POファイナンスとクラウドファンディングは従来のキャッシュコンバージョンサイクル管理を破壊する!?

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■ 新しいファイナンス手法が新たなビジネスモデルを創出するのか、ビジネスの要請で新ファイナンス手法が編み出されるのか?

経営管理会計トピック

ビジネスとファイナンスは切っても切れない仲。どちらが原因でどちらが結果なのか、「ランダム化比較実験」「自然実験」「疑似実験」を行い、①全くの偶然か、②第3の変数が存在していないか、③逆の因果関係が無いか、をひとつずつ確認していく必要があります。

2017/4/1付 |日本経済新聞|朝刊 「原因と結果」の経済学 中室牧子、津川友介著  社会に生かせる統計の手法

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

「本書は、社会科学の実証分析において最も重要な役割を果たす「因果関係」の検証方法をわかりやすく解説した啓蒙書である。著者はそれぞれ教育経済学、医療経済学の専門家で、この分野における様々な研究を使用して、因果関係を検証する統計的な手法を、数式やテクニカルな用語をあまり用いず、身近な問題を取り上げて説明している。」

そんな大上段に構えなくても、起業をする際に重視しなければならないのは、①顧客が存在しているのか、②資金繰りが持つか、が2大注視項目であることは間違いありません。前者はテクノロジーやマーケティング、人脈(販路)に長けている人の役割で、後者を考えることは、どうしてもファイナンスの知見がある人の役割であり、おそらく本ブログの読者層と重なるでしょう。大企業でも新規事業開発ではアントレプレナー的素養を必要としますので、今回は新規ビジネス立ち上げ時のキャッシュマネジメントの工夫のお話をしましょう。

 

■ 「POファイナンス」の仕組みとは?

従来はメガバンクなどに限定されていた電子債権記録業の指定をベンチャーとして初めて受けたトランザックスが嚆矢となって世に出てきました。

● PO ファイナンス

2017/3/20付 |日本経済新聞|朝刊 トランザックス、商品受注段階で融資 電子債権を担保に

「金融とIT(情報技術)を融合したフィンテックベンチャーのTranzax(トランザックス、東京・港、小倉隆志社長)は4月、下請け企業が商品の受注段階で発注書を元に金融機関から融資を受けられるサービスを始める。中小企業の資金繰りを円滑にすることで新製品開発や設備投資を促す。」

(下記は同記事添付の「POファイナンスの仕組み」を引用)

20170320_POファイナンス_日本経済新聞朝刊

実証実験が、板金加工の武州工業(東京都青梅市)と、三井住友信託銀行や足利銀行などの金融機関とコンソーシアムを組んで行われます。そのスキームは、武州工業から仕事を受けた企業が電子記録債権の発注書を元に金融機関からの融資を受けられるようにするものです。通常、中小企業は一般的に受注した製品を納入してから代金を受けとるまでに3~4カ月かかります。将来見込まれる売り上げを担保に融資を受けることは難しく、新技術導入や設備投資のための手元予算が確保できない現状でした。

トランザックスは昨年7月から、中小企業が売掛金を担保に融資を受けられるサービスを展開しています。同様の効果が認められるファイナンス手法に、売上債権を現金で買い取る「ファクタリング」という金融サービスもあります。POファイナンスは、これら売掛金が企業の手元に入る前の「仮の売掛金」を電子債権化し、担保に充てる方式でさらに、時系列的にもっと前で企業にキャッシュ・インする仕掛けを編み出しました。

 

■ 「クラウドファンディング」の仕組みとは?

担保がないと融資が受けられない。ベンチャーにはそもそも担保に供出するものが無い。それでは起業ができない。そこで、将来の商品提供やサービス展開をお約束して、それを信用に置き換えて、特に小口のお金を集める手法が「クラウドファンディング」です。

● クラウドファンディング

2017/3/30付 |日本経済新聞|朝刊 お金革命 先駆企業の挑戦と課題(下)広がるネット資金調達 個人マネーが成長後押し

「フィンテックの波は仮想通貨にとどまらず、企業の資金調達やサプライチェーンなど「お金の上流」にも広がる。中でも注目は、個人がインターネットを通じて企業に直接お金を出す「クラウドファンディング」だ。企業の成長を後押しできれば、株式相場にもプラスにはたらく。」

例)JVCケンウッドの「マルチライブモニターイヤホン」

プロアーティストとバーチャルセッション。JVCが音楽ファンに贈るイヤホンの新体験

20170402_プロアーティストとバーチャルセッション。JVCが音楽ファンに贈るイヤホンの新体験

「ネット経由で1口1万5000円を出資すれば、開発後の商品がすぐ手に入る。クラウドファンディングの中で「購入型」と呼ばれる手法だ。募集を始めた昨年7月に100万円程度とみていた出資額は、最終的に2000万円を超えた」

その他、クラウドファンディングには様々な形態があります。

(下記は同記事添付の「クラウドファンディングの類型と最近の動き」を引用)

20170330_クラウドファンディングの類型と最近の動き_日本経済新聞朝刊

(参考)
⇒「株式型クラウドファンディング、第1号事業者に 日本クラウドキャピタル、出資見返りに未公開株
⇒「パルコ、テナント発掘へネット通じ資金 地域金融・自治体と連携 ヒットの芽、地方から探る -クラウドファンディングは株式制度の進化形だ!
⇒「あなたの1000円が世の中を変える!新しい“お金”の流れ READYFOR(レディーフォー)社長・米良はるか 2016年1月7日 TX カンブリア宮殿

 

■ コーポレートファイナンスの基本、株式会社の成り立ちを振り返ってみると?

「POファイナンス」も「クラウドファンディング」も、ネットというテクノロジーが可能にしたファイナンス手法で、昨今流行のフィンテックの一類ではありますが、こうした手法は、従来のファイナンスと一線を画する、全く新しい性質のものなのでしょうか? 答えは否です(と筆者は考えています(^^;))。

というのは、そもそも株式会社の仕組みを思い出してください。現代の株式公開制度が誕生する前、一部の大資本家による顕名の出資を募った株式会社が誕生しました。しかし、市場規模が飛躍的に大きくなり、技術進歩のスピードも一段と速くなり、企業はもっと大量の資金を手早く調達する必要性に駆られました。そこで、株式会社へ出資を募る方法を、株式という形で小口による出資が可能な単位として切り出し、一般大衆に売出し、その転売を許可することによって株式市場での流通(売買)を保証することによって資金調達コストを低く抑えようとしたのです。

とすれば、その小口化が2つの面でよりミクロになっただけ、という質的変化ではなくて、量的変化が起きただけと筆者が見るのも不自然ではないですよね?

1)融資や出資対象のミクロ化
従来は会社単位だったものが、売上債権や商品化プロジェクト単位にまで小さくなった
2)取扱い金額のミクロ化
従来は何千万円から何百万円だったのが、数千円単位での出資が可能になった
(※ 株式については、ミニ株投資や累投などの金融商品も存在して実額はもっと小さいですが)

ICTの進化により、より小口の信用創造を発生することができたという量的変化だ、という筆者の見解の理由は上記の通り。ファイナンスの本質は変容せず、その振る舞いや仕組みがより使い勝手が良いものになったということです。より小口の投融資取扱事務コストがICTにより、飛躍的に下がったことにより可能になった手法。これでは従来の金融機関が生き残りのためにフィンテックに一気にシフトしようとしているのも理解できます。

2017/3/31付 |日本経済新聞|朝刊 送金効率化へ世界連合 三菱UFJ、米欧豪6行と来年 仮想通貨技術を活用

「三菱東京UFJ銀行は2018年初から、仮想通貨の中核技術であるブロックチェーンを活用した次世代型の国際送金サービスを始める。米バンクオブアメリカ・メリルリンチなど米欧豪の大手6行と連携。米ベンチャーのリップルが持つ技術を活用し、即時決済を可能とする。高止まりしていた手数料も引き下げる見通しだ。新技術を通じた世界連合で、銀行システムの利便性を高める。」

(下記は同記事添付の「海外送金の際に中継銀行や情報仲介機関が不要に」を引用)

20170331_海外送金の際に中継銀行や情報仲介機関が不要に_日本経済新聞朝刊

 

2017/3/31付 |日本経済新聞|朝刊 フィンテック企業と連携拡大 信金、口座接続可能に メガ銀は会計アプリで振り込み

「金融とIT(情報技術)を組み合わせたサービスを展開するフィンテック企業と既存の金融機関の垣根が低くなってきた。信金中央金庫は2017年中に、全国の信金の口座情報と家計簿アプリなどを直結するシステムを構築。メガ銀やネット銀は会計アプリから直接銀行口座に振り込みできるサービスを始める。」

 

■ ようやく本題に。従来のキャッシュコンバージョンサイクル管理を破壊する威力はどこに?

まずおさらい。
キャッシュコンバージョンサイクル(Cash Conversion Cycle:CCC)とは、
「原材料の仕入れから製品の売上代金の回収までの日数を指し、これが小さいほど企業の現金回収が早い=資金繰りが楽、であることを示す」

⇒「FY2015 トヨタ自動車 財務分析(3)CCC 財務分析テンプレート『9 Matrix Financial Analytics』より
⇒「花王、アジア資金効率改善 300億~400億円捻出、設備投資柔軟に
⇒「東芝、世界で資金効率化 4地域別にCFO 投資から回収を素早く

企業の資金効率を高めるため、在庫や売掛金を早く現金化し、買掛金の現金支払いを渋ることで、企業が外部から調達しなければならない資金(キャッシュ)を減らすことがCCC管理の第一目標です。

経営管理会計トピック_キャッシュ・コンバージョン・サイクル

次に、浮いたキャッシュを返済に回して資金調達コスト負担を軽減させたり、積極的な設備投資・開発投資・人財投資に回すことも考えられます。

経営管理会計トピック_キャッシュ・コンバージョン・サイクルのねらい

しかしですね、CCCがカバーしているのは、製造業でいえば、量産化が決まって部材を発注した後からのお話で、流通業でいえば、SPAでない限り、マーチャンダイズが終わって、商品仕入が始まった以降のお話。上記の「POファイナンス」「クラウドファンディング」はもっと以前のプロセスから、企業の資金繰りにプラスの効果を発現させる可能性を秘めた大したものなのです。

経営管理会計トピック_ファイナンス手法の進化がCCCを破壊する!?

ものづくりが「Industry4.0」の進展から、ますます「マスカスタマイゼーション」に傾注し、顧客が経験価値や自分仕様の商品の使用価値をより重視する方向が大勢の中、ファイナンスも個別化・小口化・有期限化が求められていきます。新しいビジネスモデルが新しいファイナンス手法を生み出すのか、新たなファイナンス手法が新しいビジネスモデルを実現可能にするのか? まあ、学者みたいな神学論争は脇に置いておいて、我々実務家は、時勢に遅れず常に新しい管理手法を身に付けていかなければなりません。(^^;)

(注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です。

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