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レピュテーションリスク(1) 危機管理時の優先順位

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■ ブランドを毀損させる企業の行動

経営管理会計トピック
2014年下半期も、レピュテーションリスクにさらされた企業事件が複数発生しました。
「レピュテーション‐リスク(reputation risk)
企業に対する否定的な評価や評判が広まることによって、企業の信用やブランド価値が低下し、損失を被る危険度。評判リスク。風評リスク。」
(デジタル大辞泉の解説より)
レピュテーションリスクを計数的に評価し、その対応策とのバランスで企業業績へのインパクトを考量する領域が管理会計にも実際に存在します。今回は、そうした損得計算の前に、マスコミの報道にまつわるお話をしたいと思います。
1.タカタ 「エアバックのリコール」
2.ソニー・ピクチャーズエンタテインメント 「ザ・インタビュー上映延期」
3.まるか食品 「ペヤング自主回収」

■ 法律的に誰が有罪(有責)かは問題ではない!?

最初は、タカタのエアバックのお話から。

2014/12/19|日本経済新聞|朝刊
タカタの衝撃(上) 米消費者意識を読み誤る リコール、世界2000万台超 業界の論理に不信広がる

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます
タカタ製エアバッグに関連する初のリコールは08年にホンダが実施した4千台のリコールから始まりました。米国で複数のエアバッグが異常破裂したことから、エアバッグを膨らます火薬の湿度管理が不十分で異常破裂した際に火薬を入れる金属製容器が飛び散る欠陥が見つかったからです。

その後、09年には前年のリコールで対象外だったエアバッグが異常破裂し、初めての死亡事故が米国で発生し、の後も米国で死傷例が続きました。
ここで、事態を重く見た米議会は問題解決を求める世論に押される形で公聴会を開くことを決定。その際、米運輸省・高速道路交通安全局(NHTSA)とやりとりした書簡で、
1.リコール(回収・無償修理)は本来完成車メーカーが実施するもので、部品メーカーのタカタがリコールの是非をどうにかするものではない
2.原因が特定できていない以上、09年以降の事故については欠陥を認定できない。欠陥を認めていない『調査リコール』については対応できない
※ 調査リコール:不具合の原因を特定するためのメーカーの自主的な措置
と主張した内容に対して、ユーザの安全性への配慮がないと米国民の怒りの世論に火がついてしまいました。
えーとですね、確かに「リコール」は最終的に消費者にモノを販売した会社に法的な実施責任があるのですが、その最終品を構成する部品を供給した会社にも、等しく「製造物責任法(PL法)」にて、製造物責任を負い、消費者に対して無過失責任を問われます。
※ 製造物責任:製造業者等は、引き渡した製造物の欠陥により他人の生命、身体又は財産を侵害したときは、これによって生じた損害賠償をする責めに任ずる
したがって、世の中には、こうした場合にも対応できるように「リコール保険」なる金融商品が存在するわけです。
以下、マーシュ ジャパン株式会社のホームページから引用します。
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リコールの実施を最終的に決定する主体は完成品メーカーです。ただし、その原因となる欠陥が完成品メーカーにとって第三者の部品メーカーが供給する部品に存在する場合、部品メーカーは完成品メーカーからリコール費用の一部もしくは全部について求償を受ける可能性があります。リコール保険では、完成品メーカーがリコールで生じた費用を補償する保険契約をFirst Party Recallと呼び、部品メーカーが完成品メーカーに対するリコールの損害賠償責任を補償する保険契約はThird Party Recallと呼び、保険引受け上区別して取扱われています。
リコール保険の引受け方法は保険会社により異なります。リコール(費用)保険として単独の保険契約として引受けられるケースと、製造物賠償責任事故との関連性が高いことから製造物賠償責任(Product Liability)保険の特約(追加オプション)として引受けられるケースの2種類があります。
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管理会計の一領域でもあるように、レピュテーションリスクを計量化して、保険をかけてそのリスクをカバーしておく。上記のような保険商品が用意されているということは、部品会社のリコール付随責任も、単独のPL責任も、素早く対応してユーザの信用を失わないようにする - これがいたって通常の行動原則であることを証明しているのではないかと思います。

■ 本当にあの事件の教訓を経営者は学んでいるのか?

こうした危機管理の話題が持ち上がるたびに決まって取り上げられる伝説があります。

2014/12/8|日本経済新聞|朝刊 春秋

「企業向けに書かれた危機管理の教科書を開けば、必ず出てくるのがタイレノール事件である。1982年、米国の製薬会社ジョンソン・エンド・ジョンソンの主力商品だった解熱鎮痛剤タイレノールに、何者かが毒物を混入した。シカゴ周辺で、少女ら7人が死亡する。
会社は原因がはっきりしないうちからリコールに踏み切る。新聞やテレビで繰り返し呼びかけ、全米で3100万個を回収した。大きな損失を出したが対応は好感され、ほどなく売り上げも回復する。
危機管理に詳しい弁護士の中島茂さんは、これまで苦悶(くもん)の表情でリコールを決断する経営者を何人も見てきた。それでも判断基準はただ1つ。ユーザーの安全である。鉄則は「迷うならリコール」なのだという。」
この事件は、WiKiにも堂々と記述されているのですね。
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この事件でジョンソン・エンド・ジョンソンは「タイレノールにシアン化合物混入の疑いがある」とされた時点で迅速に消費者に対し、125,000回に及ぶTV放映、専用フリーダイヤルの設置、新聞の一面広告などの手段で回収と注意を呼びかけた(1982年10月5日、タイレノール全製品のリコールを発表)。およそ3100万本の瓶を回収するにあたり約1億USドル(当時の日本円で約277億円)の損失が発生。事件発生後、毒物の混入を防ぐため「3重シールパッケージ」を開発し発売。この徹底した対応策により1982年12月(事件後2ヶ月)には、事件前の売上の80%まで回復した。
ジョンソン&ジョンソンには「消費者の命を守る」ことを謳ったわれらの信条(Our Credo)という経営哲学があり、社内に徹底されていた。緊急時のマニュアルが存在しなかったにもかかわらず迅速な対応ができたのはこのためである。
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■ 効果的な危機管理対策は従業員のマインドの中に

「クレド」「行動指針」が従業員を迅速な対応に導きました。この類のお話は、世の中にごまんとあって、たとえば、東日本大震災時のオリエンタルランド(東京ディズニーランド・ディズニーシー運営会社)が、帰宅困難者に対していかに迅速で適切な処置を施したことか。時には現場マニュアルに違反することまで、現場の担当者(ほとんど9割はアルバイト(キャスト)ですよ!)の判断で行われました。
こういうところで、企業ブランドの評価は決まってしまうんですよね。ディズニーランドはこの春に値上げしましたが、客は離れるどころか、入場者記録更新中ですもんね。
目の前の「金勘定」と顧客からの「信用」。
どっちが企業にとっての成長と利益の真の源泉なのでしょうか?
次回は、そうした判断ができる/できない、という話をもう少し深堀りしたいと思います。

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