■ パッシブ投信の議決権行使に問題性があるか?
もしからしたら、このコラムの筋を読み間違えているかもしれませんが、大変興味深い内容でしたが、意味が難解でしたので、改めて自分の頭の整理のためにここに文章にまとめてみたいと思います。
2017/7/27付 |日本経済新聞|朝刊 (大機小機)パッシブ投資家の議決権行使
「個々の銘柄を選択して投資する伝統的なアクティブ投資に代わって、特定の株式市場全体や指数を買うパッシブ投資が増えている。
過去のデータをもとに、アクティブ投資はパッシブ投資をパフォーマンスで凌駕(りょうが)できないと考えるファイナンスの専門家が増えている。パッシブ投資が増える最大の理由でもある。」
このコラムでは、パッシブ投資の比重が高まる現況下、パッシブ投信を運営している機関投資家による議決権行使が個々の企業の頭痛のタネになっていると言及しています。何が争点になっているのか、双方の意見というのが紹介されているので簡単にご紹介。
<パッシブ投信を運営する機関投資家>
・パッシブ運用は、ベンチマークとする指標(日経平均やTOPIXなど)に基づく銘柄構成でポートフォリオを組まざるを得ないことから、議決権の行使が不可欠であると主張する
・なぜなら、投資先企業に不満があっても、その企業の株式だけを売るという退出のオプションが使えないので、不満表明の手段としての議決権行使を行う必要があるから
この一例として、不適切会計以後の株価低迷の東芝を東証二部降格する大きな理由の一つとなったことが記憶に新しいと思います。
<投資先の企業の経営者>
・パッシブ投資家は個別企業に対してほとんどコミットメントを持たない。ただベンチマークの株式指標だけを見て投資判断を行っている
・したがって、個別企業についての分析情報すら十分に行っているとは言い難い。
・情報もコミットメントも持たない株主の議決権行使は、当該企業の株主全体の利益にはならない(情報もコミットメントも持たない事柄の決定には口出ししないというのが、社会生活の基本ルールであり、当然の節度である)
皆さんはこの意見の対立構造に何か違和感を覚えませんか?
■ 株主権の平等と経営参加権の行使の制約について
「株主平等の原則」とは、株式会社の株主は、株主としての資格に基づく法律関係においては、その内容及び持ち株数に応じて平等に扱われなければならないとする原則のことをいいます。パッシブ投信の機関投資家も、アクティブ投信の機関投資家、はたまた個人投資家も等しく株式数に比例して、平等に扱われなくてはいけません。
そういう意味では、個人投資家優遇の株主優待制度は「NG」というのが公的見解とは異なり、筆者個人の意見ではありますが。(^^;)
(参考)
⇒「株主優待、金券が半数弱 長期保有の個人に的 - 株主平等の原則の遵守か、持ち合い株式の解消の受け皿として個人株主を優遇するか」
そして、その平等性を担保されている株主権には、次の3つがあります。
①「議決権等」:株主総会での議決権等、会社の経営に参加する権利
②「配当受取権」:配当金等の利益分配を受け取る権利
③「残余財産分配権」:会社の解散等に際して、残った会社の資産を分配して受け取る権利
(参考)
⇒「個人投資家 「物言う株主」に 増える総会提案、経営に緊張感 乱用懸念、運用に課題 -株主権の基本を学習してから乱用ケースを見ていきましょう!」
つまり、配当受取権も議決権も、1株比例で等しく取り扱われなくてはいけません。それが、合法的であるなら、アクティビスト(物言う株主)でも然り。パッシブ運用の機関投資家だけ、株主総会の議決から外すなど、もっての外。株式会社制度の根幹を揺るがす意見です。
では、「株主平等の原則」の例外は無いのか?
株主取扱の別ならば、少数株主権、単位未満株所有者、譲渡制限会社の株主(非上場会社株主)などという制度が存在しますが、株主権の内容に関しては、ズバリ、「種類株式」です。日本ではトヨタ自動車のAA型種類株式が有名です。
(参考)
⇒「(一目均衡)緩和競争に揺れる東証 証券部 川上穣 (前編)「種類株式」を上場することの意味と影響について」
⇒「(一目均衡)緩和競争に揺れる東証 証券部 川上穣(後編)インデックス投信が隆盛の市場に種類株は相応しくない?」
つまり、パッシブ投信は、ただ株式指標にしたがって投資先の銘柄構成比率を調整しているだけ。経営の中身を知ろうとはしないという偏見と思い込みがあるように思います。それはある部分当たっているのでしょう。でないと、ISSやグラスルイスのような議決権行使助言会社がここまでビジネスを伸ばすこともできなかったでしょうから。しかし、一方で、個人投資家がより会社経営に関心を示し、有意義(誰にとってという意味は脇に置いておいて)な議決権行使ができるとも思いません。ただの短期的な値動きや株主優待に惹かれてその株式を購入した個人投資家も多いでしょうから。
公開会社は一般的には株主を選ぶことができません。もし、株主を選びたいなら、非公開を選ぶか、種類株式を発行するかしかありません。一方で、議決権に制約のある種類株式を忌み嫌う機関投資家が多いのも承知していますが、もし、議決権(経営参加権)に興味が無く、配当や値上がり益にしか興味が無いのなら、優先株式の購入を進んで行うという選択肢もあるのではないでしょうか。
みなさん、議論や意見表明の前に、もうちょっと勉強しませんか?(^^;)
■ 議決権行使の個別開示と機関投資家の立場について
本コラムは、
「改定されたスチュワードシップ・コードでは、機関投資家は個別の議決項目ごとに行使内容を開示しなければならなくなった。それによって議決権の行使内容が社会の目にさらされれば、無責任な行使はなくなると期待できるのだろうか。企業の側は、議決権行使の内容を精査することによって、誰が対話に値するかを判断すべきだ。」
と締め括られています。
コーポレートガバナンス・コードにより、企業は株主や投資家との幅広い対話を積極的に行うこと指針を示されています。そこでは、特定の株主を無視・軽視していいとは記述されていません。
改正スチュワードシップ・コードでの議決権の個別開示は、あくまで、運用担当者が属する企業または企業グループが投資対象会社との特別な利害関係にある時、大事な資金をお預かりしている投資家の利益に反する議決権行使をしないように掣肘するためのものです。
2017/7/5付 |日本経済新聞|電子版 議決権の開示 悩む運用会社 日生、当面見送りへ
「投資先企業の株主総会で行使した議決権の個別開示をめぐり、日本生命保険は4日、開示を見送る方針を明らかにした。長期保有が前提で、開示内容自体が株式の売買材料になることへの懸念などが理由だ。企業との対話が阻まれるのを嫌う一部の運用会社も個別開示に慎重だ。金融庁は原則、個別開示を求めているが、大手機関投資家で対応が割れている。」
2017/5/31付 |日本経済新聞|電子版 三菱自の人事案 三菱信託が「NO」 「投資の論理」を前面に
「三菱UFJ信託銀行は31日、投資先企業の株主総会で投じた各議案への賛否を個別に公表した。当初8月を予定していたが、同行に資産運用を委託している年金基金が個別開示への関心を強めていることから前倒しした。三菱グループ企業の取締役選任議案にも一部反対していたことが分かった。グループ企業間の関係よりも、お金の出し手の利益を追求する「投資の論理」を重視する姿勢を明確にした。」
(下記は同記事添付の「三菱UFJ信託が賛否を開示した主な議案」を引用)
冒頭のコラムでは、
「投資家は議決権行使を権利とみなしがちだが、あらゆる権利と同様、議決権行使には責任も伴う。責任として、株主全体や他のステークホルダーの利益にも配慮する必要がある。」
とあります。グループの人事にも否と意見する、または意思を持って個別開示をしない選択をする。そうした機関投資家の経営意思決定・運用方針決定は尊重されるべきです。そして、そうした行動を示した機関投資家が運用する投資信託・金融商品を購入するか否かは、一般投資家が決めること。
意見表明を封殺される社会、法的な権利を歪める風聞の悪意に満ちた力。そういうものには断固「NO」ですね!(^^)
(注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です。
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