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ミスド500店 揚げる設備撤去 と セブン、全店舗に食洗機 が好対照なケースな件

経営管理会計トピック 会計で経営を読む
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■ 好対照な店舗戦略 まずはミスドから

経営管理会計トピック

同日の企業・消費面に2つの好対照の記事が並んで掲載されており、一人ほくそ笑みながら読んだ次第です。まずは、ダスキンの店舗戦略から見ていきたいと思います。同じフランチャイズチェーンの店舗戦略がこうまで非対称でかつ、並んで掲載されたことに、編集者の意図が皆無だったのか、非常に興味があります。(^^;)

2017/2/25付 |日本経済新聞|朝刊 ミスド500店 揚げる設備撤去 ダスキン、客席広く コンビニと競争テコ入れ

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

「ダスキンは2020年度までに、「ミスタードーナツ」の約4割に相当する500店でドーナツの店内調理をやめる。専用設備を撤去し、商品は近隣店が配送する。調理担当者の人手不足に対応するとともに、機器の保守など経費を削減する。現行より2~3割売上高が減っても採算が合う仕組みを整備。コンビニエンスストアなどにおされる各店をテコ入れする。」

(下記は同記事添付の「池袋の店舗では設備を撤去。客席を増やし長居できるようにした(東京都豊島区)」を引用)

20170225_池袋の店舗では設備を撤去。客席を増やし長居できるようにした(東京都豊島区)_日本経済新聞朝刊

同記事によりますと、ダスキンの店舗戦略方針転換の概要は次の通り。
① 約1200店のうち、立地が悪い店500店を対象に店舗戦略を変更
② 300店はドーナツを揚げる設備を取り払い、簡単に作ることができるパスタなどを提供する喫茶店形式に変更
③ 200店は持ち帰り専門店「ミスタードーナツ トゥゴー」に切り替え、店内調理はやめて、ドーナツは車で30分以内の店内でつくっている店舗から届ける

そもそも、ミスドは店内で揚げた商品を提供していることを売り物にしていたのですが、この売りを取り下げて真逆の180度転換する戦略発表となりました。ダスキンをここまで追い込んだのは、コンビニとの競争激化です。

「地方などで持ち帰り販売が減ったこともあり、フランチャイズ店を含めた16年3月期の1店当たり売上高は7200万円と前の期を6%下回った。ミスドが主力のダスキンの外食事業の16年3月期の営業損益は14億円の営業赤字だ。」

(下記は同記事添付の「ミスドは店舗数、売上高の減少が続く」を引用)

20170225_ミスドは店舗数、売上高の減少が続く_日本経済新聞朝刊

企業の様々な変革を目にしてきた筆者として、劇的な変革を企業が選択できるのは、
① オーナー経営者(またはそれに準じるカリスマ経営者)が決断した時
② 全社が経営危機感を共有し、このままではダメだと痛感した時
③ 絶え間ざる組織進化が自然にビルドインされている企業体質が構築されている時
のいずれかの場合が多いと考えています。

そして、全社一丸となってその方針転換を推進・実行していくスピード感と本気度は①から③へ、順に弱くなっていく感じがします。結果として、その変革が企業にとって吉と出るか凶と出るかは、ケースバイケースですが。ですが、変革は大きなリスクを孕み、できれば、ゴーイングコンサーンを前提としている出来上がった(成熟)企業ならば、変革のリスクの方が大きく、社員にも抵抗感が強いことは否めないと思います。

 

■ 好調なセブンイレブンも全店舗を対象に

業界リーダーとして君臨するセブンイレブンも自らを変える力学が社内に働いています。弛まざる進化を遂げているセブンは今回どういう手を打ってくるのでしょうか。

2017/2/25付 |日本経済新聞|朝刊 セブン、全店舗に食洗機 作業減らし接客効率化

「セブン―イレブン・ジャパンは全店に食洗機を導入する。現在1000店舗強に設置済みで、2018年2月末までに全約2万店に設置を終える計画。店内では調理に必要な機器を洗うため、毎日約3時間半かかっている。食洗機の導入で作業時間を半分程度に減らし、浮いた時間で来店客への声かけを増やすなど接客を強化する。」

同記事によりますと、セブンの店舗戦略方針転換の概要は次の通り。
・16年秋に試験的に約20店舗で食洗機を設置したところ、洗い作業の時間を1~2時間短縮でき加盟店に好評だった
・全店を対象に、3月から月1500店程度のペースで導入していく
・食洗機はメーカーと組んでセブン専用機を開発し、コンビニのレジカウンターの内側に設置
・機器の代金は原則本部が負担し、設置費用は店舗側が負担する場合もあり

こちらは、トライアル(試行)で実店での結果検証を踏まえてから全面展開ということで、各店のオーナーや従業員の理解と協力を得やすい導入方法を採用している点に着目しました。そして、コスト負担もフランチャイジーがより多くを持つことで、さらに各店のオーナーの理解を得やすくしています。現場改善のお手本のようなやり方のように見受けられます。

 

■ 何がミスドを駆り立て、ミスドは何を狙いとしているのか?

ミスドのドーナツ販売が振るわないのは、コンビニとの競争激化が理由と新聞記事では解説しています。仮想敵であるコンビニと比較して、どこが店舗戦略変革のポイントなのでしょうか?

(1)商品力
ミスドはいわずもがな、ドーナッツの製造・販売店。一方で、セブンはコンビニですが、ドーナッツは数ある商品の中のひとつ。セブンでも店内調理でドーナッツを提供しています。ドーナッツという提供商品では、バラエティではミスドの方が上。それでもミスドが苦戦しているのは、商品(ドーナッツ)自体の品質や品揃え以外にあると考えている節があります。専門店としてのブランド力が、コンビニの集客力に力負けしただけで、商品力で負けたわけではないとしているようです。それは、店内調理を諦め、品質(作り立て感、鮮度感)を捨て、その他の利得を採ったと思われるからです。

(2)品揃え
繰り返しますが、ミスドはドーナッツ店。これまでも、ドーナッツ以外の商品(中華素材のもの等)の品揃えを入れ替えたり、品揃えに迷いがあるように見受けられます。今回も、パスタ提供など、ドーナッツ以外の品揃え強化策を併用しています。

「低カロリータイプをはじめ、健康を意識したメニューを充実させて、若い女性の来店も促す。一部店舗ではレジ横にアイスクリームのケースを置いたり、パスタなど食事メニューも増やして客単価を引き上げる。」(冒頭の記事より)

(3)商品提供方法
店内イートインと持ち帰りがあり、持ち帰りは一部を除いてコンビニと競合します。持ち帰りで勝てないなら、イートイン勝負ということで、喫茶店形式を採用したり、空いた調理器具スペースを客席に置き換えたり、ドリンクバーを導入して顧客滞在期間を長くして客単価を上げようという作戦を採用しています。ミニストップなど、一部のイートイン併設コンビニを除き、イートイン店の差別化ポイントをさらに強みにしてコンビニに対抗するという策は共感が持てます。

(4)接客
筆者は外食の機会が多く、食材と同程度にホスピタリティも重視しています。個人的には「食」にあまり興味がなく、栄養補給の面が強いのですが、それでも気持ちよく食べたいので、接客力の高い店舗を好みます。ミスドは、店内調理をやめることで接客力を強めることを画策し、セブンは逆に食洗機を導入することで接客効率化を図ろうとするものです。同じ目的でも、方法はそのチェーンそれぞれに適したものを、ということは理解できるのですが、あまりに正反対の施策でその勝負の帰結に非常に興味があります。

(5)コスト
ミスドは、①人件費、②メンテナンス費用、③店舗面積の3点で、調理器具の撤去にコストメリットがあると判断しました。

「ドーナツの調理をやめることで、1年程度の経験が求められる調理担当者を配置する必要がなくなる。人件費も抑えられるほか、設備のメンテナンスもいらなくなる。小型店ならば全体の約4割を占める厨房の面積を減らすことができる。」(冒頭の記事より)

日本のサービス業の生産性が低いとする報道が最近やたらと目につきます。生産性とは、投入財(コストに置き換えても良し)単位当たりのアウトプットの大きさですが、サービス財というものは、即時消費財です。製造業の生産性指標と同列で考えることはできないと考えています。

それは、製造業とおなじコストダウン、費用効率的な思考ではダメということです。③店舗面積の視点のみ、小規模店舗の採るべき店舗戦略として理解できますが、①と②については、同時に提供素材の品質の低下を伴います。また、調理器具のある店舗から内店舗への商品の運搬は人手でやりきるつもりでしょうか? それこそ人件費はどこまで下げられるでしょうか。調理実技を有するスタッフの教育コストを削減して、単純にドーナッツを運搬するスタッフは単純作業だから教育コストはかからないと考えているのでしょうか。

ドーナッツを作るも運ぶも商品知識が豊富にあった方が、運搬時間や動線確保、運搬スケジュール立案にスタッフ全員が知恵を出して、最もお客様が望む形で店先でドーナッツを購入して頂ける。そういう風に考えると、人件費削減というのは、サービス業では最初の採算改善手段としてはあまり相応しくないように思います。ドーナッツのことをよくしている人に製造・運搬・接客してほしいですね。あくまで筆者の個人的な意見ですが。(^^;)

(注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です。

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