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■ 「工事進行基準」が経理操作の温床に!

経営管理会計トピック

東芝が、FY14の決算が通常日程で行えないほど揺れています。粉飾決算や内部統制のお話という事件簿的な報道はマスコミ各社に任せるとして、どうしてこのような経理操作が行える仕組みになっているのか、その会計的メカニズムのお話を超基本に立ち返って説明したいと思います(ゴシップを期待していた人はあしからず)。

2015/6/13|日本経済新聞|朝刊 東芝、受注時に損失認識 インフラの不適切会計

(注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます

「東芝は12日、不適切会計問題の端緒となったインフラ関連工事9件の詳細を公表した。多くの案件で受注時から損失が出る可能性を認識していたにもかかわらず、本来必要な損失引当金を計上していなかった。東芝の管理体制が厳しく問われそうだ。(関連記事企業総合面に)
 過年度決算の減額修正幅が最も大きいのは電力会社向けに2013年9月に受注した次世代電力計(スマートメーター)の255億円、2番目は高速道路の自動料金収受システム(ETC)で144億円だった。
 スマートメーターなどでは「受注時から損失の可能性が認識されていたにもかかわらず、合理的な理由なく、一切、工事損失引当金が計上されていなかった」としている。
 引当金は、将来発生すると見込まれる損失などに備えあらかじめ費用を計上しておく会計処理。」

記事では、長期にわたる工事契約において、「工事損失引当金」が積まれていなかったので、本当は赤字だったのを隠して、黒字で決算を報告していた、と解説しています。

 

■ 「工事進行基準」の基本の基本

長期の工事契約の売上高をP/L(損益計算書)に計上するのに、2つの方法が用意されています。ひとつは「工事完成基準」でもうひとつは「工事進行基準」。従来はこの2つは選択適用だったのですが、現在では、会計と税務とで若干のニュアンスの違いはあるのですが、「長期大規模工事」は原則として、「工事進行基準」を優先して適用することが義務付けられています。次に、何が「長期大規模工事」にあたるのかの定義が聞きたくなると思います。いったん、法人税上の「着手の日から引渡の日までの期間が1年以上」かつ「請負金額が10億円以上」という定義をそのまま受け入れておきましょう。

通常、制度会計(財務会計)で期間損益を数えるのが1年と仮にしておきましょう。その1年ごとの損益を明確にするために、工期が1年を超える工事の売上と原価をどの年度の売上と原価にひもづけるかによって、各年の損益が大きく変動するので、合理的かつ客観的にわかりやすい基準で、工期が1年を超える工事契約の売上と原価を各年度に割り付ける必要がでてきます。

ここまで文字情報だけで説明したので、この辺でチャートによる解説を試みます。例として、
2年かかる工事を受注したとしましょう。工事を始める前に、以下の3つがある程度分かっていることが、「工事進行基準」を適用してもいい条件になっています。

① 工事収益総額:1200
② 工事原価総額:1000
③ 工事進捗度:1年目は40%、2年目は残りの60%

この3要素が合理的に見積もれない場合は、工期が1年以上でも規模が10億円以上でも「工事完成基準」による収益認識をする必要があります。

経営管理会計トピック_工事進行基準と期間損益

上図をご覧の通り、「工事進行基準」を採用すると、「工事進捗度」に応じて、各年度に「収益(売上)」と「原価」を配分して計上することができます。会計の基本的な考え方として、なるべく各年度で計算される利益が均されるので、「期間利益の平準化」というスタンスも守れます。

また、「業績評価利益」の視点からは、ちゃんと1年目から経営者は会社を儲けさせてますよ、という報告ができますし、その報告された利益を元に、「配当可能利益」もきちんと計算されて、株主にも配当金を支払うことができます。ちなみに、この期間損益計算は、あくまで「損益」計算なので、「キャッシュフロー」とは違います。もしかすると、工事を始める前に、依頼主から契約金を全額前払いしてもらっているかもしれませんし、工事がすべて終わってから、工事物件の引き渡しと交換条件にお金を支払ってもらっているかもしれないし、分割支払で、1年目の終わりに総契約金額のある一定比率のお金を前払いしてもらっているかは、ケースバイケースです。

 

■ ここで問題になっている「工事損失引当金」を当てはめてみる

工事進行基準で、売上と原価の計上方法の基礎を押さえましたら、今度は記事の本質に切り込んでみましょう。

2015/6/13|日本経済新聞|朝刊 東芝不適切会計、半分は13年度 スマートメーターなど 損失引当金計上せず

「東芝は12日、不適切会計処理の具体的内容を明らかにした。9件のインフラ関連工事では、金額ベースで半分が2013年度に集中。受注時点から採算悪化が見込まれていたり、実現可能性の低いコスト削減計画が織り込まれたりしていたケースが目立つ。期間中に工事損失引当金を適切に計上しておらず、予算や業績目標を達成するプレッシャーの下で行われた経理処理の実態が浮かんだ」

「問題は工事の進み具合に応じて売上高や原価を計上する「工事進行基準」の運用を巡って起きた。長期の工事について、最終的な利益率や原価を見積もる。これに基づき収益を段階的に計上するが、主観に左右されやすい側面もある。」

前章で説明した事例に、条件を加えてみます。1年目の見積上の進捗度が40%で、1年目で発生する原価の見積りが400でした。実際発生額も、400で済めば予定通りの原価計上で問題ないのですが、1年目の工事を進めていくうちに、2年目に発生を見積もっている600の原価が700にまで膨らむことが分かりました。材料費の高騰とか、設計変更などがよくある理由として挙げられます。

その場合、原価が見積もりより膨らむことがかなりの確率で分かった1年目の終わりに、「+100」の「工事損失引当金」をきちんと積んで、2年にわたる長期工事の生涯の損得を早めに明らかにしておく必要があります。

経営管理会計トピック_工事進行基準と工事損失引当金

こうしておけば、1年目と2年目の工事採算を通算したら、
売上高:1200
原価:1000+100
利益:100

と正しく、工事契約全体の採算が分かります。しかも、「保守主義の原則」という会計原則にも則って、2年目に見積り以上に足が出てしまうことを早めに検知・報告するスタンスも守れます。早めに「やばい」ことを報告して、善後策を検討しておく。これって、制度会計のみならず、管理会計的にも意味が十分にあることです。

そして、さらに、今回の東芝のケースでやっかいなのは、この「工事損失引当金」が、受注段階ですでに分かっていた、ということです。つまり、受注する前から赤字になることが分かっているケース。その場合は、受注時から「工事損失引当金」を積んでおく必要があります。そうしないと、管理会計・経営管理的にも、この工事損失をどうやって僅少にするか、経営会議を開くトリガーが引けませんし、その対策自体を検討しようにも判断材料に困りますから。

筆者は、赤字受注は会計ルールで禁止されている、ということを申し上げているのではありません。そんなルールは制度会計側には存在しません。ご安心ください。ただし、確からしい原価・損益(損失)を早め早めに見積もって、改善の打ち手を打つ! これが経営管理の基本だと考えるわけです。

きっちり、工事損失を社内で認識するルール・制度・体制になっていなかったとしたら、赤字発生を将来に繰り延べて、配当可能利益を見かけ上積み増しし、違法配当にまで手を染めた、という制度会計ルールに抵触、というのも大問題ですが、営利企業としての、損益管理のメカニズムに甘さがあったのも、管理会計屋としては見逃せないのであります。

本件を管理会計的に観ると、枝葉末節を大胆に取っ払えば、実は、「工事損失引当金」を早期(適時)に計上しようがしまいが、複数年度にまたがる工事全体の採算は動かされないので、あくまで制度会計屋が気にする「期間損益」の正しい計算に抵触するだけのこと。しかし、こうした工事は相対的に規模が大きいので、全社売上に占めるポーションが高い物件・案件の損益は全社で注視していく必要があるのです。あくまで、その採算をできるだけ分かりやすくするために、「工事損失引当金」は存在するわけで。。。

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東芝不適切会計、半分は13年度 スマートメーターなど 損失引当金計上せずhttp://keieikanrikaikei.com/wp-content/uploads/2015/04/1-e1427893099240.jpghttp://keieikanrikaikei.com/wp-content/uploads/2015/04/経営管理会計トピック1-150x150.jpg小林 友昭実務で会計ルールをおさらい工事完成基準,工事損失引当金,工事進行基準,東芝■ 「工事進行基準」が経理操作の温床に! 東芝が、FY14の決算が通常日程で行えないほど揺れています。粉飾決算や内部統制のお話という事件簿的な報道はマスコミ各社に任せるとして、どうしてこのような経理操作が行える仕組みになっているのか、その会計的メカニズムのお話を超基本に立ち返って説明したいと思います(ゴシップを期待していた人はあしからず)。 2015/6/13|日本経済新聞|朝刊 東芝、受注時に損失認識 インフラの不適切会計 (注)日本経済新聞の記事へ直接リンクを貼ることは同社が禁じています。お手数ですが、一旦上記リンクで同社TOPページに飛んでいただき、上記リード文を検索すればお目当ての記事までたどり着くことができます 「東芝は12日、不適切会計問題の端緒となったインフラ関連工事9件の詳細を公表した。多くの案件で受注時から損失が出る可能性を認識していたにもかかわらず、本来必要な損失引当金を計上していなかった。東芝の管理体制が厳しく問われそうだ。(関連記事企業総合面に)  過年度決算の減額修正幅が最も大きいのは電力会社向けに2013年9月に受注した次世代電力計(スマートメーター)の255億円、2番目は高速道路の自動料金収受システム(ETC)で144億円だった。  スマートメーターなどでは「受注時から損失の可能性が認識されていたにもかかわらず、合理的な理由なく、一切、工事損失引当金が計上されていなかった」としている。  引当金は、将来発生すると見込まれる損失などに備えあらかじめ費用を計上しておく会計処理。」 記事では、長期にわたる工事契約において、「工事損失引当金」が積まれていなかったので、本当は赤字だったのを隠して、黒字で決算を報告していた、と解説しています。   ■ 「工事進行基準」の基本の基本 長期の工事契約の売上高をP/L(損益計算書)に計上するのに、2つの方法が用意されています。ひとつは「工事完成基準」でもうひとつは「工事進行基準」。従来はこの2つは選択適用だったのですが、現在では、会計と税務とで若干のニュアンスの違いはあるのですが、「長期大規模工事」は原則として、「工事進行基準」を優先して適用することが義務付けられています。次に、何が「長期大規模工事」にあたるのかの定義が聞きたくなると思います。いったん、法人税上の「着手の日から引渡の日までの期間が1年以上」かつ「請負金額が10億円以上」という定義をそのまま受け入れておきましょう。 通常、制度会計(財務会計)で期間損益を数えるのが1年と仮にしておきましょう。その1年ごとの損益を明確にするために、工期が1年を超える工事の売上と原価をどの年度の売上と原価にひもづけるかによって、各年の損益が大きく変動するので、合理的かつ客観的にわかりやすい基準で、工期が1年を超える工事契約の売上と原価を各年度に割り付ける必要がでてきます。 ここまで文字情報だけで説明したので、この辺でチャートによる解説を試みます。例として、 2年かかる工事を受注したとしましょう。工事を始める前に、以下の3つがある程度分かっていることが、「工事進行基準」を適用してもいい条件になっています。 ① 工事収益総額:1200 ② 工事原価総額:1000 ③ 工事進捗度:1年目は40%、2年目は残りの60% この3要素が合理的に見積もれない場合は、工期が1年以上でも規模が10億円以上でも「工事完成基準」による収益認識をする必要があります。 上図をご覧の通り、「工事進行基準」を採用すると、「工事進捗度」に応じて、各年度に「収益(売上)」と「原価」を配分して計上することができます。会計の基本的な考え方として、なるべく各年度で計算される利益が均されるので、「期間利益の平準化」というスタンスも守れます。 また、「業績評価利益」の視点からは、ちゃんと1年目から経営者は会社を儲けさせてますよ、という報告ができますし、その報告された利益を元に、「配当可能利益」もきちんと計算されて、株主にも配当金を支払うことができます。ちなみに、この期間損益計算は、あくまで「損益」計算なので、「キャッシュフロー」とは違います。もしかすると、工事を始める前に、依頼主から契約金を全額前払いしてもらっているかもしれませんし、工事がすべて終わってから、工事物件の引き渡しと交換条件にお金を支払ってもらっているかもしれないし、分割支払で、1年目の終わりに総契約金額のある一定比率のお金を前払いしてもらっているかは、ケースバイケースです。   ■ ここで問題になっている「工事損失引当金」を当てはめてみる 工事進行基準で、売上と原価の計上方法の基礎を押さえましたら、今度は記事の本質に切り込んでみましょう。 2015/6/13|日本経済新聞|朝刊 東芝不適切会計、半分は13年度 スマートメーターなど 損失引当金計上せず 「東芝は12日、不適切会計処理の具体的内容を明らかにした。9件のインフラ関連工事では、金額ベースで半分が2013年度に集中。受注時点から採算悪化が見込まれていたり、実現可能性の低いコスト削減計画が織り込まれたりしていたケースが目立つ。期間中に工事損失引当金を適切に計上しておらず、予算や業績目標を達成するプレッシャーの下で行われた経理処理の実態が浮かんだ」 「問題は工事の進み具合に応じて売上高や原価を計上する「工事進行基準」の運用を巡って起きた。長期の工事について、最終的な利益率や原価を見積もる。これに基づき収益を段階的に計上するが、主観に左右されやすい側面もある。」 前章で説明した事例に、条件を加えてみます。1年目の見積上の進捗度が40%で、1年目で発生する原価の見積りが400でした。実際発生額も、400で済めば予定通りの原価計上で問題ないのですが、1年目の工事を進めていくうちに、2年目に発生を見積もっている600の原価が700にまで膨らむことが分かりました。材料費の高騰とか、設計変更などがよくある理由として挙げられます。 その場合、原価が見積もりより膨らむことがかなりの確率で分かった1年目の終わりに、「+100」の「工事損失引当金」をきちんと積んで、2年にわたる長期工事の生涯の損得を早めに明らかにしておく必要があります。 こうしておけば、1年目と2年目の工事採算を通算したら、 売上高:1200 原価:1000+100 利益:100 と正しく、工事契約全体の採算が分かります。しかも、「保守主義の原則」という会計原則にも則って、2年目に見積り以上に足が出てしまうことを早めに検知・報告するスタンスも守れます。早めに「やばい」ことを報告して、善後策を検討しておく。これって、制度会計のみならず、管理会計的にも意味が十分にあることです。 そして、さらに、今回の東芝のケースでやっかいなのは、この「工事損失引当金」が、受注段階ですでに分かっていた、ということです。つまり、受注する前から赤字になることが分かっているケース。その場合は、受注時から「工事損失引当金」を積んでおく必要があります。そうしないと、管理会計・経営管理的にも、この工事損失をどうやって僅少にするか、経営会議を開くトリガーが引けませんし、その対策自体を検討しようにも判断材料に困りますから。 筆者は、赤字受注は会計ルールで禁止されている、ということを申し上げているのではありません。そんなルールは制度会計側には存在しません。ご安心ください。ただし、確からしい原価・損益(損失)を早め早めに見積もって、改善の打ち手を打つ! これが経営管理の基本だと考えるわけです。 きっちり、工事損失を社内で認識するルール・制度・体制になっていなかったとしたら、赤字発生を将来に繰り延べて、配当可能利益を見かけ上積み増しし、違法配当にまで手を染めた、という制度会計ルールに抵触、というのも大問題ですが、営利企業としての、損益管理のメカニズムに甘さがあったのも、管理会計屋としては見逃せないのであります。 本件を管理会計的に観ると、枝葉末節を大胆に取っ払えば、実は、「工事損失引当金」を早期(適時)に計上しようがしまいが、複数年度にまたがる工事全体の採算は動かされないので、あくまで制度会計屋が気にする「期間損益」の正しい計算に抵触するだけのこと。しかし、こうした工事は相対的に規模が大きいので、全社売上に占めるポーションが高い物件・案件の損益は全社で注視していく必要があるのです。あくまで、その採算をできるだけ分かりやすくするために、「工事損失引当金」は存在するわけで。。。現役の経営コンサルタントが管理会計をテーマに情報発信します