■ 顧客との対話力
↑どこかの英会話学校の宣伝文句のようですね。(笑)
「前回」は、危機管理の際の優先順位、「法的責任を明確にすること」と「顧客の安心安全を重視すること」のいずれが大事か、そしてその判断を誤らないためには「従業員への顧客優先の行動指針の浸透」がポイントというお話をしました。
今回は、「顧客との対話力」「企業内での意思決定の仕方」についてお話ししたいと思います。
2014/12/18|日本経済新聞|朝刊
(ビジネスTODAY)タカタ、部品追加増産1年内に CEO「米世論に思い伝わらず」 火薬管理「不備あった」
2014/12/21|日本経済新聞|朝刊
ソニー・ピクチャーズCEO「大統領は誤解」 リスク管理もろさ露呈
「「大統領は誤解している」。ソニー・ピクチャーズエンタテインメント(SPE)のマイケル・リントン最高経営責任者(CEO、写真はロイター)は19日、米CNNでオバマ米大統領の批判に対して反論した。11月下旬に大規模なサイバー攻撃を受け当局とハッカー対策で連携してきたSPEは名指しの批判に困惑を隠せないでいる。
金正恩第1書記の暗殺を題材にしたコメディー映画「ザ・インタビュー」の公開中止を求めるハッカー側からテロ予告があったのは16日。これを受け、全米の映画館は相次いで公開中止を決めた。このためSPEは25日公開への準備を止め、配給を見送ることにした。
こうした経緯からSPE側には公開見送りを強要したわけではない、との思いが強い。だが、オバマ氏には「(公開見送りは)誤り」と頭ごなしに批判された。
米メディアではサイバー攻撃で流出したSPE幹部のメールの中に、オバマ氏に対する人種的な配慮に欠いた文言や大物女優を「ほとんど才能がない」などとした表現が含まれたことが、大統領のSPE批判を後押ししたとの見方がある。
SPEの対応のまずさもある。経営トップのリントンCEOが公の場で発言したのは、19日が初めて。事件発生から25日が経過している。その間、情報流出や脅迫が相次ぎ、ハッカー主導で情報戦が展開されたことで、SPEを取り巻く環境は日ごとに厳しくなった。」
2014/12/28|日本経済新聞|朝刊
ペヤング、虫1匹に巨額代償 鶴の一声で生産全面停止
「まるか食品によると、設備の刷新には「2ケタ億円はかかる」。生産停止中の機会損失、返品費用など一連の負担は数十億円に達する見込みだ。ただ、虫1匹でここまで追い込まれた一因は、まるか食品の初動のまずさにもある。
始まりは商品購入者によるツイッターへの書き込み。麺にゴキブリのような虫がからまっているように見える写真は衝撃的で、ネット上で大きな話題になった。
購入者とのやりとりがネットで公開されると「対応がなっていない」とネットで炎上。この事態を受け、まるか食品は一部回収を決めたが、外部機関の検査によって「製造過程で混入した可能性は否定できない」となり、全面回収に。「回収が遅れたことは事実」と同社も認めるほど対応が後手に回り、イメージ悪化に歯止めがかからなくなっていた。そこに出てきたのが「生産全面停止・設備刷新」の経営判断だった。」
以上、少々引用が長くて申し訳ありませんでしたが、つまるところ、3社とも、事が起きたときの初動のまずさ、誤解を生じさせてしまう説明能力の不足が共通の敗因です。
ソニー・ピクチャーズは、映画の上映権は、映画館経営会社にあるのに、世間的には同社が上映中止を決定し、「表現の自由」なる自由民主主義の錦の御旗に傷を付けた張本人に仕立て上げられ、さらに、サイバー攻撃の事態収拾をする当事者能力に欠けている、とまで論評されてしまう始末。サイバー攻撃への対応は、軍を含む当局の責任ですよね。
「白」を「黒」とまで言い切ることのできるディベート能力に長けた人材は米国には豊富にいらっしゃるのに、うまく大統領と共和党からの責任転嫁を回避できませんでしたねぇ~。
また、まるか食品については、マスコミ対応が一担当者にすべて任され、会社の顔である経営者が表に出なかったことが批判されています。マスコミへの露出の仕方ひとつとっても、レピュテーションリスクを能動的にコントロールする姿勢が問われたわけです。簡単に言うと、記者会見のひとつでもすぐに開いて、頭を下げればいいじゃないですか。それができないんですね。お客様への誠意を示す心を常に持っていれば、自然と行動に表れるはずです。
■ ガバナンス(統治体制)の不備を責めるのは簡単です
不祥事・不始末が起これば、企業の場合、どうあっても組織体制や指揮命令系統が批判の的とされてしまいます。
2014/12/26|日本経済新聞|朝刊
ソニー、統治体制に課題 金正恩氏題材の映画を一転公開 エンタメ部門「一本化」でも リスク管理機能不十分
「CBSレコードやコロンビア映画の買収などを経て事業領域を拡大してきたソニーのエンタメ部門。現在は米ソニー傘下にある統括会社ソニー・エンタテインメントに映画、音楽、音楽出版の3社がぶら下がる。複雑な構造にメスを入れたのは2012年に平井氏がトップに就任してからだ。
米ソニーと統括会社、SPEのトップをハーバード・ビジネス・スクール出身のマイケル・リントン氏が兼任し、命令系統を一本化した。敏腕プロデューサーのエイミー・パスカル氏、ビル・クリントン元大統領の顧問弁護士だったニコール・セリグマン氏と豪華な顔ぶれが並ぶ経営陣も大統領の批判という異例の展開にリスク管理機能を十分に発揮できなかった。
米国では「ソニー」の問題と注目されているにもかかわらず、対外的な情報発信の窓口はSPEに一本化。前面に立たないソニー本社への風当たりは強い。」
2014/12/25|日本経済新聞|朝刊
タカタ、社長が退任 高田会長が兼務 報酬を一部返上
「タカタは24日、同日付でステファン・ストッカー社長(61)が取締役に退き、高田重久会長兼最高経営責任者(CEO=48)が社長を兼務する人事を発表した。同社製エアバッグを巡り、世界の自動車メーカーが大規模リコール(回収・無償修理)を迫られている。交換部品の増産投資などを迅速に決めるために、創業家出身の高田氏に権限・責任を集中させる。」
果ては、規制当局の人手不足まで、批判の矢面に立たせられています。
2014/12/26|日本経済新聞|朝刊
タカタ製エアバッグ問題 米当局へも不信向かう 規制強化、体制追いつかず 対応にぶれ、機能不全も
「タカタ製エアバッグの欠陥問題を巡り、監督官庁である米運輸省・高速道路交通安全局(NHTSA)への不信が米国民の間で募り始めた。情報の解析や開示が遅れ、リコール(回収・無償修理)対応がぶれているためだ。規制強化にNHTSAの人員増が追いつかず、機能不全に陥っているとの指摘もある。」
■ 最後はトップの判断
オーナー会社の経営意思決定のスピードには驚嘆することがままあります。まるか食品も、丸橋オーナー社長が鶴の一声で「生産全面停止・設備刷新」が決まりました。オーナー経営には副作用も大きいのですが、こうした危機発生時の意思決定のスピードは大したものです。
一方で、タカタは対応が後手後手に回ってしまいました。そして、創業家が社長兼任という形になりました。ストッカー氏に危機管理の権限を集中させていても、最後は創業家ということです。
ソニーは、何階層にもわたる統治構造の機能不全を指摘されました。
似たようなサラリーマン経営者の会社の話は、この手の話でもあります。
2014/12/23|日本経済新聞|朝刊
キリンほろ苦 体制見直し HD社長に磯崎氏、反転攻勢へ グループ一体で営業力
「キリンホールディングス(HD)は22日、傘下のキリンビールの磯崎功典社長(61)が2015年3月末に社長に就任すると正式発表した。新体制の目玉は、磯崎氏が中間持ち株会社キリンのトップを引き続き務め、一体運営すること。キリン再興を担ったはずの中間持ち株制を2年あまりで見直すのは危機感の表れだ。自ら「欠けていた」と指摘する機動力を高めることができるか。
人事政策でキリンHDとキリンがそれぞれ担当役員を置くなど、指揮系統や責任の所在がはっきりしないケースがあった。「両社の情報共有などが遅れ、迅速な経営判断につながらない面があった」(三宅氏)。実際、営業では大手外食チェーンとの取引を競合に奪われるなど、厳しい状況が続いた。」
企業って、家族などとは違い不自然に大人数が集まって、一つの組織を形成しているわけです。
(「ゲマインシャフト」と「ゲゼルシャフト」の違い)
組織構成員の意識合わせと全体行動の方向付け、不自然に集まった人達の行動をどうやって組織目標の達成に向けて効果的に機能させるか、その指示出し能力がトップの資質として問われるところです。
企業グループを率いる人は、そもそも会社組織は不自然に人が集まったものだという認識から始めては如何でしょうか?
不自然に集まった人達を動かすにはどうしたらよいか?
いつまで、創業家のカリスマ的支配にばかり頼っていてはだめですよ。
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