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■ ファーストリテイリングもボリュームゾーンを取りに行くのか?

経営管理会計トピック

ファーストリテイリング(ブランドは、ユニクロ、GUなど)が、傘下のジーユーで、ファストファッションのビジネスモデルへの追随策に出ています。これが吉と出るか凶と出るか、大変興味深い所ではあります。

以前、ユニクロブランドで、機能性素材「ヒートテック」「ウルトラライトダウン」といった機能品質重視の顧客ニーズの取り込みをバリュープロポジションとしたビジネスモデルの展開をご紹介しました。そこでは、素材を提供する東レと組み、ITも駆使して積極的に顧客の機能性・用途に対するニーズ即応モデルの構築を目指していました。

⇒「ファストリと東レ、販売・生産情報共有 流行や人気…迅速対応 5年で1兆円取引発表

今度は、ユニクロとはブランドの棲み分けを意識はしているようですが、ユニクロとは異なるビジネスモデルで顧客ニーズを取り込もうとしています。

2016/2/17付 |日本経済新聞|朝刊 ファストリ傘下のGU、人気商品をすばやく増産 従来の半分、2ヵ月で

「ファーストリテイリング傘下でカジュアル衣料のジーユーは、売れ行きに応じて柔軟に生産販売できる仕組みを導入する。従来は生産計画を決めて店頭に並ぶまで4カ月かかっているが、取引工場と綿密に連携して半分の2カ月で増産する。大型店やインターネットでの試験販売も駆使して100万着以上のヒット商品を複数生み出し、「ZARA」など欧米のファストファッション企業に対抗する。」

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

ジーユーの販売急成長ぶりは記事でも次のように語られています。

「ジーユーは流行を取り入れた低価格のカジュアル衣料が強みで、300店強を展開する。ジーユー事業の2015年8月期の売上高は1415億円と前の期比32%増え、ファストリ全体の8%を占める。昨春に裾の広い「ガウチョパンツ」がヒットするなど、足元はユニクロを上回る増収・増益率と国内出店数で伸びている。」

(下記は、同記事添付の都内店舗の様子を転載)

20160217_ジーユー都内の店舗_日本経済新聞朝刊

ジーユーで1月に試験販売した「ガウチョパンツ」は、売れ筋などを見極めるなどして、300万枚と当初想定の5倍以上の販売に成功しました。

「今春夏向けでもスカートに見える「スカンツ」などパンツ2種類、月内発売の丈の長いTシャツとヒット商品の候補に新生産方式を導入する。本格的なシーズンの2~3カ月前に全国23カ所の大型店や通販サイトで扱い、日々の販売情報から売れ筋の色や型、増産量などを判断して工場に追加発注していく。」

これはまさしく、ZARAやH&Mが取り入れた「ファストファッション」のビジネスモデルそのものです。

■ ファストファッションでの勝利の方程式とは?

ちなみに、ファストファッションとは、WiKiによると、
「最新の流行を採り入れながら低価格に抑えた衣料品を、短いサイクルで世界的に大量生産・販売するファッションブランドやその業態」

という意味で、寿命の短い季節製品であるファッションを、その期間で売り切るビジネスモデルです。昔ながらの言い方ですと「売り切れ御免」。これが採算計算的にどうして儲かるのかといいますと、①在庫廃棄損の発生回避、②バーゲンによるマージン率低下の回避 ③商品への飢餓感の演出、がポイントになります。

1.在庫廃棄損の発生回避
季節性の高い製品は、流行が廃れると、または季節が終わると、販売に適した期間が終わり、完全に売れ残り品となり、全て死蔵在庫になってしまいます。つまり「廃棄損」がどうしても出てしまうということ。せっかくブランドを高めて、高いマージン率で商品を販売しても、季節が終わった時に、大量の死蔵在庫が存在してしまっていては、その分の廃棄損で販売利益がどうしても目減りしてしまいます。

2.バーゲンによるマージン率低下の回避
どうせ売れ残ってしまうと、次のシーズンが来ても、流行遅れになってしまうから再び売れることはない。じゃあ、バーゲンでギリギリまで値下げしてでも、売り切ってしまおう、というロジックになりがちです。そうすると、ブランドの価値を下げると同時に、販売単価の下げからマージン率も低下してしまいます。

3.商品への飢餓感の演出
バーゲンを回避するためには、余計な在庫を持たないようにする。しかし、そうすると販売機会ロス(いわゆる欠品による売り逃し)が生じるリスクと裏腹になります。ファストファッションにおける販売ビジネスモデルは、シーズン中に、店頭での販売実績データを元に、そこそこの追加発注はしますが、顧客を深追いはしません。次のシーズンに向けた商品、新たなデザインの商品を次々と店頭に並べます。店頭である品を手に取ったお客は、購入に迷うかもしれません。しかし、もしかすると、この商品は明日来店した時にはすでに売れてしまって、永遠に手に入らないかもしれない。じゃあ、今日のうちに思い切って買ってしまおう、という購買行動を促します。

この3つがファストファッションの勝利の方程式。

そして、そのための重要成功要因(CSF:Critical success factor, KFS:Key factor for success)は、ズバリ、「柔軟で素早い生産リードタイム」です。

(下図は、記事添付の売れ筋商品の生産体制イメージ図を転載)

20160217_GUは売れ筋商品を柔軟に増産する_日本経済新聞朝刊

「海外の素材メーカーや縫製工場と交渉し、大規模な増産に向けて素材の調達や増産時のライン構築や人員配置を準備してもらう。増産の見込みが外れた場合に備え、生地などの素材は他の商品に転用できるものを選ぶ。
従来のシャツやジャケットなど定番商品は発注から販売まで平均4カ月程度かかる。従来の納期では、試験販売しても時期が早すぎて参考にしにくかった。」

生産工場や素材メーカーと販売情報を共有して、短く・柔軟な生産体制を構築しておく。これが大事ということです。

「一般にファッション業界では発売の1年前に素材を調達し、半年前から生産を始める。欧米のファストファッション企業は半月単位で量産商品を追加増産せずに売り切り、売り場の目新しさを演出する。
ジーユーは2カ月単位のきめ細かい工程管理で増産しながら大量販売する独自の手法で、低価格と在庫リスクの低減を目指す。ファストリはジーユー事業で中期的に売上高3000億円、営業利益率で13%強を目指す。新たな生産方式は、ユニクロでも流行を反映する商品にノウハウを活用できる見通しだ。」

ジーユーは、従来のファストファッションの勝利の方程式に加え、ユニクロが東レ等と組んで進めてきた製販協働のSPA(Specialty store retailer of Private label Apparel : アパレル製造小売業)素材調達、企画、開発、製造、物流、販売、在庫管理など、製造から販売までのすべての過程を一貫して行う業態)の強みを十二分に活かせる体制でこのビジネスに挑むことになります。傘下の別のブランドでの成功体験を横展開する、シナジーをグループ企業内の複数ブランド間で生み出して、グループの収益性を高めたい、ということなのでしょう。

■ ファストファッションのビジネスモデルはレッドオーシャン?手ごわい競争相手が既にいます。

誤解を恐れず、筆者なりの言い方で表現させていただくと、ファーストリテイリングは、まさに「2020年の売上高5兆円」を目標に、ZARAやH&Mの後を追っかけています。規模を最初に追っかけるより、ファーストリテイリングは、独自の生産モデルと、高性能の機能性衣料をリーズナブルな価格で提供する商品戦略で、独自の戦い方をした方が良いのでは、と考えています。すでにグローバル規模で大手の競争相手がいる土俵で戦っても、待っているのはレッドオーシャンなのでは? と思うのであります。規模拡大は、そうしたマーケットでの顧客支持の強さから、後からついてくるのではないか、その方が強い経営組織体質と、収益基盤が構築できるのではないかと思案しています。

では、筆者専門領域のひとつである財務分析から、競合SPAとのビジネスモデルの違いと、市場でのポジションを確認します。そして、今回のジーユーの戦略がファーストリテイリングをどこに向かわせようとしているのかを簡単に説明します。

下記は、ファーストリテイリングが競争相手と認め、かつ規模が大きい3社との業績比較になります。

20160227_SPA企業の2014年の業績比較

規模感については、為替換算による誤差発生を避けるため、現地通貨ベースでほんわかと感じてください。比率数値ならば、為替換算差異は発生しないので、
① 交差比率(交叉比率):つまるところ、在庫粗利率
② 売上高粗利率
③ 在庫回転数(率)

で、各社を比較してみましょう。

念のため、

交差比率 = 粗利 ÷ 在庫
     = (粗利 ÷ 売上高)×(売上高 ÷ 在庫)
     = 売上高粗利率 × 在庫回転数(率)

という因数分解になります。

BtoC型の商売をしている企業の収益性を分析するのに、このやり方は非常にシンプルでかつ古典的手法となっています。

上記の表は「交差比率(在庫粗利率)」の高い順に並べてみました。実は、売上規模の順にもなっているのですが。だから、規模を追えば利益率も高まる、というのは早計です。交差比率は、「粗利率」と「在庫回転数」とに因数分解されます。つまり、高付加価値品を売って高いマージンを取るか、薄利多売で利益を積み上げるか、のいずれかです。ファーストリテイリングは、粗利率こそGAPを上回っていますが、在庫回転数(率)が最も小さい。そこで、在庫回転数をあげるために、ファストファッションのビジネスモデルを追求することを考えた。しかし、そこに死角があります。

■ 昔から、「二兎追う者一兎も追えず」と言いますよね。

こちらは、前章の比較表を散布図に展開し直したものです。

20160227_SPA企業の2014年の交差比率グラフ

縦軸に「粗利率」、横軸に「在庫回転数」を取っています。そして、その合成(かけ算)で求まる交差比率は、右肩下がりのトレードオフ曲線となります。つまり、ファーストリテイリングが普通のやり方で、ただ在庫回転数をあげるオペレーションを強化したら、よほどの外的要因で交差比率を描くトレードオフ曲線を右上にシフトさせる何かが起きないと、そのまま「粗利率」の低下を伴い、自然と元の交差比率(在庫利益率)に収斂する、というのがこの道の経験則なのです。

そして、現在のファーストリテイリングのこの散布図上でのポジショニングも重要です。上位3社に比べて、左上に位置しているのです。これは、高機能で、その価値を市場で認められ、高マージン率での販売が実現している現状をそのまま映しています。この位置取りから在庫回転率を高めようとすると、商品開発や生産リードタイムなど、これまでのオペレーションを変える必要があります。せっかく、高マージン率のポジションにいるのに。そのポジションを築くために、組織学習が行われ、そのポジションを維持するために組織構成員は訓練されてきているはずです。それを、右方遷移を目指す(経営者としては、当然のこととして、右上遷移を意図しているのでしょうが、、、)ということは、これまでの成功体験を一部捨てて、新たな挑戦を始めるということです。

企業が次々と新たな挑戦をすることは、教科書的には「イノベーション」と呼ばれて、企業成長にはいいことだ、と考える風潮があります。しかし同時に、それはこれまでの企業の強みを捨てる(一部改変する)ことも意味します。その変化の行先が、何度も繰り返しになりますが、すでに大手の競業がいる場所ということになりますと、いわゆる「レッドオーシャン」です。

ITを駆使する、
これまで築いてきたパートナーとの強力なタッグで開発・生産体制の強化を維持、
中間品を在庫(部材の標準化・共通化)することで在庫リスクを軽減、
などなど、

革新的経営者として名高い柳井会長兼社長としては、必勝の構えなのでしょうが、老婆心ながら少々心配しています(お前の老婆心なんぞ柳井さんにはなんの意味も無いでしょうが)。
柳井さんがかつておっしゃっていましたよね。「1勝9敗」。これが「1勝」につながり、残りの「9敗」にならないことを心から念じています。

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ファストリ傘下のGU、人気商品をすばやく増産 従来の半分、2ヵ月で -ファストファッションのビジネスモデルはレッドオーシャン !?http://keieikanrikaikei.com/wp-content/uploads/2015/04/1-e1427893099240.jpghttp://keieikanrikaikei.com/wp-content/uploads/2015/04/経営管理会計トピック1-150x150.jpg小林 友昭会計で経営を読むCSF,GAP,H&M,Inditex,KSF,SPA,ZARA,イノベーション,ジーユー,ビジネスモデル,ファストファッション,ファーストリテイリング,ボリュームゾーン,ポジショニング,ユニクロ,レッドオーシャン,交叉比率,交差比率■ ファーストリテイリングもボリュームゾーンを取りに行くのか? ファーストリテイリング(ブランドは、ユニクロ、GUなど)が、傘下のジーユーで、ファストファッションのビジネスモデルへの追随策に出ています。これが吉と出るか凶と出るか、大変興味深い所ではあります。 以前、ユニクロブランドで、機能性素材「ヒートテック」「ウルトラライトダウン」といった機能品質重視の顧客ニーズの取り込みをバリュープロポジションとしたビジネスモデルの展開をご紹介しました。そこでは、素材を提供する東レと組み、ITも駆使して積極的に顧客の機能性・用途に対するニーズ即応モデルの構築を目指していました。 ⇒「ファストリと東レ、販売・生産情報共有 流行や人気…迅速対応 5年で1兆円取引発表」 今度は、ユニクロとはブランドの棲み分けを意識はしているようですが、ユニクロとは異なるビジネスモデルで顧客ニーズを取り込もうとしています。 2016/2/17付 |日本経済新聞|朝刊 ファストリ傘下のGU、人気商品をすばやく増産 従来の半分、2ヵ月で 「ファーストリテイリング傘下でカジュアル衣料のジーユーは、売れ行きに応じて柔軟に生産販売できる仕組みを導入する。従来は生産計画を決めて店頭に並ぶまで4カ月かかっているが、取引工場と綿密に連携して半分の2カ月で増産する。大型店やインターネットでの試験販売も駆使して100万着以上のヒット商品を複数生み出し、「ZARA」など欧米のファストファッション企業に対抗する。」 (注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます ジーユーの販売急成長ぶりは記事でも次のように語られています。 「ジーユーは流行を取り入れた低価格のカジュアル衣料が強みで、300店強を展開する。ジーユー事業の2015年8月期の売上高は1415億円と前の期比32%増え、ファストリ全体の8%を占める。昨春に裾の広い「ガウチョパンツ」がヒットするなど、足元はユニクロを上回る増収・増益率と国内出店数で伸びている。」 (下記は、同記事添付の都内店舗の様子を転載) ジーユーで1月に試験販売した「ガウチョパンツ」は、売れ筋などを見極めるなどして、300万枚と当初想定の5倍以上の販売に成功しました。 「今春夏向けでもスカートに見える「スカンツ」などパンツ2種類、月内発売の丈の長いTシャツとヒット商品の候補に新生産方式を導入する。本格的なシーズンの2~3カ月前に全国23カ所の大型店や通販サイトで扱い、日々の販売情報から売れ筋の色や型、増産量などを判断して工場に追加発注していく。」 これはまさしく、ZARAやH&Mが取り入れた「ファストファッション」のビジネスモデルそのものです。 ■ ファストファッションでの勝利の方程式とは? ちなみに、ファストファッションとは、WiKiによると、 「最新の流行を採り入れながら低価格に抑えた衣料品を、短いサイクルで世界的に大量生産・販売するファッションブランドやその業態」 という意味で、寿命の短い季節製品であるファッションを、その期間で売り切るビジネスモデルです。昔ながらの言い方ですと「売り切れ御免」。これが採算計算的にどうして儲かるのかといいますと、①在庫廃棄損の発生回避、②バーゲンによるマージン率低下の回避 ③商品への飢餓感の演出、がポイントになります。 1.在庫廃棄損の発生回避 季節性の高い製品は、流行が廃れると、または季節が終わると、販売に適した期間が終わり、完全に売れ残り品となり、全て死蔵在庫になってしまいます。つまり「廃棄損」がどうしても出てしまうということ。せっかくブランドを高めて、高いマージン率で商品を販売しても、季節が終わった時に、大量の死蔵在庫が存在してしまっていては、その分の廃棄損で販売利益がどうしても目減りしてしまいます。 2.バーゲンによるマージン率低下の回避 どうせ売れ残ってしまうと、次のシーズンが来ても、流行遅れになってしまうから再び売れることはない。じゃあ、バーゲンでギリギリまで値下げしてでも、売り切ってしまおう、というロジックになりがちです。そうすると、ブランドの価値を下げると同時に、販売単価の下げからマージン率も低下してしまいます。 3.商品への飢餓感の演出 バーゲンを回避するためには、余計な在庫を持たないようにする。しかし、そうすると販売機会ロス(いわゆる欠品による売り逃し)が生じるリスクと裏腹になります。ファストファッションにおける販売ビジネスモデルは、シーズン中に、店頭での販売実績データを元に、そこそこの追加発注はしますが、顧客を深追いはしません。次のシーズンに向けた商品、新たなデザインの商品を次々と店頭に並べます。店頭である品を手に取ったお客は、購入に迷うかもしれません。しかし、もしかすると、この商品は明日来店した時にはすでに売れてしまって、永遠に手に入らないかもしれない。じゃあ、今日のうちに思い切って買ってしまおう、という購買行動を促します。 この3つがファストファッションの勝利の方程式。 そして、そのための重要成功要因(CSF:Critical success factor, KFS:Key factor for success)は、ズバリ、「柔軟で素早い生産リードタイム」です。 (下図は、記事添付の売れ筋商品の生産体制イメージ図を転載) 「海外の素材メーカーや縫製工場と交渉し、大規模な増産に向けて素材の調達や増産時のライン構築や人員配置を準備してもらう。増産の見込みが外れた場合に備え、生地などの素材は他の商品に転用できるものを選ぶ。 従来のシャツやジャケットなど定番商品は発注から販売まで平均4カ月程度かかる。従来の納期では、試験販売しても時期が早すぎて参考にしにくかった。」 生産工場や素材メーカーと販売情報を共有して、短く・柔軟な生産体制を構築しておく。これが大事ということです。 「一般にファッション業界では発売の1年前に素材を調達し、半年前から生産を始める。欧米のファストファッション企業は半月単位で量産商品を追加増産せずに売り切り、売り場の目新しさを演出する。 ジーユーは2カ月単位のきめ細かい工程管理で増産しながら大量販売する独自の手法で、低価格と在庫リスクの低減を目指す。ファストリはジーユー事業で中期的に売上高3000億円、営業利益率で13%強を目指す。新たな生産方式は、ユニクロでも流行を反映する商品にノウハウを活用できる見通しだ。」 ジーユーは、従来のファストファッションの勝利の方程式に加え、ユニクロが東レ等と組んで進めてきた製販協働のSPA(Specialty store retailer of Private label Apparel : アパレル製造小売業)素材調達、企画、開発、製造、物流、販売、在庫管理など、製造から販売までのすべての過程を一貫して行う業態)の強みを十二分に活かせる体制でこのビジネスに挑むことになります。傘下の別のブランドでの成功体験を横展開する、シナジーをグループ企業内の複数ブランド間で生み出して、グループの収益性を高めたい、ということなのでしょう。 ■ ファストファッションのビジネスモデルはレッドオーシャン?手ごわい競争相手が既にいます。 誤解を恐れず、筆者なりの言い方で表現させていただくと、ファーストリテイリングは、まさに「2020年の売上高5兆円」を目標に、ZARAやH&Mの後を追っかけています。規模を最初に追っかけるより、ファーストリテイリングは、独自の生産モデルと、高性能の機能性衣料をリーズナブルな価格で提供する商品戦略で、独自の戦い方をした方が良いのでは、と考えています。すでにグローバル規模で大手の競争相手がいる土俵で戦っても、待っているのはレッドオーシャンなのでは? と思うのであります。規模拡大は、そうしたマーケットでの顧客支持の強さから、後からついてくるのではないか、その方が強い経営組織体質と、収益基盤が構築できるのではないかと思案しています。 では、筆者専門領域のひとつである財務分析から、競合SPAとのビジネスモデルの違いと、市場でのポジションを確認します。そして、今回のジーユーの戦略がファーストリテイリングをどこに向かわせようとしているのかを簡単に説明します。 下記は、ファーストリテイリングが競争相手と認め、かつ規模が大きい3社との業績比較になります。 規模感については、為替換算による誤差発生を避けるため、現地通貨ベースでほんわかと感じてください。比率数値ならば、為替換算差異は発生しないので、 ① 交差比率(交叉比率):つまるところ、在庫粗利率 ② 売上高粗利率 ③ 在庫回転数(率) で、各社を比較してみましょう。 念のため、 交差比率 = 粗利 ÷ 在庫      = (粗利 ÷ 売上高)×(売上高 ÷ 在庫)      = 売上高粗利率 × 在庫回転数(率) という因数分解になります。 BtoC型の商売をしている企業の収益性を分析するのに、このやり方は非常にシンプルでかつ古典的手法となっています。 上記の表は「交差比率(在庫粗利率)」の高い順に並べてみました。実は、売上規模の順にもなっているのですが。だから、規模を追えば利益率も高まる、というのは早計です。交差比率は、「粗利率」と「在庫回転数」とに因数分解されます。つまり、高付加価値品を売って高いマージンを取るか、薄利多売で利益を積み上げるか、のいずれかです。ファーストリテイリングは、粗利率こそGAPを上回っていますが、在庫回転数(率)が最も小さい。そこで、在庫回転数をあげるために、ファストファッションのビジネスモデルを追求することを考えた。しかし、そこに死角があります。 ■ 昔から、「二兎追う者一兎も追えず」と言いますよね。 こちらは、前章の比較表を散布図に展開し直したものです。 縦軸に「粗利率」、横軸に「在庫回転数」を取っています。そして、その合成(かけ算)で求まる交差比率は、右肩下がりのトレードオフ曲線となります。つまり、ファーストリテイリングが普通のやり方で、ただ在庫回転数をあげるオペレーションを強化したら、よほどの外的要因で交差比率を描くトレードオフ曲線を右上にシフトさせる何かが起きないと、そのまま「粗利率」の低下を伴い、自然と元の交差比率(在庫利益率)に収斂する、というのがこの道の経験則なのです。 そして、現在のファーストリテイリングのこの散布図上でのポジショニングも重要です。上位3社に比べて、左上に位置しているのです。これは、高機能で、その価値を市場で認められ、高マージン率での販売が実現している現状をそのまま映しています。この位置取りから在庫回転率を高めようとすると、商品開発や生産リードタイムなど、これまでのオペレーションを変える必要があります。せっかく、高マージン率のポジションにいるのに。そのポジションを築くために、組織学習が行われ、そのポジションを維持するために組織構成員は訓練されてきているはずです。それを、右方遷移を目指す(経営者としては、当然のこととして、右上遷移を意図しているのでしょうが、、、)ということは、これまでの成功体験を一部捨てて、新たな挑戦を始めるということです。 企業が次々と新たな挑戦をすることは、教科書的には「イノベーション」と呼ばれて、企業成長にはいいことだ、と考える風潮があります。しかし同時に、それはこれまでの企業の強みを捨てる(一部改変する)ことも意味します。その変化の行先が、何度も繰り返しになりますが、すでに大手の競業がいる場所ということになりますと、いわゆる「レッドオーシャン」です。 ITを駆使する、 これまで築いてきたパートナーとの強力なタッグで開発・生産体制の強化を維持、 中間品を在庫(部材の標準化・共通化)することで在庫リスクを軽減、 などなど、 革新的経営者として名高い柳井会長兼社長としては、必勝の構えなのでしょうが、老婆心ながら少々心配しています(お前の老婆心なんぞ柳井さんにはなんの意味も無いでしょうが)。 柳井さんがかつておっしゃっていましたよね。「1勝9敗」。これが「1勝」につながり、残りの「9敗」にならないことを心から念じています。現役の経営コンサルタントが管理会計をテーマに情報発信します