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■ 炭素繊維事業は成長期に入る

経営管理会計トピック
東レの炭素繊維事業が長年の研究開発と海外事業の積極的なM&Aによって収益貢献期に入っています。

2015/1/7|日本経済新聞|朝刊
(会社研究)経営者が選ぶ注目企業(2) 東レ 炭素繊維、最高益をけん引

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

「東レが成長力を取り戻そうとしている。2015年3月期は純利益で3年ぶりの最高益を見込む。この数年は電子部材の価格下落などで利益が伸び悩んだが、炭素繊維の急拡大が全体の利益水準を押し上げる。
炭素繊維事業は営業利益(今期見込み)では260億円と全体の2割程度だ。絶対額では繊維、情報に次ぐ3番目の柱だが増益額はトップ。営業利益率も繊維の6%、情報の10%に対して約16%。「稼ぐ力」も際立つ。」

■ 「最高益」=「最高値」とならない理由

2015年3月期は、最高益更新を見込むにもかかわらず、昨年株価が最高値にならなかった理由として、
「モルガン・スタンレーMUFG証券の渡部貴人氏は「自己資本利益率(ROE)が10%に達しておらず、海外投資家からの評価を得にくい」と話す。現在のROEは前期実績で7.5%と、最高値を付けた07年3月期(10.4%)に及ばない。」
と、ROEが前回の好況時に届かないことを材料視しています。
安直にROEを経営目標にすべきではないことは、「(創論)ROE重視と日本経済」を参照してみてください。
さらに、新聞記事では、
「ROE向上に欠かせないのが利益率の改善だ。今期見通しで各事業の利益率を見ると、炭素繊維や情報通信は2ケタだが、他の主要事業は1ケタ台にとどまる。米デュポンに代表されるように利益率や成長期待で事業ポートフォリオを変えるのもやり方の一つだ。」
として、さらなる株価上昇には事業ポートフォリオの組み替えの必要性を示唆しています。
これに対して、日覚社長は、
「「ROEのために低収益事業を分離する経営はしない」。炭素繊維など高付加価値製品を生み出せたのは、ほかでもない繊維に対する長年の研究開発の蓄積のたまものだからだ。」
とインタビューに答えています。
これについては、長期的R&D投資の必要性を分析した、
(ビジネスTODAY)炭素繊維、東レ上昇気流 ボーイングと1兆円契約発表 米の生産量、日本上回る」をご参照ください。
筆者も、日覚社長の意見に激しく同意します。
新聞記事では、日覚社長の回答に対して、次のように切り返しています。
「となると、自己資本の抑制がカギを握る。前期末の自己資本は8590億円。最高益だった12年3月期は6271億円でROEは10%台だった。内部留保が積み上がり、ROEを押し下げたともいえる。日覚社長は「増益分は配当や設備投資、研究開発に振り向ける」と話す。今期初めて200億円規模の自社株買いを実施したが、市場の要求に応えるには内部留保のさらなる活用が必要になる。」

■ 内部留保の活用実態に迫る

それでは、口だけではなく、実際に、東レの財務諸表から、内部留保の活用実態に切り込んでみましょう。
財務数値を使った分析を行う前に、分析視点を確認しておきます。
内部留保の有効活用の問題というのは、つまるところ、企業が利益を上げた場合、株主還元として社外流出させるか、さらなる事業投資に差し向けるか、の選択問題となります。もう少し視野を広くすると、「会社がどこから資金調達して、どんな投資対象に配分しているか」という問題と考えることができます。
こういう場合は、B/Sの期間比較(静態的分析という)から、「資金運用表」による分析が有効になります。ただし、50年代に誕生した「資金運用表」は、「キャッシュフロー計算書」が登場してから滅多に分析対象となってこなかったので、見たことがない読者の方もいらっしゃるかもしれません。
そこで、筆者独自の簡便法として、「資金管理表(仮称)」として、ざっくり、2期間のB/S対比分析を行ってみたいと思います。
下表は、東レの「2014年3月期」と「2014年9月期」のB/S残高を差し引きして、6か月の間に、貸方にて、企業運営のための投資額をどういう手段で調達したか、借方にて、調達した資金をどの投資対象に配分したか、を明らかにした表となります。
経営管理会計トピック_東レ_FY14上期_資金管理表
≪項目説明≫
金融資金: 現預金、投資有価証券、貸付金など、直接ビジネスに使用していない待機性資金
運転資金: 売掛金・在庫・繰延税金資産など、通常の事業運営に必要な資金
固定資産: 有形無形固定資産に投下されている長期性資金
※ ワンイヤールールに縛られていないため、投資その他の資産はうえ2つの資産へ一部組み替え
企業間信用: 有利子負債以外の負債すべて
有利子負債: 借入金・社債など
自己資本: 便宜的に純資産すべて
FY14上期にて、東レは、社外から、有利子負債として、931億円を調達し、
① 固定資産へ429億円(46%)
② 運転資金へ232億円(25%)
③ 企業間信用の返済へ112億円(12%)
④ 自己資本の返済へ61億円(7%)
⑤ 残りは、金融資産として98億円(10%)だけ待機させました。
ちなみに、自己資本の減少要因は、当期純利益:413億円の増加要因の一方で、自己株式の取得:200億円、配当金支払:88億円、退職給付債務への振替:160億円などにより、株式資本が▲28億円、その他の包括利益累計額が▲36億円となっています。
この分析結果から、内部留保が無駄に積みあがって、自己資本が水膨れもしていないし、きちんとリアルビジネスに再投資(運転資金と固定資産含めて71%)されていることが分かると思います。
読者の皆さんはどのような感想を持ちますでしょうか?
筆者としては、きちんと財務諸表をみてからコメントしていただきたいと思いました。

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小林 友昭会計で経営を読む■ 炭素繊維事業は成長期に入る 東レの炭素繊維事業が長年の研究開発と海外事業の積極的なM&Aによって収益貢献期に入っています。 2015/1/7|日本経済新聞|朝刊 (会社研究)経営者が選ぶ注目企業(2) 東レ 炭素繊維、最高益をけん引 (注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます 「東レが成長力を取り戻そうとしている。2015年3月期は純利益で3年ぶりの最高益を見込む。この数年は電子部材の価格下落などで利益が伸び悩んだが、炭素繊維の急拡大が全体の利益水準を押し上げる。 炭素繊維事業は営業利益(今期見込み)では260億円と全体の2割程度だ。絶対額では繊維、情報に次ぐ3番目の柱だが増益額はトップ。営業利益率も繊維の6%、情報の10%に対して約16%。「稼ぐ力」も際立つ。」 ■ 「最高益」=「最高値」とならない理由 2015年3月期は、最高益更新を見込むにもかかわらず、昨年株価が最高値にならなかった理由として、 「モルガン・スタンレーMUFG証券の渡部貴人氏は「自己資本利益率(ROE)が10%に達しておらず、海外投資家からの評価を得にくい」と話す。現在のROEは前期実績で7.5%と、最高値を付けた07年3月期(10.4%)に及ばない。」 と、ROEが前回の好況時に届かないことを材料視しています。 安直にROEを経営目標にすべきではないことは、「(創論)ROE重視と日本経済」を参照してみてください。 さらに、新聞記事では、 「ROE向上に欠かせないのが利益率の改善だ。今期見通しで各事業の利益率を見ると、炭素繊維や情報通信は2ケタだが、他の主要事業は1ケタ台にとどまる。米デュポンに代表されるように利益率や成長期待で事業ポートフォリオを変えるのもやり方の一つだ。」 として、さらなる株価上昇には事業ポートフォリオの組み替えの必要性を示唆しています。 これに対して、日覚社長は、 「「ROEのために低収益事業を分離する経営はしない」。炭素繊維など高付加価値製品を生み出せたのは、ほかでもない繊維に対する長年の研究開発の蓄積のたまものだからだ。」 とインタビューに答えています。 これについては、長期的R&D投資の必要性を分析した、 「(ビジネスTODAY)炭素繊維、東レ上昇気流 ボーイングと1兆円契約発表 米の生産量、日本上回る」をご参照ください。 筆者も、日覚社長の意見に激しく同意します。 新聞記事では、日覚社長の回答に対して、次のように切り返しています。 「となると、自己資本の抑制がカギを握る。前期末の自己資本は8590億円。最高益だった12年3月期は6271億円でROEは10%台だった。内部留保が積み上がり、ROEを押し下げたともいえる。日覚社長は「増益分は配当や設備投資、研究開発に振り向ける」と話す。今期初めて200億円規模の自社株買いを実施したが、市場の要求に応えるには内部留保のさらなる活用が必要になる。」 ■ 内部留保の活用実態に迫る それでは、口だけではなく、実際に、東レの財務諸表から、内部留保の活用実態に切り込んでみましょう。 財務数値を使った分析を行う前に、分析視点を確認しておきます。 内部留保の有効活用の問題というのは、つまるところ、企業が利益を上げた場合、株主還元として社外流出させるか、さらなる事業投資に差し向けるか、の選択問題となります。もう少し視野を広くすると、「会社がどこから資金調達して、どんな投資対象に配分しているか」という問題と考えることができます。 こういう場合は、B/Sの期間比較(静態的分析という)から、「資金運用表」による分析が有効になります。ただし、50年代に誕生した「資金運用表」は、「キャッシュフロー計算書」が登場してから滅多に分析対象となってこなかったので、見たことがない読者の方もいらっしゃるかもしれません。 そこで、筆者独自の簡便法として、「資金管理表(仮称)」として、ざっくり、2期間のB/S対比分析を行ってみたいと思います。 下表は、東レの「2014年3月期」と「2014年9月期」のB/S残高を差し引きして、6か月の間に、貸方にて、企業運営のための投資額をどういう手段で調達したか、借方にて、調達した資金をどの投資対象に配分したか、を明らかにした表となります。 ≪項目説明≫ 金融資金: 現預金、投資有価証券、貸付金など、直接ビジネスに使用していない待機性資金 運転資金: 売掛金・在庫・繰延税金資産など、通常の事業運営に必要な資金 固定資産: 有形無形固定資産に投下されている長期性資金 ※ ワンイヤールールに縛られていないため、投資その他の資産はうえ2つの資産へ一部組み替え 企業間信用: 有利子負債以外の負債すべて 有利子負債: 借入金・社債など 自己資本: 便宜的に純資産すべて FY14上期にて、東レは、社外から、有利子負債として、931億円を調達し、 ① 固定資産へ429億円(46%) ② 運転資金へ232億円(25%) ③ 企業間信用の返済へ112億円(12%) ④ 自己資本の返済へ61億円(7%) ⑤ 残りは、金融資産として98億円(10%)だけ待機させました。 ちなみに、自己資本の減少要因は、当期純利益:413億円の増加要因の一方で、自己株式の取得:200億円、配当金支払:88億円、退職給付債務への振替:160億円などにより、株式資本が▲28億円、その他の包括利益累計額が▲36億円となっています。 この分析結果から、内部留保が無駄に積みあがって、自己資本が水膨れもしていないし、きちんとリアルビジネスに再投資(運転資金と固定資産含めて71%)されていることが分かると思います。 読者の皆さんはどのような感想を持ちますでしょうか? 筆者としては、きちんと財務諸表をみてからコメントしていただきたいと思いました。現役の経営コンサルタントが管理会計をテーマに情報発信します