■ 上場企業の有価証券売却益の水準が8年ぶりに1兆円超!
上場企業の株売却益の1兆円越えが8年ぶりだとの新聞報道がありました。2008年9月15日のリーマンブラザーズ破綻がきっかけの世界的金融危機(いわゆるリーマンショック)が起きる前年度以来の高水準となっています。この時は株価も好調だったこと、M&Aが活発だったことがその要因でした。
2016/3/2付 |日本経済新聞|朝刊 上場企業の株売却益、1兆円超す 4~12月2.8倍 選択と集中加速 持ち合い解消も背景に
「上場企業の有価証券売却益の計上が急増している。2015年4~12月期は1兆700億円と、前年同期の2.8倍に膨らんだ。企業収益の伸びが鈍る中、本業に関連が薄いグループ会社の株を手放して「選択と集中」を加速している。半面、減損など想定外の損失を抱え、穴埋めに株売却を急ぐ例も目立つ。」
(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます
(下記は、同記事添付の上場企業の有価証券売却益の推移グラフを転載)
今回の株式売却益の急伸は、次のように理由が説明されています。
「株売却で得た資金は中核事業の強化と研究開発に使う。今後も年1000億円規模の投資を続ける」。豊田自動織機の大西朗社長はこう話す。昨年12月に傘下の集配金サービス会社と文書保管サービス会社を売却した。合計の売却収入は1670億円で、900億円近い利益が出た。
豊田織は物流事業への多角化を進める中で2000年代半ばに2社を買収した。だが、本業の自動車関連と産業車両は環境や安全をテーマにした開発競争が激しい。もはや経営資源を分散すべきではないと判断した。」
「3月期企業の有価証券売却益が1兆円を超えるのは、通期でみてもリーマン・ショック前の08年3月期以来、8年ぶりだ。円安や海外景気拡大といった追い風がやみ、企業は本業のテコ入れを急ぐ。その過程で収益力が弱い事業を切り離す動きが広がっている。」
好業績企業の攻めの「集中と選択」が大半を占めるとの書きっぷりですが、筆者は、金融会社も含めると、本当は次の理由の影響が大きいのでは、と推測しています。
「株式の持ち合い解消の動きも売却益の増加につながっている。背中を押したのが、昨年6月に東京証券取引所が導入した「コーポレートガバナンス・コード(企業統治指針)」。政策保有株について企業に保有理由の説明を求めている。
富士フイルムホールディングスは持ち合い株などを売却し、96億円の売却益を得た。その一方で1000億円の自社株買いを実施し、資本効率を高める動きを積極化している。」
「王子ホールディングスは持ち合い株を中心に84億円の売却益を計上した。追加売却で通期では156億円に増える見通し。同社は「取引関係に比べて株保有が過大な銘柄を売った」と説明するが、中国工場で発生した551億円の減損損失を補う狙いもある。」
(下記は、同記事添付の各社の株式売却理由と規模の一覧表を転載)
業績が好調・不調を問わず、「コーポレートガバナンス・コード(企業統治指針)」による政策保有株式の保有目的をきちんと説明しなさい、との指導力が強く聞いているのだと思います。
■ 政策保有株の保有の是非について
2015年11月24日に、金融庁で「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議(第3回)」が実施され、そこで、投資家フォーラムがゲストスピーカーとして参加し、別冊報告書「政策保有株式に関する意見(2015年9月11日)」についての説明がありました。
下記は、その意見書から、いくつか、興味深い所を抜粋してみます。
● 持合株式保有の背景
ここでは、歴史的推移から、純粋な事業連携強化などのビジネス目的というより、敵対的買収に対する企業防衛目的という色が強いことが説明されています。
● 政策保有のコスト・ベネフィット
つまるところ、政策保有株の純粋な投資対効果が測定しにくい。だから、一般株主の経済的利益に合致しているか、不明なので、提供評価できないものは、できるだけ保有しない方がいいんじゃないですか、という意見表明と受けとりました。
●価値最大化の観点からの政策保有の問題
こちらは、一般株主との利益相反を問題視している記述になります。日本市場において、事業会社の株式保有構成比率は、約21%。下記の過去投稿にあるグラフでも示していますが、統計がある先進国の中では、日本の事業会社保有株式比率は一番高いです。
(参考)
⇒「日本の個人投資家、議決権行使は米英超す3割 金融庁調べ」
● 政策保有(持ち合い)の歴史的背景
メインバンクが安定株主のポジションを占めていましたが、BIS規制、銀行等カブス式保有制限法による銀行の株式放出が、2000年代初頭にはじまり、その後に、村上ファンドやライブドア、楽天などが有名ですが、アクティビスト・ファンド、敵対的買収、三角合併の解禁など、再び、「戦略的資本連携」という美名の下、株式持ち合いが推進されることになります。
この流れを変えたのが、「コーポレートガバナンス・コード(企業統治指針)」ということになります。
(参考)
⇒「(日本株番付)政策保有株比率が高い企業 建設や倉庫が上位に」
⇒「(大磯小磯)持ち合いの是非 -コーポレートガバナンス・コードとスチュワードシップコード再び」
■ 同日、新日鐵住金の買収防衛策見直しの報道がありました
筆者は、「鐵」の字にこだわっているのですがね。あと、「キヤノン」とか「ブリヂジストン」とか。社名は正しく表記することを心掛けています。
2016/3/2付 |日本経済新聞|朝刊 新日鉄住金、買収防衛策を見直し 株主に総会で賛否問う 有効期間は3年に短縮
「新日鉄住金は1日、2006年から導入している買収防衛策を見直すと発表した。従来は取締役会で買収防衛策の継続を決めてきたが、今後は株主総会で株主に賛否を問う。期間も6年から3年に縮める。海外の競合企業による買収懸念が浮上していた10年前と環境が変わり、株主から信任を得やすい内容に改める。」
「コーポレートガバナンス・コード」で、持ち合い株式についての保有が難しくなった。そこで安易な安定株主づくりはもうできない。そして、過剰な企業防衛策は、議決権行使助言会社(ISS、グラスルイスなど)からも刺されるリスク大ですし。そういう意味での覚悟があったのだと推察します。
「詳細は今後詰め、6月下旬に開く定時株主総会の議案として諮る。買収防衛策の有効期間を3年に短縮するほか、社外取締役などによる独立委員会を設けて企業に保有株を高値で買い取らせようとする「グリーンメーラー」などが現れた場合、取締役会決議で防衛策を発動できるかどうかを協議する。」
これは邪推が過ぎるのではと思うのですが、仮想敵の競合の業績悪化が不安感を払拭したという見方もあります。
「新日鉄住金が買収防衛策を導入した06年は欧州でアルセロール・ミタルが発足し、日本の鉄鋼メーカーが海外勢に買収されかねないとの懸念が高まっていた。だがミタルは拡大戦略が裏目に出て15年12月期決算は4期連続の最終赤字に沈んだ。新日鉄住金の今期業績は最終減益の見通しだが、時価総額は1兆8640億円とミタルの2倍強の水準。2月初めには日新製鋼の買収を決めるなど勢いに差が出ている。」
それよりですね、新日鐵と住金が合併して、企業規模が約2倍になったことから、買収するには大量の資金が必要なる事こそが、最大の敵対的買収の防御策になったのだと思いますが。収益性はともかく、敵対的買収リスク低減には、「規模の利益」は大変効果的なのでした。
(参考)
● 新日鐵住金のプレスリリースはこちら
・当社株式の大量買付けに関する適正ルール(買収防衛策)の見直し並びに新株予約権の発行登録及び発行登録の取下げに関するお知らせ(2016/3/1)
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