東芝、原発で数千億円損失 米社買収に絡み 今期最終赤字の可能性 資本増強を検討 - その後の株価報道の方へ物申す!

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■ 東芝はIFRS適用を見送っていますが、減損損失は発生します!

経営管理会計トピック

東芝は、2016/3/17に、2017年3月期末から予定していた国際会計基準(IFRS)の任意適用をいったん見送ることを発表しました。構造改革や内部管理体制の強化など、再建計画を優先するため、という説明でした。そして、IFRS適用していなくても、日本基準における「」により、定期償却を行っている「のれん」を含めて、一般的に有形無形固定資産について減損損失を認識する必要があります。

2016/12/28付 |日本経済新聞|朝刊 東芝、原発で数千億円損失 米社買収に絡み 今期最終赤字の可能性 資本増強を検討

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

「東芝は27日、2017年3月期に米国の原子力発電事業で数千億円(数十億ドル)規模の減損損失(総合2面きょうのことば)が出る可能性があると発表した。15年末に買収した米社で当初想定していなかった巨額のコストが生じ、資産価値が大幅に低下するためだ。今期の最終損益は3期連続の赤字となる可能性が高まっており、綱川智社長は「資本増強を検討している」ことを明らかにした。会計不祥事から立ち直りつつあった東芝の先行きは再び混沌としてきた。」

(下記は、同記事添付の「東芝の原発事業を巡る動き」を引用)

20161228_東芝の原発事業を巡る動き_日本経済新聞朝刊

東芝が減損損失を認識する方向で会計処理を進めることになったポイントを整理します。

(1)損失発生の真因
東芝の米子会社ウエスチングハウス(WH)が、買収した米原子力サービス会社CB&Iストーン・アンド・ウェブスター(S&W)で生じます。

(2)損失の意味
WHの貸借対照表(B/S)に資産計上したS&Wの企業価値評価分が無くなったと認定されて、WHのB/Sから取り除く金額となります

(3)損失の内容
S&Wの買収時に、S&Wの資産・負債を一旦時価評価し、WHのB/Sへ連結決算手続きを経て計上する金額を決めます。その金額とS&Wの売り手(シカゴ・ブリッジ・アンド・アイアン(CB&I)に支払った金額の差額を計算します。これを「のれん」と呼びます。今回、S&Wの資産受入分と、「のれん」評価分の両方を合わせた金額が、損失計上対象となります。

(4)損失の計算方法
WHのB/Sに計上されたS&Wの資産と「のれん」評価額が、将来、永続的にどれくらいのキャッシュを稼ぐかを買収時に決めておきます。これは、とある金融商品がどれくらいの利息を生み出すかから、利回りが計算されるとの同じ原理です。そして、その利回りが買収当初の見込みより下がったことが分かった場合、買収時にB/Sに計上した金額分の投資価値がなかったと見なし、再計算された利回りに見合う資産額にまで切り下げます。

この当初計上金額と切り下げ額の差分が、いわゆる「減損損失」の正体となります。

「S&Wは原発の建設などを手がける。米国内での工事費や人件費などの追加コストが膨らみ「損失が数千億円規模になる」(綱川社長)。当初は買収価格と実際の企業価値との差額を示す「のれん」は約105億円と見積もったが、想定より企業価値が下回ることが判明した。」

この引用文から分かる通り、IFRS適用会社の「減損損失 = のれん再評価」という構図に慣れきった読者は、「のれん」評価額が105億円前後なのに、どうして東芝の減損損失計上見込が数千億円にもなってしまうのか、混乱する場合もあるかもしれません。この引用文の記載は、今回の減損損失計上の規模感や理由を説明するためという目的ではまるで意味をなしません。また、「減損損失=IFRS適用会社」という幻想も捨てねばなりません。

 

■ IFRS適用の話と「のれん」に対する減損損失の認識は別のお話です

前章の東芝の事例は、正しくは、
①「のれん」を含む固定資産の公正価値を常にB/Sに反映する会計処理方針を採用したから
② 公正価値を表示しようというのは、日本基準もIFRSも基本精神は同じ
③ IFRSは、その気分がより強いので、「のれん」は減損認定でしか減額されないが、日本基準では、定期償却対象になっているという会計処理の違いがあるだけ

と理解すべきところです。

「WHとS&Wは2000年代後半から原発事業で協業してきた。15年に親会社の東芝本体が会計不祥事で経営危機に陥るなか、WHは事業の一体運営を目指してS&Wの買収に踏み切ったが裏目に出た。「海外の工事だけにコストが想定を上回った」と説明している。」

この引用文により、WHがS&W買収にかけたお金がパーになった。だから、WHがS&W買収にかけたお金がWHのB/Sに計上されている分を公正価値に引き直す必要があることが分かります。さらに、S&Wは、受注した海外の原発工事に関連して工事損失も計上せざるを得ないことから、その損失もそのままS&Wの損益計算書(P/L)上の赤字となります。すると、S&Wを連結対象としているWHの資産もその損失分だけ減額する必要が生じます。最終的には、WHを連結子会社としている東芝の連結決算上、WHへの出資分をマイナス評価せざるを得なくなります。これが、冒頭の数千億円の減損損失のあらましです。

WHから見れば、S&Wは、利益が出ると思った投資案件のひとつ。それが焦げ付いたから買収した金額をゼロ評価する上、S&Wが抱え込んだ損失分まで、自社(WH)の損失に加えなければなりません。

そして、WHを連結対象としている東芝の連結決算手続き上、東芝から見ればWHという投資案件が焦げ付いて、投資分以上の損失が明らかになったので、東芝の連結財務諸表上でも、減損損失を計上せざるを得なくなった、ということです。

 

■ もやもやして、本件を取り上げた真因は、減損損失で右往左往する株価にある

本事案をブログで取り上げたのは、東芝の原子力事業の投資の失敗をあげつらうことでもなく、また、減損損失計上の会計ルールを解説したいからでもありません。本件を理由に、株式市場で東芝の株価が急降下した投資家心理の方に、もやもやした感じを隠せなかったからです。

きちんと「減損損失」の発生理由を知ったうえで、東芝の将来企業価値の毀損分だけ、株価が切り下がったのなら話が分かるのですが、どうも、会計リテラシー不足から、心理的に投資家心理が冷え込んで下値を更新している状態のように見受けられます。本ブログは、投資指南ブログでもありませんし、セルサイド・バイサイドのポジションを取って、何とかビジネスにするものでもないので、ここでは、筆者が考える適正株価の表明は決して致しませんが、右往左往している株式市場の動向を伝える記事を下記に引用して、そのいきすぎた動揺ぶりを確認することにします。

2016/12/29付 |日本経済新聞|朝刊 東芝、時価総額でシャープ下回る 多額損失、株ストップ安

「株式市場で東芝への不信感が強まっている。株価は27、28日と連日急落。2日間で5600億円の時価総額を失い、経営難に苦しんできたシャープに7年半ぶりに抜かれた。27日に米原子力発電事業で数千億円の損失が出る可能性があると発表し、経営の先行き不安から売りが殺到した。一方のシャープは足元の業績改善が鮮明で、東芝と明暗を分けている。」

(下記は、同記事の「時価総額は7年半ぶりに逆転」を引用)

20161229_時価総額は7年半ぶりに逆転_日本経済新聞朝刊

「損失は原発建設を担う米社で発生する。買収時の想定よりコストが膨らんで収益性が悪化。企業価値を切り下げる減損処理が必要になった。具体的な損失額や原因などは、来年2月の決算発表までに確定させるとするが「不確定要素が多く正常な投資判断はできない」(松井証券の窪田朋一郎氏)状況だ。」

としか記述がないので、
①「企業価値を切り下げる」とは、S&W? WH? 東芝?
② 減損処理の全体規模は本当に分かっているのか?
という疑問が???と頭をよぎります。

 

2016/12/30付 |日本経済新聞|朝刊 東芝株、3日で4割下落 原発で巨額損失、不透明感を嫌気

「東芝の株価が下げ止まらない。3日連続で2ケタの下落率となり、29日には一時、前日比26%安の232円と約7カ月ぶりの安値を付けた。終値は3日間で4割強下落した。ウミを出し切ったはずの原発事業で数千億円の損失が発生する可能性があると27日に発表。市場では経営の先行きに対する不信感が強まった。」

(下記は同記事添付の「東芝の株価」を引用)

20161230_東芝の株価_日本経済新聞朝刊

「損失対象は15年末に買収した原発建設を担う米社。当時の想定よりコストが膨らみ、企業価値を切り下げる減損処理が必要になる。ただ損失がどこまで膨らむか未確定のため、ひとまず株を売る動きが広がった。「他の損失リスクもあるのではとの疑念をぬぐえない」(いちよしアセットマネジメントの秋野充成氏)との声も聞かれた。」

とりあえず、損失額の全体像もわからず、センチメントだけで株が売られている状態です。

 

2016/12/30付 |日本経済新聞|朝刊 (スクランブル)東芝ショックの教訓 「いいとこ取り相場」 危うさ

「大納会まであと1日。東芝株の急落が楽観ムードに冷水を浴びせた。時価総額は3日間で7800億円超吹き飛び、29日はメインバンクなど「関連銘柄」にも売りが広がった。巨額損失の可能性が明らかになる直前まで多くのアナリストが「買い推奨」を出し、米有力投資家も買いに動いていただけに、関係者の衝撃は大きい。年の瀬の東芝ショック、教訓は何か。」

(下記は同記事添付の「利益予想の上方修正とともに株価は上昇したが・・・」を引用)

20161230_利益予想の上方修正とともに株価は上昇したが・・・_日本経済新聞朝刊

「2016年の株式市場は6月の英国の欧州連合(EU)離脱決定に始まり、多くの「まさか」に襲われたが、ここへきての最後の「まさか」。東芝株への証券アナリストの投資判断は、27日の直前まで13人中9人が「強気」の評価。株価はアナリストの1株利益予想の平均値が切り上げるにつれ上昇し、年初から2倍近くになっていた。」

一番言いたいことは、減損損失額の公表値から、すぐさま将来の企業価値の毀損分がストレートに分からないことです。

公正価値 = 将来キャッシュフロー ÷ 期待利回り(資本コスト)

企業価値の公正評価額を出す手法にはいく通りもあり、上式はそのひとつですが、投資対象企業のこれから稼ぎ出すであろう儲けを投資家が期待する期待利回りで割り算した値が、投資家がその企業に出してもいいと思う投資金額=公正価値、となります。

こうした企業価値評価に基づかない株価変動は短期的に暴れているだけで、やがては公正価値に収束する、「効率的仮説」を筆者は信奉しています。それゆえ、上記の記事のように、右往左往することは賢い投資家がとる選択ではないと考えます。

また、短期的な「(予想)1株利益」で株価算定する手法もいかがなものでしょうか? 会計的利益と、キャッシュフローはその計算原理において全く別物です。企業価値はキャッシュフローで算定する方がよいとする論者も、目先は公表された実績利益、またはアナリストが出す予想利益に影響されてしまうことはとても残念なことです。

仮に、投資家のスタンスが短期的な利益変動を見て、他の投資家が右往左往する際の値動きの鞘を取ることに徹しているのなら、それでいいのですが、「利益」こそ「企業価値」の源泉と考えている向きがあるとしたら、あまり実感されていない事実をここに言及しておきます。

「減損損失」を認識したとして、その企業のキャッシュフローは一部の例外を除いて、ほとんど影響されません。つまり、何千億円もの減損損失を計上したとしても、同程度のキャッシュアウトはその資産を購入した際に認識された過去の出来事であって、減価償却費と同様、現在のキャッシュアウトを意味するわけではありません。

減損損失、企業価値、利益、キャッシュフロー、公正価値。

このような用語の定義をしっかり把握してから、株式投資に挑んで頂きたいと考えます。あなたはファンダメンタル重視でなく、チャーチストですか? その場合は、罫線だけ見て、売買のタイミングを計ってください。それでも、今の値動きはいつまで続くのでしょうね?(^^)

(注)職業倫理の問題から、公開情報に基づいた記述に徹します。また、それに対する意見表明はあくまで個人的なものであり、筆者が属するいかなる組織・団体の見解とも無関係です。

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