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不適切会計の手段 -キャッシュフロー操作(2)財務キャッシュ・インフローを営業の区分にシフト

会計(基礎編) 財務会計(入門)
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■ 映画「ツインズ」と「キャッシュフロー計算書」での操作は瓜二つ

会計(基礎編)

1988年のハリウッドのコメディ映画「ツインズ」は、アーノルド・シュワルツェネッガーとダニー・デヴィートが、似ていない双子を演じ、大ヒットしました。彼らは遺伝子研究所で完全な子どもをつくる極秘実験の結果、受精プロセスを操作し、全ての長所をシュワルツェネッガーに注ぎ込み、もう一方のデヴィートに遺伝子のクズを送り込みました。研究に携わった博士は、有能な美男子を作り出すために、ずんぐりむっくりのチンピラの双子の弟をつくらねばならなかったのです。

まさにそれと同年、米国でキャッシュフロー会計基準(SFAS95)が発効し、キャッシュフロー計算書と3つの区分(営業、投資、財務)が正式な財務諸表として誕生しました。何人かの企業経営者は、この新基準「SFAS95」と映画「ツインズ」の出生操作を同時に見ていたようです。以後、キャッシュフロー計算書を巡る不適切会計は、キャッシュ・インフローを営業区分に送り込み、キャッシュ・アウトフローを投資・財務区分に送り込み、見かけ上美男子なキャッシュフロー計算書を作り上げる、まさに「ツインズ」での双子誕生の操作そのものであるキャッシュの操作が行われ続けてきました。

冗談はこれくらいにして、本記事を書くのに参考にしている図書の紹介から。

この図書の内容を受けて、筆者が整理した不適切会計の全体見取り図は下記のとおり。

経営管理会計トピック_不適切会計の類型

今回は、財務キャッシュ・インフローを営業の区分にシフトするテクニックを見ていきます。
ちなみに、「営業活動によるキャッシュフロー」は、前回に引き続き、「CFFO:Cash Flow From Operations」と表記します。

(1)通常の銀行借入から架空のCFFOを計上する
(2)回収期限前に売上債権を売却することでCFFOを増大させる
(3)売上債権の売却を装ってCFFOを増大させる

今回のテクニックの「キャッシュフロー計算表」上での、操作の動きは下図の通りです。

財務会計(入門編)_財務キャッシュフローから営業キャッシュフローへ

(1)通常の銀行借入から架空のCFFOを計上する

● 偽の銀行への在庫売上
とある自動車部品メーカーがとある銀行に次のような話を持ち込みました(参考にしている図書では会社の実名が書かれていますが、、、)。決算期末間近に、貴金属在庫を銀行に購入してほしいと持ちかけます。当然、銀行は金融業なので、いくら貴金属とはいえ、原材料在庫の購入には興味を持ちません。そこでこのメーカーは、決算期を跨いだ数週間後に、この貴金属在庫に色(買い取りマージン)をつけて再買取する条項を付けます。

銀行の数週間の在庫の「所有権」と引き換えに、自動車部品メーカーは元の売却価格に少々の上乗せをして買い戻すことになります。しかし、そこは銀行との取引。実際に起きた(体面上の)契約内容は、メーカーから銀行に短期の銀行借入を依頼。多くの銀行がそうであるように、この銀行も貸付先の自動車部品メーカーに対して、借入を返済しない時に差し押さえる担保として、この貴金属在庫の提供を要求したのです。

この自動車部品メーカーは、銀行からの受取金額を借入金、すなわち「財務活動のキャッシュ・インフロー」として計上すべきところ、厚かましくも在庫売上として計上するにしました。そうすると、この実質借入金は、通常のビジネスに起因するキャッシュインとして、CFFOとしてキャッシュフロー計算書に乗せることができる、というカラクリです。

→架空収益の計上が疑われる会社は、架空の営業キャッシュフローも計上している可能性が高い

● 複雑なオフバランスのストラクチャーがCFFOの水増しリスクを上昇させる
とある商社(これまた実名が記載されていますが)が、特別目的会社(SPC、SPE)をいくつも設立し、その会社の借入金の連帯保証人になることで資金調達の手助けをします。こうして、この商社に実態は経済的支配を受けているSPCが、この商社が取引している商品を大量に購入します。このとき、この商社の連結財務諸表はどうなるでしょうか?

SPCは、いくつかの設立の条件をクリアすれば、この商社の連結財務諸表からオフバランスすることができます。当時はもっと規制が緩やかで、このオフバランス条件が簡単にクリアできました。ちなみに、この商社の会計不正により、現在のSPCのオフバランス条件は厳しく(実質不可能)になっています。ここまで言えば、この商社の名前も分かってしまうかもしれませんね。(^^;)

これらの取引は一見、複雑に見えるかもしれませんが、連結範囲外のSPCがこの商社が取引している商品を購入し、代価を商社に支払います。この商社は、SPCから得た購入代価を、通常ビジネスによる商品販売によるキャッシュインとして、堂々とCFFOと計上します。

これは、SPCが購入に際して必要になった資金の調達取引、これは外部の金融機関や債券市場参加者からあつめた財務活動によるキャッシュインです。つまり、意図的に連結外しをしたSPC設立にかかった(連帯保証人として設立資金を調達した)キャッシュインは、財務キャッシュ・インフローであって、これをSPCからの商品購入対価としての、CFFOに付け替えただけなのです。

この取引によって、エンロンは何十億ドルものCFFOの粉飾を可能にし、財務キャッシュフローの損害 - 当然、この商社に出資した投資家の、をもたらしました。あっ、会社名を書いてしまいました。(^^;)

(2)回収期限前に売上債権を売却することでCFFOを増大させる

● 顧客がまだ支払っていない営業債権を現金に換える
企業は有効なキャッシュ・マネジメントの一環として、しばしば、「ファクタリング」という名で売掛金を売却します。それらの取引内容は極めてシンプルで、会社が受取期限前に、どうしても売掛金の回収を望み、会社は債権買取りに応じてくれそうな投資家(多くは銀行などの金融機関)を見つけて売掛金の所有権を移転します。その代わり、企業は売掛金の総額から手数料を差し引いた現金の支払いを受けることになります。

根底にある取引、その目的、他の当事者の利益を考えてみましょう。この取引は財務的取引か、営業的取引か、どちらに見えますか? 大多数の人は、この取引を銀行が小切手を振り出す、または日本でも「融通手形」として通っている古典的な借入金に大変似ていることに同意してくれるでしょう。特に、経営者がタイミングや金額を決められるので、金融の一形態だとする見解に賛同いただけるかと。よって、第三者(一般市場の投資家など)から見れば、この取引は、「財務活動のキャッシュフロー」として、キャッシュフロー計算書に計上されることを望むはずです。

しかしながら、現時点の会計基準的には、完全にこの種の取引は「グレーゾーン」にあり、通常はCFFOに計上されることを妨げる規制は存在しません。一般的ケースにおいて、売掛金の売却による現金の受け取りは、営業の区分に計上されるのが適切であり、財務区分におけるキャッシュインではありません。それではなぜ営業区なのか? なぜならば、この現金の受け取りは過去の販売の代金回収を意味するとみなすことができるからです。

筆者は、自身が行う現時点での財務分析において、キャッシュフロー計算書の3区分の厳密性について、まったく公開情報を信用していません。したがって、数ある「FCF(フリーキャッシュフロー)」の定義で、「営業活動キャッシュフロー」と「投資活動のキャッシュフロー」の単純合算で算出する、というもの、SEC基準もそうなのですが、この種の「FCF」だとされる数字は、無批判に、そして詳細分析なしでは、全く意味をなしていない、と考えています。

→このトリックは公開情報でも簡単に見破れますよ。だって、債権譲渡額が注記にありますから。この数字をCFFOから差し引けば、真実のCFFOを求めることができます。それくらいやりましょうよ! 本当に自分の投資資金が大事なら。

(3)売上債権の売却を装ってCFFOを増大させる

● 債権譲渡の偽装
ここは、前の(2)よりさらに悪質でかつ、手か込んでいるトリックになりますが、そのカラクリは同根です。つまり、金融機関に譲渡する売上債権自体が、架空売上によって作り出された虚構の売上債権をまずでっち上げます。それから、いそいそと、その売上債権を金融機関に譲渡することで、まんまとCFFO増大の手段を手に入れます。

この種の取引は、現時点のキャッシュフロー計算書の表示規制がいかなるもの(ザル)であろうとも、経済的実体は不変です。金融機関に現金と引き換えに譲渡された売上債権の回収不能リスクは自社に残ります。売上どころか顧客まで架空の存在なので、この企業は、金融機関に売上債権が不可避的に回収できない場合は、金融機関に現金を返す必要があります。

実質的に、売上債権が譲渡されてはいないので、この取引の経済的実態は、有担保ローンと同種で、(1)と同様、金融機関からお金を借りて、(架空の)債権を担保として使っただけです。どう考えても、これは「財務活動のキャッシュフロー」として「キャッシュフロー計算書」に計上すべきです。しかし、前述の通り、この種の売上債権の売却取引が架空の債権であろうがなかろうが、CFFOとして計上されることを防ぐ手立ては、今のところ存在しません。

財務会計(入門編)_不適切会計の手段 -キャッシュフロー操作(2)財務キャッシュ・インフローを営業の区分にシフト




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