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■ 石油元売りや商社の減益決算発表を受けて

経営管理会計トピック
原油安による資源関連企業の減益発表記事が目につくようになりました。大抵は、棚卸資産評価損(売上原価または特別損失)、または関連固定資産の減損(特別損失)によるものです。
在庫評価損については何回か投稿しています。
⇒「神戸鋼、今期経常益 予想上回る850億円
⇒「JX、経常益3割減 今期 原油安で在庫評価損
今回は、簡単なモデルを使って、その評価損認識の仕組みをできるだけ分かりやすく説明したいと思います。

2015/1/29|日本経済新聞|朝刊
昭和シェルと東燃ゼネ、5年ぶり最終赤字に 前期 原油安で在庫評価損膨らむ

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

「石油元売り大手の業績が悪化している。昭和シェル石油は28日、2014年12月期の連結最終損益が95億円の赤字(前の期は602億円の黒字)になったと発表した。従来予想は200億円の黒字。東燃ゼネラル石油も同日午前、業績の下方修正を発表した。両社とも最終赤字は5年ぶり。原油価格急落が響き、在庫評価損が膨らんだ。15年3月期決算の同業他社にも同じような動きが広がる可能性がある。」

2015/2/4|日本経済新聞|朝刊 出光、最終赤字980億円 今期 上場以来初、原油安響く

「出光興産は3日、2014年4~12月期連結決算の発表とあわせて15年3月期業績見通しを下方修正した。最終損益で300億円の黒字を予想していたが、原油価格の急落が響き、980億円の赤字(前期は362億円の黒字)に転落する。備蓄している原油の在庫価値が目減りして1370億円の評価損が発生するほか、海外の資源開発プロジェクトでも減損損失を計上する。」

■ <第1ステップ> 棚卸資産の評価方法の選択 -「総平均法」

期末に保有している棚卸資産(在庫)がいくらの価値があるのか、その価値を評価する手順には2ステップあります。
第1ステップ: 棚卸資産の評価方法の選択
・今期保有していた棚卸資産を、「売上原価」と今期末の「在庫」に分ける
第2ステップ: 棚卸資産の評価基準の適用
・今期末の在庫の評価額が「時価」と比べて下がっていないかチェックする
それでは、第1ステップのあらましから説明します。
一般に、石油元売りを営む会社の棚卸資産の評価方法には、「総平均法」というものを使用します。
「総平均法」
① 期初に持っていた「在庫」金額と、期中に購入した「仕入」金額をいったん全て合計して、平均単価を求める
② 売り上げた数量と、期末に手元に残った在庫数量に、上記①で求めた平均単価をかけ算して、「売上原価」と「在庫金額」を求める
では、まず平均単価を求めるまでをポンチ絵にしてみました。
経営管理会計トピック_総平均法の平均単価算出
平均単価 = 価格 ÷ 数量
= (1000+800)÷(10+20)
= 1800 ÷ 30
= 60ドル/バレル
平均単価が分かったところで、「売上原価」と「在庫金額」を求めます。
経営管理会計トピック_総平均法の売上原価算出
お客様に販売するために、石油タンクから払い出された石油の金額(原価)は、
払い出し数量 × 平均単価 = 20バレル × 60ドル/バレル = 1200ドル
今年も備蓄する(在庫となる)石油の金額は、
備蓄数量 × 平均単価 = 10バレル × 60ドル/バレル = 600ドル
ここで、石油元売り会社としては、(至極真っ当ですが)言い訳として、「石油備蓄法」の縛りが無ければ、今年お客様に販売する石油は、今年仕入れ先から購入してくれば済む話なので、「平均単価:60ドル/バレル」でなく、今年購入した石油の購入単価:40ドル/バレルが真の実力値の売上単価なのだと考えた場合、
今年の実力としての売上原価 = 20バレル × 40ドル/バレル = 800ドル
と主張できるので、制度会計上の「総平均法」による1200ドルは、実力値より400ドル分だけ割高、すなわちその分、売上総利益額が下がっている、というわけです。
これが、管理会計上の「たられば」的なひとつめの「在庫評価損」。

■ <第2ステップ> 棚卸資産の評価基準の適用 -「低価基準」

さらに、「在庫」として期末時点の貸借対照表に「棚卸資産」として、資産計上する金額は、前章で求めた600ドルに、そのまま機械的になるわけではありません。もうひとつハードルがあります。
「低価基準」という考え方で、「いったん計算された在庫評価額」>「時価」の場合、
「時価」まで、在庫評価金額を切り下げる必要があります。
本日は基本の説明なので、「時価」の求め方については説明を省略します。ここではごく簡単に、「お客様に売れる真っ当な価格」とだけ考えておいてください。
そこで、お客様に売ることができる真っ当な「時価」の推移は下図のように考えます。
経営管理会計トピック_在庫評価のための時価
第1ステップで、期末在庫の金額を「総平均法」による平均単価で、いったん@60ドルと計算したので、在庫評価額を「600ドル」と仮置きしましたが、この在庫(今年の備蓄分)が本当に売れるのはずっと先の時点になります。
この時、来年以降のいざ、お客様に販売しようと思ったタイミングの予想原油価格が@40ドルと、今期末時点で当たりがついている場合、在庫評価額「600ドル」を予想原油価格@40ドルで再評価した金額に置き換える必要が出てきます。
「低価基準」による在庫再評価金額は、
備蓄数量 × 予想原油価格 = 10バレル × 40ドル/バレル = 400ドル
一旦仮置きしていた600ドルとの差分である200ドルは、「低価法評価損」として、「売上原価」に算入する必要があります。
これが、現在の制度会計上の正式なふたつめの「在庫評価損」「棚卸資産評価損」の正体です。
ただし、実務として、将来の販売予想時点の予想販売価格が分からない場合は、期末時点の時価を使うことも通常に行われています。詳細は、「決算発表資料」「IR説明資料」などで確認する必要があります。
また、「低価法評価損」は、きちんと通常の売上原価と分別して、科目表記するか、注記で内訳が分かるように、投資家に報告する必要があります。
如何でしたでしょうか。
最近何かと話題の原油安による在庫評価損の考え方、理解いただけたでしょうか。

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小林 友昭実務で会計ルールをおさらい■ 石油元売りや商社の減益決算発表を受けて 原油安による資源関連企業の減益発表記事が目につくようになりました。大抵は、棚卸資産評価損(売上原価または特別損失)、または関連固定資産の減損(特別損失)によるものです。 在庫評価損については何回か投稿しています。 ⇒「神戸鋼、今期経常益 予想上回る850億円」 ⇒「JX、経常益3割減 今期 原油安で在庫評価損」 今回は、簡単なモデルを使って、その評価損認識の仕組みをできるだけ分かりやすく説明したいと思います。 2015/1/29|日本経済新聞|朝刊 昭和シェルと東燃ゼネ、5年ぶり最終赤字に 前期 原油安で在庫評価損膨らむ (注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます 「石油元売り大手の業績が悪化している。昭和シェル石油は28日、2014年12月期の連結最終損益が95億円の赤字(前の期は602億円の黒字)になったと発表した。従来予想は200億円の黒字。東燃ゼネラル石油も同日午前、業績の下方修正を発表した。両社とも最終赤字は5年ぶり。原油価格急落が響き、在庫評価損が膨らんだ。15年3月期決算の同業他社にも同じような動きが広がる可能性がある。」 2015/2/4|日本経済新聞|朝刊 出光、最終赤字980億円 今期 上場以来初、原油安響く 「出光興産は3日、2014年4~12月期連結決算の発表とあわせて15年3月期業績見通しを下方修正した。最終損益で300億円の黒字を予想していたが、原油価格の急落が響き、980億円の赤字(前期は362億円の黒字)に転落する。備蓄している原油の在庫価値が目減りして1370億円の評価損が発生するほか、海外の資源開発プロジェクトでも減損損失を計上する。」 ■ <第1ステップ> 棚卸資産の評価方法の選択 -「総平均法」 期末に保有している棚卸資産(在庫)がいくらの価値があるのか、その価値を評価する手順には2ステップあります。 第1ステップ: 棚卸資産の評価方法の選択 ・今期保有していた棚卸資産を、「売上原価」と今期末の「在庫」に分ける 第2ステップ: 棚卸資産の評価基準の適用 ・今期末の在庫の評価額が「時価」と比べて下がっていないかチェックする それでは、第1ステップのあらましから説明します。 一般に、石油元売りを営む会社の棚卸資産の評価方法には、「総平均法」というものを使用します。 「総平均法」 ① 期初に持っていた「在庫」金額と、期中に購入した「仕入」金額をいったん全て合計して、平均単価を求める ② 売り上げた数量と、期末に手元に残った在庫数量に、上記①で求めた平均単価をかけ算して、「売上原価」と「在庫金額」を求める では、まず平均単価を求めるまでをポンチ絵にしてみました。 平均単価 = 価格 ÷ 数量 = (1000+800)÷(10+20) = 1800 ÷ 30 = 60ドル/バレル 平均単価が分かったところで、「売上原価」と「在庫金額」を求めます。 お客様に販売するために、石油タンクから払い出された石油の金額(原価)は、 払い出し数量 × 平均単価 = 20バレル × 60ドル/バレル = 1200ドル 今年も備蓄する(在庫となる)石油の金額は、 備蓄数量 × 平均単価 = 10バレル × 60ドル/バレル = 600ドル ここで、石油元売り会社としては、(至極真っ当ですが)言い訳として、「石油備蓄法」の縛りが無ければ、今年お客様に販売する石油は、今年仕入れ先から購入してくれば済む話なので、「平均単価:60ドル/バレル」でなく、今年購入した石油の購入単価:40ドル/バレルが真の実力値の売上単価なのだと考えた場合、 今年の実力としての売上原価 = 20バレル × 40ドル/バレル = 800ドル と主張できるので、制度会計上の「総平均法」による1200ドルは、実力値より400ドル分だけ割高、すなわちその分、売上総利益額が下がっている、というわけです。 これが、管理会計上の「たられば」的なひとつめの「在庫評価損」。 ■ <第2ステップ> 棚卸資産の評価基準の適用 -「低価基準」 さらに、「在庫」として期末時点の貸借対照表に「棚卸資産」として、資産計上する金額は、前章で求めた600ドルに、そのまま機械的になるわけではありません。もうひとつハードルがあります。 「低価基準」という考え方で、「いったん計算された在庫評価額」>「時価」の場合、 「時価」まで、在庫評価金額を切り下げる必要があります。 本日は基本の説明なので、「時価」の求め方については説明を省略します。ここではごく簡単に、「お客様に売れる真っ当な価格」とだけ考えておいてください。 そこで、お客様に売ることができる真っ当な「時価」の推移は下図のように考えます。 第1ステップで、期末在庫の金額を「総平均法」による平均単価で、いったん@60ドルと計算したので、在庫評価額を「600ドル」と仮置きしましたが、この在庫(今年の備蓄分)が本当に売れるのはずっと先の時点になります。 この時、来年以降のいざ、お客様に販売しようと思ったタイミングの予想原油価格が@40ドルと、今期末時点で当たりがついている場合、在庫評価額「600ドル」を予想原油価格@40ドルで再評価した金額に置き換える必要が出てきます。 「低価基準」による在庫再評価金額は、 備蓄数量 × 予想原油価格 = 10バレル × 40ドル/バレル = 400ドル 一旦仮置きしていた600ドルとの差分である200ドルは、「低価法評価損」として、「売上原価」に算入する必要があります。 これが、現在の制度会計上の正式なふたつめの「在庫評価損」「棚卸資産評価損」の正体です。 ただし、実務として、将来の販売予想時点の予想販売価格が分からない場合は、期末時点の時価を使うことも通常に行われています。詳細は、「決算発表資料」「IR説明資料」などで確認する必要があります。 また、「低価法評価損」は、きちんと通常の売上原価と分別して、科目表記するか、注記で内訳が分かるように、投資家に報告する必要があります。 如何でしたでしょうか。 最近何かと話題の原油安による在庫評価損の考え方、理解いただけたでしょうか。現役の経営コンサルタントが管理会計をテーマに情報発信します