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不適切会計の手段 -キャッシュフロー操作(3)通常の営業キャッシュ・アウトフローを投資の区分にシフト

会計(基礎編) 財務会計(入門)
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■ 投資の区分をキャッシュ・アウトフローの最終処分場に!

会計(基礎編)

謀略を好む経理担当者は、見つかりたくない厄介なキャッシュ・アウトフローのための秘密の廃棄物処理場を持っています。それはキャッシュフロー計算書の投資の区分と言われています。企業は通常の営業キャッシュフローを投資の区分へ葬り去る多数の賢い方法を見つけていて、それらが永久に消失することを願っているのです。

シニカルないい様はこれくらいにして、本記事を書くのに参考にしている図書の紹介から。

この図書の内容を受けて、筆者が整理した不適切会計の全体見取り図は下記のとおり。

経営管理会計トピック_不適切会計の類型

今回は、営業キャッシュ・アウトフローを投資の区分にシフトするテクニックを見ていきます。
ちなみに、「営業活動によるキャッシュフロー」は、前回に引き続き、「CFFO:Cash Flow From Operations」と表記します。

(1)ブーメラン取引でCFFOを水増しする
(2)通常の営業費用を不適切に資産化する
(3)在庫の購入の投資区分のアウトフローとして計上する

今回のテクニックの「キャッシュフロー計算表」上での、操作の動きは下図の通りです。

財務会計(入門編)_営業キャッシュフローから投資キャッシュフローへ

(1)ブーメラン取引でCFFOを水増しする

● 売るときは「営業」で買う時に「投資」に
これは1990年代のドットコムバブル時代に横行していたやり口で、最近の日本のIT業界でも実際に合った事案です。米国の例では、ある通信会社が登場します。この会社は、将来の通信回線の空き容量の大部分を別の通信業者へ売却します。と同時に、この会社は、同じ顧客から同じような金額の回線容量を購入します。

これは、伝統的な「ブーメラン取引」(相互取引、バーター取引)です。しかし、このままではキャッシュフローとは無関係です。この会社は、回線売却に伴う顧客から受け取る現金を営業キャッシュ・インフローとして、CFFOの水増しに使います。一方で、同じ顧客へ支払う、同程度の通信回線の購入のための現金は、設備の購入という名目で、投資キャッシュ・アウトフローとして計上します。同じ通信回線を売り買いして、一方のキャッシュインだけCFFOに算入する。これで、CFFOの水増し完了。最も、このブーメラン取引自体が、経済的実態的には、そのまま総額主義での会計帳簿への記載そのものがダメなんですが、、、

(2)通常の営業費用を不適切に資産化する

● 通常の営業コストを費用ではなく固定資産として計上する
通常の営業コストを費用とせずに、資産として計上することは単純で、正直とてもやることが簡単です。しかし、それは最も恐ろしくて最も致命的なトリックのひとつです。なぜなら、それは利益を粉飾するだけの巧妙なごまかしのみならず、営業キャッシュフローまで増大させてしまうからです。

よくある事例は、研究開発、長期のプロジェクトにかかる労務費や間接費、ソフトウェア開発、契約や顧客を獲得するための販促費用などのように、長期の取り決めに関連して、支出が決められる題材のものです。こうした項目に係る資産化について、よくよく内容を吟味し、本当に資産性があるのか、検討することが必要です。

それでは、この種の粉飾を資産計上(本当は費用計上)する取引の経済的実態をいちいちチェックすることなく、財務諸表の数字を眺めているだけで、あぶり出すにはどの数字に着目しておればいいのか? ヒントは2つあります。

ひとつは、固定資産(特に無形固定資産)の全資産に対する構成比率が、異常に膨れ上がっていないかを見ることです。もうひとつは、フリーキャッシュフロー(ここでは便宜的に、SEC会計基準に則り、「営業CF+投資CF」としておきます)です。

営業キャッシュ・インフローが成長するより早く、投資キャッシュ・アウトフローの増大が顕著になり、フリーキャッシュフローが悪化していきます。その上で、膨れ上がった投資キャッシュフローの原因を、貸借対照表のどの資産項目か、あたりを付けます。そうすると、至って操作可能な(無形)固定資産勘定が膨れ上がっていることが突き止められます。

(3)在庫の購入の投資区分のアウトフローとして計上する

● DVDの購入は営業か投資か
「売上原価」という言葉は、顧客へ販売された在庫を取得または製造するのに、企業が負担した直接費用として大変相応しい名前となります。しかし、キャッシュフロー計算書は、それほど単純ではありません。米国のオンラインDVDレンタル会社は、DVDの購入費を棚卸資産の購入と同様に、営業キャッシュ・アウトフローに表示はしませんでした。「DVDライブラリーの取得」というのは、DVDレンタルビジネスを行う上で、ビジネス環境を整備するための出費ということで、投資キャッシュフローに計上していたのです。ちなみに、購入されたDVDは、米国基準では、新作は1年、旧作は3年の償却期間で償却費計上されて、損益計算書上は、売上原価を構成します。

→商品を購入して、顧客へそれをリースやレンタルする会社について、同種の取引が、キャッシュフローのトリックに使われていないか、注意すること!

● 特許または新技術を購入する
オーガニックグロースを良しとしない経営者は、時として、思い切って社外の開発段階の技術、特許、ライセンスを取得することによって、飛躍的な成長を望むことがあります。この場合、キャッシュフロー計算書にどのように反映されるか、注視しておく必要があります。

同種の開発活動コストについて、自社内の研究開発で従業員や仕入先に対する支払いは、営業キャッシュ・アウトフローとして表示されることは通常のこと。しかし、既に研究開発された製品の取得のために支払う現金については、投資キャッシュ・アウトフローとして表示されることがあります。

→製薬会社やIT企業のように、個別の特許や契約がビジネスに重要な影響を与える場合、その取扱いをP/LとC//Sの両面から注視すること!

● つけ払いは財務キャッシュフローで
よくあるのが、製薬会社が開発途上の新薬を手形などの非現金取引で、その権利を購入し、新薬が当局に承認され、発売前後にその元となった知財権購入にあたって長期借入金と処理していた債務を、財務活動のキャッシュフローとして処理することです。発売する製商品の購入資金ならば、貸借対照表において、借方は棚卸資産、貸方は買掛債務で即決まり。その現金支出時は営業キャッシュ・アウトフローなのですが、権利(特許など)を買い取った後に、自社内で追加的開発行為が必要な場合は、そして、現金支払までに長期間かかる場合、どうしても、会計監査人も、外部の投資家も見過ごしてしまうことが多く発生してしまいます。

まあ、キャッシュフロー計算書が制度化されて、まだ月日が浅く、投資家が、損益計算書ほど、一番下まで見ないことが、こうしたトリックを頻発させる原因かもしれません。

財務会計(入門編)_不適切会計の手段 -キャッシュフロー操作(3)通常の営業キャッシュ・アウトフローを投資の区分にシフト



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