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■ 世界も認める日本企業の低ROE?

経営管理会計トピック

ROE教のエバンジェリストである伊藤教授が、ここ最近のコーポレートガバナンスの潮流について簡潔に整理頂いておりますので、今回はその整理に乗っかって筆者自身の頭の中の情報の簡単な棚卸しもやってしまいたいと思います。

2015/4/1日本経済新聞|朝刊 (経済教室)企業統治改革の論点(上)経営の「質」高め低収益打破 伊藤邦雄 一橋大学特任教授

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

「『利益の落伍(らくご)者だった日本企業が、やっと8%のリターン(ROE=自己資本利益率)を求めることで、世界へのキャッチアップを始めた』。ある有名海外誌の昨年9月の記事の見出しである。ここには、日本の隠しようのない歴史への揶揄(やゆ)と、かつてないほどの期待が凝縮されている。」

 

■ 企業統治改革の最近の流れ

(1)2012年:東京証券取引所による「企業価値向上表彰」の開始
・企業価値向上に顕著な成果を上げた企業を表彰

第1回大賞「株式会社ユナイテッドアローズ」(2012年度)
第2回大賞「丸紅株式会社」(2013年度)
第3回大賞「オムロン株式会社」(2014年度)

JPX(日本取引所グループ)の「上場会社表彰制度」のページはこちら
⇒「企業価値高める経営、オムロンに大賞 今年度、東証が表彰

(2)2014年1月6日:「JPX日経インデックス400」の算出開始

・量的な指標によるスコアリング
スクリーニングされた1000銘柄に対して、下記のウェイトで点数づけしてランク上位を採用
① 3年平均ROE:40%
② 3年累積営業利益:40%
③ 選定基準日時点における時価総額:20%

ここにしっかり、「ROE」が判定基準に組み込まれているということです。

JPX(日本取引所グループ)の「JPX日経インデックス400」のページはこちら

(3)2014年2月:「日本版スチュワードシップ・コード」が金融庁より発表
・機関投資家の資金供給者に対する説明責任と投資先企業との対話を促す目的で制定

金融庁「日本版スチュワードシップ・コードに関する有識者検討会」のページはこちら
⇒「ゼミナール 企業統治の新時代(5) 機関投資家に行動原則

(4)2014年6月:日本国政府の日本再興戦略の発表

i)コーポレートガバナンスの強化、リスクマネーの供給促進、インベストメント・チェーンの高度化
①「コーポレートガバナンス・コード」の策定等

新聞記事より論旨抜粋
「企業統治改革やインベストメントチェーン(投資による価値創造の流れ)の全体最適化、持続的な企業価値創造のための対話・情報開示の推進が盛り込まれた」

首相官邸の「アベノミクス成長戦略で、明るい日本に! ≪詳細版≫」のページはこちら

(5)2014年8月:「伊藤レポート」の最終版が公表

・持続的成長への競争力とインセンティブ~企業と投資家の望ましい関係構築~プロジェクト

新聞記事より論旨抜粋
「その特徴は、投資家と企業の双方の課題を俯瞰(ふかん)する形で、課題の整理と提言を行ったことである。
投資家側には短期主義に陥らずに、中長期投資を促し、企業側には長期にわたって低迷を続けた資本生産性(効率性)を大幅に引き上げることを提案した。その代表的な指標であるROEに焦点を当て、少なくとも資本コストを上回る8%に引き上げることが、喫緊の課題と指摘した。」

経済産業省「伊藤レポート最終報告」のページはこちら

(6)2014年12月:コーポレートガバナンス・コードの公表

「株主の権利や取締役会の役割、役員報酬のあり方など、上場企業が守るべき行動規範を網羅したものだ。法的な強制力はないが、「Comply or Explain(同意せよ、さもなくば説明せよ)」との原則に基づき、上場企業はコードに同意するか、しない場合はその理由を投資家に説明するよう求められるようになる」
(産経ニュースより抜粋:http://www.sankei.com/economy/news/141210/ecn1412100062-n1.html

2014/12/12|日本経済新聞|朝刊 社外取締役会議創設を 企業統治指針 金融庁と東証、きょう最終案提示 経営関与へ連携促す

「金融庁と東京証券取引所は上場企業に対し、社外取締役だけで構成する会議体を創設するよう促す。社外取締役の複数化と合わせて、12日にまとめる企業統治指針に盛り込む。役員の評価や報酬など経営陣とは話しにくい問題を自由に議論できるようにする。社外取締役が連携しやすい環境を整え、経営に積極関与できるようにする狙いだ。」

2014/12/13|日本経済新聞|朝刊 金融庁・東証が企業統治指針5原則 来年6月から適用

「金融庁と東京証券取引所は12日、社外取締役の複数化を柱にした企業統治指針をまとめた。透明性の確保など5つの原則で構成する。東証1・2部に上場する企業を中心に社外取締役を2人以上置くことや持ち合い株の狙いなどを開示するよう求める。2015年6月1日から適用する方針だ。
金融庁と東証が12日開いた有識者会議で指針案を了承した。原則は
(1) 株主の権利・平等性の確保
(2) 従業員・顧客などとの協働
(3) 情報開示と透明性の確保
(4) 取締役会の責務
(5) 株主との対話――の5つだ。」

金融庁「コーポレートガバナンス・コードの策定に関する有識者会議」のページはこちら

 

 

■ 「ROE」一色に染まるのも問題

新聞記事では、
「反響は思わぬところに波及した。有力な議決権行使助言機関のISSが伊藤レポートに言及したうえで、ROEという資本生産性基準を経営トップの選任基準に導入し、直近5年間の平均値が5%未満の会社のトップの選任に反対票を推奨した。トップの選任はガバナンスのいわば一丁目一番地である。そこにROEが盛り込まれた。今日の改革の背景には、こうした資本生産性に対する厳しい目があることに留意すべきである。」

というリアクションがあったことに触れています。それでは、大きな反証を持ち出しますが、「Amazon」は創業以来、約半分は赤字決算ですし、1997年のNASDAQ上場以来、無配を続けています。こういう企業にはまともな投資家は目もくれない、ということなのでしょうか?

伊藤レポートでは、投資家側には、中長期的投資を促し、企業側には、余剰資金の有効活用(資本生産性の向上)を促しています。真っ当な正論で、筆者も趣旨には賛成なのですが、そのKPIとして、「ROE」を選択し、しかも目標水準を「8%」と一律的に設定しているところは解せません。

投資家の中長期的投資判断に、過去からの内部留保が分母に算入され、しかも単年度の純利益(株主などへの分配前利益でかつキャッシュベースでもない)が分子であるROEが本当に使えるのでしょうか?

そして、スタートアップ企業も、成熟企業も、競争状態が異なる市場と対峙している企業、すべて「ROE = 8%」を達成することが最低限の目標としたら、、、

そもそも「起業」ができなくなりますよね。大きな事業転換(富士フイルム、ブラザー、東レなど)にリスクを負えずに、一旦会社を清算して株主に返金して、投資家が改めて出資先を探すということを暗に言っているといらぬ誤解を生じさせる恐れもあります。マイクロファイナンスの手法もようやく認知され始めており、政府も立法の動きに向かっています。

一律、制度、規定、強制、こういうものから自由にならないと、ダイナミックな企業経営で実践できないと思います。そういう意味では、本新聞記事で伊藤教授が大変含蓄のある警句を発せられているので、その言を3つ紹介して、今回は締めさせていただきます。

「わが国の慣習はルールが作られると、それに一斉に機械的に反応しがちである。「コンプライ」ももちろん大事だが、「エクスプレイン」の開示には、その企業ないし経営者の考え方と真剣さが表れる。」

「すでに東証からも複数の社外取締役の導入が義務づけられた。確かに取締役会のなかで社外取締役が一定の割合を確保していることは、統治機能を発揮する条件でもある。だが形式要件のみを満たせば事足りるかといえば、「否」である。」

「「社外」にばかり依存するのは危険でもあり、健全でもない。ガバナンスの基本は「自律」である。「他律」はあくまでも補完である。では、「自律」の要となるのは誰か。もちろん最高経営責任者(CEO)である。」

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(経済教室)企業統治改革の論点(上)経営の「質」高め低収益打破 伊藤邦雄 一橋大学特任教授http://keieikanrikaikei.com/wp-content/uploads/2015/04/1-e1427893099240.jpghttp://keieikanrikaikei.com/wp-content/uploads/2015/04/経営管理会計トピック1-150x150.jpg小林 友昭実務で会計ルールをおさらいROE,コーポレートガバナンス,伊藤邦雄■ 世界も認める日本企業の低ROE? ROE教のエバンジェリストである伊藤教授が、ここ最近のコーポレートガバナンスの潮流について簡潔に整理頂いておりますので、今回はその整理に乗っかって筆者自身の頭の中の情報の簡単な棚卸しもやってしまいたいと思います。 2015/4/1|日本経済新聞|朝刊 (経済教室)企業統治改革の論点(上)経営の「質」高め低収益打破 伊藤邦雄 一橋大学特任教授 (注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます 「『利益の落伍(らくご)者だった日本企業が、やっと8%のリターン(ROE=自己資本利益率)を求めることで、世界へのキャッチアップを始めた』。ある有名海外誌の昨年9月の記事の見出しである。ここには、日本の隠しようのない歴史への揶揄(やゆ)と、かつてないほどの期待が凝縮されている。」   ■ 企業統治改革の最近の流れ (1)2012年:東京証券取引所による「企業価値向上表彰」の開始 ・企業価値向上に顕著な成果を上げた企業を表彰 第1回大賞「株式会社ユナイテッドアローズ」(2012年度) 第2回大賞「丸紅株式会社」(2013年度) 第3回大賞「オムロン株式会社」(2014年度) ⇒ JPX(日本取引所グループ)の「上場会社表彰制度」のページはこちら ⇒「企業価値高める経営、オムロンに大賞 今年度、東証が表彰」 (2)2014年1月6日:「JPX日経インデックス400」の算出開始 ・量的な指標によるスコアリング スクリーニングされた1000銘柄に対して、下記のウェイトで点数づけしてランク上位を採用 ① 3年平均ROE:40% ② 3年累積営業利益:40% ③ 選定基準日時点における時価総額:20% ここにしっかり、「ROE」が判定基準に組み込まれているということです。 ⇒ JPX(日本取引所グループ)の「JPX日経インデックス400」のページはこちら (3)2014年2月:「日本版スチュワードシップ・コード」が金融庁より発表 ・機関投資家の資金供給者に対する説明責任と投資先企業との対話を促す目的で制定 ⇒ 金融庁「日本版スチュワードシップ・コードに関する有識者検討会」のページはこちら ⇒「ゼミナール 企業統治の新時代(5) 機関投資家に行動原則」 (4)2014年6月:日本国政府の日本再興戦略の発表 i)コーポレートガバナンスの強化、リスクマネーの供給促進、インベストメント・チェーンの高度化 ①「コーポレートガバナンス・コード」の策定等 新聞記事より論旨抜粋 「企業統治改革やインベストメントチェーン(投資による価値創造の流れ)の全体最適化、持続的な企業価値創造のための対話・情報開示の推進が盛り込まれた」 ⇒ 首相官邸の「アベノミクス成長戦略で、明るい日本に! ≪詳細版≫」のページはこちら (5)2014年8月:「伊藤レポート」の最終版が公表 ・持続的成長への競争力とインセンティブ~企業と投資家の望ましい関係構築~プロジェクト 新聞記事より論旨抜粋 「その特徴は、投資家と企業の双方の課題を俯瞰(ふかん)する形で、課題の整理と提言を行ったことである。 投資家側には短期主義に陥らずに、中長期投資を促し、企業側には長期にわたって低迷を続けた資本生産性(効率性)を大幅に引き上げることを提案した。その代表的な指標であるROEに焦点を当て、少なくとも資本コストを上回る8%に引き上げることが、喫緊の課題と指摘した。」 ⇒ 経済産業省「伊藤レポート最終報告」のページはこちら (6)2014年12月:コーポレートガバナンス・コードの公表 「株主の権利や取締役会の役割、役員報酬のあり方など、上場企業が守るべき行動規範を網羅したものだ。法的な強制力はないが、「Comply or Explain(同意せよ、さもなくば説明せよ)」との原則に基づき、上場企業はコードに同意するか、しない場合はその理由を投資家に説明するよう求められるようになる」 (産経ニュースより抜粋:http://www.sankei.com/economy/news/141210/ecn1412100062-n1.html) 2014/12/12|日本経済新聞|朝刊 社外取締役会議創設を 企業統治指針 金融庁と東証、きょう最終案提示 経営関与へ連携促す 「金融庁と東京証券取引所は上場企業に対し、社外取締役だけで構成する会議体を創設するよう促す。社外取締役の複数化と合わせて、12日にまとめる企業統治指針に盛り込む。役員の評価や報酬など経営陣とは話しにくい問題を自由に議論できるようにする。社外取締役が連携しやすい環境を整え、経営に積極関与できるようにする狙いだ。」 2014/12/13|日本経済新聞|朝刊 金融庁・東証が企業統治指針5原則 来年6月から適用 「金融庁と東京証券取引所は12日、社外取締役の複数化を柱にした企業統治指針をまとめた。透明性の確保など5つの原則で構成する。東証1・2部に上場する企業を中心に社外取締役を2人以上置くことや持ち合い株の狙いなどを開示するよう求める。2015年6月1日から適用する方針だ。 金融庁と東証が12日開いた有識者会議で指針案を了承した。原則は (1) 株主の権利・平等性の確保 (2) 従業員・顧客などとの協働 (3) 情報開示と透明性の確保 (4) 取締役会の責務 (5) 株主との対話――の5つだ。」 ⇒ 金融庁「コーポレートガバナンス・コードの策定に関する有識者会議」のページはこちら     ■ 「ROE」一色に染まるのも問題 新聞記事では、 「反響は思わぬところに波及した。有力な議決権行使助言機関のISSが伊藤レポートに言及したうえで、ROEという資本生産性基準を経営トップの選任基準に導入し、直近5年間の平均値が5%未満の会社のトップの選任に反対票を推奨した。トップの選任はガバナンスのいわば一丁目一番地である。そこにROEが盛り込まれた。今日の改革の背景には、こうした資本生産性に対する厳しい目があることに留意すべきである。」 というリアクションがあったことに触れています。それでは、大きな反証を持ち出しますが、「Amazon」は創業以来、約半分は赤字決算ですし、1997年のNASDAQ上場以来、無配を続けています。こういう企業にはまともな投資家は目もくれない、ということなのでしょうか? 伊藤レポートでは、投資家側には、中長期的投資を促し、企業側には、余剰資金の有効活用(資本生産性の向上)を促しています。真っ当な正論で、筆者も趣旨には賛成なのですが、そのKPIとして、「ROE」を選択し、しかも目標水準を「8%」と一律的に設定しているところは解せません。 投資家の中長期的投資判断に、過去からの内部留保が分母に算入され、しかも単年度の純利益(株主などへの分配前利益でかつキャッシュベースでもない)が分子であるROEが本当に使えるのでしょうか? そして、スタートアップ企業も、成熟企業も、競争状態が異なる市場と対峙している企業、すべて「ROE = 8%」を達成することが最低限の目標としたら、、、 そもそも「起業」ができなくなりますよね。大きな事業転換(富士フイルム、ブラザー、東レなど)にリスクを負えずに、一旦会社を清算して株主に返金して、投資家が改めて出資先を探すということを暗に言っているといらぬ誤解を生じさせる恐れもあります。マイクロファイナンスの手法もようやく認知され始めており、政府も立法の動きに向かっています。 一律、制度、規定、強制、こういうものから自由にならないと、ダイナミックな企業経営で実践できないと思います。そういう意味では、本新聞記事で伊藤教授が大変含蓄のある警句を発せられているので、その言を3つ紹介して、今回は締めさせていただきます。 「わが国の慣習はルールが作られると、それに一斉に機械的に反応しがちである。「コンプライ」ももちろん大事だが、「エクスプレイン」の開示には、その企業ないし経営者の考え方と真剣さが表れる。」 「すでに東証からも複数の社外取締役の導入が義務づけられた。確かに取締役会のなかで社外取締役が一定の割合を確保していることは、統治機能を発揮する条件でもある。だが形式要件のみを満たせば事足りるかといえば、「否」である。」 「「社外」にばかり依存するのは危険でもあり、健全でもない。ガバナンスの基本は「自律」である。「他律」はあくまでも補完である。では、「自律」の要となるのは誰か。もちろん最高経営責任者(CEO)である。」現役の経営コンサルタントが管理会計をテーマに情報発信します