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(私の履歴書)大山健太郎(17)メーカー兼問屋 「売れ筋すぐ作る」へ態勢 工場改革、生活者目線で開発

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■ アイリスオーヤマのビジネスモデルの一端を垣間見る!

コンサルタントのつぶやき

2016/3/17付 |日本経済新聞|朝刊 (私の履歴書)大山健太郎(17)メーカー兼問屋 「売れ筋すぐ作る」へ態勢 工場改革、生活者目線で開発

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一般に大手小売店は売り場の効率化と在庫削減のため問屋に対し単品で発注し、きめ細かく配送するよう求める。力仕事の手伝いも要請する。問屋は方々に小さな倉庫を持ち、在庫を抱え、営業所の男性社員は店回り。1回当たりの発注量が小さいので伝票1枚分の取引は少額で枚数が多く、伝票処理のため女性社員を大勢雇うのが普通だった。
こうした現状をまねても仕方がない。当社らしいメーカーベンダー(製造業兼問屋)の姿を追うことにした。

実は設備増強より難しいのは社内の意識改革だった。

これまでメーカー部門の社員は単品・大量生産を軸に機械化や効率化で生産性を向上させるのが仕事だった。しかし問屋の役割は多品種少量を単品で管理・納品すること。小売店の注文に応えられない問屋は取引を切られる。
農業用資材など産業用の商品なら需要を見通せる。しかし需要創造型の生活用品はまったく予測ができない。欠品を避けるため在庫をたくさん持てば経営を圧迫する。
販売情報を得てすぐ生産量に反映したり、注文に合わせて臨機応変に作るものを変えたりする必要があった。作った物を売るのではなく、売れた物を迅速に作るのだ。「在庫を金型で持つ」発想ともいえる。社内の製販連携ができてこそ全体の効率が上がる。「生産優先から出荷・納品優先へ」の脱皮を製造現場の人たちにじっくり説いた。

メーカーベンダーの仕組みは多くのメリットを生んだ。店頭までの運賃が商品1個単位で把握できる。犬舎など軽くてかさばるものと園芸の土など小さく重いものを混載し物流費を抑えられる。店頭売り上げを即時に把握でき生産・在庫管理の予測が容易になる。営業担当はデータをもとに商品を店に提案した。

しかし最大の効果は、小売りの現場と直結することで、他のメーカーに比べ商品開発の目線が生活者に近づいたことかもしれない。ものづくりは目的ではなく生活者の不満を解消する手段だ――。「マーケットイン」から一段進化した「ユーザーイン」の姿勢がここで確立した。
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■ メーカーベンダーに変身するためには設備増強より意識改革が大変だった!

ここでは、問屋は小売店からの小口(単品)発注に如何様にも応じられるように、多種多様の在庫を欠品リスクが無いように取りそろえる必要があるところから社内改革がスタートしました。

・メーカーの重要成功要因(KFS:Key Factor for Success)
少品種大量生産の中で、生産性向上(より多く作る)と生産原価削減(より安く作る)

・問屋の重要成功要因
多品種少量供給の中で、顧客需要に柔軟に対応(単品管理、欠品率の低減、売れ筋の把握)

ここは、プッシュ型(作ってから売る)のではなく、プル型(注文を受けてから作る)生産への転換が必要。それが文中にも、「在庫を金型で持つ発想」という表現で登場しています。トヨタ生産方式で人口に膾炙しているプル型生産方式、またはカンバン方式。これは、従来のプッシュ型生産や見込生産の形態を採用していた工場にとっては正反対の情報の流れ。需要数を読んで、生産オーダーを決め、そのオーダーに従って部材を手配。後は工場または流通倉庫からの製品在庫で捌く。それが、小売りからの発注をベースに、生産計画を柔軟に調整する中で、所要量展開(MRP)を回して部材を手配する部分への適合が難しいのです。

(筆者がメーカー在籍時、工場はトヨタ生産方式の著名な研究会に参加しており、プル型生産だったので、若い時から貴重な現場経験を積ませてもらいました。感謝です!)

 

■ 「ものづくり」だけではない! メーカーベンダーへの変身で得たメリットとは

作るものが農業用資材など産業用の商品ならある程度の需要予測が立つ。しかし、生活者向け商品を手掛けるといろいろと違いが出てくる。

1.需要創造型の生活用品は需要が読みにくい
  → プル型生産の構えが必要
  → 短い調達・生産リードタイムが要求される
  → 欠品リスクの増大に解消に安易に応えようとすると大きな在庫リスクを伴う
  → 多種多様な単品での受発注になる

ここから、ITを活用した受注→生産指示→物流の仕組みが必要になります。そこでアイリスオーヤマは生産設備に続き、販物システムも自社開発で対応します。このことは、情報システムの開発・保守・運用を含めた「総所有コスト(TCO:Total Cost of Ownership)」の観点からは慎重に判断すべきなのですが、自社内にノウハウ(暗黙知を含む)が蓄積され、人材が育つ、と言う意味では、いわゆるスクラッチ開発というものにも大きなアドバンテージがあります。

2.生活者目線での商品開発
いわゆるメーカー側で商品企画をしたものを作ってから売る「プロダクトアウト」から、市場ニーズに基づいた商品企画を意識する「マーケットイン」のお話しがここでも登場。さらに興味深い言葉遣いとして「ユーザーイン」を提唱。これは、顧客を「個客」としてみて、市場セグメンテーションを、市場ではなくてユーザ一人一人の本当に欲しいものに対応するという意気込みの表れ。

この辺は、有名なレビット博士の、「昨年、4分の1インチ・ドリルが100万個売れたが、これは人びとが4分の1インチ・ドリルを欲したからでなく、4分の1インチの穴を欲したから」という言葉を想起させます。
(1968年:T・レビット著『マーケティング発想法』という本が出展)

『ものづくりは目的ではなく生活者の不満を解消する手段』

筆者は、このコラムの読後感として、しみじみとこの言葉を噛みしめるのであります。

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