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■ 円安進行による海外資産運用を継続へ

経営管理会計トピック
日経新聞(朝刊)にて、コーエーテクモHDが将来的に海外資産運用比率を50%に落とすという方針を変更する旨の記事が掲載されました。
「ゲーム大手のコーエーテクモホールディングスは、外貨建て資産の圧縮計画をいったん中止する。現在、運用資産の6割を海外の債券や株式などが占める。当初は比率を減らす予定だったが、現行水準を維持する。円安基調が強まり、海外資産の運用継続に利点があると判断した。」

2014/12/2付 |日本経済新聞|朝刊
 コーテクHD、外貨資産圧縮を中止 円安を考慮

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます
新聞記事を要約すると、
  • 9月末で約680億円と総資産の7割を余剰運用資産が占める
  • 余剰運用資産の内、6割(約400億円)が海外の債券・株式・不動産で運用されている
  • 円安が進行しているので、従来方針の覆し、海外資産比率をこのまま維持する

というものです。
余剰資金の運用で頭を悩ましているとは、なんと、贅沢な悩みではありませんか。

■ 余剰資金の収益性へのインパクト

筆者がこの記事を取り上げるということは、管理会計・経営管理に対して、何かのメッセージ性があると睨んでのことなのですが、今回は、投資収益性(ROI)についてです。
新聞記事から、余剰資金とそれ以外の資産の構成をまず確認しました。
経営管理会計トピック_コーエーテクモ_資産構成
運転資金の観点から、手元流動性と余剰資金の区別は結構つきにくいのですが、新聞記事では、現預金を全て余剰の方に振り分けておりますので、それを踏襲しました。皆さんが財務分析する場合は、手元流動性は事業運営に必要なので、社内分析の場合は資金繰りをきちんと見て、手元流動性を適切に確保してあげてください。
総資産の68.5%が余剰資産。全額株主還元すると、それだけでROA(ROI)は3倍になります。
では、余剰資金の運用収益が企業業績に与えるインパクトを分析していきます。
ここでは、今回の分析用だけにカスタマイズした「事業利益」という利益概念を使用します。ほぼ経常利益に近い数字になります。

「事業利益Ⅰ」= 営業利益 + 運用収益 + のれん償却費

「事業利益Ⅱ」= 営業利益 + 運用収益

※ 運用収益 = 受取利息 + 受取配当金 + 投資有価証券売却益 - 有価証券評価損 - 有価証券償還損 - デリバティブ評価損

ⅠとⅡの違いは、各事業セグメントに「のれん償却費」が配賦されていないので、各事業セグメントは「のれん償却前」ベースの「Ⅰ」で収益力を評価するということです。
では、まずセグメント別の事業利益Ⅰの構成比、すなわち、利益貢献度を確認してみてください。
経営管理会計トピック_コーエーテクモ_セグメント別事業利益Ⅰ_数表 
経営管理会計トピック_コーエーテクモ_セグメント別事業利益Ⅰ_グラフ 
本業のゲーム・エンターテイメント事業からの利益は6割弱。4割強の利益は、余剰資金の運用から得られています。ここだけ見てしまうと、ゲーム制作会社ではなく、資産運用会社の様でもあります。

■ 次は投資収益性を測ってみる

前章では、各事業の「利益貢献度」を、事業利益の「絶対額」と「構成比」で評価してみました。この章では、「投資収益性(ROI:Return on Investment)」を見てみたいと思います。各事業に投下された資産を分別する必要があるのですが、公開情報では、細かい報告セグメントごとの資産は把握できません。
そこで、本業である「ゲーム・エンターテイメント系事業」と「その他事業(余剰資金運用事業)」の2分割でROIを見てみたいと思います。評価対象が、「本業」になったので、これまで配賦できずに棚上げにしていた「のれん償却費」を「本業」に賦課することで、「事業利益Ⅱ」でROIを見てみたいと思います。
先に、分別しておいた「余剰資金:679億円」に加えて、不動産賃貸業を営んでいる「コーエーテクモリブ」が所有している有形固定資産(建物と土地)を、少々期ズレなのですが、2014年3月期の有価証券報告書から「13億円」分だけ、その他事業の資産へ移してあります。
この場合、本業と余剰資金運用事業のそれぞれのROI(事業利益Ⅱベース)は下記のようになります。
(一応断っておきますが、半期の収益で計算しているので、分子は6か月分です。通期の約半分程度のROIになります。また、分母の資産は期末時点のものだけを使っているので、前期末との平残ではありません)
経営管理会計トピック_コーエーテクモ_セグメント別事業利益Ⅱ
のれん償却を負担した後でも、本業が11.1%と二桁のROIを残しているのに対して、資産運用事業の方は、3.7%と、半分以下のROIになっています。余剰資金の運用事業は、割に合わないようです。

■ 投資ポートフォリオ理論を振りかざすと…

株主は、コーエーテクモに対して、ゲーム・エンターテイメント商品を提供するビジネスによる利益を期待していて、おそらくコーエーテクモの従業員に対して、高利回りの投資運用は期待していないと思います。投資のプロに任せた方が、高い利回りは期待できますので。
余剰資金があるなら、さっさと株主に還元すべきです。
最適な投資ポートフォリオは投資家(株主)サイドで考えた方が効率的ですから。
理屈から言えば、そうなのですが、コーエーテクモHDのB/Sはなぜこうなっているのでしょう?
同業他社の財務諸表を見てもらうと理解して頂けると思うのですが、ゲーム開発には、莫大な資金を、長期間にわたって先行投資する必要があり、発売後も大ヒットして、開発費を回収できるとは限りません。したがって、新聞記事では「余剰資金」と表現されていましたが、going concern としてゲーム開発会社を営んでいくためには、大コケした後に、次のゲームを開発するために、ある程度の準備資金が必要である、ということです。
ただし、ゲーム開発資金を「プロジェクトファイナンス」で調達したり、映画製作のように「制作委員会」方式にしたりして、必要資金量を減らすよう工夫の余地はあるのかもしれません。
また、コーエーテクモHDの場合は、株主構成を見るに、オーナー経営色が強いので、株主圧力も相対的に小さいことが、こうした7割弱にも上る余剰資金を保有することが許されている理由のひとつかもしれません。
まあ、その会社の「ビジネスモデル」が「財務諸表」に現れてくる訳で、逆にそこが面白くて、筆者は、これまで管理会計を続けているのですが。

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小林 友昭会計で経営を読む■ 円安進行による海外資産運用を継続へ 日経新聞(朝刊)にて、コーエーテクモHDが将来的に海外資産運用比率を50%に落とすという方針を変更する旨の記事が掲載されました。 「ゲーム大手のコーエーテクモホールディングスは、外貨建て資産の圧縮計画をいったん中止する。現在、運用資産の6割を海外の債券や株式などが占める。当初は比率を減らす予定だったが、現行水準を維持する。円安基調が強まり、海外資産の運用継続に利点があると判断した。」 2014/12/2付 |日本経済新聞|朝刊  コーテクHD、外貨資産圧縮を中止 円安を考慮(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます 新聞記事を要約すると、9月末で約680億円と総資産の7割を余剰運用資産が占める余剰運用資産の内、6割(約400億円)が海外の債券・株式・不動産で運用されている円安が進行しているので、従来方針の覆し、海外資産比率をこのまま維持するというものです。 余剰資金の運用で頭を悩ましているとは、なんと、贅沢な悩みではありませんか。 ■ 余剰資金の収益性へのインパクト筆者がこの記事を取り上げるということは、管理会計・経営管理に対して、何かのメッセージ性があると睨んでのことなのですが、今回は、投資収益性(ROI)についてです。 新聞記事から、余剰資金とそれ以外の資産の構成をまず確認しました。 運転資金の観点から、手元流動性と余剰資金の区別は結構つきにくいのですが、新聞記事では、現預金を全て余剰の方に振り分けておりますので、それを踏襲しました。皆さんが財務分析する場合は、手元流動性は事業運営に必要なので、社内分析の場合は資金繰りをきちんと見て、手元流動性を適切に確保してあげてください。 総資産の68.5%が余剰資産。全額株主還元すると、それだけでROA(ROI)は3倍になります。 では、余剰資金の運用収益が企業業績に与えるインパクトを分析していきます。 ここでは、今回の分析用だけにカスタマイズした「事業利益」という利益概念を使用します。ほぼ経常利益に近い数字になります。 「事業利益Ⅰ」= 営業利益 + 運用収益 + のれん償却費「事業利益Ⅱ」= 営業利益 + 運用収益※ 運用収益 = 受取利息 + 受取配当金 + 投資有価証券売却益 - 有価証券評価損 - 有価証券償還損 - デリバティブ評価損 ⅠとⅡの違いは、各事業セグメントに「のれん償却費」が配賦されていないので、各事業セグメントは「のれん償却前」ベースの「Ⅰ」で収益力を評価するということです。 では、まずセグメント別の事業利益Ⅰの構成比、すなわち、利益貢献度を確認してみてください。     本業のゲーム・エンターテイメント事業からの利益は6割弱。4割強の利益は、余剰資金の運用から得られています。ここだけ見てしまうと、ゲーム制作会社ではなく、資産運用会社の様でもあります。 ■ 次は投資収益性を測ってみる前章では、各事業の「利益貢献度」を、事業利益の「絶対額」と「構成比」で評価してみました。この章では、「投資収益性(ROI:Return on Investment)」を見てみたいと思います。各事業に投下された資産を分別する必要があるのですが、公開情報では、細かい報告セグメントごとの資産は把握できません。 そこで、本業である「ゲーム・エンターテイメント系事業」と「その他事業(余剰資金運用事業)」の2分割でROIを見てみたいと思います。評価対象が、「本業」になったので、これまで配賦できずに棚上げにしていた「のれん償却費」を「本業」に賦課することで、「事業利益Ⅱ」でROIを見てみたいと思います。 先に、分別しておいた「余剰資金:679億円」に加えて、不動産賃貸業を営んでいる「コーエーテクモリブ」が所有している有形固定資産(建物と土地)を、少々期ズレなのですが、2014年3月期の有価証券報告書から「13億円」分だけ、その他事業の資産へ移してあります。 この場合、本業と余剰資金運用事業のそれぞれのROI(事業利益Ⅱベース)は下記のようになります。 (一応断っておきますが、半期の収益で計算しているので、分子は6か月分です。通期の約半分程度のROIになります。また、分母の資産は期末時点のものだけを使っているので、前期末との平残ではありません) のれん償却を負担した後でも、本業が11.1%と二桁のROIを残しているのに対して、資産運用事業の方は、3.7%と、半分以下のROIになっています。余剰資金の運用事業は、割に合わないようです。 ■ 投資ポートフォリオ理論を振りかざすと…株主は、コーエーテクモに対して、ゲーム・エンターテイメント商品を提供するビジネスによる利益を期待していて、おそらくコーエーテクモの従業員に対して、高利回りの投資運用は期待していないと思います。投資のプロに任せた方が、高い利回りは期待できますので。 余剰資金があるなら、さっさと株主に還元すべきです。 最適な投資ポートフォリオは投資家(株主)サイドで考えた方が効率的ですから。 理屈から言えば、そうなのですが、コーエーテクモHDのB/Sはなぜこうなっているのでしょう? 同業他社の財務諸表を見てもらうと理解して頂けると思うのですが、ゲーム開発には、莫大な資金を、長期間にわたって先行投資する必要があり、発売後も大ヒットして、開発費を回収できるとは限りません。したがって、新聞記事では「余剰資金」と表現されていましたが、going concern としてゲーム開発会社を営んでいくためには、大コケした後に、次のゲームを開発するために、ある程度の準備資金が必要である、ということです。 ただし、ゲーム開発資金を「プロジェクトファイナンス」で調達したり、映画製作のように「制作委員会」方式にしたりして、必要資金量を減らすよう工夫の余地はあるのかもしれません。 また、コーエーテクモHDの場合は、株主構成を見るに、オーナー経営色が強いので、株主圧力も相対的に小さいことが、こうした7割弱にも上る余剰資金を保有することが許されている理由のひとつかもしれません。 まあ、その会社の「ビジネスモデル」が「財務諸表」に現れてくる訳で、逆にそこが面白くて、筆者は、これまで管理会計を続けているのですが。現役の経営コンサルタントが管理会計をテーマに情報発信します