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■ 株主不在の企業価値論争の行方

経営管理会計トピック
そろそろ、親子喧嘩の双方の言い分が出そろった感がありますので、ようやくコメントできる状態になりました。本当はもうしばらく様子を見るつもりだったのですが、新聞記事のある一言が非常に気になったので、放っておけなくなったというのが真相です。

2015/3/7|日本経済新聞|朝刊
大塚家具の委任状争奪戦 会長「3倍の120円に増配」 社長「公約としてどうか」

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

「大塚家具の筆頭株主、大塚勝久会長は6日、1株あたり配当を前期比3倍の120円とする企業価値向上策を発表した。2017年12月期まで120円配とするという。
 勝久会長側は大塚久美子社長ら経営陣の退陣を求める株主提案を提出しており、委任状争奪戦に発展している。27日の株主総会で支持を獲得するため、会社側計画(倍増の80円)を上回る配当額を提示した格好だ。勝久会長は6日「自己資本利益率(ROE)と株主還元を重視せよ、という社外取締役候補の意見を取り入れた」と述べた。
 久美子社長は6日の記者会見で、大塚勝久会長が掲げる株主還元策について「内容を見ていないのでコメントできない」と述べた。そのうえで「中期経営計画はコミットメント(公約)であり、単純に高い目標を出すのではなく、公約としてふさわしいかを重視すべきだ」と語った。」
「1株当たり配当を前期比3倍にすることが『企業価値』向上だ」とする言説には断固「No !」と言いたいと思います。

■ 大塚家具の足元の財務状況を確認する

わざわざ、現社長(娘)が、「今月の株主総会での議決権行使を勧誘するものではない」と断り書きを入れてまで発表した中計はこちら。
⇒「中期経営計画の策定に関するお知らせ」(2015.2.25)
この中計で、「株主還元強化」とうたい、2つの指標、「ROE」と「DOE」について言及しました。「ROE」については、本中計での具体的目標値の提示はありませんでしたが、「DOE: Dividend on equity ratio(株主資本配当率)」については、4.5%、1株当たり配当額を80円、自己資本:333億円、という具体的な目標値が提示されました。
それでは、前期の財務状況を下記に図示します。←決算短信ベース
経営管理会計トピック_大塚家具の財務状況_FY14  
すでに、FY14時点で、持続可能なDOEになってはいません。ROE:1.4%(期末残方式)に対して、DOE:2.1%。今期の利益額以上に配当するということは、これまでのビジネスで儲かった分の内部留保(家計でいうと貯金)を取り崩してまで、株主にお金を払っているということ。有利子負債と違って、法的に支払い義務が無いのが自己資本(その名の通り、自分がお金の出し手)が自己資本たるゆえんなのに。。。
FCF(フリーキャッシュフロー)の方は、売上高が前年比で▲7億円、その分で売上債権が▲8億円となり営業CFが+8億円、投資有価証券の売却収入:48億円を計上することによって、FCFを+48億円とし、財務CFで配当金を7億円支払っています。
ここまで来ると、何のために会社経営やっているだろうかと疑問に思えてきます。そして現会長(父)の方は、さらに「1株当たり120円の配当」と発表しました。常識的に考えて、こういう状態で外部株主はどのように判断するべきなのでしょうか。
(といいつつ、ここ3か月は1000円近辺だった株価が、今回の騒動(株主への大盤振る舞いを発表)で、最高値で2500円にまで高騰したのも事実ですが)

■ 増配が企業価値向上策になり得る理由とは

ここで、ファイナンス理論を振りかざすつもりは毛頭ないのですが、「企業価値」とは「企業がお金を稼ぐ力」=「将来キャッシュフローを割引現在価値に置き直したもの」という定義によると、前章で提示したチャートで簡単いうと、「自己資本」から左側に伸びている二本の矢印の先にある「当期純利益」や「FCF」を大きくすることで、決して右側に伸びている矢印の先の「配当額」を大きくすることではありません。
ウォーレン・バフェット氏的には、「税金コストを負担してまで、現金配当することほど、簡単な企業価値の破壊はない」。株主に報いるなら、「自己株消却」や「EPS増→株価上昇→株式分割→分割後の一部株式を売却することで得られるキャピタルゲイン」という方法の方が賢い選択のようにも思えますが如何でしょうか?
(なぜなら、自己株消却は無税、キャピタルゲイン課税率の方が法人税率より小さいという前提があるから)
なぜ、社長も会長も「配当」にこだわるのか?
大株主構成(2014年12月末現在)がひとつのヒントになろうかと思います。
・大塚勝久 (18.04%)
・ききょう企画 (9.75%)←大塚家の資産管理会社
・大塚春雄 (2.77%)
・大塚千代子 (1.91%)
・大塚久美子 (0.22%)
創業者一族だけで、合計:32.69%。
新聞記事によりますと、
「勝久会長は発行済み株式の約18%にあたる350万株を保有する。会社側計画で2億8000万円、会長側計画では4億2000万円が勝久会長に支払われる計算だ。
第2位株主で大塚家の資産管理会社「ききょう企画」は189万2000株、大塚久美子社長は2万3200株を保有している。それぞれ会社側提案で1億5136万円と185万6000円、会長側提案では2億2704万円と278万4000円を配当として受け取ることになる。」
なるほど、「企業価値向上」ではなく、自分たちの「貯金の引き出し額の向上」のお話でした。合点がいきました。(笑)

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小林 友昭会計で経営を読む■ 株主不在の企業価値論争の行方 そろそろ、親子喧嘩の双方の言い分が出そろった感がありますので、ようやくコメントできる状態になりました。本当はもうしばらく様子を見るつもりだったのですが、新聞記事のある一言が非常に気になったので、放っておけなくなったというのが真相です。 2015/3/7|日本経済新聞|朝刊 大塚家具の委任状争奪戦 会長「3倍の120円に増配」 社長「公約としてどうか」(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます 「大塚家具の筆頭株主、大塚勝久会長は6日、1株あたり配当を前期比3倍の120円とする企業価値向上策を発表した。2017年12月期まで120円配とするという。  勝久会長側は大塚久美子社長ら経営陣の退陣を求める株主提案を提出しており、委任状争奪戦に発展している。27日の株主総会で支持を獲得するため、会社側計画(倍増の80円)を上回る配当額を提示した格好だ。勝久会長は6日「自己資本利益率(ROE)と株主還元を重視せよ、という社外取締役候補の意見を取り入れた」と述べた。  久美子社長は6日の記者会見で、大塚勝久会長が掲げる株主還元策について「内容を見ていないのでコメントできない」と述べた。そのうえで「中期経営計画はコミットメント(公約)であり、単純に高い目標を出すのではなく、公約としてふさわしいかを重視すべきだ」と語った。」 「1株当たり配当を前期比3倍にすることが『企業価値』向上だ」とする言説には断固「No !」と言いたいと思います。 ■ 大塚家具の足元の財務状況を確認するわざわざ、現社長(娘)が、「今月の株主総会での議決権行使を勧誘するものではない」と断り書きを入れてまで発表した中計はこちら。 ⇒「中期経営計画の策定に関するお知らせ」(2015.2.25) この中計で、「株主還元強化」とうたい、2つの指標、「ROE」と「DOE」について言及しました。「ROE」については、本中計での具体的目標値の提示はありませんでしたが、「DOE: Dividend on equity ratio(株主資本配当率)」については、4.5%、1株当たり配当額を80円、自己資本:333億円、という具体的な目標値が提示されました。 それでは、前期の財務状況を下記に図示します。←決算短信ベース    すでに、FY14時点で、持続可能なDOEになってはいません。ROE:1.4%(期末残方式)に対して、DOE:2.1%。今期の利益額以上に配当するということは、これまでのビジネスで儲かった分の内部留保(家計でいうと貯金)を取り崩してまで、株主にお金を払っているということ。有利子負債と違って、法的に支払い義務が無いのが自己資本(その名の通り、自分がお金の出し手)が自己資本たるゆえんなのに。。。 FCF(フリーキャッシュフロー)の方は、売上高が前年比で▲7億円、その分で売上債権が▲8億円となり営業CFが+8億円、投資有価証券の売却収入:48億円を計上することによって、FCFを+48億円とし、財務CFで配当金を7億円支払っています。 ここまで来ると、何のために会社経営やっているだろうかと疑問に思えてきます。そして現会長(父)の方は、さらに「1株当たり120円の配当」と発表しました。常識的に考えて、こういう状態で外部株主はどのように判断するべきなのでしょうか。 (といいつつ、ここ3か月は1000円近辺だった株価が、今回の騒動(株主への大盤振る舞いを発表)で、最高値で2500円にまで高騰したのも事実ですが) ■ 増配が企業価値向上策になり得る理由とはここで、ファイナンス理論を振りかざすつもりは毛頭ないのですが、「企業価値」とは「企業がお金を稼ぐ力」=「将来キャッシュフローを割引現在価値に置き直したもの」という定義によると、前章で提示したチャートで簡単いうと、「自己資本」から左側に伸びている二本の矢印の先にある「当期純利益」や「FCF」を大きくすることで、決して右側に伸びている矢印の先の「配当額」を大きくすることではありません。 ウォーレン・バフェット氏的には、「税金コストを負担してまで、現金配当することほど、簡単な企業価値の破壊はない」。株主に報いるなら、「自己株消却」や「EPS増→株価上昇→株式分割→分割後の一部株式を売却することで得られるキャピタルゲイン」という方法の方が賢い選択のようにも思えますが如何でしょうか? (なぜなら、自己株消却は無税、キャピタルゲイン課税率の方が法人税率より小さいという前提があるから) なぜ、社長も会長も「配当」にこだわるのか? 大株主構成(2014年12月末現在)がひとつのヒントになろうかと思います。 ・大塚勝久 (18.04%) ・ききょう企画 (9.75%)←大塚家の資産管理会社 ・大塚春雄 (2.77%) ・大塚千代子 (1.91%) ・大塚久美子 (0.22%) 創業者一族だけで、合計:32.69%。 新聞記事によりますと、 「勝久会長は発行済み株式の約18%にあたる350万株を保有する。会社側計画で2億8000万円、会長側計画では4億2000万円が勝久会長に支払われる計算だ。 第2位株主で大塚家の資産管理会社「ききょう企画」は189万2000株、大塚久美子社長は2万3200株を保有している。それぞれ会社側提案で1億5136万円と185万6000円、会長側提案では2億2704万円と278万4000円を配当として受け取ることになる。」 なるほど、「企業価値向上」ではなく、自分たちの「貯金の引き出し額の向上」のお話でした。合点がいきました。(笑)現役の経営コンサルタントが管理会計をテーマに情報発信します