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(一目均衡)「使えない現金」が映すもの 編集委員 梶原誠

経営管理会計トピック 経済動向を会計で読む
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■ 貸借対照表の借方に現金があるのに増資しなければならない理由とは

経営管理会計トピック

昨今、「円安」と「業績回復」が要因となって、日本企業の手元資金が新聞記事によると空前の約100兆円にまで膨らんでいるそうです。そういう資金余剰の中、2014年8月に70億円の公募増資したヨロズに対して、アクティビストが増配を求めた、という経緯が紹介され、表面上の資金余剰と実情は違うというコラムがありました。

そういうパラドックスが発生することに対する着眼点は素晴らしく、興味深く読ませて頂きましたが、その発生理由の切り込みをもっと鋭く、そして解決策を具体的に説明したいと思います。

2015/4/14|日本経済新聞|朝刊 (一目均衡)「使えない現金」が映すもの 編集委員 梶原誠

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

「「資金が十分あるのに増資をするのはおかしい」。自動車部品メーカー、ヨロズの大株主でもある旧村上ファンドの出身者は今年、こう主張して増配を求めたといわれている。
 ヨロズは昨年3月末の段階で200億円弱と、借入金に迫る規模の現金があった。実質無借金に近い状態だ。なのに8月、公募増資などで約70億円を調達した。「ため込みすぎ」という批判にも一理ある。
 だがヨロズにしてみれば、使える現金は限られている。例えば海外現地法人が稼いだ資金だ。国内にもっと持ち込むためには現法からの配当や技術移転料の引き上げが必要だが、資金の流出を嫌って難色を示す当局もある。自動車メーカーの現地での生産増強に素早く対応できるよう、設備投資用の資金も蓄えたい。」

 

■ 表面上の資金余剰と実質的な資金不足の怪

お金は、必要とするところに必要なタイミングで存在しないと、全体では足りているのに、部分部分で不足しているということが普通に起こり得ます。

日本に工場があって、米国に輸出している製造業を例にして説明します。

経営管理トピック_グローバルでの資金分布

<取引例>

親会社は自社工場で製造した製品を、1ドル=100円の換算レートで、1,000円の取引価格で米国子会社に販売し、代価として1,000円を受け取ります。


米国子会社は、お得意様に、日本の親会社から仕入れた製品を20ドルで販売し、代価として20ドルを受け取ります。


連結決算時に、米国子会社が保有している20ドルは、1ドル=120円の換算レートで、2,400円と評価替えされます。


日本の工場で、製造ラインの改修が理由の設備投資に2,000円必要であることが判明しました。


連結貸借対照表には、手元資金が3,400円あることになっているのですが、親会社の手元には、1,000円しかないので、残り1,000円は社外から資金調達しないと、製造ラインの改修ができなくなります。

ここでの資金不足(資金の偏在とかアンバランスともいう)の問題点は2つ。

1.米国子会社の手元にある20ドルに親会社が手を出せない
2.米国子会社が連結決算時に2,400円の資金を保有しているというのは、あくまで外貨換算による評価額にすぎず、日本円としては実在しないお金である

 

■ 「使えない現金」の正体が分かりましたが、解決策は?

なかなか、日本の製造業を中心とするグローバル企業では、製品の開発や販売など、事業そのものではリーダーシップを発揮できても、キャッシュの管理までは、親会社といえども子会社にあれこれ言えない力関係があるようです。新聞記事では、

「だが、今は逆に世界的なカネ余りだ。日本のコーポレート・ガバナンス(企業統治)改革も投資家の「物言う株主化」を進める。投資家は眠れる企業マネーをあぶり出し、使い方を巡る企業との攻防は一段と激しくなるだろう。
 問題は、株主に説明がつかない理由で現金が固定化している場合だ。
統率を欠く内輪の事情も取り沙汰されている。「子会社が運用益の減少を恐れ、本社が資金を求めても応じない」「海外現法に至るまで部門ごとに財務担当者が分散しており、資金がどこにあるかが把握しにくい」。市場が納得しがたい理由に違いない。
こんな問題をなくすには、強い権限を持つリーダーが欠かせない。」

とあるように、「コーポレート・ガバナンス強化」に解を求めていますが、モノ申す実力と、親会社の権利を正当に主張できる制度がないと、掛け声だけに終わってしまいます。

グローバルで資金管理を行う際の具体的な施策は次の通り。

1.適正な内部取引価格の設定
2.正当な資本主としての還元策を実施
3.ネッティングにより海外子会社が自由にできる資金を圧縮
4.プーリングにより、資金調達と資金運用の権限を親会社のものとする制度を確立 

 

■ グローバル・キャッシュ・マネジメント・システム(G-CMS)の一端を解説

1.適正な内部取引価格の設定
上記の例では、米国子会社の親会社製品の仕入・販売ビジネスでは、ドルベースで、50%の粗利率となっています。「移転価格税制」に基づき、「アームズレングス価格」での取引価格の設定にすると、親会社から見て既得権益を主張されて、子会社に多く行っていた取り分を取り戻すことができます(逆に親会社が搾取していた場合はあしからず)。

2.正当な資本主としての還元策を実施
2009年度の税制改正から、「外国子会社配当益金不算入制度(Foreign Dividend Exclusion)」が導入され、配当の95%が益金不算入とされましたので、この制度の有効活用を検討します。せっかく海外子会社から配当金の形で資金を回収しても、連結グループで見て税金の形でキャッシュアウトが増額されてしまうと、そのまま手つかずにしておいた方がましなので。グループ内での貸付・借入と処理してもよいのですが、その際のスキームが課税当局から刺されないか、細心の注意が必要です。

3.ネッティングにより海外子会社が自由にできる資金を圧縮
上記例の一方通行の資金の流れでは、あまり有効ではないですが、双方向に親会社と海外子会社間でお金が動くのでしたら、「ネッティング」により、そもそも動くお金を最小限にする方法があります。そうすると、個々の法人の待機資金を圧縮することができるので、そもそも海外子会社に親会社が手出しできない外貨がタンマリたまっているということを、資金繰りのせいにする現法社長の言い逃れを却下することができます。

「ネッティング」とは、双方の取引を事前に相殺して、差額分だけ資金を実際に動かすことをいいます。

経営管理会計トピック_ネッティングによる待機資金の圧縮

4.プーリングにより、資金調達と資金運用の権限を親会社のものとする制度を確立

子会社には余計なお金を眠らせておくことはしません。子会社の顧客からの入金はすぐさま、資金管理会社の口座に移し、子会社が取引先に支払いが必要な場合は、代行して支払いをするか、その子会社の口座に支払いに必要な額だけ振り込むようにします。

経営管理会計トピック_プーリングによる資金の集中管理

グローバル企業では、基軸通貨が複数になることが通常です。資金管理会社を、地域統括会社、または地域金融統括会社として、地域・主要通貨ごとに置くことがスムーズな運用の処方箋のひとつです。たとえば、米国にはドル基軸の金融統括会社、オランダにはユーロ、ア香港には人民元という風に。

 

ちなみに、各国で貸金業法、銀行法による資金移動に関する規制が様々なので、実際の運用にあたっては、法律と税務の専門家に相談する必要があります。その前に、全体スキームの構築について、マネジメント視点で基本構想を立案したいなどの要望がありましたら、筆者までご相談ください(ちょっと宣伝になりました)。(^^;)

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