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個人投資家 「物言う株主」に 増える総会提案、経営に緊張感 乱用懸念、運用に課題 -株主権の基本を学習してから乱用ケースを見ていきましょう!

経営管理会計トピック 実務で会計ルールをおさらい
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■ 株主提案権は立派な株主に与えられた権利のひとつ。まずは株主権を整理する!

経営管理会計トピック

新聞記事で紹介されている事例に入る前に、今回はちょっとお勉強から始めましょう。
(すぐに事例を見たい人は、3章目からお読みください)

株主に与えられている「株主権」には、大別すると、
①「議決権等」:株主総会での議決権等、会社の経営に参加する権利
②「配当受取権」:配当金等の利益分配を受け取る権利
③「残余財産分配権」:会社の解散等に際して、残った会社の資産を分配して受け取る権利
の3つがあります。

さらに、権利行使の結果が及ぼす影響範囲から、
A「自益権」:権利行使の結果が個人の利益のみに関係する
B「共益権」:権利行使の結果が株主全体の利害に影響する

という分類法もあります。上記②③の経済的利益の請求権は、典型的なA「自益権」ということになります。すなわち、「自益権」とは、直接的な経済的利益の享受を目的とする権利から構成されます。一方で、上記①は、その会社に出資する自分を含めた株主全体に影響が出るので、B「共益権」ということになります。「共益権」は、いわゆる「経営参加権(会社経営への参画を目的とする権利)」とよばれるものということになります。

最後に、「共益権」の行使にあたり、その株主の立ち位置によって、できること・できないことが分かれます。この視点から、

イ)「単独株主権」:1株(1単元株)の株主でも行使できる
ロ)「少数株主権」:一定割合以上の株式数を持つ株主でなければ行使できない

という分類もできます。

ここまでの分類を(入門者にもわかるように大雑把にかつちょっと学問的には端折って)いったん整理すると、下記のようになります。
——————————————
A「自益権」←自分のため
  ②「配当受取権」
  ③「残余財産分配権」
B「共益権」←自分たちのため
  イ)「単独株主権」
    ①-1「議決権」
     ロ)「少数株主権」
    ①-2「議決権以外」
——————————————
(参考)法律で守られている株主の権利 | 日本証券業協会

 

■ ちょっと深入り。「単独株主権」と「少数株主権」の中身を見てみる!

まずは、「単独株主権」から見ていきます。会社法的には、株式会社は、株主が所有しているもので、経営者は株主から会社経営を任されているという形態をとります。すなわちこれを「所有と経営の分離」と呼び慣わしています。それゆえ、株式会社の所有者として当然有していると思われる経営参加権は、原則として一人(一株)でも行使できることが原則なのです。それゆえ、実は「経営参加権(会社の経営に口を出す権利)」は、「単独株主権」であることが大前提です。しかし、会社側の事務負担を考慮し、その権利行使を制限するために、ある一定程度の所有株式数の保有や、ある程度の長さの保有期間の縛りを入れているものが、「少数株主権」となります。

「単独株主権」
1)株主総会における議決権(第308条1項)
2)取締役会の招集の請求(367条)
3)訴訟の提起権
 ① 会社の組織に関する行為の無効の訴え(828条)
 ② 株主総会決議取消訴訟の提起権(831条1項)
 ③ 株主代表訴訟提起権:6箇月前から継続保有する株主(847条以下)
4)差止請求権
 ① 募集株式発行差止請求権(210条)
 ② 新株予約権発行差止請求権(247条)
 ③ 略式組織再編行為差止請求権(796条)
 ④ 取締役の行為差止請求権(360条)
 ⑤ 執行役の行為差止請求権(422条):6箇月前から継続保有する株主
5)閲覧等請求権
 ① 株主名簿の閲覧・交付(125条)
 ② 取締役会議事録の閲覧・交付(371条)
 ③ 計算書類等の閲覧・交付(442条)
 ④ 貸借対照表の閲覧・交付(496条)

→基本的に、経営に口を出す議決権や、会社機関のやることをけん制すること、情報提供を求めることが主な内容になっています。

「少数株主権」
1)株主総会の招集手続等に関する検査役選任請求(306条)
 ・議決権の1/100以上の議決権を公開会社では6箇月前から引き続き有する株主
2)議題提案権、議案通知請求権(303条2項、305条)
 ・議決権の1/100以上又は300個以上の議決権を公開会社では6箇月前から引き続き有する株主
3)業務の執行に関する検査役の選任請求(358条)
 ・議決権又は発行済株式の3/100以上の数の株式を有する株主
4)会計帳簿閲覧請求権(433条)
 ・議決権又は発行済株式の3/100以上の数の株式を有する株主
5)株主総会招集請求権(297条)
 ・議決権の3/100以上の議決権を公開会社では6箇月前から引き続き有する株主
6)役員解任の訴えの提起(854条)
 ・議決権の3/100以上の議決権を公開会社では6箇月前から引き続き有する株主
7)会社解散の訴えの提起(833条)
 ・議決権又は発行済株式の10/100以上の数を有する株主
8)簡易合併等に対する反対権(796条4項)
 ・定足数ぎりぎりのもとで特別決議を否決することのできる議決権以上を有する株主

→株主個人の意見を聞いていては収拾がつかず、事務工数が多大になってしまい、通常の企業運営に支障が出る恐れのある、会社機関の動きを掣肘する権利から構成されています。

 

■ 「少数株主権」に属する「議決提案権」を個人投資家が乱用するケースを見る!

前章で列挙した「少数株主権」の中に、株主総会で取り上げる議決項目(議案)を事前・当日に提案する権利があります。

2016/3/21付 |日本経済新聞|朝刊 個人投資家 「物言う株主」に 増える総会提案、経営に緊張感 乱用懸念、運用に課題

「少数株主の意見を経営に反映させる目的で導入された株主提案権の利用が増えている。背景にあるのは権利意識に目覚めた個人株主の台頭だ。企業と株主の対話が活発になったと評価できる半面、権利の乱用ともとれる例も出てきた。企業統治の強化に生かすため、運用や制度をどう見直すかが課題になっている。」

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

上記の新聞記事の書きっぷりでは、あえて小口投資家・少数派株主という意味で、少数株主の意見を拾い上げるための「少数株主権」と読めるプロットですが、実のところは、権利濫用(「らんよう」は本当はこっちの漢字)を防ぐための、「少数」株主権だ、と読むのがここでは正解です。権利主張にはある一定の要件を必要とするという意味で。

(下記は、記事添付の株主提案が増えている状況を示すグラフを転載)

20160321_株主提案は増えている_日本経済新聞朝刊

新聞記事によりますと、
「企業の株式実務担当者でつくる全国株懇連合会(全株懇)によると、過去7年に2件の株主提案が総会で可決された。」
とあり、その1件として、
「2009年にはアデランスホールディングスに対し、米投資ファンドのスティール・パートナーズが株主提案を突きつけた。両者は取締役の選任議案を巡って対立。総会では委任状争奪戦に発展し、株主提案が可決されたことで、企業経営者に緊張感をもたらした。」
が紹介されていますが、本当は、2011年に、昭和ホールディングスで、監査役から取締役に対する善管注意義務違反に基づく損害賠賠償額の減額が可決された件、2012年には、コージツ、東理ホールディングス、ヤマダコーポレーションなどで、可決された件があります。もうちょっときちんと取材してほしいですね。(^^;)

株主提案が可決されるケースというのは、大別すると次の通りです。
1)親会社ないしは支配株主と現経営陣が対立し、最後まで経営陣が折れなかった場合
2)投資ファンドなどが委任状争奪戦を通して提案を可決する場合

上記のアデランスホールディングスは2)のケースで、昭和ホールディングスは1)のケースに当てはまります。

(参考)株主提案権制度の問題点 田中慎一(PDF形式)

 

■ 内容精査の事務負担軽減と濫用防止策の設定の目安について

「総会に付議された提案内容で最も多いのが「定款変更」で、14年度決算の総会では3分の1を占めた。なかには定款変更の形をとった非常識な提案もある。12年には野村ホールディングスが「トイレを和式に」「取締役をクリスタル役と呼ぶ」など18件の提案を総会に付議し話題になった。」

この事例はほとんど嫌がらせですね。

「すべて総会で否決されたが、提案の精査や株主への通知など会社側の負担は軽くなかった。
 東京証券取引所が上場企業に単元株の引き下げを求めていることもあり、全株懇の永池正孝理事長は「制度の見直しも必要だ」と指摘する。全株懇では(1)必要議決権の引き上げなど行使要件の厳格化(2)行使期限の前倒し(3)提案数の制限――などを求める方針。法務省が会社法改正に向け17年にも法制審議会を立ち上げるとみており、それに向けて要望書を提出する。」

こういうふざけた提案も、日本の現行制度では、内容を精査した上で、議案呈上を制限することができないので、どうしても権利行使条件の厳格化という規制の方向に流れやすい傾向にあります。

「ただ15年導入の企業統治指針(コーポレートガバナンス・コード)では企業と株主の対話の促進をうたっており、対話の重要なツールである株主提案権を制限するには慎重な議論が必要だ。
 マネックスグループの松本大社長は「株主提案権は株主にとって取締役をけん制する伝家の宝刀。安易に規制すべきではない」と唱える。乱用ともとれる提案については「何が非合理な提案なのか、類型化する議論を積み上げていくべきだ」と指摘する。」

 

■ それでは海外の議決提案権行使の制限・制約はどうなっている?

法の主旨に則り、経営者への監督・牽制の必要性から軽軽に株主による経営参加権を制約すべきではありません。しかし、総会実務担当者にとっては、そう建前ばかりも気にしていられない現実があります。海外ではその辺はどういう具合にコントロールされているのでしょうか。

2016/3/21付 |日本経済新聞|朝刊 欧米、行使ハードル高く 英、総議決権の5%以上 米、提案数や内容に制限

「株主提案権は欧米でも認められている。ただ権利行使のハードルは日本より高い。英国やドイツは総議決権の5%以上の株式の保有が求められ、1%以上の日本よりも条件は厳しい。
 米国は持ち株要件だけを見ると緩やかな印象を受ける。議決権で1%以上または市場価格で2000ドル(約22万円)以上の株式を保有していれば権利行使できる。」

従来、日本より積極的な経営参加権の行使が見られた欧米では、議案提案権についての制約が相対的に厳しくなっているようです。

「ただし提案数や内容などに制約を設けており、株主が提案できるのは1人1案で、取締役の選任や配当などの提案はできない。一方、日本は提案数に上限がなく、法令や定款に違反しなければ事実上どんな内容でも提案可能だ。」

さらに、欧米では、提案数や提案内容にも制約が課せられています。それ以上に成熟した公開株式市場の有り方がこちら。

「また日本では企業が株主提案を拒否した場合にその判断を保障する仕組みがない。訴訟のリスクを避けるため、否決を前提に総会で株主提案を取り上げるケースが多い。
 米国には証券取引委員会(SEC)が株主提案の内容を審査し、企業の判断にお墨付きを与える制度がある。全株懇はこの制度を念頭に、株主提案の内容や目的を審査する第三者機関の設置を政府に求める考えだ。」

つまり、株主提案をその内容を精査して、企業に拒否するお墨付きを与える当局による規制があることが大きな違いとなります。この規制が前提となり、訴訟手続きや、判例・法理も整備されており、先の「トイレを和式に」「取締役をクリスタル役と呼ぶ」といったふざけた提案は、内容・目的で門前払いとすることができるというわけです。

日本では、『羹(あつもの)に懲りて膾(なます)を吹く』方式で、極端にアクティビスト(物言う株主)を敬遠する風土がまだまだあります。その一方で、統計の取り方の影響もありますが、個人投資家の議決権行使比率が高い事実もあります。

⇒「(十字路)株主アクティビストの予防法 と(大機小機)時点の不一致と物言う株主 -正しい株主との付き合い方とは?
⇒「日本の個人投資家、議決権行使は米英超す3割 金融庁調べ

コーポレートガバナンス・コードと、スチュワードシップ・コードの本格的導入の2年目突入です。まだまだ成熟前の試行錯誤の時期ということでしょうか。そして、欧米の個人投資家は投資ファンドがお好みで、個別株保有の方があまり一般的ではありません。これも単純比較できない要素の一つなのですが、日本の株式市場をもっと成熟させるにはどうしたらいいか、欧米の物まねだけではどうにもいかない部分もあることをご承知おき頂きたいと思う次第であります。

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