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■ 「戦略」と「戦術」の関係性

経営戦略(基礎編)
前回」のおさらいから始めます。

・「目的」を果たすために、必要な「目標」を立てる
・最も「目標」達成に確実な「手段」を選び取ることが「戦術」である

それでは、「戦略」の立ち位置は、前述の「戦術」との関係性でどのように理解すればよいでしょうか?
とりあえず、クラウゼヴィッツの『戦争論』から参考になりそうな記述を引用します。

・「戦略」は「戦術」を準備する。いつ・どこで・どのくらいの戦闘力をもって戦うかを決める
・「戦略」は「戦術」を収穫する。「戦術」的成果は、勝利でも敗北でも、これを取り上げて、戦争目的達成に利用する
・「戦術」的成功が無ければ、「戦略」的成果は無い

これを図解すると、下記のようになります。
経営戦略(基礎編)_戦争論_戦略と戦術の関係
《ホームセンターの事例で説明》
1.戦場の設定
○○県○○市の○○店という立地で、新規開店するホームセンターの店舗運営を行う
強力な競業店(同業態)が存在しないホワイトスペースへの出店
ただし、商圏は10~15kmと広めな一方で商圏人口は5万人未満とやや少なめ
2.戦力の準備
伸び盛りの若手の中から地元出身のA氏を店長に任命
地元に人脈のあるパートを○○名、パート教育担当としてベテランのB氏を配置
プライベートブランド(PB)の低価格・高品質の品揃えを○万点分そろえる
広告宣伝費およびパートの士気を上げるための報奨金予算を○千万円用意
3.作戦の授与
人脈・地元情報をフル活用した需要情報の収集とそれに基づいた機動的な仕入権限を付与
メンテナンス・設置サービス・コンシュルジュ窓口の設置による付帯サービスの強化
PBをあえてナショナルブランドと並列陳列し、価格・パッケージの差異を際立たせる
早朝営業を実施し、BtoB顧客への訴求を高める(営業開始前に必要部材の調達を可能に)
もし、これだけ用意周到に準備しても、思いの外、売上が伸びない場合でも、密度の低い広範囲に及ぶ商圏での戦い方についての情報を得て、次の店舗オペレーションの改善及び出店方針への参考情報に活かす、これが「戦術」を収穫する、の意です。

■ 「戦略」の持つ時間軸との戦い

「戦略」行動は、戦場で指揮官が戦闘を指示する「戦術」の発揮の前に行われます。したがって、「戦略」は時として「計画」と同義と理解されることがあります。
『戦争論』ではこの辺の事情についてどう記述しているか、再び引用してみます。

・「戦略」とは、戦争の目的を達成するために、諸戦闘を運用すること
・「戦略」は作戦計画を立て、これを達成するために必要な諸行動をこれに結び付ける

なるほど、「戦略」には事前準備、計画の色が濃いようです。しかし、次のような記述もあります。

・「戦略」の具体的なことは、戦場に至って現地で決め、また全計画に対して不断の修正を加えねばならない。立案に必要な諸条件を予め知ることは不可能だからである
・状況判断が実際と一致し、全作戦行動が自然に調和を保って進展し、最終的の成功によって始めて「なるほど、、、」と思わせるような作戦指導が最高なのである

つまり、クラウゼヴィッツは、全力で「戦略」を作戦前に練ることが大切だが、状況判断で「戦略」を適時修正することが成功要因と主張しているのです。それは、目的達成のための最善策を採ることが「戦略」行為のゴールだからです。

・最高の「戦略」とは、戦争の目的を達成するに必要な、そして必要以上でない努力を行使することであり、その際に大切なのは、人目を引くような新戦法を行使することではなく、目的を達成するか否かにある

これは、ミンツバーグ流に言えば、「プランニング・スクール」に分類されたアンゾフ等が主張する「戦略計画」の一連の流れ、「SWOT分析から始まって、時間軸と組織のヒエラルキーに沿って、目標・予算・プログラム(アクションプラン)まで落とし込み、実行段階ではそれらの目標達成に向けたマネジメント・コントロールに変容する」の実行可能性の低さを指摘したことにもつながります。現状分析・計画立案完了まで辿り着いた時には、時すでに遅しと。。。

■ 「戦略」は「不確実性」とも戦わなくてはならない

クラウゼヴィッツはその著書の中で、情報の持つ不確実性と、情報の受け取り方についての教唆(きょうさ)を示してくれています。

・情報とは、敵軍と敵国についてのわれわれの全知識のことであり、われわれの考案と行動の基礎となるものであるが、これほど不確実で、変わりやすいものは無い
・互いに矛盾する情報が殺到して判断に苦しむのは、実は安全なのである。本当に危険なのは、総ての情報が一致して是または非といっている場合で、こんな時には無批判に誤った情報を取り上げやすいからである
・戦争中の情報の多くは虚報であり、生命の危険に対する恐怖心はこの虚偽をますます助長する

そして、クラウゼヴィッツは結局、この「不確実性」への対応方法は、リーダーの個人的資質といっています。彼によると、「戦略」は、

① 精神的要素
② 物理的要素 (戦闘力の大きさ、編成、兵種構成)
③ 数学的要素 (作戦線の軌道:兵力の集中と分散など)
④ 地理的要素 (地形、地勢の利用)
⑤ 統計的要素 (補給)

から構成されており、一番大事なのは「① 精神的要素」ということだそうです。
結局、「戦略」は何か正しい理論が存在するのではなく、「卓越したリーダーの判断」、というのが彼にとっての答えみたいです。それも真理のひとつだと思いますが、何か一定の「法則」「公理」みたいなものは無いか探してみたくもなります。
このことは、「経営戦略論の見取り図」にて、「必ず成功するセオリーとしての『経営戦略論』か、経営者の『現場・現物』に関する知見か」という話をしたことに通じます。
「万能の理論」か、「卓越した幾多の成功事例(ビジネスモデル)」か、「経営戦略」のお話をするうえで、常にこのことに留意して、このシリーズを続けていきたいと思います。
最後に、クラウゼヴィッツの言葉で締めたいと思います。

・戦争においては、計画の際には考えも及ばなかったような、無数の小さい、いろいろな事態が発生して実行を妨害し、所期の目的を達成できなくしやすい、このような摩擦や障害を粉砕できるのは、ただ鋼鉄のような意思の力だけで、これこそ、兵学の中心的存在である

ここまで、「戦略論の古典 クラウゼヴィッツの『戦争論』における「戦略」」を説明しました。
経営戦略(基礎編)_戦略論の古典 クラウゼヴィッツの『戦争論』における「戦略」

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