■ 職人も神社も驚いた! アトキンソン 信念の行動
前回からの続き
⇒「日本の国宝を守れ! 小西美術工藝社・デービッド・アトキンソン(1) 2015年5月21日OA TX カンブリア宮殿」
「嫌いな人もいる。変な外国人だと。できる人は敵もできる」
アトキンソンが社長就任前に修復工事を請け負った住吉大社の関係者の弁。
一体何が小西美術工藝社と住吉大社の間に起こったのか?
それをひも解く前に、再び日光東照宮、陽明門の修復工事現場での、アトキンソン氏による最終品質チェックの場面に戻ります。
アトキンソン氏は、地上11mにある陽明門の彫刻への彩色の仕上げ最終チェックに立ち会った。これもアトキンソン氏が社長になってから始まったこと。氏は、隅々まで目検を行い、0.1mmの彩色のズレを発見し、手直しを命じる。地上11mの場所にある0.1mmの彩色のズレ。テレビ画面でも、かなりカメラがズームしてそのズレを映し出す。確かに、下地の色と金色の輪郭の間に隙間が見える。
(出典:日光東照宮ホームページより「陽明門」)
「下から見える、見えないは基準じゃない。『美しい、美しくない』というのは、技術を知らない方がいい。この人(彩色の最終責任者:副社長を指して)は、技術の担当、私(アトキンソン氏)は美しい、美しくないの担当」
「どれだけ厳しくきれい、美しい、神様に対して真摯に取り組んだか、そういう目でしか社長は見ない。こちらが苦労したことはどうでもいい(笑)」と、技術の最高責任者の副社長の弁。
実は、ここまで社長がやるのには、あるきっかけがあった。
「住吉大社 第一本宮」
(出典:住吉大社ホームページより)
小西美術工藝社にアトキンソン氏が社長就任前に受注・施工した修復工事があった。ある社殿の屋根裏の塗料が全部剥落しているのを、やり直し工事させてもらった。最大手であることに職人たちのおごりがでており、手抜き工事とのそしりを免れないものだった。アトキンソン氏は何度も住吉大社に通い、再工事をやらせてくださいと何度も頭を下げた。
「美しく見せるための塗料が剥がれてしまっている。これはやり直すしかない」4ヵ月余りで全てを塗り直した。そうして、住吉大社との関係も修復へ。住吉大社も氏の人間性を信じて再工事を依頼した。この住吉事件は、小西美術工藝社の職人たちの意識をも大きく変えた。その後の仕事の品質向上にもつながった。彩色部門の総責任者、横田副社長によると、「なんで、この人はそこまでできるのかと思った。アトキンソン氏が知らない時代の会社がやったこと。でもそのことがあったことで、現場としては、住吉大社の修復にかかわった者は、これではいけないとちゃんとした仕事、ちゃんとした物を残さないと、自分たちの未来が無い、と思えるようになった」
■ アトキンソンの熱意は時間を超克して職人を動かす!
あの厳しいチェックは、会社が生き残るため。さらにこういう思いも。
「ここまでの完成度でものを完成させられるのはわずかな注意の違いだけ。この仕事を収めていけば、次の世代の職人がこれを見て挑戦したいという気持ちになる」
「いいもの(文化財)が残っていたらそれより(修復作業の)レベルを下げるわけにはいかない。それだけ努力しようと思うはず。いいものを残しておくのは次の世代の為でもある」
「50年後の職人に対するある意味での挑戦」
会社や世代を超えた、職人魂の継承、技術の継承を強く念じているわけです。現在、小西美術工藝社が引き受けている修復工事も、何百・何十年前の職人たちが残してくれた物や図面(作業指示書)を参考にして実施されています。当然、小西美術工藝社でも、修復工事が終わった都度、手を施したものについては、後世にきちんと伝わるように、彩色図面などを作成しています。
住吉大社のやり直しをすべて会社負担でやることには社内にも反対があった。「残してはいけない仕事は残せない。やり直ししか方法がない」
「文化財の世界でこう言うことがあり得ないと思っていた。こういう半端な仕事をして、自分は職人だと名乗ったり、職人としてのプライドがどうのこうのというが、こんな仕事でプライドが保てますかと問いたい。明日、自分の息子を現場に連れてきて、自分がやったでたらめな仕事を見せて、これがパパの仕事だ、プライドを持て、と息子に本当に言えるか?」
■ イギリスに学べ! 文化財で観光業
エコノミストでもあるアトキンソン氏の持論。
「文化財は日本の文化、歴史など、“趣味”的なものから、観光業の重要な資源として位置づけを変えないといけない」
イギリスでは、文化財の修復も観光客を呼ぶことに成功している。修復工事の現場を観光客に公開している。工事現場の屋上にカフェまで設置し、現場を回った観光客がここでくつろげるようにもしている。文化財を修復している様を楽しいイベントとしてとらえているのだ。
イギリス、クルーム・ウスターシャーの事例。
ナショナルトラスト建造物保存担当:ルーシーハドリーさん
「文化財の修復は経済的に大きなメリットがあります。観光客が増え、さらに修復もでき、現場の若い職人に技術も伝わります。そしてなによりこの大事な文化財を失わずに済むのです」
日英の現況の数字で紹介(小西美術工藝社調べ)
① 文化財修理予算 (日本:81億円、英国:500億円)
② 海外からの文化財訪問率 (日本:23.5%、英国:80%以上)
③ 観光業(対GDP比) (日本:2.3%、英国:6.6%)
日本の文化財修理予算の81億円のほとんどは、屋根の雨漏りや壁の崩壊など、緊急工事が大半を占める。ここには塗装や内装工事の数字は入っていない。今の文化財修復予算は、建築家が考える「建造物」が中心。
アトキンソン氏曰く、
「10年、20年程度の古さは日本的美意識でいうところの『わび・さび』の範疇ともいえる。でも30年以上経ったものは、ただ単に「壊れている」。英国では文化財にお金をかけて修理すれば観光客の足が戻り、イベントもやり、解説もやり、文化財がまさに生きているといえる。人がどんどん来て産業(観光業)として成立する。GDPに対してもプラスになる」
■ 伝説のアナリスト 再び衝撃のニッポン分析
「生ぬるい気持ちでやっていけば絶対に成功しない」
「観光業規模(対GNP比)は、日本:2.3%、世界平均:9%。」
「観光業以上に、伸びしろのある成長産業は他に考えられない。地方再生は政策としては最高。技術的に難しい所はない。人工衛星を飛ばすとか、リニアモーターカーを走らせるとかに比べれば。日本の素晴らしい文化財や自然を整備するだけでいい。人を呼んで泊まってもらって、おいしい食事を食べてもらう。暑い夏や雪景色を見せるのに高度な技術は必要ない。世界平均の9%に持っていくだけで、38兆円の経済効果が見込まれ、雇用も400万人は生まれる。文化財こそ観光立国の切り札だ」
文化財修復 → 観光業活性化 → 地方再生
こういうシナリオが背景にあったわけです。
こんな視点も併せて、文化財の保護と職人技術の継承、いろいろ考えさせられる番組でした。
(↑もうすぐ発売<6/5>)
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