■ これまでの最近の投稿記事のまとめ
日経新聞の連載企画で、「目覚める資本 運用立国への道-関係者に聞く」の中に、コリン・メイヤー氏(英オックスフォード大学教授)のインタビュー記事内の記述に、最近の筆者の投稿記事との関連する点がいくつかあったので、最近の筆者の投稿のまとめとして今回取り上げました。
氏のインタビューは、「銀行との株式の持ち合いが解消され、経営が市場の圧力にさらされるようになるなど、良い方向に動いている。事業会社との持ち合いは残るが、深刻な弊害をもたらすほど過剰な状態というわけではない」との日本の株式市場への評価から始まっています。
2014/11/21付 |日本経済新聞|朝刊
(目覚める資本 運用立国への道 関係者に聞く(下))年金が安定保有の中核に コリン・メイヤー氏 英オックスフォード大学教授
投稿記事のまとめは、
① 安定株主づくり
② 種類株(多議決権株式)
について振り返りたいと思います。
■ 安定株主づくり
筆者は、経営者が経営の本道を忘れて、安定株主対策に走ることは一投資家として歓迎していません。ただし、経営の安定のために、投資家(株主)に中長期的な事業プランに関する積極的対話は必要だと考えます。事業プランに賛同する出資者が居て、それを実行する経営者が居る、中長期的な経営目標の達成までの途上の業績変動でいちいち騒ぎ立てない、それは重要なことだと考えます。
さて、メイヤー氏に英国の株式市場での問題点を聞くと、下記のような回答がありました。
「株式所有が細かく分散しすぎたため、長期の安定株主がいなくなった。各投資家が短期間の運用成績を向上させようと企業に様々な圧力をかけ、経営者が振り回されている。長期と短期のバランスが崩れている。日本はそうならないように注意が必要だ」
この点については、「老舗企業も株主優待 コマツとリコー、上場66年で初導入 個人の長期保有促す」でも触れましたが、寧ろ、株主優待制度で「個人株主」を増やすのではなく、丁寧なIR活動を通じて、機関投資家に中長期的に株式を保有してもらうようにすることが本道だと主張させて頂きましたので、氏と全く同感です。
個人投資家の動員戦略については、他にも課題があります。
今度は機関投資家の方の問題なのですが、毎月分配型の投資信託商品で個人投資家(おそらくメインターゲットは高齢者)から資金を収集しようとする「朝三暮四」よりたちが悪い方法での集金の問題については、「投信成績分かりやすく 通算損益を通知・報告書に簡易版」で説明させて頂きました。
一方で、企業側にも、過大な株主分配により、株価上昇と見かけのROE向上を演出しようとする個社が、このところの好調な業績を背景に複数登場してきました。
直近ですと、下記のような記事を参考にしてください。
2014/11/21付 |日本経済新聞|朝刊
利益の大半、株主配分 カシオ9割、アマダ全額 上場企業全体で10兆円
■ 種類株の活用
種類株(多議決権株式)については、「風速計 ベンチャー上場 もろ刃の種類株」でコメントさせて頂きました。どの企業に投資するかは、投資家の自由。種類株発行企業でも、自身の株主権の権限をきちんと見極めて、自己の経済的便益が最大になるような投資をすればよい、というような趣旨の発言をさせて頂きました。
メイヤー氏の提言では、安定株主づくりのために、長期の投資家により多くの議決権を与える種類株の付与を主張されています。
ちょっとこれだけの記述では実際の運用がどれくらいかわからないので、氏の近著「ファーム・コミットメント」を読んでください、ということになるのでしょうか?(うーん、3,024円、、、)
他に参照したサイトによると、「デュアル・クラス・シェアーズ(dual class shares)」として、フランスのダノンやカルフール、英蘭ユニリーバ、デンマークのカールスバーグなどで成功をおさめた方法とのこと。
でも、長期保有株主に特別配当で長期保有にインセンティブを与える方法と、長期保有株主に、株主総会での取締役の選任・解任を含む普通株より大きい議決権を与える方法と、日本の株式市場においては、どっちが長期保有してもらえそうな選択肢となりますでしょうか?
おそらく、より経済的リターンを欲する投資家は前者、より経営へのコミットメントを重視する投資家は後者に惹かれることでしょう。
技術的には、種類株式を発行すると同時に、自社株買いをして、普通株による自社株を消却で、一株当たり利益の希薄化を防ぐことになると思いますが、「JPX日経インデックス400」に選ばれなかったからといって、配当性向を100%にする、という蛮行(おっと失礼、機動的な配当施策)をやってしまう日本企業に、このような洗練された手法が使いこなせましょうか?
なにせ、英国は、東インド会社に始まる400年以上にわたる株式会社の歴史を持つお国柄。成熟度が日本と全然違います。英国に株式会社誕生したころ、まだ日本は関ヶ原の戦い(1600年:慶長5年)をやっていましたから。。。
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