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■ 「EBITDA」によるセグメント損益の開示の意味

経営管理会計トピック
リクルートホールディングスが10/16に東京証券取引所第1部へ上場し、公募・売り出し価格(公開価格)は3100円、時価総額が約1兆7800億円に上る大型IPOとなります。リクルートホールディングスの部門別(セグメント別)の損益状況と事業内容についての記事が掲載されました。

2014/10/7付 |日本経済新聞|朝刊
新規公開株の横顔 リクルートホールディングス メディア事業が収益源

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

筆者がこの記事に着目したのは、「人材メディア」「人材派遣」「販促メディア」の3部門の損益が、「EBITDA(償却前の営業利益)」で開示されていたからです。いささか、違和感を感じてしまったもので。
リクルートホールディングスのホームページにある決算報告書を見て、計算式を再確認しました。
EBITDA = 営業利益 + 減価償却費 + のれん償却費
なぜセグメント損益がEBITDAで開示されているのでしょうか?

■ EBITDAの役割は終わった?

そもそも、「EBITDA」は、簡便的にP/Lだけで、「営業キャッシュフロー」を仮算出するために考案されたものと筆者は考えています。キャッシュフロー計算書を見れば、P/L由来だけではなく、「運転資本の増減」というB/S由来のキャッシュ増減要素も加味して「営業キャッシュフロー」を取り出すことができます。
「EBITDA」を暦年で並べたトレンドグラフをよく目にするのですが、このグラフには、そもそも「EBITDA」を捻出できるタネになった「投資キャッシュフロー」がどこにも出てこないので、あたかも毎年「利益」が多額に出ているかのように印象付けることが可能になります。ほとんど「EBITDA」が赤字のグラフにはお目にかかったことはありません。「EBITDA」だけで事業の収益性はほぼ把握できないとお考えいただいたほうが無難ではないかと思います。逆に、きちんと、当該事業のタネを投資した金額の回収分(すなわち、減価償却費とのれん償却費)を考慮した「営業利益」が並んだトレンドグラフの方が安心して眺めることができます。

■ なぜリクルートは「EBITDA」でセグメント損益を開示したのか

実は、リクルートホールディングスがなぜ「IPO」を決断したか、そしてセグメント損益が「EBITDA」で開示しているのか、理由は同根であると筆者は推察しています。
まず、下記の表をご覧ください。筆者がホームページに開示してある決算報告書から独自に作成したものです。
経営管理会計トピック_リクルートの損益推移
「EBITDA」が直近3年で営業収益(売上高)の増加と比例して毎年伸びており、収益力が高めらえている印象を受けてしまいます。しかし、「EBITDA」を売上高で割った「EBITDAマージン」と「営業利益率」を確認してみてください。いずれも、悪化しているはずです。つまり、事業に多額の投資をして売り上げを伸ばしているものの、償却前後いずれも収入の伸びに対しては収益性(投資効率)が下降線をたどっています。
記事の中にもそれと分かる記述があります。
「部門別のEBITDAは伸びたが、前期の連結営業利益は1174億円と6%減った。IT(情報技術)投資や、買収先ののれんの償却費が重荷だった」
「上場で得る資金も海外M&Aなどに振り向ける」
つまり、「人財メディア事業」は、「リクナビ」など、WebサイトへのIT投資資金の需要が高まっており、「人材派遣事業」は、FY10から海外のM&Aを活発化させており、こちらも買収資金の需要が高くなっているのです。必要としている投資資金がP/L上、償却費として戻って来て、利益を圧迫していることが白日の下にさらされると、これから資金を集めたいと考えているIPOに悪影響を及ぼしかねない。そういった資金調達の必要性に有利に働くように、FY13に経営指標として「EBITDA」を新規に採用し、開示対象としたわけです。
チョッと工夫すれば、「EBITDA」から「営業利益」を差し引きすることで、「償却費」が簡単に計算できてしまい、逆に回収すべき償却費が年々増えていることが分かってしまいます。筆者には隠しておきたいものを却って表に出してしまった、藪蛇(やぶへび)だったとしか思えないのであります。
下表は、過去6年間の「セグメント情報」の開示単位です。
経営管理会計トピック_リクルートのセグメント情報推移
「EBITDA」の採用と合わせて、開示セグメントの組換えが行われています。むしろ積極的に、IT投資が必要な「人材メディア事業」、海外M&A資金が必要な「人材派遣事業」、それぞれが必要としている資金がいくらで、今回のIPOでいくら調達しようとしているのか、本気で公開会社になるのなら、真摯になって、それぞれの事業における投資採算の見込を投資家にディスクローズして、各事業の収益性(真の実力)の真贋(しんがん)を判断してもらうべきではないでしょうか。

■ 公開会社とはつらいのです

IPOするという決断をしたということは、筆者のような小物からも批判的な目を向けられるということになります。「横文字の(それも死んでしまった)経営指標を今更持ち出して、投資家の目をくらませようとしているのではないか」という批判について、公開後のIRできちんと説明してもらいたいと思います。
筆者がいたずらにリクルート社の財務担当者に「濡れ衣を着せている」のではないか、との見解もあるかもしれませんが、FY13の決算報告にて、営業減益にもかかわらず、決算報告資料のP2で「連結EBITDAは前期比6.2%増益 前期実績及び期初見通しともに上回り、2期連続の増益」、
FY12の決算報告にて、償却負担が重くなってきて営業利益率が悪化しているにもかかわらず、決算報告資料のP2で「営業利益 主に国内における事業が好調に推移したことにより、前期比8.6%の増益。3期連続の増益」とコメントされています。
これらをどう評価するか、読者の方々にご判断をお任せしたいと思います。
どう見ても、財務分析の視点からは、お金で「営業収益(売上高)」と「EBITDA」を買っているわけです。そのお金(事業投資)を考慮した採算は、少なくともP/L上で簡単に見ようと思ったら、「営業利益」か、「営業利益」に支払利息を足した「事業利益(ここでの筆者の仮命名)」かで議論したいものです。投資資金が外部借入だった場合は、支払利息を考慮に入れなければいけないので。
公開会社は、投資家に対して1点の曇りもなく対応し、不信感を抱かせないようにする必要があります。まあ、IPO後最初のIRまで経過観察なのであります。

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小林 友昭会計で経営を読む■ 「EBITDA」によるセグメント損益の開示の意味 リクルートホールディングスが10/16に東京証券取引所第1部へ上場し、公募・売り出し価格(公開価格)は3100円、時価総額が約1兆7800億円に上る大型IPOとなります。リクルートホールディングスの部門別(セグメント別)の損益状況と事業内容についての記事が掲載されました。 2014/10/7付 |日本経済新聞|朝刊 新規公開株の横顔 リクルートホールディングス メディア事業が収益源(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます 筆者がこの記事に着目したのは、「人材メディア」「人材派遣」「販促メディア」の3部門の損益が、「EBITDA(償却前の営業利益)」で開示されていたからです。いささか、違和感を感じてしまったもので。 リクルートホールディングスのホームページにある決算報告書を見て、計算式を再確認しました。 EBITDA = 営業利益 + 減価償却費 + のれん償却費 なぜセグメント損益がEBITDAで開示されているのでしょうか? ■ EBITDAの役割は終わった?そもそも、「EBITDA」は、簡便的にP/Lだけで、「営業キャッシュフロー」を仮算出するために考案されたものと筆者は考えています。キャッシュフロー計算書を見れば、P/L由来だけではなく、「運転資本の増減」というB/S由来のキャッシュ増減要素も加味して「営業キャッシュフロー」を取り出すことができます。 「EBITDA」を暦年で並べたトレンドグラフをよく目にするのですが、このグラフには、そもそも「EBITDA」を捻出できるタネになった「投資キャッシュフロー」がどこにも出てこないので、あたかも毎年「利益」が多額に出ているかのように印象付けることが可能になります。ほとんど「EBITDA」が赤字のグラフにはお目にかかったことはありません。「EBITDA」だけで事業の収益性はほぼ把握できないとお考えいただいたほうが無難ではないかと思います。逆に、きちんと、当該事業のタネを投資した金額の回収分(すなわち、減価償却費とのれん償却費)を考慮した「営業利益」が並んだトレンドグラフの方が安心して眺めることができます。 ■ なぜリクルートは「EBITDA」でセグメント損益を開示したのか実は、リクルートホールディングスがなぜ「IPO」を決断したか、そしてセグメント損益が「EBITDA」で開示しているのか、理由は同根であると筆者は推察しています。 まず、下記の表をご覧ください。筆者がホームページに開示してある決算報告書から独自に作成したものです。 「EBITDA」が直近3年で営業収益(売上高)の増加と比例して毎年伸びており、収益力が高めらえている印象を受けてしまいます。しかし、「EBITDA」を売上高で割った「EBITDAマージン」と「営業利益率」を確認してみてください。いずれも、悪化しているはずです。つまり、事業に多額の投資をして売り上げを伸ばしているものの、償却前後いずれも収入の伸びに対しては収益性(投資効率)が下降線をたどっています。 記事の中にもそれと分かる記述があります。 「部門別のEBITDAは伸びたが、前期の連結営業利益は1174億円と6%減った。IT(情報技術)投資や、買収先ののれんの償却費が重荷だった」 「上場で得る資金も海外M&Aなどに振り向ける」 つまり、「人財メディア事業」は、「リクナビ」など、WebサイトへのIT投資資金の需要が高まっており、「人材派遣事業」は、FY10から海外のM&Aを活発化させており、こちらも買収資金の需要が高くなっているのです。必要としている投資資金がP/L上、償却費として戻って来て、利益を圧迫していることが白日の下にさらされると、これから資金を集めたいと考えているIPOに悪影響を及ぼしかねない。そういった資金調達の必要性に有利に働くように、FY13に経営指標として「EBITDA」を新規に採用し、開示対象としたわけです。 チョッと工夫すれば、「EBITDA」から「営業利益」を差し引きすることで、「償却費」が簡単に計算できてしまい、逆に回収すべき償却費が年々増えていることが分かってしまいます。筆者には隠しておきたいものを却って表に出してしまった、藪蛇(やぶへび)だったとしか思えないのであります。 下表は、過去6年間の「セグメント情報」の開示単位です。 「EBITDA」の採用と合わせて、開示セグメントの組換えが行われています。むしろ積極的に、IT投資が必要な「人材メディア事業」、海外M&A資金が必要な「人材派遣事業」、それぞれが必要としている資金がいくらで、今回のIPOでいくら調達しようとしているのか、本気で公開会社になるのなら、真摯になって、それぞれの事業における投資採算の見込を投資家にディスクローズして、各事業の収益性(真の実力)の真贋(しんがん)を判断してもらうべきではないでしょうか。 ■ 公開会社とはつらいのですIPOするという決断をしたということは、筆者のような小物からも批判的な目を向けられるということになります。「横文字の(それも死んでしまった)経営指標を今更持ち出して、投資家の目をくらませようとしているのではないか」という批判について、公開後のIRできちんと説明してもらいたいと思います。 筆者がいたずらにリクルート社の財務担当者に「濡れ衣を着せている」のではないか、との見解もあるかもしれませんが、FY13の決算報告にて、営業減益にもかかわらず、決算報告資料のP2で「連結EBITDAは前期比6.2%増益 前期実績及び期初見通しともに上回り、2期連続の増益」、 FY12の決算報告にて、償却負担が重くなってきて営業利益率が悪化しているにもかかわらず、決算報告資料のP2で「営業利益 主に国内における事業が好調に推移したことにより、前期比8.6%の増益。3期連続の増益」とコメントされています。 これらをどう評価するか、読者の方々にご判断をお任せしたいと思います。 どう見ても、財務分析の視点からは、お金で「営業収益(売上高)」と「EBITDA」を買っているわけです。そのお金(事業投資)を考慮した採算は、少なくともP/L上で簡単に見ようと思ったら、「営業利益」か、「営業利益」に支払利息を足した「事業利益(ここでの筆者の仮命名)」かで議論したいものです。投資資金が外部借入だった場合は、支払利息を考慮に入れなければいけないので。 公開会社は、投資家に対して1点の曇りもなく対応し、不信感を抱かせないようにする必要があります。まあ、IPO後最初のIRまで経過観察なのであります。現役の経営コンサルタントが管理会計をテーマに情報発信します