■ 機能別組織のメリットと会計責任の関係
今回から、実際の会社組織形態と会計責任構造の設計の具体的なお話に入ります。その前に、機能別組織とは、
① 企業の活動目的を達成するために、生産や販売といった個々の機能・職能別に区分された組織から成り立っている
② それぞれの組織は専門性を発揮することを期待されている
専門性とは、専門家利益を最大限発揮すること。アダム・スミスが『国富論』で唱えたように、分業の利益とも言えます。それぞれの担当者がひとつの作業に集中し、作業経験を累積的に増加させることが可能になるため、経験曲線効果により作業効率が上がり、生産性の向上から、コスト削減を実現します。また、特定領域の専門家として、洗練された特殊能力や経験から、ずぶの素人より、新たな改善や画期的な発明により、新製品開発、新生産技法、新ビジネスモデルの確立、新規顧客の獲得に専門性を発揮することも期待されています。
③ 対処できる最適な市場環境としては、「少品種大量生産」に最適化されている
産業革命直後、最もふさわしい組織形態として一般的でした。イノベーションのスピードがそれ程早くなく(商品の陳腐化が遅い)、部分最適の追求が全体最適になるケースに採用される組織形態の代表選手でした。
④ 各機能組織の利害調整は、全組織の上に立つトップマネジメントの役割である
各機能組織の間は原則として対等であるため、どちらかがどちらかの上位に立って指示絵を出す立場にはありません。経営管理職(CEOなど)が組織間調整の負担はかなり大きなものになります。機能別組織は日常的なオペレーション(サプライチェーンやエンジニアリングチェーンなど)を機能組織単位で分担・連携しているので、そうした利益相反事案が発生しやすいという欠点があります。
(参考)
⇒「組織管理(1)- 組織デザインを考える 「分業」の利益と「調整」コストのバランス」
各組織から超絶した経営管理職が全組織の利害調整を担うため、責任会計構造もそうした意思決定構造に寄り添った会計責任を設定することになります。各機能別組織がそれぞれ専門家利益を発揮してもらうためには、比較的独立的な会計責任を負ってもらう必要があります。それゆえ、外部に売上げが立つ販売機能組織は「レベニューセンター」、それ以外の機能別組織は「コストセンター」という比較的シンプルな責任会計制度になります。
各機能組織の利害調整=利益調整は、経営管理職の任務となります。したがって、CEOなどのトップマネジメント組織が「プロフィットセンター」となります。販売組織も製造組織もお互いには対等な権限を有する組織同士。両社の収益とコストを合成する利益は、その上位組織の会計責任となるのです。
■ 機能別組織の会計責任は、シンプルな収益とコストの合成
前回のおさらいになりますが、販売機能組織では、売上高も計上されますが、当然、営業活動をするための営業経費が発生するコストセンターという側面もあります。何度もしつこいですが、レベニュー(収益/売上)が計上されるレベニューセンターは、コストセンターの側面も有しています。そのレベニューとコストの差額概念である「営業差益」でもって、疑似プロフィットセンター扱いしては、企業損益管理の勘所を間違う旨は、何度言及してもいい足りないほど、責任会計論での重要事項のひとつです。
生産機能組織は、コストセンター、厳密には、その中でも「技術費用中心点(EEC:Engineering Expense Center)」として分類されます。そして、開発機能組織と間接機能組織も同様にコストセンターですが、こちらは、厳密には、「自由裁量費用中心点(DEC:Discretionary Expense Center)」として分類されます。
EECとDECの最たる違いは、DECにおける費用発生形態が、会社全体のサプライチェーンやスループットと呼ばれる、営業・生産物量の増減と比例的に費用支出が自動的に増えたり減ったりはしないことです。R&D開発や、総務人事関連事務は、営業量の増減とは無関係に、それぞれの活動が達成すべき業務品質や作業結果にコミットした結果、支出金額が決まる性格のものです。そういうコストを、「(自由)裁量固定費」と呼び、DECにおけるコスト管理の要諦となる原則をふたつ、生み出します。
① 裁量固定費の適正な支出かどうかは、与えられた業務目標の達成度で評価される
② 裁量固定費における予算許容額は、それ以外の利益目標の達成水準に縛られる
①について
5年以内の新製品開発点数を目標の10点以上にすると、与えらえた開発費予算を達成したことになります。直接的に、R&D費用を期間損益目標にリンクしてその支出の多寡が評価されることはありません。
②について
しかし、期間損益目標が未達になりそうなら、真っ先に削減対象になるのも裁量固定費です。その削減の程度は、機能コストを使った業務目標の達成度より、全社の損益計画の達成度の方を優先して設定されるのが通常です。
裏を返すと、目の前の期間損益目標を多少は犠牲にしても、将来の企業成長のタネになる先行技術開発投資を優先するという予算戦略を上手く進めた企業が中長期的な企業価値向上に成功する起業ともいえます。それゆえ、短期業績に厳しい上場企業が、MBOを通じて、非公開企業になる選択肢を採る最大の理由が、この利益分配のジレンマ問題といえます。
⇒「業績管理会計の基礎(5)責任会計制度の基本 プロフィットセンターやコストセンターをどう設定するか?」
■ 機能別組織の会計責任を全うする最大の障害とその克服方法とは?
逆説的な言い方かもしれませんが、各機能組織の部分最適を最大限発揮して、専門家利益を享受することが、機能別組織の形態を採用した企業の全体最適(= 利益最大化など)につながるという論法を機能別組織における責任会計論はとります。
プロフィットセンター = レベニューセンター + コストセンター
プロフィットセンターの利益最大化のためには、
① レベニューセンターの売上を最大化にすること
② コストセンターの原価・費用を最小化にすること
を両立すればよいのです。
機能別組織は、それぞれの専門家集団であるので、レベニューセンターの売上最大化はレベニューセンターの責任者が、コストセンターの原価・費用の最小化はコストセンターの責任者がそれぞれ責任をもって管理すればよいはずです。
しかしながら、販売組織からの販売在庫の発注が月々でどれくらいブレるかを事前に予想しておくことで、生産組織の生産ラインの稼働率を最適化できるとしたら、開発組織の新製品のリリース情報が営業組織に共有されていて、バーゲンセールのタイミングを適時化すると共に、アップセル、クロスセルの顧客販売戦略のための準備が効率的にできるとしたら、各機能組織はそれぞれの部門予算を立案する前に、お互いの情報共有をしておいた方が、全社利益に貢献できそうです。
そのための仕掛けとして、各機能組織間での各種予算統制コミュニケーション手法が用いられるのです。予算統制とは、予算を立案し、月次での予算進捗度をモニタリングし、期末損益着地点を予想しながら、予算達成の具体的な施策を打つためのPDCAサイクルを回すための活動をいいます。
① 製販会議
お互いの製商品別の販売計画と生産・在庫計画をすり合わせます。販売機能組織は、欠品による売り逃しのリスクを低減することができます。生産機能組織は、生産の平準化に伴う製造コストの低減と、適切な在庫計画により、販売機能組織の販売ロス軽減や物流費削減(急なエアによる運搬を回避など)に貢献することができます。
② 生産技術会議
開発機能組織に製品設計部門が属している場合、より加工しやすい(加工費を最小化できる)ものづくりのための設計方針、購入材料費削減のための、部品・モジュール共通化などの施策を共同で推進することができます。
③ 商品開発会議
販売機能組織が直接顧客から聞き取りした次期製品への要望を伝えたり、次モデルの上市スケジュールを共有することで、より顧客ニーズに寄り添った製品開発を可能にして、開発ロスを最小化したり、効果的なセールスプロモーション予算を設定したりすることができます。
④ 予算ヒアリング
それぞれの機能組織間でのコミュニケーションに基づき、専門家利益の発揮と全体最適の両立を図ったとしても、最後にはそれぞれの組織間での利害対立が残る可能性があります。第三者的というか、上位者としての裁定者という立場で、経営管理職能を担う機関(トップマネジメントおよび場合によっては間接機能組織)が、それぞれの機能組織の言い分を聞き取り調査して、最終的な予算編成を作り上げるための全社的なコミュニケーションがあります。
■ 機能別組織をまたがる横串の情報連携の内容は、利益情報が一番効果的である
製販会議では、それぞれの販売予測や生産能力に関する情報を持ち寄って、PSI計画をすり合わせるのもいいでしょう。しかし、お互いの部門の活動を代表する指標では、相手との相互理解に障害が残るかもしれません。予算統制において、大体の企業における単年度予算における実務は、利益目標の立案になります。だとすれば、各機能組織を横断する横串情報として、利益情報を用いるのはどうでしょうか?
機能別組織において、各機能組織の風通しを良くするために、担当する製商品をベースに「プロダクト・マネージャー制度」が敷かれる場合があります。
販売、生産といった機能別組織を横串で、製商品という軸で損益情報を作成し、その製商品別の損益情報をお互いの共通言語として、組織別の利害調整の道具とすることが有効なようです。その際、それぞれ担当するプロダクトを軸に、各機能組織との利害調整の役割を、プロダクト・マネージャーに任せることにしましょう。
プロダクト・マネージャーが、各機能組織の部門長より、当該プロダクトにおいて、予算設定権限が強い場合、重量級プロダクト・マネージャーと呼ぶことがあります。一方、各機能組織長の予算権限を尊重して、あくまで利害調整に徹する場合は、軽量級プロダクト・マネージャーと呼ぶことがあります。企業や業界によっては、ブランド・マネージャーだったり、エリア・マネージャーだったりもします。
ここで要注意なのが、各機能組織を横軸でぶった切る場合に、各部門発生コストを上手い具合に各製商品(ブランド、エリアなど)に割り付けられないこともあるかもしれません。こういう場合、機能組織横断的に、製商品等の切り口で損益情報を作るために、配賦する必要があります。製商品から見れば、各部門費は、共通費以外の何物でもないからです。重量級プロダクト・マネージャーでも、各部門で発生するコストの内、担当製品の負担分を容易に切り出せることは少ないようです。あくまで、配賦後利益は、部門横断的な全体最適のための補助ツールとして、配賦基準それ自身の適切性だけを議論しないことです。
木を見て森を見ず。
大事なのは、それぞれの製商品への配賦コスト金額そのものではなく、あくまで、全社利益なのです。A製品が配賦を回避した100円は、必ずB製品が負う羽目になります。発生コストは、全社トータルでは変わらないのだから。自分の担当する製商品の配賦負担後利益にばかり捉われるプロダクト・マネージャーは職責を果たしていませんし、そういう言動を助長する業績評価基準も撤廃する必要があるのです。
One for all, all for one! (^^)
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