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(なるほど投資講座)企業価値評価のイロハ(2) お金を生み出す力重視 - キャッシュフローの現在価値だけど見る人が違うと?

財務分析(入門)
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■ 「企業価値」と「会計的利益」の違いは「キャッシュ」にあった!

小稿ですが、「企業価値評価」のベーシックなポイントが詰まっている日本経済新聞の夕刊記事がありましたので、ご紹介がてら、解説をしたいと思います。

2017/9/13付 |日本経済新聞|夕刊 (なるほど投資講座)企業価値評価のイロハ(2) お金を生み出す力重視

「企業の価値とは何でしょうか。企業は調達した資金を投資してそこからもうけを得て、再投資したり資金提供者に配分したりします。一連の流れの中でお金を生み出す力、つまりキャッシュフロー(現金収支)を創出する力が企業価値です。」

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

損益計算書(P/L)や、貸借対照表(B/S)は、期間損益とか会計的利益というものを計算して、基本的には1年という会計期間の間にどれだけ、株主や債権者から集めたお金を増殖させることができたか、「利益」という会計的概念からなる数値で示すために作成された財務諸表です。

それゆえ、これらP/LとB/Sを眺めていれば、1年間にどれだけ会社が儲かったか(利益がどれだけ増えたか)が分かる仕組みになっている(ハズ)でした。しかし、会計的利益の計算ルールでは、会社が保有するキャッシュ(現預金)の増減とは無関係に利益計算がなされてしまうので、本当は会社にどれだけの投資価値があるのか、株主が判断するには、会計的利益では心もとない、それでは、直球勝負で、どれだけキャッシュを持っているかで判断しようということになりました。

それだけだと、B/Sの借方にある「現預金」勘定の大きさだけを見ていればよかったのですが、企業活動というものは、過去および現在の投資が将来に2倍3倍になって儲けとして帰ってくる、その期待値の大きさで、本当の投資価値を見たい、という考え方が主流になってきました。

そのために、会社が現在保有しているキャッシュと、会社が将来手にするであろう予想キャッシュフローの合計で、その会社の投資価値を判断したいということになりました。それゆえ、「企業価値」は、その昔は会計的利益で測ったものだったのですが、最近は専ら、キャッシュフロー概念で計算された数値で評価されるようになったのです。

 

■ 「企業価値」右から見るか左から見るか?

そもそも、「企業価値」は、株主や債権者など、金融市場の目線から株式会社を見ている人が、投資対象の企業へ、リターンの方が上回るだけの投資額をどれくらいに抑えればよいのか、リターンが投資額と見合うか、を判断するためのものです。

「企業価値は2つの側面から算出できます。一つは株主や債権者といった外部の資金提供者から見た価値です。純有利子負債に株式時価総額を加えたものです。有利子負債は企業にとって債務ですが、債権者にとっては資産であり、価値があります。」

(下記は同記事添付の「企業価値は2通りから算出できる」を引用)

20170913_企業価値は2通りから算出できる_日本経済新聞夕刊

この考え方からは、貸借対照表の貸方を見れば、金融市場から、債権者と株主からどれくらいのおカネを集めているか簡単に分かる、というのが入門者の見方。それでもある程度のことは分かるのですが、貸借対照表に計上されている数値は「簿価」と言って、1年間の会計的利益を計算するために会社財産額を評価した数値で成り立っているので、そのままダイレクトには、金融市場で、その投資対象会社について取引されている社債や株式の価値のトータル値とは乖離があるのです。実際に、金融市場で取引されている社債や株式は「時価」で売買されているので、その社債や株式の時価の合計額が、そのままストレートにその企業に対する金融市場の投資に耐えうる評価額だ、ということが言えるのです。

この時、財務分析のテクニカルな指標として、PBR(Price Book-value Ratio):株価純資産倍率、というのがあって、

PBR = 株式時価総額 ÷ B/S上の純資産の簿価

で計算されるものがあり、この値が「1」を超えて大きくなっていればいるほど、B/S上の会計的利益を計算する基礎数値としての株主の過去の投資金額以上の企業価値 - この場合は金融市場から株主だけを取り出しているので「株主価値」と呼んだ方が相応しいのですが - を生み出していると考えることができるのです。

それでは、もう一方の左から見た企業価値はどう理解すればよいのでしょうか?

 

■ 左から見る「企業価値」は、企業内部者でないと本当のことは分からない?

「もう一つは企業の内側から見た価値です。事業活動により得られる価値と、事業活動以外による価値に分けられます。後者の事業活動以外の価値とは、株式や不動産などの保有資産を時価評価して算出します。」

こちらも、2つの数字の合計で成り立っています。その一つ目の「事業活動以外の価値」とは、実際に企業がビジネスに使っていない、待機させているお金の価値を意味しており、その多くは、現金、投資有価証券、投資不動産といった換金性の高い金融商品(に近いもの)として保有されています。

これも、B/S上では、通常はその金融商品を取得した際に支払った金額ベースで「簿価」として計上されているのですが、それが今、それぞれの対象市場で換金したら一体いくらになるのか、評価計算しないと本当の「時価」は分からないのです。制度会計ルールで、ある程度は外部の投資家に「時価」を開示するように義務付けられているのですが、中には「時価」を算出するのに、恣意性が介入する可能性が高いものが含まれているので、制度会計ルールでは慎重に、そういう金融商品については、あえて「簿価」のまま外部開示させているのです。

そのため、企業外部の利害関係者がその「時価」を外部開示用資料だけで突き止めるのは非常に困難を要します。

二つ目の「事業活動からの価値」を算出するには、もっと複雑な手続きを要します。その事業が遠い将来にわたって企業にもたらすキャッシュフローをすべて計算します。次にそのキャッシュフローを、現在価値に割り引かなくてはいけません。現在価値に割り引くというのは、世の中の利子率が1%だったとしたら、1年後に受け取る100万円は、勝手に1%分の利息が付いてくるのだから、99万円だとする考え方に基づきます。これをその企業が営むすべての事業単位毎に計算するのです。最後にこれらを合計することで、ようやく、「事業活動からの価値」というものが求まるのです。

筆者はこのように考えています。「企業価値」を左から見るのは、企業内部の人に真剣かつ誠実な計算過程を経ないと算定することができないであろうと。筆者も含めて、企業外部から事業価値を仮計算するのですが、それはあくまで仮計算。それは、企業内部の人にとっても、将来のキャッシュフローを計算するのに、そもそも未来に手に入るかもしれないキャッシュフローを仮説で集計しなくてはいけないし、それを正確な割引率を用いて現在価値に割り引かなくてはいけないからです。そんな情報、そうやすやすと企業外部の人の手に入るわけがない。(^^;)

それゆえ、企業内部から発表される「事業価値」は、企業内部の関係者が、金融市場に向かって、「将来これくらいキャッシュが入る見込みなので、もっと株式を高く買ってください」というメッセージを込めて公表されるものだと言っても過言はないのです。

ただ、「企業価値」を右から見るか、左から見るか、最後に一番重要で決定的な違いを説明しておきます。

左から、企業内部者が見る場合、「将来」の企業価値そのものを予想しているのです。
右から、金融市場関係者が見る場合、「将来」の企業価値そのものを予想した人たちの現在時点の予測値の総意になっているのです。

左からか右からか? 目線の向きの違いは、意識している「時間軸」の違いでもあるのでした!(^^;)

財務分析(入門編)(なるほど投資講座)企業価値評価のイロハ(2) お金を生み出す力重視

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