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■ OECD中心でタックスヘイブン活用によるグレーな課税回避に“喝!”

経営管理会計トピック

グローバル企業が、賢しくも各国税制の効果的な活用(中には積極的なタックスヘイブン利用もありますが)により、課税コストを回避して株主価値を最大化することは、株主資本主義としては当たり前でした。しかし、企業は株主だけではないステークホルダーとの協調の輪の中にあって初めて持続可能な存在となります。まあ、大上段に構えた序文はこれくらいにして、ここ最近、センセーショナルな形で取り上げられることも少なくなった、国際的な解税回避に対する対策を講じていることを、新聞報道のまとめという形でお届けしたいと思います。

2016/6/30付 |日本経済新聞|朝刊 税逃れ防止、80カ国・地域で OECD、きょう京都で会合 多国籍企業、課税の網

「グローバルに活動する多国籍企業の過度な節税を防ぐ対策に、新興国を含む80程度の国・地域が参加する。経済協力開発機構(OECD)が30日から京都で開く会合で決定する。年明けには100カ国・地域を超える体制になる見通し。国際的な枠組みの構築で、課税逃れが相対的に小さいとされる日本企業には国際競争でプラスになる。」

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

なるほど、行き過ぎた課税回避行動に出ていた欧米企業の行動に掣肘が加えられるということは、税回避に積極的でなかった日本企業の相対的収益性が上がるという理屈ですか。一週回って、日本企業に有利なゲームルールとなりそうです。これまで、数多くのスポーツルールが、日本人選手の活躍により世界標準に改変されてきました。ノルディックスキー、背泳など。。。 勝つためにルールを変えることも厭わないアングロサクソン流。まあ、どんなOECDルールになったのか、これから様子を見ていきます。

「OECDが中心となって検討を進めるグローバル企業を対象にした節税防止策は「税源浸食と利益移転(BEPS)」と呼ばれる。例えばペーパー会社に事業活動の実態がないと認定されると、特許使用料などの取引に対し、本社のある国の税務当局が課税できるようにする仕組みだ。
 すでにOECD加盟の35カ国、加盟候補の3カ国、非加盟の8カ国の計46カ国・地域が参加を約束している。来日中のOECDのパスカル・サンタマン租税センター局長は「今回の会合でウルグアイ、シンガポール、香港など新たに34カ国・地域が参加を約束する」と明言した。」

(下記は、同記事添付のサンダマン局長の写真を転載)

20160630_サンダマン局長_日本経済新聞朝刊

「さらにマレーシアなど25~30カ国・地域は今回の京都での会合を受けて年末までに参加の是非を検討。来年1月に開く予定の会合で新たな参加国・地域を正式に決める運びだ。
 対策は米グーグルや米スターバックスなど欧米企業の過度な節税策への批判が高まったことが背景だ。特にリーマン危機後の増税や歳出削減の影響が直撃した欧米の国民の間で反発が強まっていた。新興国にも対策の枠組みが広がることで、課税逃れの抜け穴を狭める効果が期待できる。」

富裕層やグローバル企業のタックスヘイブン等を活用した課税逃れは、90年代以降に世界的な社会問題となった格差拡大の問題とそれに端を発している政治の世界で蔓延しているポピュリズムを根治するための方策として、大変重要なことだと筆者は考えています。

「OECDは国際的な税逃れ対策にあまり協力しないタックスヘイブン(租税回避地)を制裁するために、客観的な基準もつくる。具体的には(1)税の透明性を審査する国際組織「グローバル・フォーラム」の評価(2)非居住者の口座情報を自動的に交換するルールに参加しているか(3)税務当局間で協力するための条約に署名しているか――だ。
 サンタマン氏は「3つの基準を満たしていればブラックリストに入らないが、2つや1つの場合はどうか30日に議論する」と述べた。」

(下記は、同記事添付の80ヵ国・地域で導入を検討している主な共通ルールを転載)

20160630_80ヵ国・地域が導入する主な共通ルール_日本経済新聞朝刊

 

■ 国際税制の2つの基本的ポイントをおさらいします!

上記の表の一番上は言わずもがななのですが、2番目と3番目は少々解説が必要かも。

さらに、こういうコメント記事もありました。

2016/6/30付 |日本経済新聞|朝刊 国際ルールの拡大解釈懸念

「中村豊明・経団連税制委員会企画部会長の話 国際課税のルールに新興国を含めるのは非常に良いことだ。ただ新興国が国際ルールを拡大解釈して二重課税などをすると困る。不当な課税強化を正す仲裁機関を通じた紛争解決メカニズムに参加しているのは先進国を中心とした約20カ国にすぎない。国際ルールに参加するならこのメカニズムに新興国も参加すべきだ。
企業は投資家の利益の拡大を目指しているが企業が社会の一員である以上きちんと納税しているかも重要になる。企業統治のあり方としてちゃんと納税しているのか取締役会などでチェックしていくことも必要になる。」

少々、難しいと思われる「PE」と「二重課税」について解説を試みます。

● 「倉庫だけ持つ企業にも課税?」
分かりやすく日本の税制で説明すると、外国人(非居住個人)&外国法人が、日本で所得税・法人税を課税される「(日本)国内源泉所得」は、所得税法に14種類、法人税法に11種類が、それぞれ限定するかたちで列挙されています。随分種類が多いですね。

これら多くの所得は、外国法人であれば「源泉所得税+法人税(確定申告による総合課税)」というふうに、支払いを受ける段階で一定税率が「源泉所得税」としてあらかじめ差し引かれて、支払者により税務署に納付されます(源泉徴収制度)。日本のサラリーマンと同じ天引き制度です。

ただし、「ある外国法人」の11種類の国内源泉所得のうち、「ある所得」については、
源泉所得税も法人税もまったく課税されない(=完全な非課税) という事態が生じます。
この「ある外国法人」というのが、「日本国内にPE(ピー・イー)を有しない外国法人」
で、この「ある所得」というのは「事業の所得」(外国法人の一号所得のうちの”事業の所得”)です。

では「PE(ピー・イー)」とはなにか?
正しくは“permanent establishment”といい、日本語では「恒久的施設」と訳されています。要するに進出先の海外現地国で事業活動を行う際の一定の“場所”“施設”“機能”“拠点”などを指します。
具体的には
1.支店・工場等
2.建設等の作業等
3.自らの事業活動を担う代理人
などが、「恒久的施設(PE)」ということになります。

つまりですね、アマゾンの巨大倉庫は、PEじゃないから、アマゾンが日本の消費者相手に稼いだ儲けには、日本の税務当局は全く手が出せない、という現状を打破するということなのです。

(参考:PE(ピー・イー)のはなし|国際税務研究会

● 二重課税
① 居住地国と居住地国間で発生
国家は、一般的に自国の居住者(個人も法人も)に対しては、属人主義的な立場から全世界所得課税(どこの国で稼得した所得であろうと課税対象とする方式)を行う国が普通になっています。この居住者の定義が全世界共通であれば各国の租税法が適正に執行される限りにおいて課税権が重複する問題は生じないのですが、現実的には国家はある国家とその他の国家とで二重に居住者とされてしまい、一つの所得にも拘わらず重複して課税を受けることがあるのです。ただし、租税条約締結国同士であれば、「居住者」の一般的なルールを定めて調整するのが通常なのですが、、、一部の新興国は、、、どの国というのは既知なので???

例)日本では、本店又は主たる所在地のある国を法人の居住地国
イギリスの国内法では、法人を管理支配する場所が居住地国

② 源泉地国と源泉地国
国家は、自国の居住者以外(非居住者)の者に対しても、自国の領土やインフラなどを使用し所得を稼得したのであれば、属地主義的な立場から課税権を行使することが一般的であり、これは、源泉地国課税などと呼ばれます。
そのため、ある国とその他の国とがそれぞれに自国が所得の源泉地であるとの主張を行った場合、二重課税が生じ得ます。この排除についても、租税条約上の協議が有効な手法と考えられます。

③ 居住地国と源泉地国
例えば、ある国の居住者が他の国に支店などを設けて営業活動を行う場合、前述の全世界所得課税の考え方と源泉地国課税の考え方の抵触により二重課税が生じ得ます。

「二重課税排除の原則」
方式1) 外国税額控除方式:
居住者に対し全世界所得課税を行った後、国外に源泉のある所得に対して外国で課された税額を国内税額から控除する方式
方式2)国外所得免除方式:
居住者に対し全世界所得課税を放棄して、国外に源泉のある所得には課税しない(外国に課税権を譲歩する)方式

 

■ OECDの京都会合に話を再び戻します! それから英国の法人減税が日本に与える影響とは?

2016/6/30付 |日本経済新聞|夕刊 税逃れ防止へ制裁基準 OECD会合、京都で100カ国が議論

「国際的な課税逃れ対策を議論する経済協力開発機構(OECD)の租税委員会が30日、京都市で開幕した。約100カ国が参加し、情報公開に非協力的な悪質なタックスヘイブン(租税回避地)を特定する基準案を作る。悪質なタックスヘイブンには国際社会が連携して制裁を検討する。」

OECDが本部のあるパリ以外で租税委員会を開くのは初めてで、議長は財務省の浅川雅嗣財務官。会合には麻生太郎財務相も出席し、日本のキーパーソンが2人そろった贅沢な布陣で始まりました。やはり会合での中心的議題は、グローバル企業の過度な節税を防ぐための共通ルールの整備。企業がタックスヘイブンにある事業実態のないペーパーカンパニーに所得を移した場合、本国で課税できるようにすることを柱としています。

「会合に出ている約100カ国のうち、OECD加盟国や20カ国・地域(G20)などの計46カ国・地域がすでに共通ルールの枠組みに参加しており、今回新たにシンガポールや香港、ウルグアイなど35カ国・地域が加わる。
国際共通ルールが浸透していけば、企業のビジネス環境が公平になる利点がある。国境をまたいだ節税に積極的な企業は戦略見直しが迫られる。」

さて、ここの枠組みに参加していない強大国はどこでしょう?知っている人は知っている。

 

2016/7/1付 |日本経済新聞|朝刊 税逃れ、日本並みに課税 財務省検討 配当や知財収入に 税率基準廃止

「財務省は日本の企業や個人が税を逃れるため海外に移した所得に対し、日本から課税する仕組みを厳しくする検討に入った。法人税率が20%以上の国・地域でも配当や知的財産といった所得は原則、日本の所得に合算して日本の税率で税を課す。オランダやマレーシアなどの所得が新たに課税対象に加わる見通しだ。国際的な税逃れを防ぐ網を広げて、公平な税制を整える。」

(下記は、同記事添付の日本の税率違いを悪用した節税スキームの歯止めの考え方説明図を転載)

20160701_税率の違いを突いた節税に歯止めをかける_日本経済新聞朝刊

OECDの京都会合でも議論された日本の税務当局の戦略の一端が会合中に新聞報道されて、当局への側面支援をしました。

「与党税制調査会の議論を経て、2017年度税制改正に盛り込みたい考えだ。実際の制度変更には数年の準備期間を設けるとの見方もある。
財務省が見直すのはタックスヘイブン対策税制と呼ばれる仕組みだ。現在は法人税率が20%未満の国に事業実態のないペーパーカンパニーがあると、日本の親会社や個人の所得に合算して、日本で課税している。
財務省は20%未満という税率基準をなくし、所得の種類によって課税の有無を判断する仕組みに切り替える。課税となるのは配当や知的財産のほかロイヤルティーといった現地会社に事業実態がなくても得られる所得だ。
日本より法人税率が低い国・地域に適用する方向だ。マレーシアやオランダなど約40カ国にある所得が課税対象に加わり、増税になりそうだ。こうした国に所得を移している企業は経営戦略の見直しを迫られる。
現地会社の経済活動によって生まれている所得は課税対象から外すが、経済界からは反発も予想される。国際的な課税逃れを巡っては経済協力開発機構(OECD)の租税委員会が30日、京都市で開幕した。」

これにて、「ダブルアイリッシュ・ダッチサンドイッチ」等という節税スキームが使えなくなる想定です。それより、なぜ、財務省が20%未満という税率基準を無くす方針か、一番大きな理由をご存知ですか?

 

2016/7/4付 |日本経済新聞|朝刊 英、法人税15%以下に 財務相、企業の国外流出防ぐ

「【ロンドン=木寺もも子】英国のオズボーン財務相は、現在20%の法人税率を15%以下と先進国で最低水準に引き下げる考えを明らかにした。国民投票で欧州連合(EU)からの離脱を決めたことで、欧州向けの輸出に関税がかかることなどを懸念する企業が国外に流出するのを防ぐ狙いだ。中国からの投資を積極的に誘致する方針も示した。」

「英国の法人税率は20%と、フランス(33.33%)やドイツ(29.72%)など欧州主要国と比べてもともと低いうえ、今年3月には2020年までに17%に引き下げる方針を示していた。さらに削減幅を広げれば、米グーグルなど多数の多国籍企業が拠点を置く欧州で最低水準(12.5%)のアイルランドに近づく。」

英国が20%に税率変更した際も、日本は従来のタックスヘイブン課税ルールの変更を余儀なくされました。そして、とうとう英国が15%以下に法人税率を減税する方向を示したので、日本の財務省も単純な法人税率だけで、タックスヘイブン認定はできない(英国を慮って)、と考えたわけです。

 

■ OECDの京都会合の結論とその後日談とは?

2016/7/2付 |日本経済新聞|朝刊 税逃れ 悪質な国に基準 OECD 非協力なら制裁も 国際ルール、来年100カ国・地域に

「富裕層や多国籍企業による国境をまたいだ過度な節税を防ぐための国際協調策が動き出す。経済協力開発機構(OECD)の会合が京都市で1日閉幕し、悪質なタックスヘイブン(租税回避地)の基準で合意した。該当する国・地域のリストをつくり、制裁を検討する。企業の行きすぎた節税を防ぐ国際ルールには約50カ国が来年加わり、100カ国・地域体制になることも固まった。
タックスヘイブンの節税実態を明らかにした「パナマ文書」を受け、OECDを中心に各国で対応策を検討していた。」

(下記は、同記事添付の総括ポイントのまとめを転載)

20160702_OECD 税逃れ対応 京都会合の結果_日本経済新聞朝刊

<ポイント>
① 悪質な国は3つの基準で判断する
(1)税の透明性を審査する国際組織の評価を満たしている
(2)個人の金融情報を定期的に交換する仕組みに参加している
(3)税務当局が協力する条約に多く署名している
のうち2つ以上に合致しなければ悪質と認定する。

② 悪質な国へは制裁措置を!
「OECDがつくった基準は7月に中国で開かれる20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議で承認される見通し。各国はこの基準をもとにブラックリストを作成する。現時点では、パナマなどが対象になる可能性が高い。」

制裁措置の具体的な内容は、
・ブラックリストの国に所得を移転することに規制をかける
・国際社会が一致して圧力をかけ、情報開示に消極的な国に対して改善を促す
これをもってタックスヘイブンの情報が隠され、適切な課税を妨げている現状を改めようというのです。

③ 企業の過度な節税を防ぐ共通ルールを制定する
・タックスヘイブンにある実態のない子会社の所得にも、親会社のある本国から課税できるようにする

④ 国際ルールの適用範囲の拡大
もともと参加を表明していた日米欧などの46カ国・地域から中南米や東南アジア、アフリカと全世界に拡大。パラグアイやシンガポール、香港、エジプトなど36カ国・地域が新たに加わることが決まった。さらに今後、21カ国・地域が加わる見通し。

 

2016/7/5付 |日本経済新聞|朝刊 国際課税ルール、逸脱国を公表へ OECD・経団連が会合

「経済協力開発機構(OECD)と経団連が4日、国際的な税逃れ対策のルール作りを巡り会合を開いた。OECDのパスカル・サンタマン租税センター局長は記者会見で「(国際共通ルールを守っているか)各国を評価して公表する」と述べた。ルールを逸脱して過度に課税する国をけん制する狙いがある。」

京都で初のOECDの租税曲の会合が行われたのは、なにも日本の経済力復活とか、日本の国際的地位の向上が主要な理由ではなく、積極的な解税逃れをしている法人・企業が多く存在する欧米でも、二重課税のリスクが高い新興国でも会合を開くにふさわしくなかったら。消極的選択の故です。でもね、それって日本が世界に誇っていいことなんではと思いますね。昨今流行のコーポレートガバナンス・コードにも、株主以外のステークホルダーや社会・環境などへの影響を考慮した持続可能性のある成長を目指すのが上場企業のあり方だ、と英米から輸入された文書に記載しているあることを日本企業は実践しているのですから。

「OECDは世界各国の課税状況を2017年から評価を始め、公表する。20カ国・地域(G20)にも報告し、ルールを順守するように圧力をかける方針だ。
OECDが1日まで京都市で開いた会議では、多国籍企業の過度な税逃れを防ぐ国際共通ルールに80を超す国・地域が参加することが決まった。経済界には新興国がルールを拡大解釈して過度に課税する懸念がくすぶっている。欧州連合(EU)は国際共通ルールとは別に、EU域内に進出する企業に納税情報の公表を求める追加措置をまとめている。」

そして、EUは域内にさらに厳しい追加措置を考えています。英国はそういう流れにもNO!ということでEU離脱を決めた、その世論というのはここにも表れているのですね。(^^;)

⇒「(衝撃 パナマ文書)納税ガラス張り 英で先行 租税回避行為へ強まる批判 - 管理会計屋が見る国際税務戦略
⇒「(真相深層)「結局は増税?」企業警戒 国際課税新ルール、強まる懸念 主要国、はや足並み乱れ -国際税務の超入門
⇒「国際課税新ルール、日本企業でも適用 海外子会社の情報収集 本国との二重課税リスクも

(注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です。

 

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税逃れ防止 OECDの京都会合のまとめ記事 - パナマ文書に端を発するタックスヘイブン規制の行方http://keieikanrikaikei.com/wp-content/uploads/2015/04/1-e1427893099240.jpghttp://keieikanrikaikei.com/wp-content/uploads/2015/04/経営管理会計トピック1-150x150.jpg小林 友昭会計で経営を読むOECD,PE,タックスヘイブン,パスカル・サンタマン,パナマ文書,二重課税,利益移転,税源浸食,BEPS■ OECD中心でタックスヘイブン活用によるグレーな課税回避に“喝!” グローバル企業が、賢しくも各国税制の効果的な活用(中には積極的なタックスヘイブン利用もありますが)により、課税コストを回避して株主価値を最大化することは、株主資本主義としては当たり前でした。しかし、企業は株主だけではないステークホルダーとの協調の輪の中にあって初めて持続可能な存在となります。まあ、大上段に構えた序文はこれくらいにして、ここ最近、センセーショナルな形で取り上げられることも少なくなった、国際的な解税回避に対する対策を講じていることを、新聞報道のまとめという形でお届けしたいと思います。 2016/6/30付 |日本経済新聞|朝刊 税逃れ防止、80カ国・地域で OECD、きょう京都で会合 多国籍企業、課税の網 「グローバルに活動する多国籍企業の過度な節税を防ぐ対策に、新興国を含む80程度の国・地域が参加する。経済協力開発機構(OECD)が30日から京都で開く会合で決定する。年明けには100カ国・地域を超える体制になる見通し。国際的な枠組みの構築で、課税逃れが相対的に小さいとされる日本企業には国際競争でプラスになる。」 (注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます なるほど、行き過ぎた課税回避行動に出ていた欧米企業の行動に掣肘が加えられるということは、税回避に積極的でなかった日本企業の相対的収益性が上がるという理屈ですか。一週回って、日本企業に有利なゲームルールとなりそうです。これまで、数多くのスポーツルールが、日本人選手の活躍により世界標準に改変されてきました。ノルディックスキー、背泳など。。。 勝つためにルールを変えることも厭わないアングロサクソン流。まあ、どんなOECDルールになったのか、これから様子を見ていきます。 「OECDが中心となって検討を進めるグローバル企業を対象にした節税防止策は「税源浸食と利益移転(BEPS)」と呼ばれる。例えばペーパー会社に事業活動の実態がないと認定されると、特許使用料などの取引に対し、本社のある国の税務当局が課税できるようにする仕組みだ。  すでにOECD加盟の35カ国、加盟候補の3カ国、非加盟の8カ国の計46カ国・地域が参加を約束している。来日中のOECDのパスカル・サンタマン租税センター局長は「今回の会合でウルグアイ、シンガポール、香港など新たに34カ国・地域が参加を約束する」と明言した。」 (下記は、同記事添付のサンダマン局長の写真を転載) 「さらにマレーシアなど25~30カ国・地域は今回の京都での会合を受けて年末までに参加の是非を検討。来年1月に開く予定の会合で新たな参加国・地域を正式に決める運びだ。  対策は米グーグルや米スターバックスなど欧米企業の過度な節税策への批判が高まったことが背景だ。特にリーマン危機後の増税や歳出削減の影響が直撃した欧米の国民の間で反発が強まっていた。新興国にも対策の枠組みが広がることで、課税逃れの抜け穴を狭める効果が期待できる。」 富裕層やグローバル企業のタックスヘイブン等を活用した課税逃れは、90年代以降に世界的な社会問題となった格差拡大の問題とそれに端を発している政治の世界で蔓延しているポピュリズムを根治するための方策として、大変重要なことだと筆者は考えています。 「OECDは国際的な税逃れ対策にあまり協力しないタックスヘイブン(租税回避地)を制裁するために、客観的な基準もつくる。具体的には(1)税の透明性を審査する国際組織「グローバル・フォーラム」の評価(2)非居住者の口座情報を自動的に交換するルールに参加しているか(3)税務当局間で協力するための条約に署名しているか――だ。  サンタマン氏は「3つの基準を満たしていればブラックリストに入らないが、2つや1つの場合はどうか30日に議論する」と述べた。」 (下記は、同記事添付の80ヵ国・地域で導入を検討している主な共通ルールを転載)   ■ 国際税制の2つの基本的ポイントをおさらいします! 上記の表の一番上は言わずもがななのですが、2番目と3番目は少々解説が必要かも。 さらに、こういうコメント記事もありました。 2016/6/30付 |日本経済新聞|朝刊 国際ルールの拡大解釈懸念 「中村豊明・経団連税制委員会企画部会長の話 国際課税のルールに新興国を含めるのは非常に良いことだ。ただ新興国が国際ルールを拡大解釈して二重課税などをすると困る。不当な課税強化を正す仲裁機関を通じた紛争解決メカニズムに参加しているのは先進国を中心とした約20カ国にすぎない。国際ルールに参加するならこのメカニズムに新興国も参加すべきだ。 企業は投資家の利益の拡大を目指しているが企業が社会の一員である以上きちんと納税しているかも重要になる。企業統治のあり方としてちゃんと納税しているのか取締役会などでチェックしていくことも必要になる。」 少々、難しいと思われる「PE」と「二重課税」について解説を試みます。 ● 「倉庫だけ持つ企業にも課税?」 分かりやすく日本の税制で説明すると、外国人(非居住個人)&外国法人が、日本で所得税・法人税を課税される「(日本)国内源泉所得」は、所得税法に14種類、法人税法に11種類が、それぞれ限定するかたちで列挙されています。随分種類が多いですね。 これら多くの所得は、外国法人であれば「源泉所得税+法人税(確定申告による総合課税)」というふうに、支払いを受ける段階で一定税率が「源泉所得税」としてあらかじめ差し引かれて、支払者により税務署に納付されます(源泉徴収制度)。日本のサラリーマンと同じ天引き制度です。 ただし、「ある外国法人」の11種類の国内源泉所得のうち、「ある所得」については、 源泉所得税も法人税もまったく課税されない(=完全な非課税) という事態が生じます。 この「ある外国法人」というのが、「日本国内にPE(ピー・イー)を有しない外国法人」 で、この「ある所得」というのは「事業の所得」(外国法人の一号所得のうちの'事業の所得')です。 では「PE(ピー・イー)」とはなにか? 正しくは“permanent establishment”といい、日本語では「恒久的施設」と訳されています。要するに進出先の海外現地国で事業活動を行う際の一定の“場所”“施設”“機能”“拠点”などを指します。 具体的には 1.支店・工場等 2.建設等の作業等 3.自らの事業活動を担う代理人 などが、「恒久的施設(PE)」ということになります。 つまりですね、アマゾンの巨大倉庫は、PEじゃないから、アマゾンが日本の消費者相手に稼いだ儲けには、日本の税務当局は全く手が出せない、という現状を打破するということなのです。 (参考:PE(ピー・イー)のはなし|国際税務研究会) ● 二重課税 ① 居住地国と居住地国間で発生 国家は、一般的に自国の居住者(個人も法人も)に対しては、属人主義的な立場から全世界所得課税(どこの国で稼得した所得であろうと課税対象とする方式)を行う国が普通になっています。この居住者の定義が全世界共通であれば各国の租税法が適正に執行される限りにおいて課税権が重複する問題は生じないのですが、現実的には国家はある国家とその他の国家とで二重に居住者とされてしまい、一つの所得にも拘わらず重複して課税を受けることがあるのです。ただし、租税条約締結国同士であれば、「居住者」の一般的なルールを定めて調整するのが通常なのですが、、、一部の新興国は、、、どの国というのは既知なので??? 例)日本では、本店又は主たる所在地のある国を法人の居住地国 イギリスの国内法では、法人を管理支配する場所が居住地国 ② 源泉地国と源泉地国 国家は、自国の居住者以外(非居住者)の者に対しても、自国の領土やインフラなどを使用し所得を稼得したのであれば、属地主義的な立場から課税権を行使することが一般的であり、これは、源泉地国課税などと呼ばれます。 そのため、ある国とその他の国とがそれぞれに自国が所得の源泉地であるとの主張を行った場合、二重課税が生じ得ます。この排除についても、租税条約上の協議が有効な手法と考えられます。 ③ 居住地国と源泉地国 例えば、ある国の居住者が他の国に支店などを設けて営業活動を行う場合、前述の全世界所得課税の考え方と源泉地国課税の考え方の抵触により二重課税が生じ得ます。 「二重課税排除の原則」 方式1) 外国税額控除方式: 居住者に対し全世界所得課税を行った後、国外に源泉のある所得に対して外国で課された税額を国内税額から控除する方式 方式2)国外所得免除方式: 居住者に対し全世界所得課税を放棄して、国外に源泉のある所得には課税しない(外国に課税権を譲歩する)方式   ■ OECDの京都会合に話を再び戻します! それから英国の法人減税が日本に与える影響とは? 2016/6/30付 |日本経済新聞|夕刊 税逃れ防止へ制裁基準 OECD会合、京都で100カ国が議論 「国際的な課税逃れ対策を議論する経済協力開発機構(OECD)の租税委員会が30日、京都市で開幕した。約100カ国が参加し、情報公開に非協力的な悪質なタックスヘイブン(租税回避地)を特定する基準案を作る。悪質なタックスヘイブンには国際社会が連携して制裁を検討する。」 OECDが本部のあるパリ以外で租税委員会を開くのは初めてで、議長は財務省の浅川雅嗣財務官。会合には麻生太郎財務相も出席し、日本のキーパーソンが2人そろった贅沢な布陣で始まりました。やはり会合での中心的議題は、グローバル企業の過度な節税を防ぐための共通ルールの整備。企業がタックスヘイブンにある事業実態のないペーパーカンパニーに所得を移した場合、本国で課税できるようにすることを柱としています。 「会合に出ている約100カ国のうち、OECD加盟国や20カ国・地域(G20)などの計46カ国・地域がすでに共通ルールの枠組みに参加しており、今回新たにシンガポールや香港、ウルグアイなど35カ国・地域が加わる。 国際共通ルールが浸透していけば、企業のビジネス環境が公平になる利点がある。国境をまたいだ節税に積極的な企業は戦略見直しが迫られる。」 さて、ここの枠組みに参加していない強大国はどこでしょう?知っている人は知っている。   2016/7/1付 |日本経済新聞|朝刊 税逃れ、日本並みに課税 財務省検討 配当や知財収入に 税率基準廃止 「財務省は日本の企業や個人が税を逃れるため海外に移した所得に対し、日本から課税する仕組みを厳しくする検討に入った。法人税率が20%以上の国・地域でも配当や知的財産といった所得は原則、日本の所得に合算して日本の税率で税を課す。オランダやマレーシアなどの所得が新たに課税対象に加わる見通しだ。国際的な税逃れを防ぐ網を広げて、公平な税制を整える。」 (下記は、同記事添付の日本の税率違いを悪用した節税スキームの歯止めの考え方説明図を転載) OECDの京都会合でも議論された日本の税務当局の戦略の一端が会合中に新聞報道されて、当局への側面支援をしました。 「与党税制調査会の議論を経て、2017年度税制改正に盛り込みたい考えだ。実際の制度変更には数年の準備期間を設けるとの見方もある。 財務省が見直すのはタックスヘイブン対策税制と呼ばれる仕組みだ。現在は法人税率が20%未満の国に事業実態のないペーパーカンパニーがあると、日本の親会社や個人の所得に合算して、日本で課税している。 財務省は20%未満という税率基準をなくし、所得の種類によって課税の有無を判断する仕組みに切り替える。課税となるのは配当や知的財産のほかロイヤルティーといった現地会社に事業実態がなくても得られる所得だ。 日本より法人税率が低い国・地域に適用する方向だ。マレーシアやオランダなど約40カ国にある所得が課税対象に加わり、増税になりそうだ。こうした国に所得を移している企業は経営戦略の見直しを迫られる。 現地会社の経済活動によって生まれている所得は課税対象から外すが、経済界からは反発も予想される。国際的な課税逃れを巡っては経済協力開発機構(OECD)の租税委員会が30日、京都市で開幕した。」 これにて、「ダブルアイリッシュ・ダッチサンドイッチ」等という節税スキームが使えなくなる想定です。それより、なぜ、財務省が20%未満という税率基準を無くす方針か、一番大きな理由をご存知ですか?   2016/7/4付 |日本経済新聞|朝刊 英、法人税15%以下に 財務相、企業の国外流出防ぐ 「【ロンドン=木寺もも子】英国のオズボーン財務相は、現在20%の法人税率を15%以下と先進国で最低水準に引き下げる考えを明らかにした。国民投票で欧州連合(EU)からの離脱を決めたことで、欧州向けの輸出に関税がかかることなどを懸念する企業が国外に流出するのを防ぐ狙いだ。中国からの投資を積極的に誘致する方針も示した。」 「英国の法人税率は20%と、フランス(33.33%)やドイツ(29.72%)など欧州主要国と比べてもともと低いうえ、今年3月には2020年までに17%に引き下げる方針を示していた。さらに削減幅を広げれば、米グーグルなど多数の多国籍企業が拠点を置く欧州で最低水準(12.5%)のアイルランドに近づく。」 英国が20%に税率変更した際も、日本は従来のタックスヘイブン課税ルールの変更を余儀なくされました。そして、とうとう英国が15%以下に法人税率を減税する方向を示したので、日本の財務省も単純な法人税率だけで、タックスヘイブン認定はできない(英国を慮って)、と考えたわけです。   ■ OECDの京都会合の結論とその後日談とは? 2016/7/2付 |日本経済新聞|朝刊 税逃れ 悪質な国に基準 OECD...現役の経営コンサルタントが管理会計をテーマに情報発信します