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■ 要は利益を小さく見せたいため - いつか計上するコストなら今期に!

会計(基礎編)

前回から引き続き、利益操作のもうひとつの目的である「利益の過少表示」のための「将来費用を今期に前倒しする」を取り上げます。この手法には、下記の2つの手段があります。

1.将来期間の費用を避けるため、当期に不適切に資産を償却する
2.将来の費用を低減させる目的の引当金を設定するため、不適切に費用を計上する

これらは、前述のテクニックのあべこべになります。コストをP/L上に費用計上するには、いったんB/Sに計上された資産から振り替えます。このツーステップを、途中でやめることを「利益操作(5)当期の費用を翌期以降に繰り延べる」で見てきました。ワンステップでいきなりP/Lに計上することになるコストを、「利益操作(6)費用または損失を隠蔽するその他のテクニック」では、計上タイミングを不当に遅らせるか、費用自体を隠蔽する手練手管を見てきました。

動機が異なれば、真逆の方法で、利益をプラスにもマイナスにもお化粧する方法はいくらでもあるものなのですね。

では、本記事を書くのに参考にしている図書の紹介から。

会計不正はこう見抜け

この図書の内容を受けて、筆者が整理した不適切会計の全体見取り図は下記のとおり。

経営管理会計トピック_不適切会計の類型

では、「将来費用の前倒し」のための、先人の苦労(?)を解析していきます。

この手法は次の2つです。

(1)将来期間の費用を避けるため、当期に不適切に資産を償却する
(2)将来の費用を低減させる目的の引当金を設定するため、不適切に費用を計上する

 

(1)将来期間の費用を避けるため、当期に不適切に資産を償却する

まず、個別説明に入る前に、費用計上のツーステップの典型的なケースのおさらいから。

<ステップ1>    <ステップ2>
「資産」       「費用」
① 繰延営業費用 → 営業費用
② 棚卸資産   → 売上原価
③ 工場及び設備 → 減価償却費用
④ 無形固定資産 → その他の償却費用

● 繰延営業費用の不適切な償却
US-GAAP特有のもので、実際に将来の便益(売上増加など)に貢献することが証明されたなら、支出額全額を当期のコストとせずに、償却資産として定期償却していいという性質のコストがあります。

・マーケティング・コスト
・新規顧客獲得コスト

「利益操作(5)当期の費用を翌期以降に繰り延べる」では、これらのコストを圧縮するために、無用に償却資産としてB/Sに積んでおく手法を説明しました。そして、会社業績が戻ったら、一気にこれらの償却資産の価値が無くなったので減損損失として一気に処理したい(本当は資産計上時に、本来の資産性は無かったことは置いといて)として、日本基準だと、特別損失で全額今期の費用としてしまいます。

当然、日本の一部(ソフト、ゲーム業界のそれまた一部)でも、この種の操作が行われた実例があります。

● 在庫が陳腐化したとして不適切に評価減する
企業会計基準9号「棚卸資産の評価に関する会計基準」38項によりますと、
① 品質低下評価損(物理的な劣化)
② 陳腐化評価損(経済的な劣化:商品ライフサイクルの変化)
③ 低価法評価損(市場の需給変化)
の3つの理由で、在庫評価損を計上する(できる)ことになっています。

このうち、②と③については、在庫品に物理的な影響が出ていないので、陳腐化・需給変化を会計士に言い立てて、評価減を計上することができます。会社業績が好調なときに、評価損を立てておいて、通常もしくは不調な時期に、評価減後の在庫を通常販売価格で売り上げると、将来の利益を約束するために、今期費用を積む操作が可能になります。

● 工場および設備が減損したとして不適切に評価減する
有形無形固定資産に関わらず、いったんB/Sに資産として計上されているものは、将来の費用の発生を抑制、または将来の収益の獲得のために、会社が取得したものは資産性があると認識されます。そして、「費用収益対応の原則」に従って、厳正にP/Lに費用計上(その多くは減価償却という形で)されます。しかし、将来の収益の獲得(またはキャッシュイン)が見込めない資産は、それが判明した時点で、資産性を失い、「減損損失」させなければなりません。この、会計処理を逆手にとって、資産性を失ったと見せかけ、一気に今期の費用・損失として計上(通常は多額の減損損失となる)させることができます。

外部の投資家、会計監査に携わる監査人としては、毎期毎期、特別損失の欄に、多額の「リストラ費用」が経常的に計上されるのを目にしたら、その「特別性」について厳格に調査する必要があるでしょう。特に、無形固定資産の減価償却期間の頻繁な変更にも目を光らせておく必要があります。

 

(2)将来の費用を低減させる目的の引当金を設定するため、不適切に費用を計上する

このトリックは、経営者が将来の費用といくらかでっちあげた分も当期の費用に計上するやり方です。そうすることによって、将来の期間が到来した時に、

1)営業費用が過少計上される
2)架空費用と関連する架空負債が引当となる

ことで、結果的に営業費用が過少計上され、利益の水増しを行うことが可能になります。

● 今日リストラ費用を使って、明日の営業利益を膨らませる
通常のリストラ費用は、従業員に支払う割増退職金など、キャッシュアウトの実態を伴ったものならば、真実性が高く、会計操作の余地は小さいといえましょう。しかし、そのリストラ策に、例えば、リストラの広告キャンペーンの名目で、「市場調査のための臨時支出」、しかも、これから支払う予定のものを含めて水増ししたり、リストラに伴う訴訟に備える意味での「訴訟引当金」を多めに積んだりして、実態より(ここでいう実態は当期のキャッシュアウト)多めにリストラ費用を計上することで、来期以降の営業利益を大きく膨らませる動機を、経営者が持っていないか、その言動には要注意です。恥は一時。今期、どうせ赤字から、思いっきり大きく赤字にしておいて、来期以降の費用もぶち込んでおく。そうした誘惑に経営者が駆られても、経営者であることのプレッシャー、来期業績をV字回復させる約束手形を手に入れたくなる名誉回復の機会、そういうことを考慮すると、気持ちは分からないでもありません。

 

■ 利益操作のトリックの説明を振り返って

ここまで、利益操作のトリックの手段を7回にわたって見てきました。つまるところ、期間損益は、発生主義と実現主義で、費用と収益が計上されます。期間損益は、近代会計手続きによって計算されるもので、その多くは、会計的な「お約束事」で、「いつ」「いくら」計上するか、会計処理のスタンスである程度、裁量の余地が与えられています。そこで、最近では、「アクルーアル」と言って、会計的利益とキャッシュフローの乖離度を把握する分析方法も着目されています。

⇒「(スクランブル)会計問題、身構える市場 「利益の質」で投資先選別

・アクルーアル = (税引後利益 ± 特別勘定)-営業キャッシュフロー
・アクルーアル比率 = アクルーアル ÷ 総資産 ×100

しかし、会計的処理による期間損益が信用に値しない、となれば、複式簿記を捨てて、単式簿記、小遣い帳と同じ原理の「キャッシュフロー計算書」だけで、経営管理と業績評価を行うことになります。はさみもキャッシュフローも、使う人の器量で、良い道具にもなりますし、悪い道具にもなります。特に、中長期的な投資回収計算は、キャッシュフローは得てして、不得意なものなのですよ。

ということで、次回からは、キャッシュフローのトリックを説明していきたいと思います。




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不適切会計の手段 -利益操作(8)将来の費用を前倒しするhttp://keieikanrikaikei.com/wp-content/uploads/2015/07/3c971502de75240f1831fd45c1169d291.jpghttp://keieikanrikaikei.com/wp-content/uploads/2015/07/3c971502de75240f1831fd45c1169d291-150x150.jpg小林 友昭財務会計(入門編)アクルーアル,不適切会計,在庫評価損,減損損失,費用収益対応の原則■ 要は利益を小さく見せたいため - いつか計上するコストなら今期に! 前回から引き続き、利益操作のもうひとつの目的である「利益の過少表示」のための「将来費用を今期に前倒しする」を取り上げます。この手法には、下記の2つの手段があります。 1.将来期間の費用を避けるため、当期に不適切に資産を償却する 2.将来の費用を低減させる目的の引当金を設定するため、不適切に費用を計上する これらは、前述のテクニックのあべこべになります。コストをP/L上に費用計上するには、いったんB/Sに計上された資産から振り替えます。このツーステップを、途中でやめることを「利益操作(5)当期の費用を翌期以降に繰り延べる」で見てきました。ワンステップでいきなりP/Lに計上することになるコストを、「利益操作(6)費用または損失を隠蔽するその他のテクニック」では、計上タイミングを不当に遅らせるか、費用自体を隠蔽する手練手管を見てきました。 動機が異なれば、真逆の方法で、利益をプラスにもマイナスにもお化粧する方法はいくらでもあるものなのですね。 では、本記事を書くのに参考にしている図書の紹介から。 会計不正はこう見抜け この図書の内容を受けて、筆者が整理した不適切会計の全体見取り図は下記のとおり。 では、「将来費用の前倒し」のための、先人の苦労(?)を解析していきます。 この手法は次の2つです。 (1)将来期間の費用を避けるため、当期に不適切に資産を償却する (2)将来の費用を低減させる目的の引当金を設定するため、不適切に費用を計上する   (1)将来期間の費用を避けるため、当期に不適切に資産を償却する まず、個別説明に入る前に、費用計上のツーステップの典型的なケースのおさらいから。 <ステップ1>    <ステップ2> 「資産」       「費用」 ① 繰延営業費用 → 営業費用 ② 棚卸資産   → 売上原価 ③ 工場及び設備 → 減価償却費用 ④ 無形固定資産 → その他の償却費用 ● 繰延営業費用の不適切な償却 US-GAAP特有のもので、実際に将来の便益(売上増加など)に貢献することが証明されたなら、支出額全額を当期のコストとせずに、償却資産として定期償却していいという性質のコストがあります。 ・マーケティング・コスト ・新規顧客獲得コスト 「利益操作(5)当期の費用を翌期以降に繰り延べる」では、これらのコストを圧縮するために、無用に償却資産としてB/Sに積んでおく手法を説明しました。そして、会社業績が戻ったら、一気にこれらの償却資産の価値が無くなったので減損損失として一気に処理したい(本当は資産計上時に、本来の資産性は無かったことは置いといて)として、日本基準だと、特別損失で全額今期の費用としてしまいます。 当然、日本の一部(ソフト、ゲーム業界のそれまた一部)でも、この種の操作が行われた実例があります。 ● 在庫が陳腐化したとして不適切に評価減する 企業会計基準9号「棚卸資産の評価に関する会計基準」38項によりますと、 ① 品質低下評価損(物理的な劣化) ② 陳腐化評価損(経済的な劣化:商品ライフサイクルの変化) ③ 低価法評価損(市場の需給変化) の3つの理由で、在庫評価損を計上する(できる)ことになっています。 このうち、②と③については、在庫品に物理的な影響が出ていないので、陳腐化・需給変化を会計士に言い立てて、評価減を計上することができます。会社業績が好調なときに、評価損を立てておいて、通常もしくは不調な時期に、評価減後の在庫を通常販売価格で売り上げると、将来の利益を約束するために、今期費用を積む操作が可能になります。 ● 工場および設備が減損したとして不適切に評価減する 有形無形固定資産に関わらず、いったんB/Sに資産として計上されているものは、将来の費用の発生を抑制、または将来の収益の獲得のために、会社が取得したものは資産性があると認識されます。そして、「費用収益対応の原則」に従って、厳正にP/Lに費用計上(その多くは減価償却という形で)されます。しかし、将来の収益の獲得(またはキャッシュイン)が見込めない資産は、それが判明した時点で、資産性を失い、「減損損失」させなければなりません。この、会計処理を逆手にとって、資産性を失ったと見せかけ、一気に今期の費用・損失として計上(通常は多額の減損損失となる)させることができます。 外部の投資家、会計監査に携わる監査人としては、毎期毎期、特別損失の欄に、多額の「リストラ費用」が経常的に計上されるのを目にしたら、その「特別性」について厳格に調査する必要があるでしょう。特に、無形固定資産の減価償却期間の頻繁な変更にも目を光らせておく必要があります。   (2)将来の費用を低減させる目的の引当金を設定するため、不適切に費用を計上する このトリックは、経営者が将来の費用といくらかでっちあげた分も当期の費用に計上するやり方です。そうすることによって、将来の期間が到来した時に、 1)営業費用が過少計上される 2)架空費用と関連する架空負債が引当となる ことで、結果的に営業費用が過少計上され、利益の水増しを行うことが可能になります。 ● 今日リストラ費用を使って、明日の営業利益を膨らませる 通常のリストラ費用は、従業員に支払う割増退職金など、キャッシュアウトの実態を伴ったものならば、真実性が高く、会計操作の余地は小さいといえましょう。しかし、そのリストラ策に、例えば、リストラの広告キャンペーンの名目で、「市場調査のための臨時支出」、しかも、これから支払う予定のものを含めて水増ししたり、リストラに伴う訴訟に備える意味での「訴訟引当金」を多めに積んだりして、実態より(ここでいう実態は当期のキャッシュアウト)多めにリストラ費用を計上することで、来期以降の営業利益を大きく膨らませる動機を、経営者が持っていないか、その言動には要注意です。恥は一時。今期、どうせ赤字から、思いっきり大きく赤字にしておいて、来期以降の費用もぶち込んでおく。そうした誘惑に経営者が駆られても、経営者であることのプレッシャー、来期業績をV字回復させる約束手形を手に入れたくなる名誉回復の機会、そういうことを考慮すると、気持ちは分からないでもありません。   ■ 利益操作のトリックの説明を振り返って ここまで、利益操作のトリックの手段を7回にわたって見てきました。つまるところ、期間損益は、発生主義と実現主義で、費用と収益が計上されます。期間損益は、近代会計手続きによって計算されるもので、その多くは、会計的な「お約束事」で、「いつ」「いくら」計上するか、会計処理のスタンスである程度、裁量の余地が与えられています。そこで、最近では、「アクルーアル」と言って、会計的利益とキャッシュフローの乖離度を把握する分析方法も着目されています。 ⇒「(スクランブル)会計問題、身構える市場 「利益の質」で投資先選別」 ・アクルーアル = (税引後利益 ± 特別勘定)-営業キャッシュフロー ・アクルーアル比率 = アクルーアル ÷ 総資産 ×100 しかし、会計的処理による期間損益が信用に値しない、となれば、複式簿記を捨てて、単式簿記、小遣い帳と同じ原理の「キャッシュフロー計算書」だけで、経営管理と業績評価を行うことになります。はさみもキャッシュフローも、使う人の器量で、良い道具にもなりますし、悪い道具にもなります。特に、中長期的な投資回収計算は、キャッシュフローは得てして、不得意なものなのですよ。 ということで、次回からは、キャッシュフローのトリックを説明していきたいと思います。現役の経営コンサルタントが管理会計をテーマに情報発信します