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業績管理会計の基礎(1)業績管理会計のポジショニングと「分類」と「比較」の重要性

業績管理会計(入門)
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■ 管理会計で大事なのは、「分類」した後の「比較」である!

管理会計(基礎編)

今回から、「業績管理会計(入門編)」シリーズを開始します。「会計」の世界は大別して、「制度会計(財務会計)」と「管理会計」の2つの世界にまず分かれます。「業績管理会計」は、「管理会計」の一領域という位置づけです。

有識者による「会計」や「管理会計」領域の分類は、有識者の数だけこの世に存在します。そして、筆者は「分類」について他者と争うことは本意ではありませんので、決してそういう議論に立ち入ることはしません。例えば、「動物」と「植物」の違いは何でしょうか。細胞壁があるとか、光合成をするとか、活発に動くことができるとか、様々な定義があります。どうしても、何かと何かを区別するのにある特徴の有無で判断する場合、必ず「例外」が発生します。例えば、「ミドリムシ」は、鞭毛で活発に動き回ることができますが、一方で光合成も行えます。そういうわけで、「動物」「植物」の二元論ではなく、諸説ありますが、「五界説」(これですら異論・諸説があります!)という分類方法もあります。

①モネラ界
 原核生物の細菌類及び藍藻類
②原生生物界
 真核の単細胞生物(ミドリムシはここ!)
③植物界
 真核の多細胞生物で、細胞壁があり、光合成をする
④菌界
 真核の多細胞生物で、細胞壁はあって動かないが光合成は行わない
⑤動物界
 真核の多細胞生物で、細胞壁、光合成機能を欠く。栄養摂取は体内の空間での消化吸収による

このより詳細な分類によると、ミドリムシは、②原生生物界によけることができ、キノコ類も光合成をしない植物で気持ち悪かったものを④菌界に寄せて、従来の「動物」「植物」の定義を守ることができました。しかしながら、菌類との共生をおこなう鞭毛虫の「ハテナ」や、研究論文で真相究明中の一部の「アブラムシ」が痕跡を残す光合成の有無では、「五界説」を取っても、その分類や定義が微妙になります。

会計のお話しの前に、生物学の例を引きましたが、何かの特徴を取りだし、他者と比較することで自己の特性や課題をあぶりだす、というのは管理会計の分野でも大事な作業と考えています。予算と実績を比べたり、自社と他社を比較したり。その上で、セグメント、組織、業種、製商品など、何かを分類することは、管理会計の基本動作になります。「分類」と「比較」についての重要性をまず知ってもらいたいので、上記の生物学の例をまず引かせて頂きました。

会計を少しでも勉強した人なら、「相対的真実」という言葉を目にしたことがあるかもしれません。会計は、ひとつの経済的事象を会計取引として計上する際に、複数のやり方が許容されています。例えば、減価償却費を計上する際の計算技法として、「定額法」と「定率法」(その他は割愛)があります。どちらも会計ルール上認められていますが、その選択は会社の裁量にゆだねられています(IFRS問題はまた別論点)。そしてその採用方針次第では、耐用年数期間中の期間損益計算がそれぞれ異なっていますが、どちらも正規の簿記ルールに従った財務諸表として認められています。

『真実はひとつ!』(コナン風)とはならないのが、会計の世界であり、それは「制度」も「管理」も同様なのです。特に、「管理」会計の世界では、何が正解かは自分で決める裁量がより大きくなるので、前述の「比較」と「分類」の精神は、絶対に忘れてはいけないのです。

 

■ 永遠の課題:「制度会計」と「管理会計」の区分基準とどっちが真実の数字か?

随分長い前置きでしたが、気を取り直して、会計の世界を筆者の世界観で分類してみます。

業績管理会計(入門編)_会計領域の分類例

金融商品取引法、会社法、税法、東証の各種上場ルール等に定められた様式と手続きで外部ディスクロージャー制度にて開示される会計情報を取り扱う世界を「制度会計」と分類します。当然、その基礎的部分には、「GAAP(Generally Accepted Accounting Principles):一般に公正妥当と認められた会計原則」が存在します。

その「制度会計」の数値を含み、経営管理のために、会計的技法で計数データを収集・分析・評価する一連の作業を行う世界を「管理会計」と分類します。ここで、「制度会計の数字を含み」という記述には以下の2点に注意を払う必要があります。

1.制度会計と管理会計のどちらが上位か?
「制度会計」上位論者は、「制管一致」「財管一致」の美名の下、最終的にステークホルダーに報告すべき「制度会計」における会社業績値をよりよくすることが「管理会計」的作業の最終目的であるのだから、結局、制度会計の数値こそが真実の数字であり、管理会計はその数字をよくするための活動に用いられる業績管理活動に過ぎない、とする見解があります。筆者はその見解を全否定はしません。なぜなら、管理会計の数字の使い方のひとつとして、制度会計における計数をより経営者や投資家が望む業績に近づける(時には超える)ために貢献することも、立派な管理会計(的な技法)の使い方だと思うからです。

2.制度会計と管理会計のカバー領域は異なるのか、同じなのか?
DCFやEP(経済的付加価値)による企業価値算定や、CVP分析や限界利益概念を用いた計数管理活動は、時には、M&Aを判断する際の材料になったり、迅速な価格改定のトリガーになったりします。管理可能利益で特定の事業責任者の業績評価を行うかもしれません。そこではもはやGAAPに拘泥することなく、目的志向的に計算ロジックを構築すればよいので、その意味では、もはや管理会計は制度会計ルールからも完全に自由です。

それゆえ、便宜的に制度会計と管理会計を分類はしてみるものの、どちらが上位か、どちらが他方を包含しているか、そういう類の議論に筆者はこれからも永遠に参加することは無いでしょう。

 

■ 会計の世界における「業績管理会計」の立ち位置とは?

「GAAP」を超えたところで、自由に、使用目的にだけ忠実に計数管理・計数分析のフレームワークを構築・運用して、何かの経営活動の足しにすることをが「管理会計」のやるべきことだとしたら、その内容はさらに、

1.経営分析(財務分析)
2.業績管理会計
3.意思決定会計

の3つに分けることができます。

まず「分類」のパラドックスについて再度言及します。分類を詳細化すればするほど、例外が発生し、例外の発生を防止するために、さらに分類基準を厳格にすることで、各々の被分類対象の機能や目的を明確にするという学問的アプローチには無理があるし、実務的ではありません。

これは、「組別総合原価計算」の「組」、「等級別総合原価計算」の「等級」、「工程別原価計算」の「工程」、減損会計における減損テストの「資産グループ」など、なにかを「分類」することで、計算結果が異なってしまうものについて、どんな「分類」が適正なのか、神様が言う通りに、ひとつに決めつけることはできません(そういえば、日本や古代ギリシャ・ローマは多神教でしたね~)。

経営分析で、企業の投資収益性を判断する際に用いる「ROI」は、業績管理会計における事業責任者の業績評価指標になったり、意思決定会計における設備投資の可否判断にも用いられます。それゆえ、この分類は、各種の管理会計技法や指標について、排他的な分類ではないのです。あくまで、それらの技法や指標を使う目的で便宜的に分けているだけです。

そして、「業績管理会計」を語る時、その内容をいくら詳解しても、本質に迫れないときがあります。その場合は、「業績管理会計」ではないもの、ここでは「経営分析」や「意思決定会計」が何者であるか、を説明することで、あたかも「背理法」的に、本質的意味を理解する手助けになるかもしれません。何か、ある一つのものを語りたいとき、一枠外(筆者はよく、「外堀」という比喩を使います)の概念を明らかにすることを、生産的コミュニケーションの助けとして使用されることをお勧めします。

1.経営分析とは
財務諸表とその基礎資料、およびその他の非財務資料(人数、面積、時間、生産数量、特許数、顧客満足度など)を、財務分析や統計的解析手法を用いて、分析目的を果たすための一連の会計的技法を意味します。

3.意思決定会計とは
M&A、設備投資、人材の採用、購買か内製かの判断、事業ポートフォリオ選択など、管理会計的技法と管理会計資料を用いて、各種経営判断の材料を提供し、その判断ロジックを一部構成し、結果の適正評価する価値判断基準を与える知的作業のフレームワークとベンチマークを与えるものを意味します。
「経営の個別問題に関する代替案の数量的評価と選択に対して有用な会計情報を提供する」
(管理会計学大辞典)

そして最後に、本丸として、

2.業績管理会計とは
企業経営体において、組織や各種企業活動について、事前の的確な計画策定の下、統制と牽制と報告からなる情報体系を構築・運用し、企業活動の成果をより大きくするために会計資料を用いる活動を意味します。組織は「人」によって構成されるので、とりあえて、人に対する業績評価(時には人事評価・報酬制度を含む)を重視することが多く、各ミッションに対応した「会計責任」を明確にした、業績管理制度の構築と運営をメインミッションと考えられています。

 

■ 「業績管理会計」の構成要素とは?

前述のチャートでは、「業績管理会計」の中を、さらに、

①「財務管理」
②「原価管理」
③「予算管理」
④「業績評価」

に区分しています。しつこいようですが、この区分もあくまで便宜的なものです。

①「財務管理」
資金調達構成や、企業内部から見た企業価値評価(管理)、いわゆるコーポレートファイナンスにまつわる領域を意味します。

②「原価管理」
企業が顧客に提供する「製品」「サービス」、時には社内組織が別社内組織に機能的なサービスを付与する、そのコストの低減、統制(基準値からの乖離幅を小さくする)を目的とする活動全般を意味します。

③「予算管理」
企業活動を、より高い業績目標の達成に導くために、「目標」をたて、「実績」との差異の原因とその改善策の効果まで評価する一連の、いわゆる「PDCA」サイクルの運用を支援する活動全般を意味します。

④「業績評価」
特に組織を構成する「人」、および「人」の集団である特定の組織単位、「人」の活動単位、「人」の活動成果の単位ごとに、目標達成度を評価し、しかるべき報酬と改善策の提示を行う一連の活動を意味します。

 

■ チャートの上下の並び順にも何か意味があるの?

コンサルがプレゼン資料を2次元の平面で作成する場合には、通常は2次元(場合によっては、1次元や3次元もあり得る)で、チャート(マトリックスやツリーマップなど)を表現するのが自然なことです。それゆえ、今回も、垂直軸にも意味を持たせたチャートにしてあります。当然、見ての通り、水平軸は、「粗⇔詳」ですが。

1.「規範指向性」
ほぼほぼ、筆者の造語なのですが、その意味するところは、
・意思決定主体の外から与えられた規範(ルール)に従って作業を行う
・与えられたルールを守らなくてはいけないという前提・与件・価値観が強く反映される
・ベンチマークされる指標に大まかでも当たり前水準やこうあるべき水準が与えられている
というあたりです。

この領域で仕事をする際、その担当者の頭の中を占めるのは「~すべき(should)」です。

制度会計には「GAAP」、経営分析には、「業界平均値」「前年基準値」等が存在しており、それらの順守(遵守)や達成、乖離幅の調整が問題になります。

2.「目的志向性」
こちらは用語としては普通に存在しているのですが、わざと「しこう」の漢字を上記と違えているのは筆者のこだわりのひとつです。(^^;)
・管理や評価をしたい人の「意思」に従って作業を行う
・目的達成のために何をすべきかについて、「合理性」「合目的性」が強く意識される
・計算ロジックや採用する指標は外から与えられるのではなく、使用目的から導かれる
というあたりです。

この領域で仕事をする際、その担当者の頭の中を占めるのは「~したい(will)」です。

ここまで、長広舌に「業績管理会計」とは何か、について語ってきました。広く一般に知られている「原価管理」や「予算管理」「業績評価」と呼ばれる領域について、筆者が「業績管理会計」という括りで捉えていること、それ以外の(管理)会計の分野があることを強く意識したうえでの意味づけである趣旨とこういうものの見方の面白みを少しでも共有できていたら幸甚です。

業績管理会計(入門編)_業績管理会計の基礎(1)業績管理会計のポジショニングと「分類」と「比較」の重要性

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