Pocket

■ 素材産業の在庫評価損に着目(しつこいですか?)

経営管理会計トピック
前回」は、神戸製鋼のIRスタンスから、在庫評価損に関する言及もしました。今回は、同じく素材産業であるJXホールディングスの在庫評価損に関する面白い表現を取り上げます。新聞記事によると、「JXホールディングスの2015年3月期の連結経常利益は2000億円弱と前期に比べて3割強減少する見通しだ。従来予想は19%減の2450億円だった」とあり、こちらは在庫評価損により減益というメッセージになっています。

2014/10/31付 |日本経済新聞|朝刊
JX、経常益3割減 今期 原油安で在庫評価損

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

新聞記事から関連個所を抜粋すると、
「石油業界全体の精製能力の削減が奏功し、ガソリンなど石油製品の利幅は拡大したが、原油価格の急落で会計上の在庫評価損が膨らみ利益を下押しする」
- 頑張ってコスト削減によるマージン拡大に努めたが、在庫評価損により帳消しになったという論調になっています。
「原油価格が期中に下落すると、会計上の精製コストが上昇し、在庫評価損が生じる。原油の前提を10ドル引き下げることで評価損が数百億円規模で膨らむほか、海外で手掛ける石油・天然ガス開発事業の収益を押し下げる要因になる。前期は原油価格などが期中に上昇したため、1193億円の評価益が発生していた。」
- 毎期、在庫評価損益により、期間損益が影響を受けているという論調になっています。
「原油在庫の評価損を除いた実質ベースの経常利益は2500億円弱と前期比で3割強増えそうだ」
- 今度は会計上の在庫評価損まで除いた利益のことを「実質ベースの経常利益」と呼んで、実質は増益だと、説明されているようです。

■ 「いやなら在庫減らせはいいじゃん」が通じない理由

そんなに、在庫評価額の影響と期間損益に反映させるのが嫌なら、在庫圧縮すればいいのでは? と素人の筆者は、素直に疑問に思ってしまいます。そこで、ざっとJXのホームページを眺めてみると、グループ会社のJX日鉱日石エネルギーのとあるページに、「石油備蓄法」に基づき、民間備蓄は、純石油輸入量の70日分の備蓄を行うことを目標とされています、ということで、一企業の都合で簡単に在庫を削減することができない、という縛りがあることが分かりました。
JFE・神戸製鋼等のIR資料では、簡単に在庫削減に取り組んでいます、とメッセージが載っていますが、鋼材市場も流通在庫を含めると、2~3ヵ月分ぐらいの在庫は普通にあるので、素材メーカーの在庫管理担当者の苦労がしのばれます。

■ 石油会社ならではの「在庫評価影響額」の表現法

今度は、JXホールディングスのホームページに戻って、とてもわかりやすい「個人投資家向け解説ページ」に面白い表現がありましたのでご紹介します。このページには、あのCMでおなじみのエネゴリくんも登場で楽しく読めます。
その中で、原油の輸入価格の変動により、在庫評価額が当期の売上原価に影響するロジックを説明している箇所があります。当社も棚卸資産の評価方法に「総平均法」を採用しています。
以下、ホームページから抜粋です。
「原油代が上昇する局面」
期中の受入単価に期初の「割安な」在庫単価が平均される
⇒ 売上原価を押し下げ(安値在庫の染み出し)
「原油代が下落する局面」
期中の受入単価に期初の「割高な」在庫単価が平均される
⇒ 売上原価を押し上げ(高値在庫の染み出し)
そして、
「簿価切下げによる在庫影響とは?」
棚卸資産の期末時点における時価(正味売却価額)が帳簿価額を下回っている場合、評価損(在庫影響)が発生します(2008年度から強制適用)。
と、低価法の強制適用にまで触れて説明がなされています。
読んでて何が面白かったかというと、期初在庫の単価が期中の受入単価に影響するさまを「染み出し」と呼ぶところ。いかにも石油会社らしいではありませんか。おもわずにやっとしてしまいました。

■ 業績予想の根拠の明示

さすが、日本を代表する素材メーカーです。きちんと業績変動の変数とその前提条件を明確に公表しています。
例えば、2014年度第1四半期決算報告書では、
《前提条件》
為替:100円/ドル
原油:105ドル/バーレル(ドバイスポット)
銅価:320セント/ポンド
《感応度》
1円/ドル 円安 → 経常利益:+90億円
1ドル/バーレル 上昇 → 経常利益:+70億円
10セント/ポンド 上昇 → 経常利益:+40億円
と、市況変動による2014年度経常利益への影響額がきちんと説明されています。
ここまでやってくれると、投資家も安心して当社株式の売買タイミングを判断できる材料に活用できます。


<参考>
⇒「会計初心者にでもわかる原油安による在庫評価損のカラクリ

(Visited 79 times, 2 visits today)
Pocket

小林 友昭実務で会計ルールをおさらい■ 素材産業の在庫評価損に着目(しつこいですか?) 「前回」は、神戸製鋼のIRスタンスから、在庫評価損に関する言及もしました。今回は、同じく素材産業であるJXホールディングスの在庫評価損に関する面白い表現を取り上げます。新聞記事によると、「JXホールディングスの2015年3月期の連結経常利益は2000億円弱と前期に比べて3割強減少する見通しだ。従来予想は19%減の2450億円だった」とあり、こちらは在庫評価損により減益というメッセージになっています。 2014/10/31付 |日本経済新聞|朝刊 JX、経常益3割減 今期 原油安で在庫評価損 (注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます 新聞記事から関連個所を抜粋すると、 「石油業界全体の精製能力の削減が奏功し、ガソリンなど石油製品の利幅は拡大したが、原油価格の急落で会計上の在庫評価損が膨らみ利益を下押しする」 - 頑張ってコスト削減によるマージン拡大に努めたが、在庫評価損により帳消しになったという論調になっています。 「原油価格が期中に下落すると、会計上の精製コストが上昇し、在庫評価損が生じる。原油の前提を10ドル引き下げることで評価損が数百億円規模で膨らむほか、海外で手掛ける石油・天然ガス開発事業の収益を押し下げる要因になる。前期は原油価格などが期中に上昇したため、1193億円の評価益が発生していた。」 - 毎期、在庫評価損益により、期間損益が影響を受けているという論調になっています。 「原油在庫の評価損を除いた実質ベースの経常利益は2500億円弱と前期比で3割強増えそうだ」 - 今度は会計上の在庫評価損まで除いた利益のことを「実質ベースの経常利益」と呼んで、実質は増益だと、説明されているようです。 ■ 「いやなら在庫減らせはいいじゃん」が通じない理由 そんなに、在庫評価額の影響と期間損益に反映させるのが嫌なら、在庫圧縮すればいいのでは? と素人の筆者は、素直に疑問に思ってしまいます。そこで、ざっとJXのホームページを眺めてみると、グループ会社のJX日鉱日石エネルギーのとあるページに、「石油備蓄法」に基づき、民間備蓄は、純石油輸入量の70日分の備蓄を行うことを目標とされています、ということで、一企業の都合で簡単に在庫を削減することができない、という縛りがあることが分かりました。 JFE・神戸製鋼等のIR資料では、簡単に在庫削減に取り組んでいます、とメッセージが載っていますが、鋼材市場も流通在庫を含めると、2~3ヵ月分ぐらいの在庫は普通にあるので、素材メーカーの在庫管理担当者の苦労がしのばれます。 ■ 石油会社ならではの「在庫評価影響額」の表現法 今度は、JXホールディングスのホームページに戻って、とてもわかりやすい「個人投資家向け解説ページ」に面白い表現がありましたのでご紹介します。このページには、あのCMでおなじみのエネゴリくんも登場で楽しく読めます。 その中で、原油の輸入価格の変動により、在庫評価額が当期の売上原価に影響するロジックを説明している箇所があります。当社も棚卸資産の評価方法に「総平均法」を採用しています。 以下、ホームページから抜粋です。 「原油代が上昇する局面」 期中の受入単価に期初の「割安な」在庫単価が平均される ⇒ 売上原価を押し下げ(安値在庫の染み出し) 「原油代が下落する局面」 期中の受入単価に期初の「割高な」在庫単価が平均される ⇒ 売上原価を押し上げ(高値在庫の染み出し) そして、 「簿価切下げによる在庫影響とは?」 棚卸資産の期末時点における時価(正味売却価額)が帳簿価額を下回っている場合、評価損(在庫影響)が発生します(2008年度から強制適用)。 と、低価法の強制適用にまで触れて説明がなされています。 読んでて何が面白かったかというと、期初在庫の単価が期中の受入単価に影響するさまを「染み出し」と呼ぶところ。いかにも石油会社らしいではありませんか。おもわずにやっとしてしまいました。 ■ 業績予想の根拠の明示 さすが、日本を代表する素材メーカーです。きちんと業績変動の変数とその前提条件を明確に公表しています。 例えば、2014年度第1四半期決算報告書では、 《前提条件》 為替:100円/ドル 原油:105ドル/バーレル(ドバイスポット) 銅価:320セント/ポンド 《感応度》 1円/ドル 円安 → 経常利益:+90億円 1ドル/バーレル 上昇 → 経常利益:+70億円 10セント/ポンド 上昇 → 経常利益:+40億円 と、市況変動による2014年度経常利益への影響額がきちんと説明されています。 ここまでやってくれると、投資家も安心して当社株式の売買タイミングを判断できる材料に活用できます。 <参考> ⇒「会計初心者にでもわかる原油安による在庫評価損のカラクリ」現役の経営コンサルタントが管理会計をテーマに情報発信します