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■ 出遅れた時の挽回の仕方

経営戦略(基礎編)_アイキャッチ

指揮官が君主の出撃命令を受けてから、軍を編成し兵士を統率して、敵軍と対陣して静止するまでの過程で、戦場への軍の先着を争う「軍争」ほど困難な作業はありません。軍争の難しさは、迂回路を直進の近道に変え、憂い事を利益に転ずる点にあります。

一見、戦場に遠い迂回路を取りながら、敵を利益で誘導して、敵の方が遠路はるばる自軍近くまでやって来るように仕向け、敵より後に進発しながら、戦場を手元に引き寄せ、敵よりも先に戦場に到着することができるのは、迂回路を直進の近道に変える計謀を知っているからこそできる技なのです。

もし、全軍を挙げて戦場に先着する利益を得ようと競争すれば、大軍では機敏な運動ができないから、敵軍より先には戦場に到着できません。かといって、軍全体に構わずに先着の利益を得ようと競争すれば、とりわけ行動が鈍重な輜重部隊は後方へ捨て去られます。

つまり、軽装の戦闘部隊だけで軍争することにより、軍が輸送部隊を失えば敗亡するし、兵糧を失えば敗亡するし、財貨の蓄えを失えば敗亡するのです。

孫子 (講談社学術文庫)

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「軍争篇」は、敵より遅れて進発しながら、敵軍に先んじて戦場に到達する戦術を説く篇です。大前提に、敵より先に戦場に着くことが有利である仮定があります。現代ビジネスにおいては、先行技術開発に成功し、自社より先にコンペチターが市場に新製品を投入してしまった状況からどうやったら挽回できるか、というシーンに重ねることができます。

このまま古代中国の戦史に倣ってこの節を説明するのなら、「桂陵の役」を取り上げるのですが、本稿ではそれは別の機会まで取っておきます。

まず、敵より先に戦場に到達する利は、
① 周囲の地形を把握したうえで要所に布陣できる
② 地勢によっては、伏兵を配置できる
③ 戦いが始まるまでの間、兵士に十分な休息を与えられる
ということが挙げられます。

先行商品で市場の形で作ってしまえば、価格帯、販路、顧客イメージを自社の有利なように設定しておくことができます。なんなら、後発企業が類似商品を投入する際には、対抗措置(キャンペーン価格で迎え撃つ、先んじて次のバージョン商品を上市する、跡形もなく、利益を吸い上げて市場を破壊しておく)をとって、持続的な自社優位性を築く余裕ができます。

手戻りのない先行開発-QFDの限界を超える新しい製品実現化手法-

ただでさえ、後発で、コンペチターに後れを取っているなら、その遅れを取り戻そうとして無理を重ねるあまり、勝率は著しく落ちます。というより、『孫子』全編を通して主張されている「戦力の集中」「戦いの主導権を握る」といった原則に反することになります。

これを浅野氏の解説本では次のように表現されています。
① 敵軍と先着を争えば、補給部隊を後方に遺棄せざるを得ない
② 戦闘部隊の隊列が途切れて、兵力が五月雨式にしか戦場に辿り着かない
その結果、疲労と混乱のまま戦闘に入ることで、敗北必死といった散々たる結果に陥ると。

それゆえ、孫子は、こうした愚直なやり方は避け、自軍は迂回路を進むために戦場に遠く、そのため戦場近くにいる敵軍に、前記の有利さをことごとく握られており、戦闘に敗北して戦争目的を遂げられない事態が憂慮される、といった決定的に不利な態勢を覆し、自軍の側が戦場に直進し・先着でき、不利な条件すべてが利点に転換するやり方を選ぶべき、と主張しています。

はてさて、その具体策はいかに? 細かな事例は、古代中国の戦闘によるものなので、どこまで現代ビジネスに応用が効くか、いささか無理な所もあるのですが、この後の7篇の解説を通して、もう少し実際的な例証で説明していきたいと思います。

孫子・戦略・クラウゼヴィッツ ―その活用の方程式 (日経ビジネス人文庫)




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孫子 第7章 軍争篇 30 迂(う)を以て直と為し、患いを以て利と為すhttp://keieikanrikaikei.com/wp-content/uploads/2015/04/ab47f6b60b2243be5165d08fde098dfb-e1428423948658.jpghttp://keieikanrikaikei.com/wp-content/uploads/2015/04/ab47f6b60b2243be5165d08fde098dfb-150x150.jpg小林 友昭孫子の兵法(入門編)孫子,兵法,戦略■ 出遅れた時の挽回の仕方 指揮官が君主の出撃命令を受けてから、軍を編成し兵士を統率して、敵軍と対陣して静止するまでの過程で、戦場への軍の先着を争う「軍争」ほど困難な作業はありません。軍争の難しさは、迂回路を直進の近道に変え、憂い事を利益に転ずる点にあります。 一見、戦場に遠い迂回路を取りながら、敵を利益で誘導して、敵の方が遠路はるばる自軍近くまでやって来るように仕向け、敵より後に進発しながら、戦場を手元に引き寄せ、敵よりも先に戦場に到着することができるのは、迂回路を直進の近道に変える計謀を知っているからこそできる技なのです。 もし、全軍を挙げて戦場に先着する利益を得ようと競争すれば、大軍では機敏な運動ができないから、敵軍より先には戦場に到着できません。かといって、軍全体に構わずに先着の利益を得ようと競争すれば、とりわけ行動が鈍重な輜重部隊は後方へ捨て去られます。 つまり、軽装の戦闘部隊だけで軍争することにより、軍が輸送部隊を失えば敗亡するし、兵糧を失えば敗亡するし、財貨の蓄えを失えば敗亡するのです。 孫子 (講談社学術文庫) ----------------- 「軍争篇」は、敵より遅れて進発しながら、敵軍に先んじて戦場に到達する戦術を説く篇です。大前提に、敵より先に戦場に着くことが有利である仮定があります。現代ビジネスにおいては、先行技術開発に成功し、自社より先にコンペチターが市場に新製品を投入してしまった状況からどうやったら挽回できるか、というシーンに重ねることができます。 このまま古代中国の戦史に倣ってこの節を説明するのなら、「桂陵の役」を取り上げるのですが、本稿ではそれは別の機会まで取っておきます。 まず、敵より先に戦場に到達する利は、 ① 周囲の地形を把握したうえで要所に布陣できる ② 地勢によっては、伏兵を配置できる ③ 戦いが始まるまでの間、兵士に十分な休息を与えられる ということが挙げられます。 先行商品で市場の形で作ってしまえば、価格帯、販路、顧客イメージを自社の有利なように設定しておくことができます。なんなら、後発企業が類似商品を投入する際には、対抗措置(キャンペーン価格で迎え撃つ、先んじて次のバージョン商品を上市する、跡形もなく、利益を吸い上げて市場を破壊しておく)をとって、持続的な自社優位性を築く余裕ができます。 手戻りのない先行開発-QFDの限界を超える新しい製品実現化手法- ただでさえ、後発で、コンペチターに後れを取っているなら、その遅れを取り戻そうとして無理を重ねるあまり、勝率は著しく落ちます。というより、『孫子』全編を通して主張されている「戦力の集中」「戦いの主導権を握る」といった原則に反することになります。 これを浅野氏の解説本では次のように表現されています。 ① 敵軍と先着を争えば、補給部隊を後方に遺棄せざるを得ない ② 戦闘部隊の隊列が途切れて、兵力が五月雨式にしか戦場に辿り着かない その結果、疲労と混乱のまま戦闘に入ることで、敗北必死といった散々たる結果に陥ると。 それゆえ、孫子は、こうした愚直なやり方は避け、自軍は迂回路を進むために戦場に遠く、そのため戦場近くにいる敵軍に、前記の有利さをことごとく握られており、戦闘に敗北して戦争目的を遂げられない事態が憂慮される、といった決定的に不利な態勢を覆し、自軍の側が戦場に直進し・先着でき、不利な条件すべてが利点に転換するやり方を選ぶべき、と主張しています。 はてさて、その具体策はいかに? 細かな事例は、古代中国の戦闘によるものなので、どこまで現代ビジネスに応用が効くか、いささか無理な所もあるのですが、この後の7篇の解説を通して、もう少し実際的な例証で説明していきたいと思います。 孫子・戦略・クラウゼヴィッツ ―その活用の方程式 (日経ビジネス人文庫)現役の経営コンサルタントが管理会計をテーマに情報発信します