■ コーポレートガバナンス・コードを順守するか、それともケイレツを守るか?
過去の投稿「株式持ち合い解消 足踏み 企業統治指針が対応促すが… 社外取締役の役割増す」で、横並び意識なのか、お上の意を汲んでのことなのか、こぞって株式持ち合い解消に向かって進んでいる状況に警鐘を鳴らさせて頂きました。その上で、日本の企業集団で最大のトヨタ自動車グループの株式持ち合い状況について、引き続きコメントしていきたいと思います。
日本の自動車業界の強みは、ゴーン氏がルノー・日産連合を率いるようになってから、一様でなくなったのですが、やはり「ケイレツ」にあると思います。そして、「インダストリー4.0」「インダストリアル・インターネット」などが提唱され、「ケイレツ」の中に閉じこもっていては、電機業界に続き、次は自動車産業もグローバル競争に負けてしまうのでは、との危惧が持たれていますが(筆者だけ!?)、当面の強みはケイレツです。そのケイレツと株式持ち合いは「持ちつ持たれつ」の関係にあるのです。
2016/6/22付 |日本経済新聞|朝刊 デンソー、アイシン株を買い増し グループ関係強化
「トヨタ自動車グループのデンソーが同じトヨタグループのアイシン精機の株式を買い増したことが21日、明らかになった。3月末時点のデンソーが保有するアイシンの株数は1年前より1000万株多い1296万株となり、第3位株主に浮上。トヨタグループ内の関係を強化するほか、買収防衛策の一環とみられる。」
(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます
ことの経緯は次の通り。
「デンソーが21日提出した有価証券報告書で判明した。取得金額は非公表だが、500億円規模とみられる。デンソーによるアイシン株の保有比率は4.4%で、トヨタの22.25%、豊田自動織機の7.03%に次ぐ水準になった。デンソーは「トヨタグループ内での関係強化が、企業価値向上につながると判断した」と説明している。」
その他の動向としては、記事内では、
「9月にはアイシン子会社でブレーキ大手のアドヴィックス(愛知県刈谷市)が増資を実施。デンソーが出資比率を18%から34%に引き上げる。」
として、ケイレツ内の資本関係強化に動いている状況を報道。しかし、トヨタグル―プの相互の出資比率には秘密が。。。
「トヨタグループはトヨタ本体や豊田自動織機、東和不動産(名古屋市)が中心となり、株式を相互に持ち合って事業連携や買収防衛を進めてきた。主要企業間の出資比率は25%を超えない水準にとどめ、議決権が消滅しないようにするのが基本だ。トヨタ紡織もこのほどデンソー株を4300株増の7万4716株に、アイシン株は6100株増の5万5600株にそれぞれ買い増した。」
■ コーポレートガバナンス・コードに縛られないトヨタ自動車グループの矜持
少々辛口かもしれませんが、他の企業の株式持ち合い解消には、別段、その企業の経営戦略が見えてきません。なんとなく、「世の中の空気がそうさせるからここは従っておこう」感が強く印象付けられます。しかし、トヨタ自動車グループは、そうした空気感による支配を寄せ付けない強さがあります。
それでは、気になるトヨタ自動車グループのコーポレートガバナンス報告書が、【原則1-4】政策保有株式について、どういう立場を表明しているのか、確認してみたいと思います。
ここでも活躍するのが、東証のホームページの次の検索機能です。
まずは、本家本元、トヨタ自動車の当該部分の抜粋から。
● トヨタ自動車(2016年6月24日)
● デンソー(2016年6月21日)
● 豊田自動織機(2016年6月10日)
● アイシン精機(2016年6月20日)
判で押したように、一言一句同じ表現が用いられているわけではありませんが、趣旨はすべて同一です。
・バリューチェーン(開発・調達・生産・物流・販売)上で協業関係にある企業との関係強化に株式持ち合いは有効である
・中長期的な企業価値向上のために、政策保有株式は有効である
ここにおいて、投資家またはお上より、トヨタ自動車グループのケイレツによる企業集団の形成は株主価値を毀損する、だから、トヨタ自動車グループの株式持ち合いに反対する、という大きな声はあがっているのでしょうか?
ちなみに、下記に、トヨタ自動車の2016年3月期決算における有価証券報告書から、持分法適用会社の一覧を示します。
上場会社がちらほらありますね。さらに、この一覧以外に、上場関係会社はまだまだあります。
・大豊工業
・東海理化電機製作所
・小糸製作所
・中央発條
・愛三工業
・ファインシンター 等々
良好な業績結果が出せれば、そしてそれが社会常識から逸脱しない且つ合法的で妥当性がある方法ならば、コーポレートガバナンス・コード(企業統治指針)が順守を求める項目でも、きちんと説明していれば、問題ないのです。「ルールに従え(comply)、従わないのであればその理由を説明せよ(explain)」ですから。
『ガバナンスコードを守るために会社があるんじゃない、公正明大な利益を上げるためにコーポレートガバナンスがあるんだ!』
⇒「株式持ち合い解消 足踏み 企業統治指針が対応促すが… 社外取締役の役割増す」
⇒「企業統治、株主目線で磨く 指針導入1年 社外取締役6000人超す 全体の2割、監視強化 - 株式持ち合いや買収防衛策についても説明」
■ (おまけ)コーポレートガバナンス報告書を概覧する
コーポレートガバナンス・コードの順守率も気になるところです。当然、この政策保有株式も話題には上りますが、世間が注目しているのはもっと別の項目です。
2016/6/23 |日本経済新聞|朝刊 総会の焦点(11)ガバナンス報告書 説明の変化に関心
「昨年6月に導入された企業統治指針への取り組み状況をまとめたのがコーポレートガバナンス報告書だ。企業は指針の73項目を順守していなければ、その理由を報告書で説明する必要がある。
東京証券取引所が3月末時点の報告書を集計したところ、対象となる東証1部、2部企業の78%が9割以上の項目を「実施している」と答えた。
実施率が低い項目もある。「取締役会の評価」はその一つ。取締役会の運営方法や審議内容をチェックする機能を高める狙いだが、実施企業は全体の36%にとどまった。
ファーストリテイリングは5月19日に提出した報告書で、取締役会評価に関して「議論が活発なため実効性の検証はしていないが、今後は各取締役にアンケートを取る」と明記した。
インターネット上で株主総会の議決権行使ができる環境の整備と、英文での招集通知も実施率は低い。「当社の外国人株主の割合は2割にとどまる。招集通知は重要部分だけ翻訳するなどして、手間と費用を抑えたい」(自動車部品メーカー)との声もある。」
(下記は、同記事添付の順守率が低い項目一覧表を転載)
「ガバナンス報告書は内容に変更があれば、その都度修正する。報告書から企業の姿勢の変化を読み取ろうと投資家の関心も高い。
コニカミノルタは20日公表の報告書で、持ち合い株について初めて「意義や合理性がない場合は適宜売却する」と表明した。主な保有株は今月、意義などを検証し「取引や協業、将来の連携を見込み、合理性があると判断した」と説明した。
多くの企業のガバナンス報告書は10~20ページに達し、内容の精査には時間がかかる。オムロンは全項目の回答の一覧表を載せ、見やすさに配慮している。」
記事では、最後にコニカミノルタの政策保有株式の事例に触れていますが、メインでは取り上げられてはいません。順守率が低い⇒当該項目のガバナンスが弱い、という単純な図式ではないことを注意喚起しておきます。念のため。(^^;)
(参考)
⇒「企業統治指針「全項目を順守」1割強 適用から半年 報告書「表現横並び」課題」
(注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です。
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