業績管理会計の基礎(3)マネジメント・コントロール・システムの運用方法

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■ マネジメント・コントロール・システム(MCS)を回し始めるための仕掛け

前回「業績管理会計の基礎(2)マネジメント・コントロール・システムのための管理会計とは」において、アンソニーによる「PPBRサイクル」をご紹介しました。本来は、「PDCAサイクル」より、こちらが業績管理会計の本家であるにもかからず、世の中では誤解に基づくPDCA一色になっているのは、管理会計学の学徒のひとりとして、筆者も大変残念なことと思っています。

業績管理会計(入門編)_マネジメント・コントロール プロセス

この「PPBRサイクル」を、「サイクル」の名の通り、輪になって仕事が順繰りに回るように、図解し直したものが下図になります。

① 目標設定
② 計画と実行
③ モニタリングとレポート
④ 評価と報酬
⑤ フィードバックと学習

この①から④までを経営管理サイクル、会社ごとに、半年の事も一年や複数年に跨るかもしれません。ピリオディックな経営計画を立案し、途中経過をモニタリングし、得られた知見を組織的学習として会社の形式知に置き換えて蓄積していきます。

このサイクルを始める最初の一歩が企業にとって大変重要な意味を持ちます。

① 目標設定
次の3つをトップマネジメントが決定します。
・Goal(目的)
・Performance Measure(業績尺度)
・Target(目標)

目的は、その企業が既存の競争市場でどのようなポジションでありたいか、あるいはどんな新規市場を開拓するか? 経営者により、その企業が生き残る・勝負する生存領域・勝負する市場ドメインを決定することを意味しています。

業績尺度は、選び取られた市場ドメインでその企業がどのように戦うか、戦い方をトップマネジメントから示されたものです。つまり、こういう業績尺度で評価するからね、と上司から先に言い渡されれば、よほどのことが無い限り、業績評価指標を全うしようと、マネジャーや従業員は行動するのが自然です。トップマネジメントが決めた業績尺度は、その企業の目的遂行のための必要十分条件であるべきで、「重要成功要因(CSF:Critical Success Factor / KFS:Key Factor For Success)」と「クリティカルプロセス」を体現するものであらねばなりません。

※ クリティカルプロセス(Critical Process):組織目的の遂行に直接的に影響を及ぼす一連の活動

目標は、提示された業績尺度の達成水準を意味します。仮に、新製品売上高比率が業績尺度に示されたなら、その値が5%なのか、10%なのか、1年後に達成するのか、5年後に達成すべきなのかが示されている必要があります。可能な限り、この目標は「定量目標」とすべきで、「定性目標」であっても、しかるべき手法(アンケートや代理変数を用いるなど)で、定量的にその達成度合いを評価できるように設定した方が結果が出やすくなります。なぜなら、目標の達成度合いは、その後の「④評価と報酬」の段になって、それぞれの担当者の人事上または報酬面での評価につながるからです。

業績管理会計(入門編)_目標設定

■ マネジメント・コントロール・システム(MCS)を機能させる工夫

② 計画と実行
人口に膾炙している「PDCAサイクル」を援用すると、P:計画と、D:実行の段階に相当します。業績評価には、財務的指標を活用することが多いことから、決算期(すなわち1年)に対応して、年度経営計画あるいは年度予算として、計画立案とその具体的な企業活動が実施されます。

③ モニタリングとレポート
現場が期初の業績尺度や目標値にしたがって活動した結果は、マネジャーを経由して、トップマネジメントまで報告されねばなりません。トップマネジメントへの報告サイクルが月次のものは、毎月、トップマネジメントが業績推移をチェックし、翌月からの作業方針を指示します。ヒエラルキー的により上位に位置するマネジメントほど、より粗い情報、より長い報告サイクルの中で経営判断を迫られることになります。そうした情報ギャップによる経営判断の遅れやミスを防ぐために、各種経営報告のスタイルや、ITによる支援(BI: Business Intelligence)に工夫がされなければなりません。

④ 評価と報酬
モチベーション管理、動機付け理論にあたる部分です。例えば、あなたは、とあるホテルのフロントマネージャーだとします。客室稼働率の向上が目標に与えられた場合と、フロントが一番混雑する時間帯におけるチェックイン所要時間の短縮が目標に与えられた場合を考えてください。適切に、それぞれの職責に適合する目標が与えられたなら、努力する方法も見つけることもできますし、努力が結実して目標値が達成されれば、適切な報酬が与えられることを知っていれば、仕事にも身が入るというものです。賢明な皆さんならもうお分かりですね。客室稼働率は、別のマネジャーが受け持つべきですし、チェックイン所要時間を1分にしろ、という指示と、5分以内に、という指示のどちらが、モラルハザードを起こさないかも自明であると言えましょう。

⑤ フィードバックと学習
これは、ピーター・センゲ氏による「学習する組織」、野中郁次郎氏の「知識創造企業」に通じるもので、組織が競争市場で生き残るための「適応学習」を自律的に実践できる組織にすること、SECIモデルを組織にビルドインすることを意味します。

業績管理会計(入門編)_SECIモデル

当然、こうした組織知(集合知)は、経験曲線理論に基づき、累積的な生産量やトップシェアからも効果的に得られるものです。

⇒「経営戦略概史(13)ヘンダーソンによるBCGの誕生と3つの飛躍- PPM、経験曲線、持続可能な成長率

■ マネジメント・コントロール・システム(MCS)を回す目的

こうしたPPBRサイクルを企業組織内で機能させる目的とは、次の通り。

① 組織の目的を明確に構成員に伝達する(コミュニケーション)
② マネジャーや従業員が、組織目的達成のために必要な自分に課せられた行動を理解する
③ マネジメント・コントロール・システム自体が環境変化に追随して自己改変を促す

トップマネジメントの経営意思がマネジャーを通して、各機能で現場を司っている担当者にまで浸透している組織は、組織力が高いと一般的に評価されます。組織内でのその意思疎通は、専らMCSが担うところであると認識しています。いくら、定期経営会議前の社長講話、イントラネットの社長ページ、社内報での社長メッセージで長々と経営方針を説明しても、馬耳東風の従業員はごまんといます。しかし、Aさんは、新規受注5件/年、Bさんは、設備故障時間:20時間/年、と具体的な指示が出され、それらの目標を達成したら、ボーナスは倍になる、とすれば、そういう指示に耳を貸さない従業員はいないでしょう。

それが深謀遠慮から来る、制約理論(TOC:Theory of Constraints)に基づき、企業のスループット最大化という組織目的を細かく砕いて、各担当者の目標に設定されていたのだとしても。「スループットの最大化で我社は競合に打ち勝つ!」と言われて理解できなくても、「新規受注を取ってきたらボーナス倍」「故障時間を最小にしたらボーナス倍」と言われた方が、具体的指示となり、達成水準も可視化され、最終的な企業業績(財務的目標値)も明らかにすることに役立つのです。

このように、数多くの従業員がひしめき合う状態で、組織が自律的に競争適合しながら自己変容していくためには、その構成員各々の変化のひとつずつが目的適合性を持って行われ、企業全体で見た場合でも、全体最適になって合成の誤謬が発生しないように工夫されねばなりません。そのためにも、MCS内で配列される業績尺度と各ステップでの作業が整合的である必要があります。別の言葉では、ミッションマネジメントとも呼ばれているものです。

企業の中のプロセスを整然と整理し、各担当者の意識を企業目的に統合する。MCSを構築することで、そういう効果がきっと得られるはずです。業績管理会計に関する知識は、そのための仕掛けづくりと指標の選択に役立つはずです。

業績管理会計(入門編)_業績管理会計の基礎(3)マネジメント・コントロール・システムの運用方法

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