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■ 事業シナジーとコングロマリットディスカウントの争い

経営管理会計トピック
米ネット競売大手のイーベイが、傘下の決済大手ペイパルを2015年後半をめどに、分離することを発表しました。

2014/10/1付 |日本経済新聞|朝刊 米イーベイがペイパル分離 決済事業の自由度拡大

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

記事によると、分離の目的は、「資本・経営面で切り離すことで戦略的な自由度を高め、金融やネット起業などと提携・統合しやすくする狙い」とのこと。
さらに、「直近1年ではペイパルの取扱高の7割がイーベイ以外になっている」「ペイパルは(リスク審査など)金融ノウハウを武器に他の決済サービスとの融合を加速する」とあります。
つまるところ、イーベイ以外のイーベイの競合他社からなる顧客が7割になったので、決済会社として独立した方が、ペイパルのさらなる成長と競争激化が予想される市場(アップルが参入してきているとのこと)での競争に対応しやすい、というロジックのようです。
ネット競売(本業)における決済サービスの付加価値をつけて、本業の魅力度・競争力を向上させる意味(つまり事業シナジーの発揮)でのペイパル買収だったはずですが、ペイパルが先行して決済サービス市場での単独競争力をつけ、もはやイーベイからの収入が3割になってしまったということ。これからイーベイの競合他社と提携していくのに、イーベイ傘下のままではやりにくいということなのでしょう。
まさしく、イーベイとペイパルが一緒にいることで、事業ポートフォリオとしては価値が最大化されておらず、バラバラになれば、ペイパルの価値が上がるだろうというのは、まさしく「コングロマリットディスカウント」を解消するべしということ。
もはやイーベイがペイパルの決済サービスを独占使用できるスキームにせず、ペイパルに外販(外からの収入)を求めた時に、こうなる結論は見えていたともいえると思います。
イーベイの売上高は前年対比10%増の99億ドル、ペイパルの売上高は前年対比19%増の72億ドル。確かに成長性・事業規模ともにスピンオフさせたくなる事業内容になっています。

■ なぜスピンオフの意思決定が機動的になされるのか

今回の意思決定は、イーベイの取締役会で決議されたものであるとのこと。米国企業の通常のコーポレートガバナンス的には、取締役会は社外取締役が過半を占め、株主の代弁者として発言する傾向が大変強いと思われます。それ自体は決して批判されるべきものではありません。
記事では、後半に、「『物言う株主』として知られる著名投資家カール・アイカーン氏から戦略的に他社と提携しやすくなるようにペイパルの分離を要求されていた。イーベイは要求通り分離によって事業別の経営の透明性を高め、株主還元も充実させる方針だ」とあります。
株主(投資家)の立場からすれば、イーベイも(イーベイからスピンアウトする)ペイパルもスピンアウト直後はいずれの株主としても、自身の投資ポートフォリオの中に2社とも一旦は収まります。さらに、ペイパルの相対的に高い成長率を基礎に、ペイパルの企業価値(ここでは簡単に言うと時価総額)がスピンアウト前より大きくなれば、株主(投資家)としては、自己の利益最大化につながります。
あとは、好きなタイミングで、好ましい相手に持ち株を売買させればよいということになります。
さらに、「株主還元」というキーワードが出てきているということは、「ペイパル」が稼いだ利益を「イーベイ」の経営者に任せて勝手に事業再投資に回させるより、配当(または自社株購入)で株主に果実としてリターンをよこせ、ということです。
経営者(ジョン・ドナホーCEO)としては、自由裁量下にあったペイパルという経営資源が剥ぎ取られた形になります。ソフトバンクや楽天は次々と顧客を自身の傘下企業のサービス網で囲い込もうとしているのに。。。CEOといえども、雇われ経営者。日本企業も「スチュワードシップ・コード」云々といわれ始めています。決して、海の向こうの他人事ではないのであります。

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小林 友昭会計で経営を読む■ 事業シナジーとコングロマリットディスカウントの争い 米ネット競売大手のイーベイが、傘下の決済大手ペイパルを2015年後半をめどに、分離することを発表しました。 2014/10/1付 |日本経済新聞|朝刊 米イーベイがペイパル分離 決済事業の自由度拡大(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます 記事によると、分離の目的は、「資本・経営面で切り離すことで戦略的な自由度を高め、金融やネット起業などと提携・統合しやすくする狙い」とのこと。 さらに、「直近1年ではペイパルの取扱高の7割がイーベイ以外になっている」「ペイパルは(リスク審査など)金融ノウハウを武器に他の決済サービスとの融合を加速する」とあります。 つまるところ、イーベイ以外のイーベイの競合他社からなる顧客が7割になったので、決済会社として独立した方が、ペイパルのさらなる成長と競争激化が予想される市場(アップルが参入してきているとのこと)での競争に対応しやすい、というロジックのようです。 ネット競売(本業)における決済サービスの付加価値をつけて、本業の魅力度・競争力を向上させる意味(つまり事業シナジーの発揮)でのペイパル買収だったはずですが、ペイパルが先行して決済サービス市場での単独競争力をつけ、もはやイーベイからの収入が3割になってしまったということ。これからイーベイの競合他社と提携していくのに、イーベイ傘下のままではやりにくいということなのでしょう。 まさしく、イーベイとペイパルが一緒にいることで、事業ポートフォリオとしては価値が最大化されておらず、バラバラになれば、ペイパルの価値が上がるだろうというのは、まさしく「コングロマリットディスカウント」を解消するべしということ。 もはやイーベイがペイパルの決済サービスを独占使用できるスキームにせず、ペイパルに外販(外からの収入)を求めた時に、こうなる結論は見えていたともいえると思います。 イーベイの売上高は前年対比10%増の99億ドル、ペイパルの売上高は前年対比19%増の72億ドル。確かに成長性・事業規模ともにスピンオフさせたくなる事業内容になっています。 ■ なぜスピンオフの意思決定が機動的になされるのか今回の意思決定は、イーベイの取締役会で決議されたものであるとのこと。米国企業の通常のコーポレートガバナンス的には、取締役会は社外取締役が過半を占め、株主の代弁者として発言する傾向が大変強いと思われます。それ自体は決して批判されるべきものではありません。 記事では、後半に、「『物言う株主』として知られる著名投資家カール・アイカーン氏から戦略的に他社と提携しやすくなるようにペイパルの分離を要求されていた。イーベイは要求通り分離によって事業別の経営の透明性を高め、株主還元も充実させる方針だ」とあります。 株主(投資家)の立場からすれば、イーベイも(イーベイからスピンアウトする)ペイパルもスピンアウト直後はいずれの株主としても、自身の投資ポートフォリオの中に2社とも一旦は収まります。さらに、ペイパルの相対的に高い成長率を基礎に、ペイパルの企業価値(ここでは簡単に言うと時価総額)がスピンアウト前より大きくなれば、株主(投資家)としては、自己の利益最大化につながります。 あとは、好きなタイミングで、好ましい相手に持ち株を売買させればよいということになります。 さらに、「株主還元」というキーワードが出てきているということは、「ペイパル」が稼いだ利益を「イーベイ」の経営者に任せて勝手に事業再投資に回させるより、配当(または自社株購入)で株主に果実としてリターンをよこせ、ということです。 経営者(ジョン・ドナホーCEO)としては、自由裁量下にあったペイパルという経営資源が剥ぎ取られた形になります。ソフトバンクや楽天は次々と顧客を自身の傘下企業のサービス網で囲い込もうとしているのに。。。CEOといえども、雇われ経営者。日本企業も「スチュワードシップ・コード」云々といわれ始めています。決して、海の向こうの他人事ではないのであります。現役の経営コンサルタントが管理会計をテーマに情報発信します