■ 熱中するあまり、国境を超えたり、原子力発電所に侵入したり、、、
「ポケモンGO」が、日本ではなく、まず米国でリリースされました。このスマホゲームに熱中するあまり、不幸な事故や犯罪が多発しているとか。関連するマクドナルドや任天堂の株価も急上昇し、何かと話題になっています。ゲーム内で使われているGPSやAR(拡張現実)のテクノロジーの凄さや、ゲーム自体の楽しさの評価は別の論者に任せるとして、ここでは、こうしたアプリゲームを使ったビジネスモデル、直言すると、「どうやって金を稼ぐか?」について、考察していきたいと思います。
その前に、とくかく「ポケモンGO」のことを知りたい、という読者の方には、下記記事に目を通されるといいと思います。
2016/7/20付 |日本経済新聞|電子版 すぐ分かる「ポケモンGO」 何がすごい? 問題は?
「ポケモンGOは、iOS/Androidスマホ用の無料アプリ。現実世界を歩き回りながら、ポケモンをゲットして強化・対戦するゲームだ。最大の特徴は、AR(Augmented Reality、拡張現実)の技術を採用し、カメラで捕らえた画像にポケモンのキャラクターを合成表示して、あたかもポケモンが現実世界に出てきたような楽しさが味わえることにある。」
(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます
2016/7/23付 |日本経済新聞|朝刊 ポケモンGO、課金モデルに一石 「ゲームは広告」企業と提携
「ポケモンGOを開発したのは任天堂ではない。米グーグルから独立したベンチャーの米ナイアンティックだ。2013年に配信した陣取りゲーム「イングレス」が開発の下地となっている。
スマホの全地球測位システム(GPS)で取得した位置情報を活用。アプリを立ち上げると、本物の地図を元にした別の世界が画面上に広がる。ユーザはあちこちを歩き回り、ポケモンを探して捕まえる。
ポケモンに近づくと、スマホのカメラが起動。カメラが映した映像のなかにCG(コンピューターグラフィックス)のポケモンが現れる。実世界の映像にCGを組み合わせる拡張現実(AR)と呼ばれる技術だ。」
(下記は、同記事添付のゲームシステムとゲーム画面の写真を転載)
従来のスマホゲームの多くは、「ガチャ」と呼ばれる有料のくじ引きサービスなど、ゲーム内課金モデルで収益の大半を稼いでいました。ゲームを有利に進めるために、ガチャで、強力な武器(アイテム)やキャラクターの入手を、ユーザに心理状態に悪く言うと付け込んで促すもので、ガチャの賭博性や、青少年が親に無断で高額の課金サービスを使用するという社会問題になったりしました。
「ポケモンGO」にも、このゲーム内課金モデルがあり、上記20日の記事には、
「ポケモンGO自体は無料アプリだが、有料アイテムなどの課金要素が用意されている。米国の調査会社は、わずか4日間で14万ドル(約14億円)もの売上げがあったのではと推測している(調査会社SUPERDATAによる)。」
「その結果、日本の任天堂の株価も急騰した。16年7月7日のポケモンGOリリース前の株価は1万5000円前後で推移していたが、同月15日には一時2万7800円を突破。わずか1週間で80%もの「爆上げ」となった。これにより、任天堂の時価総額は約3兆9000億円にまで大きく伸びた。リリース前日の時価総額は約2兆1000億円だったから、わずか8日で1兆8000億円も増えた計算だ。ポケモンGOによって、任天堂は一時的ながら1兆8000億円も企業価値がアップしたことになる。」
という過熱ぶり。しかし、この過熱は、どうもゲーム内課金モデルだけが要因ではないようです。
■ 「スポンサード・ロケーション」という仕組みとは?
日本マクドナルドが、7/22に、全2900店で「ポケモンGO」のユーザ向けサービスを同日から開始すると発表。約400店は「ジム」と呼ばれる拠点となり、他のプレーヤーのポケモンと戦うことができ、残る約2500店は「ポケストップ」と呼ばれる拠点で、ゲーム内で使う道具を手に入れられるサービスを始めます。これを受けて、マクドナルドの株価が急騰し、下記のような熱狂ぶり。
2016/7/22付 |日本経済新聞|電子版 マクドナルド、午前の売買代金トヨタ上回る 320億円、ジャスダック市場の65%
「22日の東京株式市場で、ジャスダック上場のマクドナルドの午前の売買代金が320億円に膨らんだ。ジャスダック市場全体の65%を占め、東証1部のトヨタの260億円も上回った。」
マクドナルドが提供を始めたサービスとは?
下記記事で、開発者のナイアンティック社CEOジョン・ハンケ氏のインタビュー内で明らかにされています。
(ジョン・ハンケ氏。下記記事添付の写真を転載)
2016/7/23付 |日本経済新聞|朝刊 「ポケモンGO」開発者に聞く 爆発的な伸び、想像以上 「アプリ内課金は慎重に」
「ゲームで使うアイテムをアプリ内で販売していますが、ほかにどんな収益源がありますか。
「『スポンサード・ロケーション』と呼ぶ仕組みを導入した。スポンサー企業の店舗を(アイテムが手に入る)『ポケストップ』や(ポケモン同士を戦わせる)『ジム』に指定し、集客につなげる仕組みだ。日本ではマクドナルドが最初のスポンサーになる」
「アプリ内課金は慎重に進める。我々はお金を払わなければ勝てないというモデルは目指していない。最も貴重なアイテムや最も強いアイテムはお金では手に入らない仕組みにしているのはそのためだ。できるだけお金をかけずに遊べるようにしたい。スポンサード・ロケーションを導入するのは収益面でのアプリ内課金への依存度を下げる狙いもある」」
(下記は、同記事添付の「ポケモンGO」での各社の関係図を転載)
ハンケ氏は、「グーグルアース」「グーグルマップ」開発者の一人で、ナイアンティックは、GPSを使った陣取りアプリゲーム「Ingress」の開発元。
ポケモンGOは、アプリ内課金に留まらず、ゲームの中にリアルビジネスを取り込み、ひとつのエコシステムを構築して、胴元ビジネスで儲けようとしているように筆者の目には映っています。
■ 「ゲーミフィケーション」による集客動線とマーケティング手法の変化とは?
まず、人々がゲームに熱狂する心理状態を、マーケティングに利用しようというのが、「ゲーミフィケーション」です。
小難しい定義が、ガートナーが2012年に発表した「ゲーミフィケーションの未来を検証」にあります。
「ゲームのメカニズムを非ゲーム的な分野に応用することで、ユーザのモチベーションを高めたり、その行動に影響を及ぼしたりする幅広いトレンド」と定義しています。ゲーミフィケーションは、チャレンジ、ルール、チャンス、報酬、レベルといったゲームの仕組みを利用して、日常の作業を遊びのある活動に変えます。ゲーミフィケーションは新しいものではなく、顧客ロイヤリティやマーケティングのプログラムでは数十年にわたり、ポイントやレベルといったゲームの仕組みが用いられています。ゲーミフィケーションがこうしたプログラムと相違する点は、ゲームの仕組みの応用範囲が幅広くより高度であること、そして参加を促すに当たって本質的な報酬が重視されていることである」
少々難解なので、SMMLabの、「「ゲーミフィケーション」とは?~今さら人に聞けないマーケティング用語をおさらい!」から引用させて頂きます。
「遊びや競争など、人を楽しませて熱中させるゲームの要素や考え方を、ゲーム以外の分野でユーザとのコミュニケーションに応用していこうという取り組みで、ゲーム独特の発想・仕組みによりユーザを引きつけて、その行動を活発化させたり、適切な使い方を気づかせたりするための手法。」
概念自体はポイントプログラムなどの形で従来からあったものですが、インターネットの普及・スマートフォンの登場、さらにソーシャルメディアの流行で、ゲーミフィケーションの発想がより実践しやすい環境になりました。Webサイトやサービスへの集客だけでなく、企業の人材開発や従業員向けサービス、さらには社会活動の手段という直接的なマーケティング・セールスとは異なる分野でも応用され始めています。
人に行動を起こさせ興味を持たせ続け、関わらせ続ける心理的な引き金として、報奨、認知、達成感、競争の要素、熱心に取り組む対象、純粋な楽しみといった「ゲーム」の要素を上手く活用することが考えられるようになりました。
ユーザが「ゲーム」を楽しむ際の「心理」を理解し、そこに作用するゲームの設計技法、考え方、メカニズムによって、ユーザの興味・関心を獲得し、モチベーションやロイヤリティを高め、エンゲージメントを獲得することが、ゲーミフィケーションの目的なのです。
■ 「ゲーミフィケーション」がマーケティング・プロセスを変容させる
米国のオンラインゲームデザイナーであるジェーン・マクゴニガル氏によりますと、ゲーミフィケーションを機能させる4要素というのがあるそうです。
① 自発的に達成したいと感じさせるための「しつこいまでの楽観性」
② あまり負荷をかけずに新しい能力が得られ、幸せ・至福を感じる「生産性の体験」
③ ユーザ同士が共に時間を過ごし、互いを認め合い、それが次のモチベーションを生み出す「ソーシャル構造」
④ 未来や世界といった壮大なスケールを持ち、関わることが楽しくなる「ストーリー性」
(参考文献)
ゲーミフィケーションは、従来のマーケティング・プロセスをどう変容させる可能性を秘めているのでしょうか?
従来は、消費行動モデルとしてAIDMAやAISASが提唱されていました。ちなみに、AIDMAとは、1920年代にアメリカ合衆国の販売・広告の実務書の著作者であったサミュエル・ローランド・ホールが著作中で示した広告宣伝に対する消費者の心理のプロセスを示した略語で、
1.Attention(注意)
2.Interest(関心)
3.Desire(欲求)
4.Memory(記憶)
5.Action(行動)
から構成されています。このプロセスというのは、まだ交通が発達しておらず、しかも広い商圏をカバーしていた訪問販売員が、訪問先を数か月間隔で再訪するまでに、顧客の消費意欲を高めるために提唱されたものなので、BtoCビジネスの環境の変化によって、消費喚起のための道具も消費者の立場(情報過多とか情報隔離とか)も違う現代でもそのまま通用するものではありません。不幸にも、いまだに「アイドマ理論によると、、、」とマーケコンサルを語る人がいたら、生暖かい目で見てあげてください。(^^;)
ちなみに、AIDMAを現代のネット消費プロセスに適合するように昇華させたモデルを電通などが提唱したものが、「AISAS」
1.Attention(注意)
2.Interest(関心)
3.Search(検索)
4.Action(行動、購入)
5.Share(共有、商品評価をネット上で共有しあう)
TPOに応じて、こうした現場理論は進化していくのが通常です。
そして、ゲーミフィケーションが意識され、ネットやモバイルが通常の世の中になってきますと、「SIPS(シップス)」理論が登場してきます。
その登場の背景には、
「情報過多の時代、ユーザは瞬間的・表層的にしか情報に触れないため、長期的に継続して関与を高め、購買行動へと動機付けるための機会が減ってきています。社会心理学では、「人間は関与度を深めた対象の価値を無意識に高く感じる」と言われており、企業にとって動機付けの機会減少は大きな問題であると言えます。」
という情報過多の消費者の存在が前提となっており、
(引用元)「SIPS(シップス)」とは?~今さら人に聞けないマーケティング用語をおさらい!」
「2011年、当時電通コミュニケーション・デザイン・センター シニア・クリエーティブ・ディレクターだった佐藤尚之氏をリーダーとした社内ユニット「サトナオ・オープン・ラボ」(後の電通モダン・コミュニケーション・ラボ)が提唱した、ソーシャルメディアに対応した生活者消費行動モデル。
①「共感する(Sympathize)」
②「確認する(Identify)」
③「参加する(Participate)」
④「共有 & 拡散する(Share & Spread)」
の頭文字をとった、企業のコミュニケーション・プランニングなどにおいて、ソーシャルメディアを積極的に利用している生活者を考える上でのひとつの概念。従来のAIDMAやAISASに取って代わるものではなく、あくまでもソーシャルメディアの浸透を契機に、消費者における情報の取得経路や消費への動機づけが変容している点に注目し、消費のあり方そのものや社会意識の変化も含めて、消費者の行動を「消費者視点」でより深く掘り下げている。」
図表出典:電通「SIPS」来るべきソーシャルメディア時代の新しい生活者消費行動モデル概念
AIDMAに取って代わるかどうかはおいといて、少なくともSNSやモバイル・スマホというツールをベースとするビジネスをやるなら、その環境上での消費者行動モデルは明確に意識しておかないといけませんね。
■ (おまけ)戦術としての「ゲーミフィケーション」
残念ながら、筆者はモバイル・マーケティングや、ゲーム制作の専門家ではないので、この章は渾身の文章にはなり得ないのですが、あくまで経営管理会計のプロ(あくまで自認ですが)として、ビジネスモデル(マネタイズ手法の意)視点から、ゲーミフィケーション周辺のお金の稼ぎ方のパターンを考える材料を集めたので、下記に列挙しておきます。
・ゲーム内出店
ゲーム内に設置してある仮想のショッピングモールに仮想出店して、そこでECを実践
・ゲーム内広告
①ゲーム内包型
あたかも、ゲームのグラフィック要素のひとつとして、企業広告看板が設置されており、クリックすると、当該企業が導くサイトへ誘導されるもの
②プラットフォーム型
ゲーム起動時のバナー掲載、ポップアップ広告、メルマガなど、ゲーム中に、ユーザに広告を提示するもの。ゲームに熱中するユーザにとっては、逆効果のような気もするけど、、、
③ネーミングライツ
ゲーム内イベント、ゲーム内のロケーションやショップ名を活用するもの
・リアルマネートレーディング(RMT)
オンラインゲーム上のキャラクター、アイテム、ゲーム内仮想通貨等を、現実の通貨で売買するもの。これについては、賛否両論がありますが、大半のオンラインゲームではRMTは利用規約違反とされています。
直接的な反対論として、
1.信用毀損罪・業務妨害罪に抵触する。RMT業者からゲーム内通貨等を購入することで、ゲーム運営企業の課金アイテム購入が不要となり、ゲーム運営企業のビジネスモデルを破壊するため
2.著作権侵害に抵触。ゲームデータはゲーム運営企業の著作物であり、RMTは他者の著作物を利用して利益をかすめ取りゲーム運営企業に損害を与える行為に該当するため
間接的な反対論として、
3.ゲーム運営企業のサーバ群で不正稼動するBOTの大量発生、サーバダウン・ラグの発生、ゲーム内経済のバランス崩壊といったゲーム運営に支障が出るから
4.一般ユーザのアカウント窃盗を目的としたコンピュータウィルス、不正アクセス等のサイバー犯罪の増加を招く恐れがあるから
5.不正行為への対策コストに反比例するサービス低下(新規コンテンツ開発の減少、顧客サポート機能低下が、ユーザの利便性を損なうから
これについては、伝家の宝刀ではないのですが、「ブロックチェーン」技術がもっと一般的になれば、リアルマネートレーディング(例えばビットコインがリアルマネーかどうかという議論は置いといて)は通常の商取引となるでしょう。ゲームデザイナーや、ゲーム運用会社にとって、RMTを前提にゲーム制作をする時代がすぐにやってくる。経営やビジネスをずっと見てきている筆者としては、デジタル・テクノロジーの専門家ではないのですが、経済合理性、ビジネスモデル進化論として、「あり」と判定しています。
(注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です。
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