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本当の価値で客を集めろ!赤字鉄道の感動再生術 いすみ鉄道社長・鳥塚亮 2016年4月21日 TX カンブリア宮殿

TV番組レビュー
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■ 春の絶景が楽しめる! GWに行きたい感動列車

コンサルタントのつぶやき

桜に菜の花、沿線にはきれいな春景色が。国吉駅の売店にも女性客が詰めかける。ここにしか売っていない希少価値の高いムーミンとのコラボ商品。そして日本一の品揃え。多い時には月に200万円も売り上げる。ムーミンのキャラクター達がペイントされている列車も走っている。ムーミンや菜の花を使って、ファミリー客や、これまで鉄道にあまり関心を示さなかった女性客を呼び込んでいる。但しこの人気もここ数年のこと。数年前までは厳しい経営状況だった。

いすみ鉄道の前身は、国鉄・木原線(1930年開業)。しかし赤字路線となり、1987年、国鉄民営化に伴い、自治体と企業が出資する第三セクターに。ピーク時には100万人が乗車していたが、その後の人口減に伴い、現在の乗客数はピーク時の3分の1に激減。2008年にはあと2年で業績を回復できなければ廃線、というところにまで追い込まれた。それがここ数年で売り上げがV字回復。一体何をどうやったのか?

いすみ鉄道の復活の秘密は?

例えば、完全予約制のイベント列車、「伊勢海老特急 お刺身列車」1万5000円(2名から予約可)。至福の時を楽しめる2時間の旅は毎回あっという間に売り切れる。夕闇の中を出発するのは、居酒屋列車(5800円)。毎週末、中華やイタリアンなど、趣向を凝らしたイベント列車が走る。

いすみ鉄道は地元客を運ぶだけでなく、観光客を乗せることで復活を遂げたのだ。

 

■ 廃線の危機から大逆転! 熱狂ファンを生む独自前略

さらにピンポイントで狙って呼び込んだお客さんもいる。昭和の香り漂う旧型ディーゼル車両キハ(土日運行)。鉄道ファン(鉄っちゃん)だ。何しろ、この列車が走っているのは日本でここだけ。撮り鉄と言われる列車の撮影マニアがその走りを狙っている。実は撮り鉄は鉄道会社に敬遠されることが多いが、いすみ鉄道は大歓迎する! 鉄道マニアの中でも、列車に乗ることを楽しむ「乗り鉄」を楽しませる趣向も。挟みで切る切符や網棚、旧国鉄時代の青の座席シートにわざわざ貼り換えたり。中吊り広告は、上原謙さんと高峰三枝子さんのフルムーンパスだったり。

鉄道に魅せられて50年の筋金入りのマニア、いすみ鉄道を改革した張本人、いすみ鉄道社長・鳥塚亮。

20160421_鳥塚亮_カンブリア宮殿

番組公式ホームページより

「最初はよそ者だったので、何言ってんだ、航空会社にいた人間に田舎のことが分かるわけがないと。」

1960年、東京生まれ。子供の頃は時刻表を見るのが趣味だったという鉄道少年。新卒の時は希望する鉄道会社に求人がなかったため、イギリスの航空会社に勤務。転機は2009年。いすみ鉄道が経営立て直しのため、社長を一般公募。鳥塚は50歳目前となっていたが、エリート航空マンの地位を捨て、長年の夢だった鉄道会社に飛び込んだ。しかし、廃線も噂された赤字路線。不安はなかったのだろうか?

「こういうローカル線があったら自分は乗りに来たいと思うかどうか。私は、ここに乗りに来たい。だから絶対にお客さんは来る。」

いすみ鉄道の可能性を信じ、外部の目線で観光客や鉄道ファンを呼び込んだ。更にお金を落としていってもらう仕掛けもあれこれ考えた。お土産に作ったのが、レールを枕木に止める「犬釘」。興味のない人にとってはゴミ同然でも、鉄道ファンにとってはお宝というものが他にもある。線路に敷かれていた石。ブレーキをかけた車両の鉄粉が飛び散って赤くなったものだ。「バラスト石」の缶詰として売り出す予定。

「買った人、100人か200人かがにんまりしていれば、それでいいんじゃないでしょうか」

こんな誰もやらなかった方法で最高売上を更新中。

眠れる価値で客を呼ぶ! 赤字ローカル線に舞い降りた鉄道マニア社長のサバイバル術に迫る!

 

■ GWに家族で乗りたい! 知られざる鉄道の世界

いすみ鉄道の乗車人数は減る一方だが、売上高はV字回復している。乗車人数もここ数年は横ばいだが、地元客は減り続けており、観光客が増えたことによって横ばいを維持している状態。売り上げも運賃収入だけでなく、観光客が落とすお金で補っている。

鳥塚はいすみ鉄道の特徴を一言で表すキャッチコピーを考えた。

『ここには、何もないがあります。』

(村上氏)
「何もないがあるということは、地方や地域を考える上で、キーワードになると思う」

「人口の90%は、「“何もない”があります」と言っても来ない。だが10%くらいの人は「何もない」と聞くと、「面白そう、行ってみたい」と思うはず。だから、10両編成の特急列車が着いて、1両分がいすみ鉄道に乗り換えてくる。単線で1時間に1本、1両の列車しかない。これがうちのビジネスの器。いすみ鉄道の「商品の供給力」。これを超えるものを望んでもしようがない。」

(村上氏)
「ディズニーランドは100人の内、95人ぐらいに来てもらいたい。いすみ鉄道の場合は、100人いたら7~8人でいいという発想ですよね」

「万人受けする商売は、必ず東京が勝つ。マスの商売になるんです。田舎が商売をやるというのは違う。例えば、100室のホテルを、毎日65%の稼働率にすることは、田舎ではできない。だけど、3部屋の露天風呂付きの部屋を2部屋埋めることなら田舎でもできる。こういうことが田舎の商売であるべき。いすみ鉄道はそういう考え方で商売をやっているということです。」

「ローカル鉄道って、男性の趣味として定着しているが、「鉄道マニア」「男の趣味」として長年やってきて、ダメになっている。だからターゲットは女性。だから菜の花畑の中を走る「ムーミン列車」を走らせたりする。航空会社にいると、よく分かるが、ヨーロッパ旅行の90%以上は女性客。女性はお金を持っていて、フットワークが軽く、行動力がある。男の人向けの鉄道雑誌で「ブルートレイン特集」の記事を見ても、書いてある。「いつかは乗りたいブルートレイン」。「それじゃダメだろうと。今乗れよ」と思う。「俺も定年になったら、ブルートレイン乗ってみたい」と思っても、結局、ブルートレインは全部なくなってしまった。」

 

■ 地域住民の足を守れ! ローカル線の乗客のために

週末には観光客で賑わういすみ鉄道も平日の午後は閑散としている。地域の足としての収支は今も赤字が続く。少ない利用客の中にはこれが無くなったら生活に困ってしまう人たちがいる。子供やお年寄りといった交通弱者にとってはいすみ鉄道は無くてはならない存在。鳥塚の戦いは、そうした人たちを守る戦いでもある。人口が減っていく地方。その厳しい現実。いすみ鉄道も七転八倒しながら地域の足を守っている。

 

■ わが町の鉄道を守りたい! 地域に生まれた応援団

そんな頑張りが地域の人に伝わり、新しい動きを見せている。国吉駅の脇に広がる広場では、休憩用の机作りが行われていた。春になれば、この広場には大勢の観光客がやってくる。その時お弁当を広げる机だ。そんな作業をしている人たちのユニホームには、「いすみ鉄道応援団」という文字が。地域の住民を中心に、鉄道ファンも加わって、約130人からなるボランティアのいすみ鉄道応援団が作られている。メンバは大工、サラリーマン、旅館の主人など様々。みんながそれぞれ特技を生かし、いすみ鉄道のためになることをしている。

女性の応援団員が郷土料理で手作りの弁当を作り、男性応援団員が車内や駅で売る。この弁当を売るために、鳥塚はわざわざダイヤを改正し、列車の停車時間を延ばした。ここでしか買えないと売り上げは上々。

いすみ鉄道を応援している人はおじさん・おばさんだけでなない。沿線にある大多喜高校の生徒たち。普段はいすみ鉄道を通学に使い、沿線にある4つの駅を掃除している。「大多喜高校・いすみ鉄道対策委員会 - 駅の清掃ボランティアを月一回実施」。掃除だけでなく、鉄道を盛り上げる企画も一緒に考え、「マンドリン・ギター」列車を走らせる。鉄道が地域の足を守り、地域が鉄道を守る。その信頼関係は鉄道存続につながる大切なこと。

 

■ 地域の風景を守りたい! 鉄道存続を願う本当の理由

(村上氏)
「鉄道は、地域コミュニティの中心的存在で象徴になっている」

「田舎の人は、乗らないけど「残したい」と言う。なかなか、生活の中では乗れないんです。“乗らないけど残したい”は、昭和の時代、「地域住民のエゴ」と言われた。どうして乗らないものに「残せ」と言うのか、その部分は誰も言ってこなかった。私は田舎にいるので分かる。農作業している、おじいさん、おばあさんが汽笛が鳴ったから「そろそろ昼だ」と、鉄道が時計代わりになっていて、生活に溶け込んでいる。それって、地域の風景なんですよ。「地域の風景を守りたい」が「乗らないけど走っててほしい」ということ。“地域の風景”“昔からあるもの”を守りたいと、正々堂々と言えなくしてしまった。実際に乗れないから、何をしていたかというと、回数券を買って乗ったことにしていた。こんなことでは続かない。そういう涙ぐましい努力をしている。そうじゃないんだよと。「無理して乗らなくていい」「でも残したいと言おう」と言ったら、「面白いじゃないか」と、応援団の人たちが協力してくれた。」

(村上氏)
「ローカル線は資源だと思うんですよ。鉱物資源とかも同じで、価値が分かる人にしか価値が分からない。価値を再発見した瞬間に資源になるんですよ。」

 

■ アイデアの源は”鉄道愛“ 赤字に負けない驚き新戦略

赤字ローカル線を守るために何ができるのか? 鳥塚は客を呼び込む以外にもいろいろなアイデアを考えてきた。その一つがこの列車の中にある。それは運転士。運転士を採用するには、まず鉄道会社が運転士(候補)に技術を教え込まなければならない。教育期間にはおよそ2年が必要だが、問題はその間の人件費だ。2年間の養成期間が必要だが、会社にはその体力がない。そこで、鳥塚は訓練費用の700万円を自分で払うなら運転士として採用する仕組みを考えた。お金を払ってでも運転士になりたい人はいるはず。鳥塚の予想は当たり、この6年で、自己負担運転士10人を採用することができた。

ローカル線をこよなく愛する鳥塚は、休みがあれば地方のローカル線を回る。のどかで美しい風景を走るローカル鉄道だが、その8割は赤字。人口の減少や過疎化が進み、地方の鉄道はより厳しい状況となっている。

「「田舎の鉄道をやっている場合か」と。「儲かるところだけやればいい、株式会社だから」という話になる。ここ10年ぐらいで。それは食い止めなければならない。」

日本のローカル鉄道を守っていく。その秘策を、鳥塚はまた捻り出した。駅のホームにカメラを取り付け、列車のライブ映像を撮る。アイデアを携えて、鳥塚が乗り込んだのは、全国のローカル鉄道の経営者を集めた「第三セクター鉄道等協議会」での会合の席。そこで鳥塚はぶち上げた。自社の鉄道の駅にライブカメラをつける。お客が好きな鉄道会社の駅を見ることができるようにする。仕組みはこうだ。「ローカル鉄道支援回線プラン」。特典として、ローカル鉄道の生映像が見られるネット回線プランを、NTTと組んで売り出すのだ。契約者が払う料金の一部が応援する鉄道に入る。鉄道会社はライブカメラを取り付けるだけ。初期投資はほとんどかからない。

「好きなことを突き詰めてやっていく、職業を通じて自己実現ができる。その職業を通じた自己実現で、地域や人々の役に立つのが“鉄道”。そういう部分が思いっきりできる、まして地域に公的サービスを提供する会社を黒字にするのは私の使命だが、たとえ、多少赤字でも、存在として鉄道は必要。地域が鉄道を支えてきてくれたので、地域のプラスになる会社。会社の収入を増やすだけでなく、同時に今まで支援してきてくれた地域に恩返しすることを鉄道会社はやるべき。」

『会社だけでなく、地域に利益を生む鉄道に』

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