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コンサルタントの秘密 – 技術アドバイスの人間学(25)ゴーマン法則④ - 自分の欠陥を機能にしてしまうお話

本レビュー
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■ コンサルタントが失いかけた信頼をどう取り戻したか?

このシリーズは、G.W.ワインバーグ著『コンサルタントの秘密 - 技術アドバイスの人間学』の中から、著者が実地で参考にしている法則・金言・原理を、私のつまらないコメントや経験談と共にご紹介するものです。

G.W.ワインバーグ氏の公式ホームページはこちら(英語)

本書P48-49には、ワインバーグ氏自らが体験したゴーマン法則が語られています。

ワインバーグ氏も完璧なコンサルタントではなかったようです。コンサルタントは、常にクライアントからテストをうけているようなもので、それを一瞬でも忘れてはいけないものです。彼は自身の失敗談を次のように語っています(P49-50)。

ワインバーグ氏は、同じ質問やコメントをあまりうるさく繰り返されるとカッとなるそうです。その日も、意見出しのブレスト会議の席上で、出席者A氏が、その会議で出された提案に対して、もちろんワインバーグ氏が持ち出したものを含めて、全てにおいて、「そりゃやってみたけど、駄目でしたよ」というセリフを言い続けたそうです。

それを聞いてキレてしまったワインバーグ氏がとうとう「Aさん、あなたは何でもやってみたことがあるみたいですね。誰かが提案している時は、黙っているようにしたらどうですか?」今では、ブレーンストーミングの場では、発言者の意見を否定してはいけない、もう常識ですよね。

ワインバーグ氏の一言でその場は静まり返ってしまい、まずい空気が流れると共に、一瞬、人間としての弱みをさらけ出した上に、“ミーティングでの冷静な援助者”というコンサルタントとしては大切なイメージも台無しにしてしまいました。

そこで彼は、クライアントの信頼を取り戻す努力もせずにその信頼を失うことを避けるために、

「いや、私も完全ではないことをこれでお分かり頂けたでしょう。私がカッとなったことはお詫びします。でも、アイデアを聞かないうちからそれはだめだと言われるのは本当に嫌な気分になります。」
「Aさん、あなたはあらゆるアイデアに対して、やってみたけどダメだった、と言う習慣をお持ちのようですね。あなたが正しいことをおっしゃっていることを疑ってはいませんが、多分、このブレストの参加者のアイデアも、必ずしも完璧でなくてもいいのではないでしょうか。」

そして畳みかけるようにこのように締めるのです。

「私(ワインバーグ氏)も、カッとしないように努力しているのですが、このように時には失敗することもあります。ということは、もう一度、出されたアイデアを試してみてはいけないということでもありませんよね。」

 

■ コンサルタントが失いかけた信頼を取り戻した先の問題について

ここまでくれば、A氏も自分の発言の仕方がブレストの目的にどうにも具合が悪いことに気づいたようで、次のように答えました。

「もちろん、私は皆さんのアイデアを試してはいけないと思ったわけでああいったんじゃないんです。上手くいかない場合もあるという情報を皆さんにお伝えしたかっただけなんです。私は皆さんがアイデアを改良するようにして欲しかっただけなんです。」

そこで、ワインバーグ氏は、A氏に対して、言い方を次のように変えるように提案したそうです。

『それはいいアイデアですね。これこれこういう条件を考慮してやれば、本当にうまくいくでしょう』

この様な言い方レクチャーはその辺のビジネス書ではもう一般的な知識となっていますが、ワインバーグ氏の時代は、結構画期的なことだったようで、一悶着あったブレストが終わった際に同席していた他の出席者から、

「鮮やかな割り込み方でしたね。私は先生(ワインバーグ氏)が本当にカッとなさったんだと思いかけたぐらいです。ほんとに、先生は冷静なコンサルタントですね。」

 

■ この切り返しのどこがコンサルタントにとって致命的な問題なのか?

激情家の私には到底、まねのできない芸当ですが、ワインバーグ氏は、上記のようなとっさの気転でクライアントの信頼を損ねかけたところをリカバリしたのを鼻にかけるどころか、本当に自分の失敗を率直に認めた方がいいと提言されています。

そして、最後に、ゴーマン法則をコンサルタント自身に適用する際のひとつの危険性に警鐘を鳴らしています。

人々はあなたが完全であると信じ始める恐れがある。それ自体は、自分でもそう信じ始めない限りはそう悪いことではないが。

欠陥を転じて機能にしてしまう「ゴーマン法則」。なんでも機能にしてしまって、問題を表面化させない、人々の認知の方を何とか操作することで問題を解決する、手腕の見事さは素晴らしいとは思いますが、2つのことを忘れないようにしたいですね。

① 根源的な問題は何ら解決されてはおらず、人々の問題に対する認知の方法を変えて問題ではなくしているだけ
② そのような人々の認知を変えることだけに長けてしまっては、真因を解決する力を養う機会を逸してしまう

これは、言葉に対する私の持つ語感だけのことかもしれませんが、「問題(Problem)」と「論点(Issue)」は異なるということ。人々の認知を変えることで、「問題」は「問題」のままですが、「論点」ではなくしているだけのこと。

コンサルタントとして、クライアントの認知を変えることで「論点」を解決して、クライアントから有難がられることは、コンサルティングビジネスの成功という視点ではいいことかもしれませんが、コンサルタントの課題解決者としての手腕として、秀逸であるかどうかは、時と場合によりけりです。

この辺、嗅覚に優れた鋭敏な感覚をお持ちのクライアントに対して、安易に使用すると、逆効果になる点、同業者の皆様、どうか心して頂きたいと思うところです。(^^;)

⇒「コンサルタントの秘密 – 技術アドバイスの人間学(22)ゴーマン法則① - なおせなかったら機能にしてしまえ
⇒「コンサルタントの秘密 – 技術アドバイスの人間学(23)ゴーマン法則② - いろんな業界のゴーマン法則を集めてみました
⇒「コンサルタントの秘密 – 技術アドバイスの人間学(24)ゴーマン法則③ - コンサルタント業務におけるゴーマン法則は立派なサービスなのだ!

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