(一目均衡)静かに広がる「共通株主」 編集委員 松崎雄典 – コモン・オーナーシップ・セオリー、独占禁止法、ステルス社会主義について

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■ 健全な市場競争環境を構築するために

経営管理会計トピック

独占企業を排除し、公正な市場競争環境を形成することが、健全な資本主義の在り方であるということは漠然と一般認識されているところです。そして中学公民で学習する、カルテル、トラスト、コンツェルン。一部は独占禁止法(私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律)あるいは、会社法で規制されているのは周知のとおりです。ここでは、資本主義の進化に伴い、出資関係と会社支配についての新たな規制が必要ではないかという問いかけのお話です。

2017/11/28付 |日本経済新聞|朝刊 (一目均衡)静かに広がる「共通株主」 編集委員 松崎雄典

「「ライバル企業と大株主が同じだと、互いに競わなくなる」。株主と企業の関係を巡る新たな議論が、米国で熱を帯びている。」

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

このコラムで議論の的になっているのは、「共通株主の理論(コモン・オーナーシップ・セオリー)」です。これは、同一業種に属する複数企業へ出資する同一株主の影響力が強くなりすぎると、企業間で市場競争を激しくするより、業界全体の収益力の向上を目指す傾向がより強くなるというものです。

簡単な例で説明すると、ANAとJALの株主が一人だとしたら、ANAとJALの間で、運賃・サービスの競争をするより、両社の料金を高止まりさせて、航空業界全体で儲けを大きくした方が、株主への見返り(高配当と株価上昇)が見込まれるという説です。
(上例はあくまで説明例であって、事実ではありません。念のため)

これは、独占企業を排除するために、独占禁止法が存在する理由の一つに該当します。つまり、ミクロ経済学で独占理論を学習した通り、需要と供給がバランスする価格と消費量(=生産量)が一つに決まるポイントで、総余剰(社会余剰)が最大になり、効率的な生産と消費が実現できると考えます。

経営管理会計トピック_独占により総余剰が減少

総余剰 = 生産者余剰 + 消費者余剰

と考えるので、独占企業が価格を上げるとき、需要曲線と供給曲線が不動とすれば、死荷重損失が発生して、総余剰は減少するものの、生産者余剰は逆に増加することになります。それゆえ、独占は社会的に「悪」とされているのです。

それゆえ、株主構成が同一となった業種では、価格つり上げまたは品質低下によるコスト削減が原因となり、消費者余剰から生産者余剰へ価値がシフトするだけでなく、社会的な価値の棄損が引き起こされる可能性が高くなる、というのが「共通株主の理論」の問題意識の所在となるのです。

 

■ 共通株主の理論(コモン・オーナーシップ・セオリー)の研究結果の確認

本記事における、「共通株主の理論」の事例説明をかいつまんで紹介すると、

エール大学の研究者らが、航空業界大手の経営者報酬に着目し、自社の業績より業界全体の業績との連動性(相関関係)が大きいことを発見し、それが、他社と共通の株主が多くなることが原因で、各社の大口株主となった大手ファンドが競争を好まない証左と主張したのです。同じく航空業界を分析したミシガン大学の研究者らが、大手に共通の大株主がいることが価格競争を阻害、「航空運賃が3~7%上がった」という研究成果を発表しました。

「株主の意向をくんだ経営陣は、自社だけが勝ち抜くのではなく、業界全体の収益向上を目指す。競争が失われたツケは消費者に回ってくるという。」

ここが前章で触れた消費者余剰の減少と生産者余剰の増加の部分と整合します。

本記事では、ここから一足飛びに、一部業界の特定の共通株主の排除を謳う議論へ話が進むのですが、本ブログでは、その前に、独占企業の悪さ加減とそれを取り締まってきた法律のお話を前座として確認したいと思います。

私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(これを俗に独占禁止法と呼ぶ)では、

1)私的独占
2)不当な取引制限
3)不公正な取引方法

を明文化して禁止しています。

1)私的独占
事業者が、単独に、又は他の事業者と結合し、若しくは通謀し、その他いかなる方法をもってするかを問わず、他の事業者の事業活動を排除し、又は支配することにより、公共の利益に反して、一定の取引分野における競争を実質的に制限すること(2条5項)

「排除」とは、他の事業者の事業活動の継続を困難にし、あるいは新規参入を困難にする行為をいいます。これは、業界団体や規制当局に圧力をかけて、参入を止めることは、共通株主に限定したことではなく、一般的に黒です。

「支配」とは、他の事業者の意思決定を拘束し、自己の意思に従わせることをいいます。株式保有や役員派遣により事実上意思決定を支配できるようになった状態も「支配」に含まれます。これは、共通株主の問題行為となり得る可能性を多分に含みます。

2)不当な取引制限
事業者が、契約、協定その他何らの名義を以てするかを問わず、他の事業者と共同して対価を決定し、維持し、若しくは引き上げ、又は数量、技術、製品、設備若しくは取引の相手方を制限する等相互にその事業活動を拘束し、又は遂行することにより、公共の利益に反して、一定の取引分野における競争を実質的に制限すること(2条6項)

一般的には、「談合」などがこれに該当します。これは、共同株主に限った話以前の問題です。

3)不公正な取引方法
これは、16種類の事例が挙げられており、全部説明するには紙面が不足するため、代表的なものだけを例示列挙します。供給者の優越的地位を濫用して、商品若しくは役務の数量若しくは内容を制限したり、正当な理由なく差別的な価格で提供したり、ダンピング価格で販売したり、再販価格を指定したりすることを指します。

これも、共同株主に限った話ではない禁止事項です。

次章で議論する前に、いわゆる独占企業に禁止が申し渡されている内容というのは、共同株主の影響下にあるかどうか以前の問題であることをまずは念頭に置いて頂きたいと思います。

 

■ 共通株主の理論で狙い撃ちされている特定の株主の属性

力を持ちすぎると、出る杭は打たれる。それは日本に限らず、世界共通の理(ことわり)のようです。

2017/11/28付 |日本経済新聞|朝刊 (アセットマネジメント新世紀)成長産業への変貌(1) 世界の運用資産 1.6京円 25年 新興国で中間層台頭 欧米16社、1兆ドル超え

「アセットマネジメント(資産運用)業が成長産業へと変貌しつつある。先進国の高齢化や新興国での中間層台頭により、世界の運用資産は2025年には1京6000兆円強と、現在の世界の国内総生産の約2倍に達する見通しだ。M&A(合併・買収)などを駆使して巨大化した運用会社が、世界を舞台にマネーを奪い合う別次元の競争が始まっている。」

(下記は同記事添付の「運用資産は世界で拡大が続く」を引用)

20171128_運用資産は世界で拡大が続く_日本経済新聞朝刊

アクティブファンド、インデックスファンド取り混ぜて、ファンド資本主義とも呼ぶに値する状況になっていると思います。

「ブラックロックに加えて、米国のバンガード、フィデリティ、JPモルガン――。16年末で欧米16社の資産規模がそれぞれ1兆ドルを超えた。これら「1兆ドルクラブ」は世界の運用業界をけん引していく主要プレーヤーだ。最近では英国でスタンダード・ライフとアバディーン・アセット・マネジメントが経営統合し、運用資産を1兆ドル近くまで膨らませた。」

そういう状況下で、共同株主の理論が主要な攻撃の的にしているのが、インデックスファンドなのです。

冒頭の記事から。

「米ブラックロックやバンガードなどが、そろって航空大手の大株主になっている。いずれも株価指数に連動した運用成績を狙うインデックス運用の大手だ。」

これに対して、インデックスファンド側も反論しています。

「「同じ業界では、株主になれる会社数を限るべきだ」という規制にまで議論は及ぶ。たまらずブラックロックのバーバラ・ノビック副会長は「(運賃上昇で)航空3社の利益が増えたとしても、米S&P500指数の構成銘柄のうち497社にはコスト高になる。競争を弱めさせる動機づけはない」と反論する。」

「またブラックロックによると、米市場におけるインデックス運用の株式売買シェアは個別銘柄に選別投資するアクティブ運用の22分の1にすぎない。インデックス運用の規模がさらに増え、価格形成がゆがむようなら、逆にアクティブ運用が有利になる自律作用が働くと同社は訴える。」

 

■ インデックスファンドは、共通通株主の理論を通して、規制されるべき金融コンツェルンの亡霊なのか?

その昔、大恐慌前の金融巨大コンツェルンによる産業支配が軒並み規制され、日本でも戦後の財閥解体(過度経済力集中排除法)によって資本の過度の集中が「悪」とされました。その後、1997年、会社法改正で純粋持株会社が解禁されて現在に至っています。

私的企業の健全な市場競争が健全な資本運用と産業育成と公共の利益の増大に資する、という考えに基づけば、インデックスファンドによる影の支配で特定の産業において、消費者が搾取されているとみれば、それは英誌エコノミストが断じるように「ステルス社会主義」という表現が当てはまるのでしょうか。

そもそも、社会主義というのは、「資本主義の生み出す経済的・社会的諸矛盾を、私有財産制の廃止、生産手段および財産の共有・共同管理・計画的な生産と平等な分配によって解消する(大辞林第三版)」考え方です。「ステルス社外主義」は、インデックスファンドに一番有利になるように支配下の企業の生産活動が統制されていることを指して表現されているのだと思います。

ここに、筆者の意見として、2つ挙げさせて頂きます。

(1)インデックスファンド ≠ アクティビストファンド
インデックスファンドはパッシブに動くので、テクニカル指標の面から業績のいい企業を取捨選択するのが投資行動のメインです。悪いアクティビストファンド(グリーンメーラーをイメージしてください)は、短期的に株主の取り分を増やそうと行動しますが、良いアクティビストファンドは、中長期の企業価値最大化を目指します。むしろ、経営に口を出さずに、パッシブに好業績企業への投資に順々に乗り換えていくのがインデックスファンド派のではないでしょうか。「共同株主の理論」が目の敵にする相手が違います。

(2)最終的な資本主は誰か?
昨今のスチュワードシップ・コードに関する議論の盛り上がりにみられるように、ファンドも直接の投資先の経営に対して、議決権行使など、いろいろな面で投資の透明性や説明責任を求められるようになりました。ということは、ファンドへの本当の資金の出し手から監視を受ける立場なのです。つまり、インデックスファンド運営会社は資金の最終的な出し手では決してないのです。インデックスファンドの先の最終的な資金の出し手。その立場にある方々こそ、「共同株主の理論」の直接の批判の矢面に立つべきなのです。

筆者がこの避難・批判を正当と考えるかどうかはまた別のお話。(^^)

(注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です

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