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経営デザインシート(2) 内閣府知的財産戦略本部が推奨するシートの書き方とその背後にある経営戦略思想とは

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経営デザインシートの全体構成を再確認

経営デザインシートの解説2回目は、全体のフレームワークのおさらいと、実用的・実際的な書き方(入門編)の解説となります。この解説シリーズの中では、他の経営政略コンセプトやフレームワークとの比較分析も追って説明していきます。

外部リンク 経営をデザインする|知的財産戦略本部|内閣府

まずは、経営デザインシートの空フォーマットを上記リンクにある説明資料から抜粋・引用したものを再掲します。

経営デザインシート_全社用_空フォーム

前回ご紹介した、作成テキスト【入門編】からチャートを抜粋・引用して、できるだけ簡潔に、実際に手が動くところまで説明していきます。

経営デザインシートの構成_簡易版

(A)社会、市場へ伝えたい自社/事業の想い・イメージを明確化
あなたの企業(事業)にかける思いや志(ここざし)を文字にしてみましょう

(B)「これまで」の価値を生み出すしくみを把握
あなたの企業(事業)がこれまで顧客にどんな価値を提供してきたかを文字にしてみましょう

(C)「これから」の価値を生み出すしくみを構想
あなたの企業(事業)がこれからどんな価値を顧客に提供していきたいか将来展望を文字にしてみましょう

(D)今から何をすべきかのアクションプランを策定
あなたの企業(事業)の将来展望を実現するために必要なことを文字にしてみましょう。必要なことは、社外にあったり、社内にあったりするかもしれません。また、今は実在・実現していないかもしれません。

経営デザインシートの簡単な記入方法

では、作成テキスト【入門編】に沿って、記入方法を見ていきましょう。すでにテキストをダウンロードしている方は、それを参照しつつ、筆者の解説と読み合せて頂くと、より理解が深まるかもしれません。

経営デザインシート_価値を書き出す経験

まず、経営デザインシートを目の前にして、空欄を埋めていくのですが、その際の心構えとして次の点を十分に理解しておきましょう。

①分かる所から、書きやすいところから書き始める

②点と点がつながって線となるように、書き留めたものを全体を俯瞰しながら都度手直ししていく

③シートの完成度より、シート作成をしている際の頭の体操の効果を重視していることを忘れないようにする

④経営デザインシートのフレームワークに入らないことに気が付いた場合は、忘れないように欄外に記入するか、フレームワークに独自のカテゴリーを追加してそこに記入する

⑤5分考えて新しいアイデアが湧き出てこないようならば一旦作業を中止する。2,3日寝かせておくと、思いの外、いいアイデアが出てくるものである

経営デザインシート - 価値を書き出す経験

作成テキスト【入門編】は、これまでの価値とこれからの価値について、次のような手順で記入作業を進めることを一例として推奨しています。

経営デザインシート_価値を書き出す経験

大事なポイントは、常に顧客視点を持つことなのですが、上記チャートの手順が「これまで」と「これから」とがちょうど逆転しているところに実は意味があります。

「これまで」の価値提供(価値実現)は、いままで実際にやってきたことなので、じぶんがやってきた具体的な行動や姿勢から考え始めて、それはどんな理由・背景があってやったのかな、と具体的な事象から抽象的な概念を求めるアプローチが効率的であるという考えに基づくものです。

「これから」の価値提供は、今までの延長戦上にあるかもしれないし、非連続的な飛躍の先に生まれるかもしれません。ですので、①顧客視点に立って考える、②現在の延長線上ではない発想で考える、が大事なポイントとなります。

これを、「「経営デザインシート」について(PDF)」(外部リンク)では、次のようにチャート化しています。

経営デザインシート_「これから」の価値提供の書き方

そうだからそうしなさい、という説明は循環論的で説得力が無いので、次のチャートだとどうでしょうか。

経営デザインシート_「これから」の価値提供の書き方_バックキャスティング

これには、もともとの経営理論の裏付けがあります。

「バックキャスティング経営」は、まずは目標とする将来時点のあるべき到達点を示し、現状とのGAPを明らかにします。目標達成すべき将来時点までに、いつ、何をやるべきかを明らかにし、その到達点を都度都度、確認しつつ、ゴール感と施策のバリエーションを見直していく手法を採っていきます。

これは、1960年代にイゴール・アンゾフが「Gap分析」として世に送り出したコンセプトが、「バックキャスティング」という新しい用語として、SDGs(持続可能な開発目標)が2015年の国連サミットで採択された頃から再び脚光を浴びるようになったものです。

外部リンク SDGsを実行に今さら聞けない「バックキャスティング」の使い方移すキーワード「バックキャスティング」とは?|SGDs Journal

自社の提供価値って何だろう?

もうひとつ、思考をすすめるためのハードルとなりそうなのが、そもそも「提供価値」って何だろう、という疑問です。日常的に顧客対応に追われ、顧客優先でお仕事をされている方に限って、顧客のための提供価値を再確認して言葉にすることが苦手だったりします。

このハードルを楽に超えるために、とりあえず世の中で「提供価値」をざっくり類型化して、分かりやすく提示してくれている経営戦略コンセプトがあるので、そちらをとっかかりにして、自社の提供価値に一番適合しそうなもので仮設定してしまいましょう。

M.トレーシー, F.ウィアセーマ著「ナンバーワン企業の法則」では、業界No1の企業を分析し、その勝ちパターンには次の3つの特徴があることを発見しました。

  1. 製品の革新性(Product Leadership)(プロダクト・リーダーシップ)
  2. 顧客との関係性(Client Intimacy)(カスタマー・インテマシー)
  3. 業務の卓越性(Operation Excellence)(オペレーショナル・エクセレンス)

訳者・解説者によって若干用語がブレているところは愛嬌です。^^;)

プロダクト・リーダーシップ
まだ世の中にない新奇性の高い製品・サービスを世の中に出すことで、顧客に提供価値をもたらすものです。代表例は、アップルのiPodなど。

カスタマー・インテマシー
個客(顧客ではなく)のニーズを満たすものを提供することです。代表例は、楽天の顧客囲い込みサービス。とりあえず楽天の会員になれば、金融から旅行、買い物まで、個客が望むものを提供するものです。これは、顧客囲い込み戦略(顧客ロックイン)という名でも呼ばれているものです。

オペレーショナル・エクセレンス
生産方法や販売方法など主にオペレーションにおける優位性を構築することにより、競合企業に対してスピードやコストで打ち勝っていくことを目指すものです。品質やコストで勝負するのですが、その高品質・低コストというトレードオフを生み出すには、現場オペレーションのすばらしさがあるという考え方です。

おもしろいことに、自社の強みを「オペレーショナル・エクセレンス」で、高品質・低コストを実現している、と名指して言われた方は、大概嫌がる傾向にあります。代表例は、トヨタ、マクドナルド、花王、セブンイレブンなど。

これまでの提供価値とこれからの提供価値を考える順番の違いはなぜ?

自社の提供価値がざっくりトレーシーがいう三類型のどれかに該当させて整理したとして、「これまで」は、資源→ビジネスモデル→提供価値、の順番で記述し、「これから」は、提供価値→ビジネスモデル→資源の順序で思考する、という手順の入れ替えにいまいち納得されていない方がいらっしゃるかもしれません。

こういうテンプレートの製作者は極度の例外を除き、MBAレベルの経営戦略の教科書を読んでいるはずですので、経営戦略理論の歴史的な2大学派の論争の歴史と論点を承知の上で、説明書きを作成します。ここでは、その隠された論点にまで言及してみることで、読者のより一層の理解を深めることを企図してみます。

それは、企業戦略を採用する際に、「儲かりそうだから、そういう戦略をとる」のか、「自社の優れた点を生かせる戦略をとる」のか、の選択の違いです。

双方とも、他社に勝つために自社に「競争優位」がある必要性は等しく認めています。問題は、その「競争優位」な状態をどうやって生み出し、維持するかの企業行動(ビヘイビア)の違いです。

前者は、マイケル・ポーターに代表されるポジショニング学派の主張で、後者は、複数の代表者が考えられますが、ここではジェイ・バーニーとしておきます。いわゆるケイパビリティ派です。

どちらが、優れているか(正しいか)の論争はまだ決着はついていません。筆者は、どちらも自分に都合の良いように使い分ければいいとする、ヘンリー・ミンツバーグのコンフィギュレーション派を支持しています。

そして、この経営デザインシートの製作者たちも、「ポジショニング」と「ケイパビリティ」は使い分けた方が都合がよいと考えて、この経営デザインシートをデザインしたと十分に推測できるのです。

そろそろ、紙面が尽きてきました。次回は「なぜ経営デザインシートなのか?」その必要性や意義など、背景・目的について、俯瞰的な解説をしてみたいと思います。

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外部リンク 経営をデザインする|知的財産戦略本部|内閣府
外部リンク 作成テキスト【入門編】(PDF)
外部リンク 作成テキスト【応用編】(PDF)

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(注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、過去及び現在を問わず、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です。

経営デザインシート(2) 内閣府知財権戦略本部が推奨するシートの書き方とその背後にある経営戦略思想とは

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