■ CCMのEPからの「守破離」具合
パナソニックが、資本コストを基準に各事業部の業績管理を行うとするCCM(キャピタル・コスト・マネジメント)の解説の続編になります。
CCM = 事業利益 - (投下資産 × 期待収益率)
※ 期待収益率:その事業に投下された資産が稼がなくてはいけないとする利益率
→ 投資家から見れば、「資本コスト」と同義
「前回」は、CCMの基本構造と、基本としているEP(EVAR)の基本概念の解説を行いました。「今回」は、CCMの計算構造として、「事業利益」と「投下資産」の算出方法を社外から見て、どこまで推量できるかに迫りたいと思います。
(関係者の方がこの記事をご覧いただけましたら、コメント寄せて頂くとうれしいです)
それでは、新聞記事の紹介から。
2015/3/11|日本経済新聞|朝刊
パナソニック、資本コスト管理体制を事業部別に 来月から 中長期の成長に備え
「パナソニックは13年4月に事業部制を12年ぶりに復活させ、全事業部に貸借対照表を割り当てる「内部資本金制度」を導入した。主にキャッシュフロー(現金収支)と営業利益率で管理してきたが、4月からはCCMを加え、事業部ごとに資本コストを意識した経営を求める。」
「各事業部のCCMは四半期ごとに、設定した目標に対する進捗度を点検する。目標に達していない場合はその要因を分析し、事業部ごとに利益率の向上や資産の圧縮など具体的な改善策を求める。まず全事業部でCCMをプラスにすることを目指し、仮にマイナスになっても直ちに事業撤退はしない。」
■ 「事業利益」の内容を解析する
EP(経済的利益)は、わざわざ「経済的」と断り書きがあるように、「会計的利益」とは違いますよ、という主張が込められた用語です。「会計的利益」は、「実現主義」で認識された「収益」から「発生主義」で認識された「費用」を差し引いて計算されるものです。
IFRSとか、公正価値とか、包括利益概念とか、専門的な話はちょっと脇に置いて頂いて、、、(^^;)
ごく簡単に数式化して表現すると、
EP = (グロスキャッシュフロー) - (資金調達コスト)
となります。グロスキャッシュフローとは、NOPAT+減価償却費のことです。投資家は金融資産として企業価値を評価するので、どうしても、キャッシュベースで損得を考えたくなります。会計的利益は、キャッシュフローとは異なるロジックで計算されるので、ファイナンス理論で構築された企業価値評価フレームワークはキャッシュフローをリターン指標として考えるのが基本となります。
ということで、新聞記事から類推できる範囲で、「事業利益」を解析していきたいと思います。
上記の表の通り、
事業利益 = 営業利益 + 受取配当金 - 支払利息
で計算されます。
ここから、EP的な企業価値評価フレームワークにいまいち同化できていない点、責任会計上、管理可能な利益概念なのかという疑問点、2つの視点から切り込んでいきたいと思います。
① 会計的利益の中途半端な加工
EP的なリターン指標にするためには、キャッシュフローベースの金額に加工する必要があります。パナソニックの「事業利益」には、当期はその該当額はキャッシュアウトしない「減価償却費」、経過勘定による調整がありますが、キャッシュアウトする「法人税」が考慮されていません。つまり、キャッシュフロー視点からは、EPのリターン指標になりきれていません。おそらく、会計帳簿(P/L)ベースの損益管理の慣習から一気に進化することが、現場知として難しいことから、現場が管理しやすい・理解しやすい項目だけをピックアップしたものと推察しています。
② 管理可能な利益にするための工夫
管理会計の世界で、ある指標を使って業績管理をする場合、その指標の計算に「他力本願」なものがあると、業績管理者の納得感が無くなる、業績管理者が結果に責任を負えなくなる、というデメリットが生じてしまいます。
たとえば、あなたがある事業部の管理責任者として、本部の間接部門の人件費を実際配賦で受け入れた後の利益に対して責任が設定された場合、責任を全うするためにできることは何でしょうか?
1) 自事業部の売上高
2) 自事業部で発生したコスト
3) 間接部門から実際配賦で飛んできたコスト
自分の努力では、上記3)は管理責任外にあるコストであるため、その発生額をコントロールできません。コントロールできない数字には責任は持てないのです。
「事業利益」を構成する3要素それぞれ、管理不可能なものが紛れていないか検証する必要があります。残念ながら、一般的な管理会計の常識からすると、3要素全て、管理不能要素が含まれているように見受けられます。
よくある事業部に数字を分けることに必死になって、そのあとの管理を疎かにする、、、筆者の経験からの自戒の念も込めた心配ですが、その心配が杞憂であることを願うばかりです。
■ 「投下資産」の内容を解析する
新聞記事によりますと、
「全事業部に貸借対照表を割り当てる「内部資本金制度」を導入」
とありますので、現預金、借入金、未払金や前払金といった経過勘定、グローバル本社の保有資産、投資有価証券、利益剰余金、自己株式、、、挙げていけばきりがないのですが、どうやって43もある事業部に連結B/Sの各勘定を割り振るのか、実務経験もある筆者からは気が遠くなる話です。
そこで、ここからは完全に推測の域を脱していないのですが、「内部資本金制度=社内資本金制度」を導入ということなので、各事業部に割り振ることができないものは、本社にそのまま残しておいて、「社内資本金」「社内現金」「社内借入金」といった、調整勘定で貸借バランスをとりながら、調整勘定の金額自体を上下調節することで、間接的に連結B/Sの事業部への割り付けを実現する方法が現実的かつ実用的かと思います。
B/Sの資産(左側)を各事業部に割り付けて、反対勘定として同額の社内資本金を設定する。その後、期間利益が増減して、社内資本金との貸借バランスが崩れた場合は、その過不足を社内現金・社内借入金で調整する。実は、この方式をとれば、事業部共通資産を無理やり配賦して各事業部に割り付ける必要もありません。資金の調達側、B/Sの右側でもって、各事業部に配分してもいい資金量を設定する。そうすれば、間接的に、共通資産を配賦したのと同様の効果が得られます。
事業利益の際に、支払利息を考慮する必要がありました。パナソニックが起債した社債、または銀行借り入れする際に、必ず43事業部のどの事業にいくら使うか、使途をきっちり明確にしてから、財務制限条項に盛り込んでの借入実務を行っているとは思えないのですが、もし実践されていたらすごいことです。おそらく、社内で社内融資枠の設定をされているか、上記のような社内資本金制度の補完メカニズムとして機能させるか、の方が実務的です。
その際、事業利益計算で考慮される支払利息が社内借入金をベースにして計算されたものであった場合、ただでさえ、資金不足(資本過少)が原因で計上された社内借入金に利息をつけると、さらに資金不足を助長させてしまうので、制度設計上は好ましくありません。
おそらく、事業部傘下の子会社が銀行借り入れなどを実施していて、その分の支払利息を管轄する事業部の勘定につけている、ぐらいのものかもしれません。
ここまで、難癖に近いコメントもあったかもしれませんが、総合的に、事業部ごとに資本コストを設定して、投資収益性を管理することは一筋縄ではいきません。パナソニックの大成功を期待しています。
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