本格的リニューアル構想中のため、一部表示に不具合があります m(_ _)m

制管一致について(1)その前に制制一致の問題があります!

所感
この記事は約6分で読めます。

■ 「制管不一致」の前に「制制不一致」を考える

コンサルタントのつぶやき

様々なクライアントにおいて、管理会計の仕組み構築のお手伝いをしていると、「制管一致」とか、「制管差の可視化」というテーマを頂戴することが少なからずあります。管理会計屋としては、精緻な分析ロジックを駆使して、「一致」や「差異」を管理可能なものにしていくことに、テクニシャンとしての喜びは感じるのですが、そもそも、「なぜ管理会計数値と制度会計数値の乖離が発生するのか?」場合によっては、「わざわざ制度会計とは違うルールで計算した管理会計の数値と、制度会計数値の差異をなぜ気にするのか?」という疑問を頂きながら、リクエストされた仕事をただ黙々と行うことは少なくありません。

標題に(1)と付けていることは、このテーマについて複数回の投稿を想定していることがバレバレですが、この本題に入る前に、1回目は、「制度会計」同士の「差異」について、筆者の見解を整理して、皆様にお伝えしたいと思います。「そもそも論」を目にすると、通常業務で当たり前だと思っていたことが、実は当たり前ではなかったことに気付き、愕然とすることがあるかもしれませんよ!

■ 「制度会計」同士が不一致を引き起こす原因とは?

昭和24年7月9日に設定され、最終改正が昭和57年4月20日という「企業会計原則」という日本の会計界における憲法みたいな文章があります。昭和24年って、西暦に直すと1949年、なんと日本が主権を回復する2年前、まだGHQの統制を受けていた頃のものです。ここに、「一般原則」というものがあり、その7つ目の条項が次になります。

[単一性の原則]
七 株主総会提出のため、信用目的のため、租税目的のため等種々の目的のために異なる形式の財務諸表を作成する必要がある場合、それらの内容は、信頼しうる会計記録に基づいて作成されたものであって、政策の考慮のために事実の真実な表示をゆがめてならない。

日本の制度会計は、大きく分けると、3つの会計制度(準拠する法規)に分かれます。

1.会社法(旧商法)による制度会計
株主総会、取締役会、会計監査などで、数字が確認・裏付けされる「決算公告」による外部公開がなされる財務情報。非上場会社も含む、およそ日本で経済活動をする法人ならば全ての企業体が準拠しなければならない会計ルールで、主に、「債権者」保護を主眼としながら、「株主」との利害調整を目的としたもの。

2.金融商品取引法(旧証券取引法)による制度会計
ごく簡単に説明すると、株式や社債を上場して、不特定多数の投資家から資金調達をしたい企業が、財務情報を公開する時に準拠しなければならない会計ルールで、通常は「有価証券報告書」による外部公開がなされる財務情報。主に、投資家による投資意思決定に資する情報開示を目的としたもの。「所有」と「経営」の分離を前提に、「一般投資家」と「経営者」間の利害調整に焦点を当てています。

3.法人税法による制度会計
「損金経理」とか「確定決算主義」とかの用語がよく使われるのですが、法人税申告書を作成する際に、損金(会計でいう費用又は損失)という課税所得から引けるものをきちんと計上された金額で財務情報を作成することを指示している会計ルールで、国税当局がいくらの法人税を課するかを決めるための元資料となる財務情報です。

会社法決算数値と金商法決算数値は、ほぼほぼ、実質も表記上も現在は相違が無くなりつつあります。ですので、企業の報告事務負担の軽減を目的として、開示財務報告資料のフォーマットの統一に対する議論が現在進行中です。有名な所では、「当期利益」と「当期純利益」の表記の違いや、「単体決算」か「連結決算」かの違いがあったのですが、現在の大きな違いは、金商法の方だけが、「キャッシュフロー計算書」の開示を求めているぐらいです。おっと、これが大きな差異で無視し得るものでは無かったですね。

前2者と税法会計とでは、まだまだ会計実務上の大きな差異、もしくは調整が存在します。税法の方では、その会社の経営実態を問わず、一律に、「減価償却費」「評価損」等の限度額を決めているので、中小企業・零細企業では特に、税務の限度額で財務諸表をつくってしまって、無理やり「単一性の原則」を事務負担軽減の観点から実践してしまうことがあります。この場合は、「制制差異」は発生しないのですが、税務に縛られない場合の本当の損益を求めようとすると、それは別の管理帳票(ここで管理会計が登場するわけですが)で、その実態損益を経営者が把握する必要が生じます。

だったら、会社法・金商法準拠で経営実態に沿った会計帳簿を作成し、税務申告では、別表などの申告調整(法人税申告書上で、会計的利益から課税所得への調整計算を行うこと)を行う方が、制度会計の財務諸表体系としては一貫性が保たれます。この時、2つの問題が別途発生します。

【問題1】
経営者が公開財務諸表と、税務申告書上での財政状態・企業業績の乖離を理解することが困難。そもそもこういう差異が発生していることに気付いていないことの方が多い。

【問題2】
公開される財務諸表に記載される税務申告値との差異を「税効果会計」として表記するも、その計算メカニズムが難しくて、理解することが困難。発生主義と現金主義の違い、永久差異と一時差異の違いなど、そもそも解読不能な経営者が多数と思われます。

■ 「制制差異」をどう治めるか?

「税効果会計に係る会計基準」が平成10年(1998年)に設定され、経営者や一般投資家は、会社法または金商法で公開される財務諸表だけを見ていれば、課税所得を基礎とした法人税等の額がいい感じに発生主義に基づいて、期間損益に調整された後の「当期純利益」情報を手にすることができるようになりました。しかし、このことは、「税金コスト」まで、実際のキャッシュアウト(当局に実際に支払う税金)ベースでなく、会計的費用として期間按分された後の「当期純利益」だけで、経営判断や投資判断をさせることになり、ますます会計的な「期間損益」と「現金収支(キャッシュフロー)」との乖離を大きくさせることを意味します。

「キャッシュフロー計算書」に「法人税等の支払額」とあるのは、現金主義に基づく、実際支払額であって、「損益計算書」にある「法人税等」の金額とは異なってしまいます。現在の経営者は、当期の企業業績を測定する方法として、3つのツールを、制度会計から与えられています。

① 「損益計算書」のボトムラインである「当期純利益」
② 「キャッシュフロー計算書」による「現金及び現金等価物の増減額」
③ 「貸借対照表」による「利益剰余金」の前期からの増減額

そして、これら3つの数字は一致することが理論上あり得ませんし、実際上も不一致が当たり前になっています。しかし、企業経営者たるもの、経理スタッフに、制管不一致の理由を報告させる資料を求める前に、制度会計上の、どの数値を当期の業績数値として理解するのか、会社法・金商法会計(会計的損益)と税務会計(課税所得)の違いの発生理由をどこまで自己の経営判断に生かすのか、そして、当期業績の指標として、上記①~③のどの数字を採用するのか、について、今一度、沈思黙考して頂きたいと思います。

そこからでしょ、制管不一致をことさら経理スタッフに問う前に。

次回は、タックスプランニング、IFRS等の会計基準差異など、引き続き、「制制差異」のお話です。その先ですね、本題の「制管差異」のお話に入れるのは。。。まあ、そう焦らずに、もうしばらく筆者の戯言にお付き合いください。(^^;)




コメント