トレンド分析(1)BBレシオ - 個別受注型企業の販売モデルを理解する

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■ 受注産業では、受注が売上の先行指標になり得ます

継続的なビジネスを営んでいるうえで、自社の受注-生産-販売のトレンドを時系列に並べて眺めると、足下の業績水準と将来の業績予想をある程度、複雑な統計手法を使用せずとも過去トレンド情報から類推することができます。その代表格のひとつが今回紹介する「BBレシオ(Book-to-Bill Ratio)」です。

「BBレシオ」とは、出荷額(billing)に対する受注額(booking)の割合を示しています。

BB Ratio =受注額 ÷ 出荷額

この指標が1を超えるということは出荷額よりも受注額のほうが多いことを意味し、自社の業績の先行きが明るいことを示唆していると解釈することができます。逆に、この指標が1を割っていれば、出荷額よりも受注額が少ないことを意味し、自社業績の先行きが悪化する可能性を知らせてくれます。

こうした、「受注額」と「出荷額(≒売上額)」を比べることで収益性のトレンド分析の重要性が高まるビジネスモデルの特徴は、受注額の変動が、来るべき売上額の変動の先行指標になり得る業態に限ります。つまり、製造業で言えば、「個別受注生産」形態だったり、BtoB市場で顧客との販売契約が実売の前に必ず存在する業態となる、流通業やサービス業でも活用可能な指標です。

中でも、「シリコンサイクル」といって、半導体業界の景気サイクルは有名で、過去40年近くに渡ってほぼ4年ごとに浮き沈みを繰り返していることが観察されています。理由はいろいろ語られていますが、

① 新しい世代の製品が登場すると、各社そろって大型の設備投資を進めるため、需要と供給のギャップが急激に広がり、値崩れが発生しやすくなる
② コスト競争を優位に進めるために、他社に先駆けて新世代製品を大量生産する必要があるため、突発的な供給過剰状態に陥りやすくなる

というのがこのシリコンサイクル発生の原因と言われています。こうした業界を挙げての動機的な景気変動が起きえるのは、テクノロジーの進歩が急激で業界を挙げてスピード競争に陥っていること、技術的競争優位が同質的な争いになっていることが背景にあります。それゆえ、どうしても製品の世代交代の時期に急激な需給のアンバランスが発生し、好況と不況をほぼ一定のサイクルで繰り返してしまうのです。

 

■ 半導体製造装置業界団体が公表を取りやめても重要な指標であり続ける理由とは?

このBBレシオを観察しながら、自社の開発戦略を練り、競合他社との販売競争で相手を出し抜こうと頭をひねっているのが、半導体製造装置業界です。その業界でちょっとショッキングな出来事がありました。

2017/3/3付 |日本経済新聞|朝刊 北米BBレシオの公表中止 半導体装置、投資家に戸惑い

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

「半導体製造装置の需給を示す「BBレシオ」の北米版の公表が取りやめとなり、投資家に戸惑いが広がっている。株価の先行きを占う先行指標として活用されてきたが、突然の中止に「重要な判断材料がなくなった」(国内運用会社)との声が出ている。」

「BBレシオは、3カ月平均の半導体装置の受注額を販売額で割って算出する。半導体メーカーの投資動向をタイムリーに反映するとされてきた。国際業界団体のSEMIが毎月下旬に前月分を開示していたが、今年1月分は発表しなかった。一部の北米装置メーカーがデータを出さなかったためとされる。」

ご参考まで、SEAJ(日本半導体製造装置協会)が公表している「BBレシオ(Book-to-Bill)速報値(3ヶ月平均) 半導体製造装置(日本製)2017年1月度」から、BBレシオ表を抜粋したものを引用します。

20170312_BBレシオ(Book-to-Bill)速報値(3ヶ月平均) 半導体製造装置(日本製)2017年1月度

一般社団法人 日本半導体製造装置協会/統計資料一覧

この表からは、2016年9月に底を打ち、10月以降は市場が好転しているのが分かります。半導体製造装置のBBレシオは業界全体の3カ月平均の受注額を、同期間の出荷額で割って求めており、移動平均的な市場トレンドが分かりやすくなっています。こうした動きから、半導体製造装置業界に位置する企業の決算発表において、サプライズが大きくなり、株価の値動きが大きくなるのではないかと心配されています。

BBレシオといえば、ある意味、「半導体BBレシオ」とも呼ばれ、半導体業界を代表する指標ですが、冒頭でも説明した通り、売上(販売)の前に受注行為が必ずある業態ならば、半導体に限らず、その先行指標としての有効性は十分にあると考えられます。そして、どうせ自社の分析で用いるなら、商品別の細かいセグメントで、そして3か月平均と言わず、月単位で市場動向を追うためにも有効なツールとなり得ます。

 

■ 受注生産業態にある企業の販売モデルの理解を深める

言葉だけで、「受注」は「売上(販売)」の先行指標、というフレーズを繰り返しても、この指標の有効性への理解度が深まらないと面白くないので、受注産業のビジネスモデルを簡単なチャートで図解することにします。

財務分析(入門編)_受注産業の販売モデル

(1)短期製造L/T調整
受注してから、自社内で設計・調達・製造という供給活動が顧客にお約束した納品日までを、製造L/T(リードタイム)といい、自社の都合だけでいえば、この期間は長ければないほど、製造の構えを用意するには有利です。一方で、これが長くなると、市況品などを材料に使用する場合は、原材料費の価格変動リスクを自社が負う可能性も大きくなり、一概に長い方がいいとは限りません。

(2)受注-売上ギャップ
これが今回の本題。売上が計上されるタイミングは、その企業が採用している収益認識基準に依存します。得てして、受注型ビジネスにある企業が取り扱っている製商品は、出荷しただけで、使用可能になるケースは少なく、顧客がそれを使用する現場にまでお届けし、使えるように据置・稼働準備サービスを付加し、ボタンを押すだけで正常に動き始めるところまで保証し、顧客がそれを書面で確認する「検収」まで終わらないと、会計上の売上とならないケースが多くあり、このギャップが長くなる傾向があります。それゆえ、複数会計期間(少なくとも四半期決算は頻繁にまたぐでしょう)を挟んで、受注と売り上げのタイミングが期ズレを起こしがち。だからこそ、受注は売り上げの先行指標となり得るのです。

(3)資金回収期間
これも、厳密には、プリセールス・コストから積算して、契約ひとつずつの採算分析をするルールになっていれば、販促活動を始めた時から、顧客から代金を回収する期間までが、分析対象期間となります。しかし、全ての販促活動が成就して、100%受注になるわけではなく、そのいくつかは(大半は)失注してしまうことでしょう。それゆえ、受注日から、回収日までを、資金回収期間と設定して、この期間を短くすることで、自社の資金繰りを改善するような仕掛けを考えるのに利用することがあります。

 

■ 実際に半導体製造装置業界のBBレシオを観察してみる!

それでは、実際に半導体製造装置産業から、東京エレクトロンを代表選手として、BBレシオを見てみましょう。ここでは個別企業の財務分析として、単年度値でBBレシオを算出していきます。自社分析ならば、月次情報の方が速報性があって尚可です。

20170312_東京エレクトロン_BBレシオ

上記グラフをご覧ください。BBレシオがほぼ4年サイクルで底を打っているのがおわかりでしょうか。シリコンサイクルが存在している様子を窺い知ることができます。ではグラフを読み込んでいきます。最も変動が激しかったリーマンショック後のFY07~09に注目してください。FY07は過去に無い受注高を得ることができ、BBレシオも1.25に上昇しました。同時に、受注残も4000億円を超え、来期(FY08)は好決算が期待できます。では、FY08の数字はどうでしょうか?当期純利益が1000億円を超え、好決算といえます。しかし、足元のBBレシオが0.69と1倍を切り、受注残は1846億円と前年の半分以下に急減し、来期業績に暗雲が垂れ込めているのが手に取るようにわかります。低調なFY08~09のBBレシオはそのまま翌年度のFY09~10の赤字決算の先行指標として、十分に役目を果たしていませんか?

BBレシオが1倍を切った翌年は全てが対前年度比で減益になっています。逆に、減益で前年のBBレシオが1倍以上だったのが、FY06とFY12だけです。12年間で減益が計6回。その内、BBレシオが1倍未満だったのが4回になります。BBレシオの翌年度減益予想の的中率は、66.7%。当然、自社分析なら月次単位で行われているはずで、減益決算を回避しようと様々な対策(裁量固定費の削減など)が打たれたはずですが、その対策結果後でも3分の2は当たっている。これが公表されなくなると、上記の新聞記事が指摘しているように、決算サプライズの影響が大きくなるかもしれません。(^^;)

(注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です。

財務分析(入門編)_トレンド分析(1)BBレシオ - 自社の販売モデルを理解する

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