Pocket

■ 神話となった「PDCA」

経営管理(基礎編)
「PDCA」は、「Plan:計画」「Do:実行」「Check:評価」「Act(ion):改善」の略で、これを継続的に繰り返す(サイクルとする)ことで、主に生産現場や品質管理の領域において管理業務を円滑に進める手法として広まりました。今や、ISO 9001、ISO 14001、ISO 27001、JIS Q 15001などの管理システムにもその精神が移入され、もはや提唱者のデミング氏は神の領域に祭り上げられています。Googleにて「PDCA」を検索すると、134万件もヒットします(2014/10/05 調べ)。
経営管理(基礎編)_PDCAサイクル
そして、眺めてみても、解説が無いとそれ自体では理解不能な上記のようなチャートが流布している状態です。決まって、解説の決まり文句は、「きちんと立てた計画の実施状況を確認して、課題が発見されたら改善策を打つ。そしてまた次の計画をきちんと立てる。この目標管理の繰り返しが業績向上につながる」というものです。

■ 様々な流派が誕生

筆者がまだ事業会社で経理とITの実務に従事していた当初は、まだそれほどデミング氏の「PDCA」が流布しておらず、主にIT業界のSIS(Strategic Information System:戦略情報システム)の売り込みの際に、「PDSサイクルを回す必要がある(Plan、Do、See)」というセールストークが流行っていたものです。
類似の管理サイクル概念には、「OODAループ(Observe、Orient、 Decide、 Act)」、「RG-PDCAサイクル(PDCAの前にR:Research、G:Goalを付加)」、果ては、プラントメンテナンス業務管理用の「B-PDCAサイクル(Planの中に、「計画保全」の『基盤設定』のBを含める)」というものまであります。
ついに、デミング氏自身が、入念な評価を行う必要性を強調してCheckをStudyに置き換え、「PDSAサイクル」と後日言い換えたりもしています。
まさに百家争鳴・百花繚乱とはこのことです。

■ 我田引水 - 「予実管理」への応用

デミング氏は、

  • 「トップマネジメントがシステム全体を鳥瞰的に理解して管理体系を構築する」
  • 「マネジメントは常に変化を受け入れるべき」
  • 「人間の認識力には限界があるので、心理学の応用、知識の説明に工夫が必要」

と述べています。
これが、ドラッカー氏がマネジメントの根幹として提唱した「目標管理」と結び付けられて今日の一大PDCA流派が誕生しました。
しかし、一方で、デミング氏は、

  • 「数値目標の設定や、目標による管理を廃止する」
  • 「(Periodicな)年度ごとの成績評価を否定する」
  • 「品質のばらつきの範囲と原因を分析することが重要で、統計的標本化技法を利用する」

と発言しています。
つまり、PDCAに込められたデミング氏の思いをそのまま素直に解釈すると、

  • PDCAサイクルは品質のばらつきを管理するための全社的取り組みであることは間違いない
  • ばらつきを閾値に収めるための現場の管理指標(かい離度含む)は定量的に設定するが、ばらつきの標準値(中心値)自体は、PDCA管理サイクルの外から設定されるものである
  • 継続的なばらつきの管理業務は年度や四半期といった期間管理するのにはそぐわない

という感じになります。
結論として、よくある管理会計(特に業績管理の分野)にて、年度予算管理プロセスの構築の重要性を饒舌(じょうぜつ)に語るのに使用されている「PDCA」という呪文は、よく言えば短歌の世界でいうところの「本歌取り」。残念ながらデミング氏の本意とは全く違う使われ方をしているようです。

■ 予算管理への応用パターン

まあ、デミング氏という本家を乗り越えて、新しい予算管理PDCA理論の存在を百歩譲って認めたとして、その理論には、「月次決算」と関連させて、通常4パターンあることが観察されています(あくまで筆者の経験からですが)。
《パターンA.年度目標管理が成立していない》
経営管理(基礎編)_PDCAサイクル_年度目標管理が成立していない?
期初に立案した目標・予算の達成度合いへの反省が、翌年度の計画策定にならないと活かされないパターンです。これでは、CheckとActionが年1回のワンチャンスになってしまいます。この場合は、月次決算の実施の有無は関係ありません。月次決算の手間の分だけ無駄な事務コストをかけているだけです。
《パターンB.月次予算を立てない》
経営管理(基礎編)_PDCAサイクル_月次決算を立てない?
月次決算のタイミングで、年間目標と累計実績の差額が認識できます。しかし、この差額が過去の努力不足が原因で発生したのか、何が課題だったかのかの特定が困難です。そのため、年間目標達成のために有効な施策を考えつくことは非常に難易度が高くなっていると言えます。
経営管理(基礎編)_PDCAサイクル_月次決算を立てない_詳細
《パターンC.月次予算を立てる》
経営管理(基礎編)_PDCAサイクル_月次決算を立てる?
月次決算のタイミングで、単月および累計の予算と実績の差額が認識できます。しかし、この差額は、あくまで過去の行動に起因する差額なので、この差額の発生原因を追及して、対策を講じても、将来に有効かどうかは不確実性が高いままです。
また、月次決算が公表されるまでに時間がかかる場合は、施策を考え始めるのが遅れるため、その分施策の有効度が下がる、施策の選択肢が狭まる、といった影響が出る傾向が強くなります。
経営管理(基礎編)_PDCAサイクル_月次決算を立てる_詳細
《パターンD.着地点予測を行う》
経営管理(基礎編)_PDCAサイクル_着地点予測を行う?
月次決算が締まるのを待って「期末着地点予測」をした方が予測精度を高めることができます。しかしながら、必ずしも月次決算が判明していない場合でも、予測は実行することは可能です。また、予測のタイミングは期中であるならば、いつでも任意に選択することができます。
経営管理(基礎編)_PDCAサイクル_着地点予測を行う_詳細
「PDCAサイクルによる目標(予算)管理」自体がバズワードなのですが、上記の着地点予測による期中目標管理は、「フィードフォワード管理」、月次予実差異分析だけで経営意思決定することは「バックミラー経営」「バークワード管理」と言ったりします。
いずれにせよ、デミング博士が思いもしない「PDCA」の使われ方が、経営実務とコンサルテーションの世界であたりまえになっている(濫用されている)ことについて読者の方々に注意喚起させて頂きたく説明してきました。
まあ、経営コンサルタントの実力を測るのに、「PDCAサイクルをきちんと回せる予実管理(目標管理)の制度を導入したいんだけど、どうしたらいいですか?」「そもそもどうやってPDCAを回せばいいんでしょう?」と試しに質問してみてください。
上記パターンAからD以外の答えが返ってきたら、その時はお手数ですが筆者までお知らせ頂ければ幸いです。
ここまで、「PDCAサイクルと経営管理」の説明をしました。
経営管理(基礎編)_PDCAサイクルと経営管理

(Visited 1,281 times, 1 visits today)
Pocket

http://keieikanrikaikei.com/wp-content/uploads/2015/04/b45c6b78158e31dff4b23863feb4ceac-e1428166901472.jpghttp://keieikanrikaikei.com/wp-content/uploads/2015/04/b45c6b78158e31dff4b23863feb4ceac-150x150.jpg小林 友昭経営管理(基礎編)■ 神話となった「PDCA」 「PDCA」は、「Plan:計画」「Do:実行」「Check:評価」「Act(ion):改善」の略で、これを継続的に繰り返す(サイクルとする)ことで、主に生産現場や品質管理の領域において管理業務を円滑に進める手法として広まりました。今や、ISO 9001、ISO 14001、ISO 27001、JIS Q 15001などの管理システムにもその精神が移入され、もはや提唱者のデミング氏は神の領域に祭り上げられています。Googleにて「PDCA」を検索すると、134万件もヒットします(2014/10/05 調べ)。 そして、眺めてみても、解説が無いとそれ自体では理解不能な上記のようなチャートが流布している状態です。決まって、解説の決まり文句は、「きちんと立てた計画の実施状況を確認して、課題が発見されたら改善策を打つ。そしてまた次の計画をきちんと立てる。この目標管理の繰り返しが業績向上につながる」というものです。 ■ 様々な流派が誕生 筆者がまだ事業会社で経理とITの実務に従事していた当初は、まだそれほどデミング氏の「PDCA」が流布しておらず、主にIT業界のSIS(Strategic Information System:戦略情報システム)の売り込みの際に、「PDSサイクルを回す必要がある(Plan、Do、See)」というセールストークが流行っていたものです。 類似の管理サイクル概念には、「OODAループ(Observe、Orient、 Decide、 Act)」、「RG-PDCAサイクル(PDCAの前にR:Research、G:Goalを付加)」、果ては、プラントメンテナンス業務管理用の「B-PDCAサイクル(Planの中に、「計画保全」の『基盤設定』のBを含める)」というものまであります。 ついに、デミング氏自身が、入念な評価を行う必要性を強調してCheckをStudyに置き換え、「PDSAサイクル」と後日言い換えたりもしています。 まさに百家争鳴・百花繚乱とはこのことです。 ■ 我田引水 - 「予実管理」への応用 デミング氏は、 「トップマネジメントがシステム全体を鳥瞰的に理解して管理体系を構築する」 「マネジメントは常に変化を受け入れるべき」 「人間の認識力には限界があるので、心理学の応用、知識の説明に工夫が必要」 と述べています。 これが、ドラッカー氏がマネジメントの根幹として提唱した「目標管理」と結び付けられて今日の一大PDCA流派が誕生しました。 しかし、一方で、デミング氏は、 「数値目標の設定や、目標による管理を廃止する」 「(Periodicな)年度ごとの成績評価を否定する」 「品質のばらつきの範囲と原因を分析することが重要で、統計的標本化技法を利用する」 と発言しています。 つまり、PDCAに込められたデミング氏の思いをそのまま素直に解釈すると、 PDCAサイクルは品質のばらつきを管理するための全社的取り組みであることは間違いない ばらつきを閾値に収めるための現場の管理指標(かい離度含む)は定量的に設定するが、ばらつきの標準値(中心値)自体は、PDCA管理サイクルの外から設定されるものである 継続的なばらつきの管理業務は年度や四半期といった期間管理するのにはそぐわない という感じになります。 結論として、よくある管理会計(特に業績管理の分野)にて、年度予算管理プロセスの構築の重要性を饒舌(じょうぜつ)に語るのに使用されている「PDCA」という呪文は、よく言えば短歌の世界でいうところの「本歌取り」。残念ながらデミング氏の本意とは全く違う使われ方をしているようです。 ■ 予算管理への応用パターン まあ、デミング氏という本家を乗り越えて、新しい予算管理PDCA理論の存在を百歩譲って認めたとして、その理論には、「月次決算」と関連させて、通常4パターンあることが観察されています(あくまで筆者の経験からですが)。 《パターンA.年度目標管理が成立していない》 ? 期初に立案した目標・予算の達成度合いへの反省が、翌年度の計画策定にならないと活かされないパターンです。これでは、CheckとActionが年1回のワンチャンスになってしまいます。この場合は、月次決算の実施の有無は関係ありません。月次決算の手間の分だけ無駄な事務コストをかけているだけです。 《パターンB.月次予算を立てない》 ? 月次決算のタイミングで、年間目標と累計実績の差額が認識できます。しかし、この差額が過去の努力不足が原因で発生したのか、何が課題だったかのかの特定が困難です。そのため、年間目標達成のために有効な施策を考えつくことは非常に難易度が高くなっていると言えます。 《パターンC.月次予算を立てる》 ? 月次決算のタイミングで、単月および累計の予算と実績の差額が認識できます。しかし、この差額は、あくまで過去の行動に起因する差額なので、この差額の発生原因を追及して、対策を講じても、将来に有効かどうかは不確実性が高いままです。 また、月次決算が公表されるまでに時間がかかる場合は、施策を考え始めるのが遅れるため、その分施策の有効度が下がる、施策の選択肢が狭まる、といった影響が出る傾向が強くなります。 《パターンD.着地点予測を行う》 ? 月次決算が締まるのを待って「期末着地点予測」をした方が予測精度を高めることができます。しかしながら、必ずしも月次決算が判明していない場合でも、予測は実行することは可能です。また、予測のタイミングは期中であるならば、いつでも任意に選択することができます。 「PDCAサイクルによる目標(予算)管理」自体がバズワードなのですが、上記の着地点予測による期中目標管理は、「フィードフォワード管理」、月次予実差異分析だけで経営意思決定することは「バックミラー経営」「バークワード管理」と言ったりします。 いずれにせよ、デミング博士が思いもしない「PDCA」の使われ方が、経営実務とコンサルテーションの世界であたりまえになっている(濫用されている)ことについて読者の方々に注意喚起させて頂きたく説明してきました。 まあ、経営コンサルタントの実力を測るのに、「PDCAサイクルをきちんと回せる予実管理(目標管理)の制度を導入したいんだけど、どうしたらいいですか?」「そもそもどうやってPDCAを回せばいいんでしょう?」と試しに質問してみてください。 上記パターンAからD以外の答えが返ってきたら、その時はお手数ですが筆者までお知らせ頂ければ幸いです。 ここまで、「PDCAサイクルと経営管理」の説明をしました。現役の経営コンサルタントが管理会計をテーマに情報発信します