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■ 調達コストに対する見解の相違

経営管理会計トピック
三井不動産は、6月に32年ぶりとなる公募増資に踏み切り、約3300億円を調達しました。今期も連結純利益は前期比17%増の900億円と最高益を見込んでいます。

2014/9/20付 |日本経済新聞|朝刊 
CFO投資家に語る⑦ 三井不動産 投資余力7000~8000億円に拡大

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

記事の中で、記者から「超低金利下なので借入金で投資資金を賄う選択肢もあったのでは」という質問に対し、佐藤常務執行役員は「都心の再開発案件は投資額が大きいうえ、資金回収までに長い期間がかかる。資金を借り入れに頼りすぎると財務の健全性を損なう。長期金利がずっと低いままならいいが、上昇するリスクも考える必要がある」と回答しています。
この記者の質問の背景には、新聞社のある一つの見解が背景にあると考えています。同日の同紙面(投資情報の15面)にて、下記のような記事が掲載されもしています。

2014/9/20付 |日本経済新聞|朝刊 
社債の長期化進む 金利に先高観 低コスト調達で財務改善

この記事では、「国内で期間が10年以上の長期社債の発行が相次いでいる。金利が低いうちに低コストの長期資金を調達して財務を安定させる狙い」とあります。現在は金利が長期レンジで相対的に低下しているため、今が外部借入を実施する好機と見ているのだと思います。
両社の金利観の違い、どっちが正しかったか、歴史が証明するでしょう。経過観察していきたいと思います。

■ 個別企業の財務状況を見る

ただし、本件は、一般論で片付けるべきではなく、三井不動産という個別企業の財務状況も考慮する必要があります。同社は、今年の5月に発表した投資家向け説明資料にて、FY13は「DEレシオ」が1.6、FY14見込はグラフから目の子で1.7程度と読み取れ、今期は増資があったにもかかわらず前年より悪化する可能性があります。現在施行中の中計「イノベーション 2017」ではFY17には「DEレシオ」は1.5を目指しているとのこと。
どうも、足下の金利情勢だけでは単純に外部借入に飛び付くわけにはいかないようです。

■ 選択した経営指標が経営戦略自体を語る

記事の中で、三井不動産の佐藤常務執行役員は、記者から中期的な経営目標を聞かれ、「営業利益と営業外収益の合計を総資産で割ったROA(総資産利益率)を18年3月期に5.5%に高める計画だ」と語っています。
有価証券報告書でFY13の連結P/Lを確認すると、営業外費用:376億円の内、支払利息が309億円なので、ほぼ上記のROAの分子はEBITを意識したものと考えるのが妥当でしょう。
三井不動産のROAは、
ROA = (営業利益 + 営業外収益) ÷ 総資産
      = (経常利益 - 支払利息) ÷ 総資産
      = EBIT ÷ 総資産
「比率」ものの財務指標は、次の点が要注意です。

  1. 分子と分母の対応の意味を常に意識すること
  2. 会社によって定義が異なる可能性があること

ちなみに、筆者がよく見るROAの分子の定義パターンは代表的なもので下記の通りです。
ROA1 = 営業利益 ÷ 総資産
(本業の収益力が分かるとされているが、分母に金融資産が含まれている場合は、正しく収益率を表現できない)
ROA2 = 経常利益 ÷ 総資産
(負債と資本のバランス-「資本構成の違い」に影響されているので単純な他社比較に使用できない)
ROA3 = EBIT ÷ 総資産
(資本構成の違いによる影響は排除できるが、投資家目線のリターンの評価には使えない)
ROA4 = NOPLAT ÷ 総資産
(投資家目線のキャッシュフローに近い投資収益率を表現することができる)
ROA5 = 当期純利益 ÷ 総資産
(デュポンツリーでROEの分解の時に、親和性を保てる)
三井不動産は、投資家向け説明にこの指標を使う場合は、相手の立場にたって「ROA4」か、ROEの要素説明のために「ROA5」を使うと訴求効果が出るかもしれません。会社内部で使う資産収益性と外部ステークホルダーに説明する投資収益性の説明は明確に分けるべきで、今回のインタビュー記事での説明はもしかすると中途半端だったかもしれません。
もっと突っ込むと、対投資家向け説明に使うには「ROA4」でも実は不十分です。
なぜなら、総資産には、投資家とは無関係の無利子負債が含まれているからです。純粋に投資家(債権者+株主)から運用を任された資金額で投資収益性を財務諸表の上で表現するのならば、「総資産」の代わりに「正味運転資本(投下資本)」を使って、
ROIC = NOPLAT ÷ 正味運転資本(投下資本)
を示してあげた方がより親切でしょう。ただし、資本コストを考慮しない、あくまで財務諸表上の簡易計算ということで。
念のため、実務で導きやすい方法で「総資産」と「投下資本」の関係を下図に示します。
(借方勘定と貸方勘定を複雑に差引して算出する方法もありますが、ここでは割愛)
経営管理会計トピック_投下資本 
ちなみに、三井不動産のFY13の連結B/Sを確認すると、総資産:45,488億円(100%)に対し、投下資本:33,654億円(74%)、有利子負債:20,401億円(45%)となります。
参考までに、同期の三菱地所は、総資産:47,654億円(100%)、投下資本:34,106億円(72%)、有利子負債:19,635億円(41%)となります。
あまり代わり映えしませんか?ネット有利子負債という用語はご存知でしょうか?B/Sの借方にある現預金勘定と(投資)有価証券の金額構成が大きく違うのですが、その件は紙面の都合でまた別の機会に。。。

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小林 友昭会計で経営を読む■ 調達コストに対する見解の相違 三井不動産は、6月に32年ぶりとなる公募増資に踏み切り、約3300億円を調達しました。今期も連結純利益は前期比17%増の900億円と最高益を見込んでいます。 2014/9/20付 |日本経済新聞|朝刊  CFO投資家に語る⑦ 三井不動産 投資余力7000~8000億円に拡大(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます 記事の中で、記者から「超低金利下なので借入金で投資資金を賄う選択肢もあったのでは」という質問に対し、佐藤常務執行役員は「都心の再開発案件は投資額が大きいうえ、資金回収までに長い期間がかかる。資金を借り入れに頼りすぎると財務の健全性を損なう。長期金利がずっと低いままならいいが、上昇するリスクも考える必要がある」と回答しています。 この記者の質問の背景には、新聞社のある一つの見解が背景にあると考えています。同日の同紙面(投資情報の15面)にて、下記のような記事が掲載されもしています。 2014/9/20付 |日本経済新聞|朝刊  社債の長期化進む 金利に先高観 低コスト調達で財務改善 この記事では、「国内で期間が10年以上の長期社債の発行が相次いでいる。金利が低いうちに低コストの長期資金を調達して財務を安定させる狙い」とあります。現在は金利が長期レンジで相対的に低下しているため、今が外部借入を実施する好機と見ているのだと思います。 両社の金利観の違い、どっちが正しかったか、歴史が証明するでしょう。経過観察していきたいと思います。 ■ 個別企業の財務状況を見るただし、本件は、一般論で片付けるべきではなく、三井不動産という個別企業の財務状況も考慮する必要があります。同社は、今年の5月に発表した投資家向け説明資料にて、FY13は「DEレシオ」が1.6、FY14見込はグラフから目の子で1.7程度と読み取れ、今期は増資があったにもかかわらず前年より悪化する可能性があります。現在施行中の中計「イノベーション 2017」ではFY17には「DEレシオ」は1.5を目指しているとのこと。 どうも、足下の金利情勢だけでは単純に外部借入に飛び付くわけにはいかないようです。 ■ 選択した経営指標が経営戦略自体を語る記事の中で、三井不動産の佐藤常務執行役員は、記者から中期的な経営目標を聞かれ、「営業利益と営業外収益の合計を総資産で割ったROA(総資産利益率)を18年3月期に5.5%に高める計画だ」と語っています。 有価証券報告書でFY13の連結P/Lを確認すると、営業外費用:376億円の内、支払利息が309億円なので、ほぼ上記のROAの分子はEBITを意識したものと考えるのが妥当でしょう。 三井不動産のROAは、 ROA = (営業利益 + 営業外収益) ÷ 総資産       = (経常利益 - 支払利息) ÷ 総資産       = EBIT ÷ 総資産 「比率」ものの財務指標は、次の点が要注意です。 分子と分母の対応の意味を常に意識すること会社によって定義が異なる可能性があること ちなみに、筆者がよく見るROAの分子の定義パターンは代表的なもので下記の通りです。 ROA1 = 営業利益 ÷ 総資産 (本業の収益力が分かるとされているが、分母に金融資産が含まれている場合は、正しく収益率を表現できない) ROA2 = 経常利益 ÷ 総資産 (負債と資本のバランス-「資本構成の違い」に影響されているので単純な他社比較に使用できない) ROA3 = EBIT ÷ 総資産 (資本構成の違いによる影響は排除できるが、投資家目線のリターンの評価には使えない) ROA4 = NOPLAT ÷ 総資産 (投資家目線のキャッシュフローに近い投資収益率を表現することができる) ROA5 = 当期純利益 ÷ 総資産 (デュポンツリーでROEの分解の時に、親和性を保てる) 三井不動産は、投資家向け説明にこの指標を使う場合は、相手の立場にたって「ROA4」か、ROEの要素説明のために「ROA5」を使うと訴求効果が出るかもしれません。会社内部で使う資産収益性と外部ステークホルダーに説明する投資収益性の説明は明確に分けるべきで、今回のインタビュー記事での説明はもしかすると中途半端だったかもしれません。 もっと突っ込むと、対投資家向け説明に使うには「ROA4」でも実は不十分です。 なぜなら、総資産には、投資家とは無関係の無利子負債が含まれているからです。純粋に投資家(債権者+株主)から運用を任された資金額で投資収益性を財務諸表の上で表現するのならば、「総資産」の代わりに「正味運転資本(投下資本)」を使って、 ROIC = NOPLAT ÷ 正味運転資本(投下資本) を示してあげた方がより親切でしょう。ただし、資本コストを考慮しない、あくまで財務諸表上の簡易計算ということで。 念のため、実務で導きやすい方法で「総資産」と「投下資本」の関係を下図に示します。 (借方勘定と貸方勘定を複雑に差引して算出する方法もありますが、ここでは割愛)   ちなみに、三井不動産のFY13の連結B/Sを確認すると、総資産:45,488億円(100%)に対し、投下資本:33,654億円(74%)、有利子負債:20,401億円(45%)となります。 参考までに、同期の三菱地所は、総資産:47,654億円(100%)、投下資本:34,106億円(72%)、有利子負債:19,635億円(41%)となります。 あまり代わり映えしませんか?ネット有利子負債という用語はご存知でしょうか?B/Sの借方にある現預金勘定と(投資)有価証券の金額構成が大きく違うのですが、その件は紙面の都合でまた別の機会に。。。現役の経営コンサルタントが管理会計をテーマに情報発信します