■ 温泉、タオル、ミカン…。“愛媛”を盛り上げる異色の経営者
女性に大人気の温泉宿、“道後やや”を2010年にオープン。立ち上げたのはベンチャー企業の経営していた大籔氏で、経営するエイトワンの新規事業として。この旅館の計画段階ですでに危機に直面! 新参者は旅館組合に入れず、温泉を引けなかった。しかし、大籔氏は「温泉がないならないでそれも面白いと思った」とか。そこで、温泉は外湯と割り切った。逆転の発想。その代り、とことん愛媛を実感できるように客室を工夫した。「愛媛が持っているものをどうしたらお客が喜ぶ形で提供できるかと常に考えていた」。地方を元気にする若手経営者。
● 地方を元気にする極意1 「地元のいいものに“ひと工夫”」
高級品で名高い今治タオル。手や顔を拭くだけでなく、インテリアやベビータオル・ベビーバスローブなどの新商品を開発。肌触りのいい今治タオルは赤ちゃん用品にぴったり!今までにない客層を開拓した。今治タオルの販売を手掛ける「伊織」は全国22店舗を展開するに至った。「伊織」と5年前から取引を始めた「七福タオル」はこの5年で売上高5割増し、従業員数8割増し。ここまで24時間フル操業!
● 地方を元気にする極意2 「産地にもメリット」
「雇用が増え地域にお金が循環する。僕たちが一番やりたいこと! 僕らが売る量をどんどん増やしていって一緒に大きくなりたい」
● 地方を元気にする極意3 「小さなアイデアでも出し続ける」
その大籔氏が経営するエイトワン。従業員約90人、年商11億円。経営スタイルをちょっと拝見。各事業の責任者が出席する月一回の経営会議。あまり大籔氏は口を開かない。「任せた以上はあまり口を出さない」。一度立ち上げた事業は責任者に任せるのが大籔流。
「オーガニックの爪楊枝ってどうですか?」これが大籔氏の役割。常にビジネスのネタを探しまわっている。
● 地方を元気にする極意4 「職人との信頼関係」
ある日訪れたのは、砥部焼の窯元。誰にでも腰が低く、この調子で誰とでもいつの間にか仲良くなってしまう。竜泉窯代表、池田富士夫氏の大籔氏への印象は、「パッと見のほほんとした雰囲気だけどそういうのに惹かれて一緒に仕事をすれば楽しいかなと」。
5年以上通い続けて信用を築いた。その上でこれまでに無い砥部焼の制作を持ちかけた。若者が受け入れやすいポップなデザインに。まもなく本格的に売り出す予定。「大籔さんだからやろうかなと。彼はすてきですよね」
こうやって地方をどんどん笑顔に変えていく。
「地方には素晴らしいものは既にあるので、後は人とお金をうまく活用すればみるみる化けていって世の中に喜ばれるものを生みだせる」
番組MC(小池さん)が大籔氏に尋ねる。
「大籔さんご自身は自分の仕事、自分の会社をどう捉えているのか?」
「僕のポジションは、「指揮者」だと思っているんですね。僕以外でもできることはみんなにどんどん任せていきたい。みんなが思いつかないことに気付いたり、みんなが実現できなかったことをアイデアで突破したり、「何かを生み出す」ことが一番の僕の役割かなと思う」
さらに番組MC(村上さん)が大籔氏に尋ねる。
「地方(愛媛)が持っている資源をそのままの形で商品化するのではなく、ちょっと付加価値をつけてみる・アレンジするのは最初から決めていたことなのか?」
「“伝統”と“革新”というのはすごく大事と思っていて、伝統は本当に素晴らしいと思うんですけど、僕らの役割というのは伝統をちゃんと継承しながらちょっと形とか見せ方を変えてより良く見せるチャレンジをしたいんです。元が素晴らしいので、ちょっと変えるだけで広がりが出てくるんです」
「職人さんたちはすごくこだわっている人が多くって、一見すると気難しい人が多い印象を持っていたが、全然そんなことなくって、「こうしたらきっとお客様が喜んでくれると思うので是非、力を貸してください」と話すと、全員快く引き受けてくれるんです」
大籔氏の穏やかな性格が幸いした様子も窺えます。この穏やかな性格ならではのビジネス展開話がある。先述した“道後やや”は、旅館組合に入れずに温泉を引けなかった事にも怒らなかった。「当然だなあ、新参者だから」。引けたらラッキーだと。でもそこでビジネスをやめようとは思わなかった。それならそれで考え方や突破口はある。それを探したいと。それで実際に探し当てられて、お客様に喜んでいただいて。結果が出るのが痛快で気持ちがいい」
■ “元ニート”異色の経営者 変わった経歴
「一言で言うと、“ダメ人間”的な、あいつは何やってんだみたいな」大学にはロクに行かなかった。学生時代唯一真剣に取り組んだのがパチスロ。半年留年したが、傾向を分析し、累計で1000万円のプラスを出した。自称ニート。卒業後は株取引に没頭。将来成長しそうな会社を徹底的に分析し、35万円を15億円に。さらにそれを元手に不動産に投資。ビルやアパートを取得し、安定した家賃収入を得るに至った。だがこの頃、ある感情が芽生えたという。「自分だけの欲望を満たすために頑張ったがそれはやっぱり違う。幸せじゃない」と。そのお金を使ってもっともっと世の中が良くなることをやりたいと。
そう考えていた大籔氏は人生を変えるある事実を知る。愛媛のピンチ。愛媛観光の大目玉である「道後温泉本館」が大改修工事に入るということ。改修期間は10年近くに及ぶという。その間、道後温泉を訪れる入浴客はこの「本館」改修の影響で、最大4割減との試算も出た。「これは愛媛にとって大ピンチだなと。こういう時だからこそ何かしなければいけないんじゃないかと」
(WiKiより:道後温泉本館)
そんな時、不動産事業での知り合いから、ある旅館の経営を引き継がないかとう話が持ち込まれた。それが旅館「道後夢蔵」。大籔氏は「夢蔵」を魅力ある旅館にして愛媛を活気づけたいと考えた。そして、2008年に株取引の利益を元手に「夢蔵」を買い取った。外部から優秀なスタッフを雇い運営に乗り出したが、客足は一向に戻らず。さらに異常事態発生が。厨房スタッフがほぼ全員辞めてしまった。当時、大籔氏は東京から招いた著名な料理人にメニューを一任した。地元の料理人は言われたまま料理するだけ。使うのは日本全国から取り寄せた高級食材。愛媛らしさは微塵もなかった。
当時を知る料理人(現総料理長:篠宮篤志氏)は現場の思いをこう語る。
「心の中では「こうしたい」「ああしたい」という気持ちがあっても、すごい先生のメニューなのでそれにとらわれながら料理をしていた。やっぱり愛媛の食材を使って欲しいと感じていた」
そんな現場の思いを知った大籔氏は自分の過ちに気がついた。「愛媛を盛り上げたい、というのが事業のスタートだった。それだとやる意味が無いんじゃないか思って。僕の思いを表現できていないと矛盾に気がついた」。そうして、「食材は愛媛産にこだわりましょう。メニューは愛媛を一番よく知っている皆さんが考えてください」と皆に伝えた。
「厨房の雰囲気は180°変わった。自分たちの料理が出せる。それで勝負したいと。料理人として逆にこうやってみたい、という気持ちがみんなに芽生えたと思う」(篠宮氏)
大籔氏の改革は客室にも及んだ。愛媛尽くしの客室づくり。和紙のランプシェード、瓦の洗面台。風呂は砥部焼のタイル。愛媛を十分に堪能できる宿にした。そして客足が戻った。愛媛へのこだわりは働く人の意識も変えた。「お客に「愛媛を堪能してほしい」という思いはすごくあるので、そういう面でやりがいがかなり出てきたと思う」(ある女性スタッフ)
『地方でビジネスを成功に導くには、地元の人々がやる気を引き出す環境を作り出せばいい』
- これが大籔氏が導き出した答えだ!
■ 地方を元気にする秘訣
MC(小池さん)からの質問。
「株式取引や不動産投資だけで遊んで暮せていけたのでは?」
「普通に美味しいものを食べたり、買いたい服を買ったりしてそれなりに楽しんだが、「何か違う」という思いが強くなってきて、何となく物足りなさを感じた。“本当の幸せ”とはお金を得ることではなく、世の中の人たちに喜ばれたり楽しんでもらえたり、感謝されること。お金を得ることだけが目的になると行き詰ると感じた」
MC(村上さん)からの質問。
「従業員のモチベーションを引き出したことが経営者としての第一歩だったのか?」
「それは今も“軸”になっていて、経営していると日々判断の連続で迷うこともたくさんある。自分が迷った時ってこっち選んだ方がスタッフのモチベーションが上がってやる気が出る方を選ぶようにしている。これが“軸”になったので、それ以降(道後夢蔵の一件)はすごく楽。」
大籔氏の目線はお隣の香川県へ。東かがわ市が日本の手袋の国内販売シェア9割を占めているんだそう。各メーカーが工場を海外に移転させたため、生産量の8割が海外工場への依存となり、国内工場は域内でひとつに。産地としての機能を失いつつある。技術を教える人間もいない。全部海外に行ってしまった。
「日本全国同じことで悩んでいると気付いた。愛媛でのノウハウや経験を日本全国で活用できるのではないかと」。手袋にちょっと工夫を加え、売れるブランド作りを提案。地元香川県の名産・名所から10種類のデザインを提案。早速試作品作りに取りかかった。しかし、柄が複雑すぎて生産現場での試作品作りが難航。それでも施策を担当している現場からは、「こういうものを作れる機会に恵まれているのはラッキー」「将来この手袋産業が続いて発展していくという“夢”が感じられる」
大籔氏いわく、
「昔の今治タオルと同じ悩みを抱えていた。産地に作り手や後継者がいない。あと10年したら縫製できる人が誰もいなくなって。。。一番基幹になる技術が日本に残らないのではないかと。何とかそこを守るプロジェクトをつくれないかと」「各地方にいい産業や産品はすごくたくさんあって、もうちょっとここを何とかしたら売れるのになというものがあって、僕たちが今まで培ってきたことが活用できたら日本全国が元気になって盛り上がった方が絶対いいのでそういう活動をしたい」
MC(村上さん)からの問いかけ。
「地方に必要なのは“自立”だと思うが?」
「「よそ者・若者・馬鹿者」そういう人間が地方を変えるといわれている。まさに自分はそうだと思っている。やはり地方のすばらしいものを活用するのが一番。それを活用することによって、ビジネスをつくって、雇用が生まれてその産品が売れれば地域にお金が回るという仕組みを作り上げることが大事。決して規模を追求する必要はない。各地方地方に5億円、10億円のビジネスがたくさん生まれて、そこでお金が落ちる仕組みをどんどん作っていくことが大事」
『たくさんの小さなビジネスが地方を元気にする』
「地方にはいい資源がまだまだある。でもそれも先細りになっていて将来への閉塞感がある。そこを僕たちは打破したい!」
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