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アップルとアマゾンの財務分析比較 借金上手と成長上手!?

管理会計_アイキャッチ 財務分析(入門)
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財務分析と総選挙の相似性

財務分析を行うときは、企業を多様な面から同時に見る必要がありますが、一つの特徴にだけ注目が行き過ぎて、他の論点が見えなくなるという意味では、シングルイシューだけで政権が選ばれるがちな総選挙と非常に性質が同じところがあります。

日本においては、2005年9月11日に行われた第44回衆議院議員総選挙、別名郵政選挙しかり、 2019年12月12日に行われたブレグジット(Brexit)の是非が問われた英国総選挙しかり。人は、分かりやすい一つだけの判断基準だけに頼って意思決定したほうが楽なので、ある程度は仕方ないかもしれません。

今後、私たちは一層これらのステレオタイプに依存するようになるはずです。私たちの生活に降りかかる刺激がますます複雑さと多様さを増しているため、思考の近道にもっと頼る以外には、対処のしようがないのです。

ロバート・B・チャルディーニ著『影響力の武器[第三版]: なぜ、人は動かされるのか』P13

しかし、財務分析は、判断の結果、重大な決断を迫られることが多いので、できるだけ多面的に企業の数字(KPI: Key performance indicators)を分析する力を養っておいたほうがよさそうです。

GAFAそれぞれの財務分析比較

先日の日本経済新聞に次のような、GAFAとして現在、地球規模で影響力を行使している世界的企業に対する財務分析についての記事が掲載されていました。

インターネットの巨人、グーグル(アルファベット傘下)とアップル、フェイスブック、アマゾン・ドット・コムの頭文字をとったGAFAは日本の投資家にもより身近になりつつある。財務内容から4社を分析すると、アップルが自己資本よりも借金が多い企業である点など、戦略の違いが浮き彫りになった。

2019/12/4|日本経済新聞|朝刊|アップルは「借金上手」 自己資本上回る有利子負債 自社株買いに充当

 

GAFA4社について、記事中で言及されている財務分析結果を下記にサマリします。

  1. アップル
    • 大規模な株主還元の原資となる高い純利益率と、営業キャッシュフローの5年平均はGAFA平均の2倍
      • 売上高の過半を占めるiPhoneが製造を外部に委託する「ファブレス」のため
    • 有利子負債と支払利息はGAFA平均の3倍
      • 低利の借入金で自己株消却したため、ROEは12年の43%から前期に56%まで上昇
  2. アマゾン
    • 研究開発費は18年12月期に約3兆2000億円と世界首位
      • 資金を先行投資に振り向け続けているため
  3. アルファベット(グーグル)
    • 設備投資と有価証券の取得が目立つ
      • 「ユーチューブ」をはじめ膨大なデータの蓄積を支えるデータセンターへの設備投資 やベンチャー投資に積極的なため
  4. フェイスブック
    • 売上高の5年平均の成長率は約5割
      • 売上高が約6兆円(18年12月期)とアップル(約28兆円)などに比べてまだ小さいのでトップラインが伸びやすい

上記の各社に対する財務分析において、挙げられている数字は客観的な事実なのですが、分析視点が異なると、ここまで解釈が大きくぶれるのかと不思議でなりません。^^;)

次章では、特に筆者の目に奇異に映ったアップルとアマゾンの財務分析について、筆者独自の見解を添えたいと思います。

アップルのファブレス戦略は高い生産技術の提供に秘密あり

ファクトセットのデータもいいですが、アップル(AAPL)とアマゾン(AMZN)は、もちろん、Nasdaqに上場しているので、その気になれば、開示されている財務諸表(10-K)を使って、大体のことは自分の手で確認することができます。

アップルは、ファブレスで製造を外注しているから利益率が高い、という説明はややもすると誤解を招きかねないものかもしれません。外注に出すと製造コストが全くかからないのではなく、内製に比べてコストを圧縮できる余地がある、というだけことです。この「だけ」を実践する力が必要なのはその通りなのですが、、、

2019/12/19|日本経済新聞|朝刊|iPhone、インド生産拡大 新モデルも、中国集中を回避

BEPS(税源浸食と利益移転)の観点から、人件費や設備投資が安く上がる国・地域に生産拠点を移して、本来負うべきコストとの差額を利益に変えることを、ロケーション・セービングと呼び、移転価格税制上、生産国と本社が立地する国のどちらで課税するのが適切かという論点があります。

一度、ロケーション・セービングによる利益体質を是としてしまうと、上記記事のように、さらにコスト削減できる生産地を求めて世界中を放浪することになります。生産拠点を一箇所に留めることができないからこそ、外注-ファブレスという生産機能戦略を採らざるを得ないという逆説がここに生まれるわけです。

その代償として、高い生産技術を維持するために、アップルは生産委託先に対して、生産技術の指導を積極的に行っています。決して、ファブレスだから、当然支払うべき製造コストを生産委託先に付けているのではありません。

下記では、アップルの製造委託先(外注先)に対する生産技術支援に触れています。

純利益に見るアップルとアマゾンの財務戦略の違い

企業のキャッシュフローは、B/Sの資産側(借方)で営まれる「ビジネス・キャッシュフロー」と、負債・資本側(貸方)で営まれる「ファイナンシャル・キャッシュフロー」の二重らせん構造になっています。

経営管理会計トピック_2重のキャッシュフロー

貸方にて、自己資本を有利子負債に置き換えることで、加重平均資本コスト(WACC)を下げたり、分母を小さくすることでROEを改善することができるのは、借方にて、安定的なキャッシュ・インフローが見込めるからこそです。

日本では、安定的な現金売上が定期的に見込まれているということで、JR東日本ソフトバンク(SBGの方ではない)といった、鉄道・通信業界の有利子負債比率が高位にあることはよく知られています。

アップルもこれら日本企業と同様、iPhoneという安定的なキャッシュフローを供給してくれるビジネスがあるからこそ、高い負債比率でいられるわけです。

それでは、アマゾンはECにて競争的優位に立っているのに、安定期なキャッシュ・イン・フローは見込めていないのでしょうか。実はそうではありません。これはこれで問題視されているのですが、アマゾンは、積極的にプロフォーマ情報として、フリー・キャッシュフローを開示しています。

アマゾンは稼いだキャッシュフロー以上に、新規投資にお金を振り分けて、株主への配当はまだ行っていない徹底ぶりなのです。しかし、ここでは配当だけが株主に報いる手段ではないことに留意する必要があります。

税金を払って配当するか、それとも株式分割で報いるか

広く、株式の価値評価として、「グロース株」「バリュー株」という分類法があります。

「グロース株」と「バリュー株」 | いま聞きたいQ&A | man@bowまなぼう

一般的には、イメージ先行で、アップルはグロース株(成長株)と思われがちですが、前章で提示した通り、アマゾン他のGAFAと異なり、売上成長はむしろ成熟しているといえます。

成長期待が株価伸長をもたらし、株式売却益(+株式分割)というキャピタルゲインで株主に報いるか、高配当をもたらし、高い水準のインカムゲインでもって、バリュー株として株主に報いるか、株主還元の方法はこの2つに大別されます。

貸借対照表(B/S)には貸借の二面性があるので、事業戦略の結果もたらされるビジネス・キャッシュフローと、財務戦略からもたらされるファイナンシャル・キャッシュフローがきちんと整合が取れている必要があります。

アップルは、安定的なビジネス・キャッシュフローを使って自己株消却と高配当で総還元性向を高める戦略を採用し、アマゾンは、ビジネス・キャッシュフローを用いた先行投資で成長を買うという戦略を採用しています。どちらが優れているというわけではなく、株式アナリストはこの2社に対して、この記事を書いている時点では、どちらにも「strong buy」という見立てを出しています。

ここから、アマゾンは、利益計上して法人税を米国政府に支払うぐらいだったら、同額を使って狙いを定めた企業を買収するのにお金を使うことを、ベゾズの好みで選択しているという戦略的選択にすぎないことが分かります。

この戦略的選択は、徹底的に企業価値を高めるためには、複利効果を最大限に引き出すことだ、という首尾一貫した主張を続けるバークシャー・ハサウェイウォーレン・バフェットの良しとするところです。

今回は、財務分析の結果をどう自分の理解に引き付けるために、どう解釈するかという視点より、出たきた分析結果をどう解釈したら、企業の事業戦略と財務戦略を理解できるかという視点が大事ということを、具体例を示してお話しできたと思います。

アマゾンのベンチャー企業や競合他社の爆買いの裏にある秘密については、また別の機会にお話したいと思います。

(注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、過去及び現在を問わず、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です。

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