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■ 没後30年たって有名になった鉱山経営のプロ

経営戦略(基礎編)_アイキャッチ

「経営戦略」の歴史を、三谷宏治著「経営戦略全史」(以下、本書)をベースに説明していきます。テイラー、メイヨーと並ぶ近代マネジメントの巨頭のひとり、アンリ・ファヨール(フェイヨル)を取り上げます。彼はフランス人で、フランス語表記に幅があり、ファイヨールとも表記されます。日本語ですらこのあり様ですから、彼が、50代後半からその豊富な経営経験を、独自の経営理論にまとめ、「産業ならびに一般の管理」として1917年に出版されましたが、英語圏で本格的に知られるようになったのは、1949年の英訳版を待ってのことでした(本書P52・53)。

野中郁次郎先生が英語で論文・著作を発表しているのは、そういう意味では理に適っているのでしょう。

彼は、バリバリの実務たたき上げで、一技師から鉱山会社の経営トップに登り詰めました。それゆえ、ファヨールが示す数多くの法則・原理は、彼の実務体験に裏打ちされており、非常にプラクティカル(実用的)である反面、経験論にすぎず、理論的な整理が不十分との批判にもさらされています。まあ、後世の我々としては、取り入れるべきところは謙虚に聞き入れるべきです。というより、後述しますが、すでに、その後の経営戦略研究の大家の主張に大きな影響を与えており、我々は間接的にファヨールの弟子であるとも言えましょう。

知識創造企業

■ 企業活動を6つに分け経営管理を独立・分離

本書によりますと、
ファヨールは、企業における必要不可欠な活動を、6つに分類・整理しました。

① 技術活動 = 開発、生産、成形、加工 [開発・生産]
② 商業活動 = 購買、販売、交換 [販売・購買]
③ 財務活動 = 資本の調達と運用 [財務]
④ 保全活動 = 資産と従業員の保護 [人事・総務]
⑤ 皆生活動 = 棚卸、B/S、コスト計算、統計 [経理]
⑥ 経営活動 = 計画、組織化、指令、調整、統制 [経営企画・管理]

経営戦略(基礎編)_ファヨールの経営管理活動

既にお気づきの通り、M.ポーター氏のバリューチェーン理論にそっくりです。経営管理に対する考え方の原型がここにあります。ファヨールは、ビジネスの方向性や経営方針を決定すること、①から⑤までの各種活動間の調整は、すべて「⑥経営活動」と定義づけます。組織の習熟度レベルが上がるにつれて、「経営活動」の比率は上がり、経営者(社長)が費やす時間・能力は、この「経営活動」に大いに割くべし、と主張しています。

 

■ 「管理の一般原則」を14にまとめました。14もあれば中には、、、

「経営活動」には一般的・普遍的に守られるべき14つの原則にまとめられるとしました。本当に、ファヨールは分析・整理が大好きな人ですね。

① 分業
② 権威と責任
・命令する権限と、それに伴う責任
③ 規律
④ 命令の統一(一元化)
・特定の業務の担当者は、必ず単一の管理者の指揮命令を受けるべきとする原則
⑤ 指揮の統一
・目的をもった組織は、1人の管理者の下、1つの計画の下に業務遂行すべきとする原則
⑥ 個人利益の全体利益への従属
・企業全体の利益は個人の利益よりも優先する
⑦ 公正な従業員報酬
・公正、合理的範囲内に限る
⑧ 集権
・環境に応じ、許される限り(程度)において管理者に権限を集中すべきとする原則
⑨ 階層組織
・権限と階層の構築
⑩ 秩序
・適材適所の確保
⑪ 公正
⑫ 従業員の安定
・技能の習得には時間がかかるので、長い目で見守り、頻繁な人事異動は控えるべきとする原則
⑬ 創意(イニシアティブ)
・計画を立案し、実行すること。組織のすべての階層にその自由を与えることで、士気を高める
⑭ 従業員の団結

⑧、⑩、⑫、⑬などは、全体的に眺めると、一見矛盾しているように感じるかもしれません。まあ、14つも並べればね、相互に矛盾点や理解しづらい点が出てくるかもしれません。粗探しより、使えるところを切り取って活用するようにしましょう。

ファヨール―ファヨール理論とその継承者たち (経営学史叢書)

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■ 企業経営・管理の普遍的かつ不変的プロセスを提起

本書によりますと、
さらに、ファヨールは、企業の経営管理プロセスを示しました。彼は、経営管理活動を5つの要素に区分しました。

① 計画(Planning):将来予測や経営資源を踏まえて活動計画を立てる
② 組織化(Organizing):仕事に合った組織を作り、ヒト・モノ・カネを提供する
③ 指令(Commanding):従業員の状況に精通し、生産性最大化を図る
④ 調整(Coordinating):諸活動間のバランスとタイミングをとる
⑤ 統制(Controlling):フィードバックによりエラーを減じ、諸活動が計画通り遂行されるようにする

経営戦略(基礎編)_ファヨールの経営管理プロセス(POCCC)

ファヨールによれば、この「POCCCサイクル」を回し続けることが企業を経営・管理することであり、それは組織の別によらず、普遍的である、と主張します。この「経営管理サイクル」というコンセプトは、「PDS(Plan-DO-See)サイクル」「PDCA(Plan-Do-Check-Action)サイクル」に引き継がれたと、言われています(本書P55より)。

前者は、とあるIT企業がセールストークで用いたもの、後者はデミング博士の品質管理プロセスでの提唱を経営管理に当てはめたもので、様々な立場の人が我田引水的に、コンセプトを振り回しているのが実情なのですが、ここでは詳細には触れないでおきましょう。

たった1社の経営の実務経験からこれほど見事な原理・原則を整理してみせる慧眼、ファヨールは、多数の他社事例を振り回す現代の経営コンサルタントにとって到底かなわない素晴らしい大家だと筆者は職業柄、感じ入っているわけです。

 

■ 「テイラーは工場を管理し、ファヨールは企業を統治した」

本書によりますと、
テイラーは、①作業、②賃金、③生産性、のみを管理対象にし、もっぱら工場や現場内の生産性向上にのみ関心を示しました。テイラーが、工場叩き上げの技術コンサルタントであった出自の限界と言えばそれまでですが、、、ファヨールは、もともとプロの経営者なので、管理範囲、意識する範囲は企業全体になるのは当然の帰結です。それゆえ、経営・管理という意味に、「マネジメント」ではなく、「アドミニストレーション(administration)」という言葉をあてました。

ここで近代マネジメントの源流である3人の大家による主張を改めて整理します。
(本書P57・58を再整理)

● テイラーの科学的管理法
「管理者による分析とマニュアルで生産性は上がる」
・作業生産性は時間・作業分析によって作業環境をかえることで改善する
・人間は主に経済的動機によって動くので、差別的賃金(段階的な賃率アップ)が効く
・ただし、過重労働にならないように、一定の最適労働量を規定する

● メイヨーの人間関係論
「管理者と作業者の対話によって生産性は上がる」
・作業生産性は、作業環境より、作業者の士気(モラール)に左右される
・士気は、職場の上司や同僚との人間関係や相互の信頼感という定性的な要素で決まる

● ファヨールの経営・管理プロセス
「管理者による経営・管理プロセスの遂行で生産性は上がる」
・企業全体の生産性は、諸活動が整然と定義・方向づけされ、相互に協調することで改善する
・そのために、計画→統制の経営・管理プロセスを回していくことが重要である

ここまで、20世紀初頭における近代マネジメントの萌芽の様子を説明してきました。

「生産性はどうやったら上がるのか?」
「人間はどうしたら動機付けられるのか?」などなど。

しかしながら、ファヨールが示した「計画」の中身、すなわち「経営戦略」そのものの定義・考察がまだなされていません。この戦略を採用したら必ず儲かる、コンペチタ―に勝てる、といった「勝ちパターン」や、「勝ちパターン」を生み出す方法論については、次回以降に説明を譲るとします。

経営戦略(基礎編)_経営戦略概史(5)ファヨール(フェイヨル)が「経営管理プロセス」を初めて定義した




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経営戦略概史(5)ファヨール(フェイヨル)が「経営管理プロセス」を初めて定義したhttp://keieikanrikaikei.com/wp-content/uploads/2015/04/ab47f6b60b2243be5165d08fde098dfb-e1428423948658.jpghttp://keieikanrikaikei.com/wp-content/uploads/2015/04/ab47f6b60b2243be5165d08fde098dfb-150x150.jpg小林 友昭経営戦略(基礎編)三谷宏治,経営戦略全史,経営戦略,PDCA,ファヨール,フェイヨル,経営管理,PDS,POCCC,産業ならびに一般の原理,管理の一般原則■ 没後30年たって有名になった鉱山経営のプロ 「経営戦略」の歴史を、三谷宏治著「経営戦略全史」(以下、本書)をベースに説明していきます。テイラー、メイヨーと並ぶ近代マネジメントの巨頭のひとり、アンリ・ファヨール(フェイヨル)を取り上げます。彼はフランス人で、フランス語表記に幅があり、ファイヨールとも表記されます。日本語ですらこのあり様ですから、彼が、50代後半からその豊富な経営経験を、独自の経営理論にまとめ、「産業ならびに一般の管理」として1917年に出版されましたが、英語圏で本格的に知られるようになったのは、1949年の英訳版を待ってのことでした(本書P52・53)。 野中郁次郎先生が英語で論文・著作を発表しているのは、そういう意味では理に適っているのでしょう。 彼は、バリバリの実務たたき上げで、一技師から鉱山会社の経営トップに登り詰めました。それゆえ、ファヨールが示す数多くの法則・原理は、彼の実務体験に裏打ちされており、非常にプラクティカル(実用的)である反面、経験論にすぎず、理論的な整理が不十分との批判にもさらされています。まあ、後世の我々としては、取り入れるべきところは謙虚に聞き入れるべきです。というより、後述しますが、すでに、その後の経営戦略研究の大家の主張に大きな影響を与えており、我々は間接的にファヨールの弟子であるとも言えましょう。 知識創造企業 ■ 企業活動を6つに分け経営管理を独立・分離 本書によりますと、 ファヨールは、企業における必要不可欠な活動を、6つに分類・整理しました。 ① 技術活動 = 開発、生産、成形、加工  ② 商業活動 = 購買、販売、交換  ③ 財務活動 = 資本の調達と運用  ④ 保全活動 = 資産と従業員の保護  ⑤ 皆生活動 = 棚卸、B/S、コスト計算、統計  ⑥ 経営活動 = 計画、組織化、指令、調整、統制  既にお気づきの通り、M.ポーター氏のバリューチェーン理論にそっくりです。経営管理に対する考え方の原型がここにあります。ファヨールは、ビジネスの方向性や経営方針を決定すること、①から⑤までの各種活動間の調整は、すべて「⑥経営活動」と定義づけます。組織の習熟度レベルが上がるにつれて、「経営活動」の比率は上がり、経営者(社長)が費やす時間・能力は、この「経営活動」に大いに割くべし、と主張しています。   ■ 「管理の一般原則」を14にまとめました。14もあれば中には、、、 「経営活動」には一般的・普遍的に守られるべき14つの原則にまとめられるとしました。本当に、ファヨールは分析・整理が大好きな人ですね。 ① 分業 ② 権威と責任 ・命令する権限と、それに伴う責任 ③ 規律 ④ 命令の統一(一元化) ・特定の業務の担当者は、必ず単一の管理者の指揮命令を受けるべきとする原則 ⑤ 指揮の統一 ・目的をもった組織は、1人の管理者の下、1つの計画の下に業務遂行すべきとする原則 ⑥ 個人利益の全体利益への従属 ・企業全体の利益は個人の利益よりも優先する ⑦ 公正な従業員報酬 ・公正、合理的範囲内に限る ⑧ 集権 ・環境に応じ、許される限り(程度)において管理者に権限を集中すべきとする原則 ⑨ 階層組織 ・権限と階層の構築 ⑩ 秩序 ・適材適所の確保 ⑪ 公正 ⑫ 従業員の安定 ・技能の習得には時間がかかるので、長い目で見守り、頻繁な人事異動は控えるべきとする原則 ⑬ 創意(イニシアティブ) ・計画を立案し、実行すること。組織のすべての階層にその自由を与えることで、士気を高める ⑭ 従業員の団結 ⑧、⑩、⑫、⑬などは、全体的に眺めると、一見矛盾しているように感じるかもしれません。まあ、14つも並べればね、相互に矛盾点や理解しづらい点が出てくるかもしれません。粗探しより、使えるところを切り取って活用するようにしましょう。 ファヨール―ファヨール理論とその継承者たち (経営学史叢書) 新品価格 ¥1,620から (2015/10/14 22:53時点) ■ 企業経営・管理の普遍的かつ不変的プロセスを提起 本書によりますと、 さらに、ファヨールは、企業の経営管理プロセスを示しました。彼は、経営管理活動を5つの要素に区分しました。 ① 計画(Planning):将来予測や経営資源を踏まえて活動計画を立てる ② 組織化(Organizing):仕事に合った組織を作り、ヒト・モノ・カネを提供する ③ 指令(Commanding):従業員の状況に精通し、生産性最大化を図る ④ 調整(Coordinating):諸活動間のバランスとタイミングをとる ⑤ 統制(Controlling):フィードバックによりエラーを減じ、諸活動が計画通り遂行されるようにする ファヨールによれば、この「POCCCサイクル」を回し続けることが企業を経営・管理することであり、それは組織の別によらず、普遍的である、と主張します。この「経営管理サイクル」というコンセプトは、「PDS(Plan-DO-See)サイクル」「PDCA(Plan-Do-Check-Action)サイクル」に引き継がれたと、言われています(本書P55より)。 前者は、とあるIT企業がセールストークで用いたもの、後者はデミング博士の品質管理プロセスでの提唱を経営管理に当てはめたもので、様々な立場の人が我田引水的に、コンセプトを振り回しているのが実情なのですが、ここでは詳細には触れないでおきましょう。 たった1社の経営の実務経験からこれほど見事な原理・原則を整理してみせる慧眼、ファヨールは、多数の他社事例を振り回す現代の経営コンサルタントにとって到底かなわない素晴らしい大家だと筆者は職業柄、感じ入っているわけです。   ■ 「テイラーは工場を管理し、ファヨールは企業を統治した」 本書によりますと、 テイラーは、①作業、②賃金、③生産性、のみを管理対象にし、もっぱら工場や現場内の生産性向上にのみ関心を示しました。テイラーが、工場叩き上げの技術コンサルタントであった出自の限界と言えばそれまでですが、、、ファヨールは、もともとプロの経営者なので、管理範囲、意識する範囲は企業全体になるのは当然の帰結です。それゆえ、経営・管理という意味に、「マネジメント」ではなく、「アドミニストレーション(administration)」という言葉をあてました。 ここで近代マネジメントの源流である3人の大家による主張を改めて整理します。 (本書P57・58を再整理) ● テイラーの科学的管理法 「管理者による分析とマニュアルで生産性は上がる」 ・作業生産性は時間・作業分析によって作業環境をかえることで改善する ・人間は主に経済的動機によって動くので、差別的賃金(段階的な賃率アップ)が効く ・ただし、過重労働にならないように、一定の最適労働量を規定する ● メイヨーの人間関係論 ...現役の経営コンサルタントが管理会計をテーマに情報発信します