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■ 東証による2014年度企業価値向上表彰

経営管理会計トピック
東証が、「上場会社表彰選定委員会」(座長:一橋大学大学院・伊藤邦雄教授)の選定結果を受け、2014 年度の企業価値向上表彰の表彰会社を決定しました。
● 大賞:オムロン
● 優秀賞:TOTO、ピジョン、東京ガス

2015/1/8|日本経済新聞|朝刊
企業価値高める経営、オムロンに大賞 今年度、東証が表彰

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

「東京証券取引所は7日、株主から調達した資金を有効に活用し、企業価値を向上させている企業を表彰する制度で、2014年度の大賞にオムロンを選んだと発表した。投資した資本に対する収益率を示す投下資本利益率(ROIC)を重視する経営を掲げ、組織全体で実現に取り組む姿勢を評価した。」
以下では、オムロンの「ROIC経営」について、公表資料ベースで解説をしてみたいと思います。
(「ROIC」についてのこれまでの関連記事はこちら)
⇒「CFO投資家に語る⑦ 三井不動産 投資余力7000~8000億円に拡大
⇒「イオンの針路(下) 財務指標に潜む警告 「稼ぐ力」伴う拡大必要
⇒「ローソンが成城石井買収 550億円、スーパー本格進出

■ 伊藤教授の表彰理由の内容について解説

以下は、
・東証のプレスリリース:「TSE_2014年度企業価値向上表彰に係る表彰会社
・オムロン社のプレスリリース:「2013年度決算報告資料」「野村CEOフォーラム2012」(PDF)
といった公開資料を用いて説明しております。
東証の表彰理由(1)
経営管理会計トピック_東証_企業価値向上表彰1
自社の資本コスト(WACC:6%)と、それをベースとした収益目標(ROE、ROIC)を、株主との対話(IR:Investor Relation)にて、明らかにしているところが評価されました。
これについては、FY13決算報告資料にて、下記のように提示されています。
経営管理会計トピック_オムロン_2014年3月期_決算報告資料_株主価値目標
東証の表彰理由(2)
経営管理会計トピック_東証_企業価値向上表彰2
投資家への結果説明だけはなく、実際に、ROICを活用して、事業ポートフォリオ管理を実践しているところが評価されました。
これについては、「野村CEOフォーラム」での説明資料にて、主要セグメントである「車載電装部品事業」について、競合他社との収益性比較分析をしている様子を垣間見せています。
経営管理会計トピック_オムロン_ポートフォリオ管理_野村CEOフォーラム2012
東証の表彰理由(3)
経営管理会計トピック_東証_企業価値向上表彰3
ROICという経営指標をブレークダウンして、各現場・各事業の目標値として設定し、全社的なROIC達成管理を実践したというところが評価されました。
これについては、「野村CEOフォーラム」での説明資料にて、「ROICツリー」が示されるとともに、各指標をどのように改善するのか、施策の勘所も合わせて記述されています。
経営管理会計トピック_オムロン_ROICツリー_野村CEOフォーラム2012
東証の表彰理由(4)
経営管理会計トピック_東証_企業価値向上表彰4
「ROIC」を掲げて経営していても、実際に業績が悪いと評価されないということで、実際にオムロンが業績を向上させていることを、主にROEを改善させている、もしくは、伊藤教授が主張している「ROE:8%以上」という水準を見たいしていることから評価されました。
これについても、FY13決算報告資料にて、下記のように提示されています。
経営管理会計トピック_オムロン_2014年3月期_決算報告資料_株主価値
ただし、企業価値が向上したということは、留意していただきたいこととして、本来は、「ROIC」が「資本コスト」を上回った分としての「企業付加価値」の代表指標である「経済的付加価値(商標の関係でここでは英語表記いたしません。EP(Economic Profit)とだけいっておきます)」が正の値になることが確認されなければなりません。
残念ながら、公開資料ではその辺は明らかになっておりません。
おそらく、実際に社内で管理されている「資本コスト」と「経済的付加価値」は秘中の秘なのでしょう。

■ (補足)ROIC云々の指標の説明

ここからは、指標の意味の説明をつらつらと続けます。ご存知の方、または細かい説明が不要な方は飛ばしてください。
オムロンは、決算報告資料で、あくまで公表用の「ROIC」を次のように定義しています。
経営管理会計トピック_オムロン_2014年3月期_決算報告資料_ROICの定義
1.投下資本の求め方
オムロンによる公開用の投下資本の定義は、下図にあるとおり、あくまで「投資家」目線のものです。
経営管理会計トピック_投資家から見た投下資本
投資家との対話用の指標ということで、債権者と株主がオムロンに資金提供した「元手」がいくらのリターンを生んだか、その分母を明らかにするためには必要十分な説明です。
しかし、前章の表彰理由(2)で明らかになったように、事業セグメントごとに「投下資本」を認識するためには、下図にあるように、貸借対照表(B/S)の借方(左側)から当該事業に使用している資産の別にあぶりだしていく必要があります。
経営管理会計トピック_経営者から見た投下資本
2.リターンが「当期純利益」でよいか
「ROIC」は、比率指標なので、分子と分母の対応が大事です。分母が、外部からの資金調達額なので、分子はそれに見合うリターン額を示すものでなくてはいけません。
実は何気に、前章理由(2)にて提示したオムロン側の資料では、「当期純利益」ではなく、「NOPAT:Net Operating Profit After Tax」を使用している節があります。
ROICは、金融資産(債権者と株主から見て)がいくらの利回りでキャッシュを生むか、金融商品に見立てて、企業の事業収益性を評価するものなので、キャッシュと金融資産価値に無関係なものは、その計算手順から排除されることになります。
非常に簡便な計算式としては、次のようなものがあります。
NOPAT = 営業利益 × (1 - 実効税率)
NOPAT = EBIT ×  (1 - 実効税率)
NOPAT = (経常利益 + 支払利息 - 受取利息) × (1 - 実効税率)
それぞれ、言いたいことはなんとなく分かるのですが、要は、「会計的利益」を中長期のキャッシュ創出力に置き換えたいということなので、さらに、
・のれん償却費
・ストックオプション費用
・資産計上されたR&D費用 など、
非現金支出費用や、制度会計ルールに縛られて、いったん資産計上されてしまったコストを現金支出のタイミング時のキャッシュアウトとして調整することがさらに必要であるということです。
なぜなら、「企業価値」算出のためには、複利計算で、リターン(将来キャッシュフローからなる数列)が資本コストで割り引かれる必要があるので、タイミングをはかることが大事だからです。
こうした、表彰制度や財務指標への関心が高まることは大変喜ばしいことです。
しかし、都合のよい数字だけが公表されたり、計算式の意味をよく理解しないで数字だけが独り歩きしたりすることは、また別のデメリットを生じかねません。
財務数字を出す方も、受ける方も、よくよく研鑽が必要だということです。

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小林 友昭会計で経営を読む■ 東証による2014年度企業価値向上表彰 東証が、「上場会社表彰選定委員会」(座長:一橋大学大学院・伊藤邦雄教授)の選定結果を受け、2014 年度の企業価値向上表彰の表彰会社を決定しました。 ● 大賞:オムロン ● 優秀賞:TOTO、ピジョン、東京ガス 2015/1/8|日本経済新聞|朝刊 企業価値高める経営、オムロンに大賞 今年度、東証が表彰 (注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます 「東京証券取引所は7日、株主から調達した資金を有効に活用し、企業価値を向上させている企業を表彰する制度で、2014年度の大賞にオムロンを選んだと発表した。投資した資本に対する収益率を示す投下資本利益率(ROIC)を重視する経営を掲げ、組織全体で実現に取り組む姿勢を評価した。」 以下では、オムロンの「ROIC経営」について、公表資料ベースで解説をしてみたいと思います。 (「ROIC」についてのこれまでの関連記事はこちら) ⇒「CFO投資家に語る⑦ 三井不動産 投資余力7000~8000億円に拡大」 ⇒「イオンの針路(下) 財務指標に潜む警告 「稼ぐ力」伴う拡大必要」 ⇒「ローソンが成城石井買収 550億円、スーパー本格進出」 ■ 伊藤教授の表彰理由の内容について解説 以下は、 ・東証のプレスリリース:「TSE_2014年度企業価値向上表彰に係る表彰会社」 ・オムロン社のプレスリリース:「2013年度決算報告資料」「野村CEOフォーラム2012」(PDF) といった公開資料を用いて説明しております。 東証の表彰理由(1) 自社の資本コスト(WACC:6%)と、それをベースとした収益目標(ROE、ROIC)を、株主との対話(IR:Investor Relation)にて、明らかにしているところが評価されました。 これについては、FY13決算報告資料にて、下記のように提示されています。 東証の表彰理由(2) 投資家への結果説明だけはなく、実際に、ROICを活用して、事業ポートフォリオ管理を実践しているところが評価されました。 これについては、「野村CEOフォーラム」での説明資料にて、主要セグメントである「車載電装部品事業」について、競合他社との収益性比較分析をしている様子を垣間見せています。 東証の表彰理由(3) ROICという経営指標をブレークダウンして、各現場・各事業の目標値として設定し、全社的なROIC達成管理を実践したというところが評価されました。 これについては、「野村CEOフォーラム」での説明資料にて、「ROICツリー」が示されるとともに、各指標をどのように改善するのか、施策の勘所も合わせて記述されています。 東証の表彰理由(4) 「ROIC」を掲げて経営していても、実際に業績が悪いと評価されないということで、実際にオムロンが業績を向上させていることを、主にROEを改善させている、もしくは、伊藤教授が主張している「ROE:8%以上」という水準を見たいしていることから評価されました。 これについても、FY13決算報告資料にて、下記のように提示されています。 ただし、企業価値が向上したということは、留意していただきたいこととして、本来は、「ROIC」が「資本コスト」を上回った分としての「企業付加価値」の代表指標である「経済的付加価値(商標の関係でここでは英語表記いたしません。EP(Economic Profit)とだけいっておきます)」が正の値になることが確認されなければなりません。 残念ながら、公開資料ではその辺は明らかになっておりません。 おそらく、実際に社内で管理されている「資本コスト」と「経済的付加価値」は秘中の秘なのでしょう。 ■ (補足)ROIC云々の指標の説明 ここからは、指標の意味の説明をつらつらと続けます。ご存知の方、または細かい説明が不要な方は飛ばしてください。 オムロンは、決算報告資料で、あくまで公表用の「ROIC」を次のように定義しています。 1.投下資本の求め方 オムロンによる公開用の投下資本の定義は、下図にあるとおり、あくまで「投資家」目線のものです。 投資家との対話用の指標ということで、債権者と株主がオムロンに資金提供した「元手」がいくらのリターンを生んだか、その分母を明らかにするためには必要十分な説明です。 しかし、前章の表彰理由(2)で明らかになったように、事業セグメントごとに「投下資本」を認識するためには、下図にあるように、貸借対照表(B/S)の借方(左側)から当該事業に使用している資産の別にあぶりだしていく必要があります。 2.リターンが「当期純利益」でよいか 「ROIC」は、比率指標なので、分子と分母の対応が大事です。分母が、外部からの資金調達額なので、分子はそれに見合うリターン額を示すものでなくてはいけません。 実は何気に、前章理由(2)にて提示したオムロン側の資料では、「当期純利益」ではなく、「NOPAT:Net Operating Profit After Tax」を使用している節があります。 ROICは、金融資産(債権者と株主から見て)がいくらの利回りでキャッシュを生むか、金融商品に見立てて、企業の事業収益性を評価するものなので、キャッシュと金融資産価値に無関係なものは、その計算手順から排除されることになります。 非常に簡便な計算式としては、次のようなものがあります。 NOPAT = 営業利益 × (1 - 実効税率) NOPAT = EBIT ×  (1 - 実効税率) NOPAT = (経常利益 + 支払利息 - 受取利息) × (1 - 実効税率) それぞれ、言いたいことはなんとなく分かるのですが、要は、「会計的利益」を中長期のキャッシュ創出力に置き換えたいということなので、さらに、 ・のれん償却費 ・ストックオプション費用 ・資産計上されたR&D費用 など、 非現金支出費用や、制度会計ルールに縛られて、いったん資産計上されてしまったコストを現金支出のタイミング時のキャッシュアウトとして調整することがさらに必要であるということです。 なぜなら、「企業価値」算出のためには、複利計算で、リターン(将来キャッシュフローからなる数列)が資本コストで割り引かれる必要があるので、タイミングをはかることが大事だからです。 こうした、表彰制度や財務指標への関心が高まることは大変喜ばしいことです。 しかし、都合のよい数字だけが公表されたり、計算式の意味をよく理解しないで数字だけが独り歩きしたりすることは、また別のデメリットを生じかねません。 財務数字を出す方も、受ける方も、よくよく研鑽が必要だということです。現役の経営コンサルタントが管理会計をテーマに情報発信します