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不適切会計の手段 -キャッシュフロー操作(1)営業キャッシュフローのトリック総論

会計(基礎編) 財務会計(入門)
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■ 発生主義による会計的利益からキャッシュフローへ

会計(基礎編)

今回から、キャッシュフロー操作のお話を始めます。投資家をはじめ、財務諸表に注目してきた人々は、損益計算書(P/L)における利益の粉飾に頭を悩ませ、発生主義に基づく「会計的利益」「損益計算」そのものの信憑性を疑うようになりました。そこで、複式簿記の申し子であった「利益」情報を見限り、一種の先祖返りではあるのですが、「キャッシュフロー(CF)」に信頼を置くようになってきたのです。

では、本記事を書くのに参考にしている図書の紹介から。

この図書の内容を受けて、筆者が整理した不適切会計の全体見取り図は下記のとおり。

経営管理会計トピック_不適切会計の類型

幾度にわたる粉飾決算により、収益の早期計上や費用隠しで騙され続けてきた投資家や銀行は、「キャッシュフロー計算書」に重きを置くようになり、第3の財務諸表として、再登場することになります。しかも、会計的利益の「質」を評価するため、

参考:
⇒「(スクランブル)会計問題、身構える市場 「利益の質」で投資先選別
⇒「東芝、業績連動報酬を刷新 不適切会計の再発防止

そして、企業のキャッシュを生み出す力を評価するため、「営業活動によるキャッシュフロー」の金額多寡を最重要視するようになりました。

動機ある所に工夫あり。

投資家や金融機関が、「キャッシュフロー計算書(C/S:Cash flow Statement)」の中でも、その構成要素である「営業活動によるキャッシュフロー(CFFO:Cash Flow From Operations)」により関心を示すことになれば、悪意のある経営者と財務担当者は、その他のキャッシュフロー計算要素の数字を操作し、CFFOの最大化を意図するのは自然な流れでしょう。

そこで、このシリーズでは、4回に分けて、CFFO最大化のための、キャッシュフロー・トリックを取り上げます。

(1)財務キャッシュ・インフローを営業の区分にシフト
・銀行からの融資金額を、架空の企業への在庫売上の対価として計上
・回収期限前の売上債権の売却額をCFFOとして計上
・債権譲渡益をCFFOとして計上

(2)通常の営業キャッシュ・アウトフローを投資の区分にシフト
・循環取引による前受金はCFFOに計上し、相手への支払額は投資CFに計上
・通常の営業費用を資産計上し、その分のキャッシュアウトを投資CFへ

(3)事業の買収・売却を使った営業キャッシュフローの水増し
・買収先のCFFOを自社のものとして計上
・契約獲得したディーラーへの支払手数料を「契約取得への買収」として投資CFに計上
・将来提供するサービス契約を含んだ割高の事業売却代金の一部をCFFOとして計上

(4)持続不可能な活動による営業キャッシュフローの増大
・仕入先への支払いを遅らせる
・得意先からの回収を早める
・在庫の仕入れを業績評価期間終了直後まで引き延ばす
・特別利益をキャッシュフロー計算書上は、CFFOとして計上

■ 発生主義会計 v.s. 現金主義会計

特殊なキャッシュフロー操作のテクニックを掘り下げる前に、損益計算書(P/L)の構造と同様に、「発生主義会計」と「現金主義会計」の違いをしっかり把握することが重要です。会計原則は、企業の経営成績の報告に、「発生主義」の適用を義務付けており、企業活動の果実である「収益」は、その発生原因が明確になった時、その果実を得るために犠牲にした努力はその発生が認めらえた時に、「費用」として認識することにしています。

この「収益」「費用」を会計帳簿に記録する際には、実際に、現金を受け取ったり、支払ったりするタイミングと同期をとっていなくてもいい、受取手形や売掛金に基づいて売上を計上してもいいし、支払手形、買掛金や未払い費用(いわゆるつけ払い)に基づいて費用を計上してもいい。これが「発生主義会計」です。

一方で、会社の現金の出入りを、3つの理由、①営業活動、②投資活動、③財務活動 に基づき、資金の流入と流出を記録するのが、「現金主義会計」の考え方になります。通常は、発生主義で認識した「利益」と、現金主義で認識した「キャッシュフロー」には、同じ会計期間の取引を切り取ってきても、その金額が一致することはないのですが、擬制的な「利益」計算の信憑性を裏付けるために、「キャッシュフロー」しかも「CFFO」の金額を確認することで、発生主義に基づく純利益への代替的な業績指標として使用されることが多くなりました。

キャッシュフロー計算書の基本構造を確認したい方は、次の過去投稿記事を参考にしてください。

⇒「第3の刺客 キャッシュフロー計算書 登場
⇒「キャッシュフロー計算書を斬る

■ どうしてキャッシュフロー計算書を意図的に操作できるのか?

読者の方には、「実際の現金の出入りに基づく『キャッシュフロー計算書』に計上されるべき数字をなぜ操作できるのか?」不思議に思われる方もいらっしゃるかもしれません。確かに、「費用」「収益」を発生主義のルールにしがたって、ある種の想定で計上するのに比べて、キャッシュフロー数値の操作は難易度が高いものになります。それでも、キャッシュフロー計算書(C/S)の表示構造に内在的な操作可能要因が存在するのも事実です。

一般に、皆(投資家、金融機関、経営者、財務担当者など)が関心を持つ「営業活動によるキャッシュフロー(CFFO)」の表示方法には2つあります。

財務会計(入門編)_営業活動によるキャッシュフローの表示方法

● 直接法
商品の販売や仕入、給料の支払い、経費の支払いなどの主要な取引ごとにキャッシュフローを総額表示する方法

● 間接法
損益計算書の税金等調整前当期純利益に非資金損益項目や、投資活動や財務活動の区分に含まれる損益項目を加減して表示する方法

一般に、「直接法」は、現金の出入り(現金取引)を全て網羅的に記録したものをその取引種別ごとに集計する必要があるため、事務作業量が多くなり、会計実務として負担が大きいため、証拠能力、直観的理解度が高いにもかかわらず、実際には採用例は非常に少ないのが実情です。

逆に、「間接法」は、損益計算書(P/L)の「税前利益」からスタートして、非現金取引を加減算して、CFFOを導出するもので、通常の複式簿記の記録から作成するため、経理事務負担が比較的に小さく、会計実務でも採用ケースが圧倒的に多くなっています。

誤解を恐れずに直言いたしますと、「間接法」は、その名の通り、「損益計算」から「非現金取引」を加減算して「キャッシュフロー」を求めるもので、実際の現金取引を集計して「キャッシュフロー」を計算するものではないため、その加減算処理の中に、内在的に、意図的な操作が入り込む余地がある、ということなのです。

現会計基準では、「直接法」「間接法」とも、正規のキャッシュフロー計算書として認めらえていますが、最近の会計基準の改訂の検討の動きの中で、世界的に「直接法」の方を義務付けるべき、という大まかな流れがあることは、ここに付記しておきます。

■ 営業活動によるキャッシュフローを大きく見せるには?

次回から、営業活動によるキャッシュフロー(CFFO)をどうやって大きく見せるかの、具体的なトリックをひとつずつ説明するのですが、個別説明に先立ち、そのトリック全体像を、キャッシュフロー計算書の構造の中で、どういう位置づけになっているのかを図示しておきます。

財務会計(入門編)_キャッシュフロー計算書の基本構造

この基本構造において、営業活動によるキャッシュフロー(CFFO)を最大化するために、悪意を持った経営者ができることは、パターン化できます。

① 投資活動からのキャッシュ・インフローを営業活動に振り替える
② 財務活動からのキャッシュ・インフローを営業活動に振り替える
③ 営業活動からのキャッシュ・アウトフローを投資活動に振り替える
④ 営業活動からのキャッシュ・アウトフローを財務活動に振り替える

次回から、営業活動からのキャッシュフローを操作する個々の手練手管について説明をしたいと思います。

財務会計(入門編)_不適切会計の手段 -キャッシュフロー操作(1)営業キャッシュフローのトリック総論

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