えた。ただ着実に成果を上げるには、ブームに踊らされない周到さがいる。まずは縦割りを排除し、無駄のない研究体制を築くことだ。」
「人材や資金が分散して研究が非効率にならないような十分な工夫が欠かせない。「民間を含めてオールジャパンで取り組まなければ世界と戦えない」と慶応大学の山口高平教授は訴える。」
と、研究の水平的な協力と研究資金の集中・効率的管理を訴えています。
しかし、ここで素人からの警鐘を2つほど。
(1)資金量・体制は、米国の国防予算には絶対にかなわない
(2)研究の方向性は一致させることが本当にできるのか
(1)資金量・体制は、米国の国防予算には絶対にかなわない
「DARPA」とは、国防高等研究計画局(Defense Advanced Research Projects Agency)のことで、国防総省内部の資金配分機関です。当然ミッションは、米国の国防力を上げるための研究開発をすることです。「人工知能(AI)」の研究開発も、当然、生身の人間が最前線で死なない無人兵器を開発することや、サイバー空間での戦闘力強化に活用されます。ここの年間予算はざっと約30億ドル(3,600億円、120円/ドル換算)。
本記事によると、協力依頼のあった中国企業のアイフライテックの研究資金は、3年で30億円。そして日本のNIIは、年間で数千万円。
→ 米国DARPA(国防高等研究計画局)の概要(ver.2)
(http://www.jst.go.jp/crds/pdf/2014/FU/US20140901.pdf)
DARPAの年間予算の20%(これは筆者推計)が人工知能関連の研究に充てられているとしたら、それだけで720億円になります。そして、これには、グーグル、IBM、アマゾン、MS、アップルといったITの巨大企業の社内研究組織による活動は含まれていません。1桁以上、違いますね。
(2)研究の方向性は一致させることが本当にできるのか
次の課題は、「人工知能(AI)」といっても、AIを使って何をさせたいか、という研究テーマの立て方の問題。
僭越ながら、筆者の整理による「ビッグデータとIOTのビジネス環境」としての鳥瞰図を再掲します。
ここで、「人工知能(AI)」というのは、情報収集のフロントサイドに「センサー」、情報処理対象データが「ビックデータ」、情報処理後の“何か”の目的を達成するための実現手段としての、「アクチュエータ」との組み合わせが考えられていないと、AI単独の研究というには非常に無価値なものになります。
本記事によりますと、
「プリファード・ネットワークス(東京・文京)は、ロボットや自動車がそれぞれ協調し合い、故障や事故のない未来をめざすAIベンチャーだ。西川徹社長は「知能だけ進化しても、精密に制御できる機械がなければ限界がある」と考え、ファナックやパナソニック、トヨタ自動車と手を結んだ。AIと日本が強い製造業。その掛け合わせが武器になるとの発想だ。」
とあります。
つまり、米国のIT巨大企業は、「ビックデータ」を集められる立場の人達。そして、DARPAは、米国の国防力強化が目的で研究している機関。米国IT企業群は、集めた「ビックデータ」を効率的・効果的に情報処理することに特化して、自前のビジネスを強化するためにAIを研究していますし、DARPAは、先述の通り、無人化兵器の開発と、サイバー空間での戦闘力強化を目的に研究しています。
日本の公的機関や民間企業も、ただ「人工知能(AI)」というきらびやかなマジックワードにただ翻弄されるのではなく、AIに何をさせたいから、AIをどのように開発したいのか、「目的」を明確にしないと、資金量・体制で劣る場合には開発競争に勝てないでしょう(ここでは、何を競争しているのか、何が勝利条件かは、あえて踏み込みません)。
最近、「人工知能(AI)」が流行になっていますが、この盛り上がりにも実は仕掛けがあります。
① 統計・確率論を活用した認知能力の飛躍的向上
② AIのアルゴリズムを発揮するための分析対象データの存在
③ 「機械学習」による幾何級数的なAIの進化スピード
④ 人間の脳内情報処理をまねた「ディープラーニング」の適用
これらが、最近のAIの特徴なのですが、何かひとつ共通点があることにお気づきですか?
それは、「ビックデータ解析」技術に特化しているということです。ネットに上がっている膨大なデータを、人間の脳の認知方法の一部を模倣したスキームの上で、確率論的に、より正しいかもしれない情報を探し出す技術、とまとめることができます。
だからこそ、ビックデータを所有したり、収集・蓄積機器を提供したりするIT巨大事業がそこにビジネスチャンスの匂いを感じて、巨額の研究開発投資を投下するのですし、米国の国防機関が、サイバー空間での戦闘力強化のために巨額の資金提供をするのです。
おっと、筆が進みすぎて、もっと楽しい、「人工知能は東大に合格できるか」周辺の話題をする余裕が無くなってきました。仕方ありません、本稿は、上下篇として、続きを書くことにいたします。m(_ _)m
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